くすりの窓口は、国内最大級の薬局・ドラッグストア検索予約サイト「EPARKくすりの窓口」を運営するヘルステック企業です。同サイトでは全国7万件の店舗検索をはじめ、好きな時間・薬局で薬を受け取れる処方箋予約システム「処方箋ネット受付」のサービスも提供しています。
また、toC向けのプロダクトだけでなく、薬局や医療施設向けの医薬品共同仕入れサービスや、デッドストックになった医薬品のマッチングができる「みんなのお薬箱」というサイトも運営。「ヘルスケア領域に新しい価値を提供する」という企業理念のもと、医療業界における課題の改善を目指し事業運営を行っています。
同社では、このたびRAG(Retrieval Augmented Generation)技術を活用した生成AIチャットボットをPoC検証用として導入しました。サービス開発とインフラ基盤の構築はクラスメソッドが担っています。多彩な事業と顧客を持つくすりの窓口が生成AIチャットボットを導入した背景から展望に至るまで、弓削さん、黒宮さん、宮本さんにお話をお伺いします。
サポート品質向上に生成AI導入を検討
くすりの窓口では「EPARKくすりの窓口」「EPARKお薬手帳」やオンラインでの診療や服薬指導など医薬業界に関わるさまざまなサービスを提供しています。それぞれのサービスの提供にはお客様からの問合せなどサポート面でも理解度・習熟度が求められ、時として満足なコミュニケーションが取れていないという課題がありました。
こうした課題をクラスメソッドにいただき、AIチャットボットをサービスに組み込むことやRAGによる精度向上についてご説明し、「問合せシステムに組み込むこと」を目標に据え、まずはPoC検証用のAIチャットボットの開発をスタートさせました。
技術力とスピード感を期待してクラスメソッドに
ヘルステック企業としてシステム開発に強みを持つ同社ですが、今回アウトソーシングした理由について、弓削さんは「人的リソースの不足と未知の分野だったことが影響した」と以下のように話します。
技術力とスピード感を大事にしたいという考えからパートナーをクラスメソッドに決定。もともとDevelopersIOの読者だった弓削さん。システム開発を行っていく中で疑問が生じると、よく記事を読まれていたということです。
「いつものようにDevelopersIOの記事を読んでいたら、『生成AIサービスを始めました』というバナーを発見し、すぐに相談させていただきました。技術力やスピード感に関しては記事を読んで元々高いことを知っていましたので、ご依頼に対しあまり迷いはありませんでしたね」(弓削さん)
不具合にも1日以内に対応できた
プロジェクトのキックオフは2023年10月。その後、約1カ月の開発期間を経てRAGを活用した生成AIチャットボットのPoC検証用の環境を構築しました。プロジェクト期間中は、週次定例会やツールを活用し、コミュニケーションを密に取るようにしました。進捗状況をつねに共有することで、何か不具合があればクラスメソッドがすぐに対応できるようにしました。開発中の応対については、黒宮さんと宮本さんは以下のように振り返ります。
「動作不良や不具合などがあった際に、すぐに対応していただけました。ご相談すると、その日中、遅くても次の日には対応していただけましたので、さすがクラスメソッドだなと感心しましたね」(宮本さん)
開発された生成AIチャットボットは、くすりの窓口が運営する個別サービスのものを3種類ご用意。それぞれSlackアプリとして社内チャットで質問するとそのサービスについて回答が得られる仕組みになっています。クラスメソッドは情報源となるドキュメントを扱うためのセキュアな環境と、LLM(AIの言語モデル)にない社内独自の情報を回答させるためのRAGの仕組みをAWS上で構築しました。このほか、今回は構築の過程で生成AIサービスも選定。複数ある基盤モデルからOpenAIの採用に至っています。
問合せシステムへの組み込みを目指して検証
くすりの窓口は2023年12月から社内検証を開始。精度検証や利用後のアンケートを通じ社内からのリクエストを募っています。これに並行し、運用保守フェーズとして進捗状況について引き続き両社間でコミュニケーションを取り、クラスメソッドとしてもDevelopersIOの技術記事の共有も含めTIPS面でのサポートに努めております。
「生成AIチャットボットの精度はまだまだです。これは当社で扱っている製品の操作マニュアルが不足していていることや、プロンプト(質問の入力内容)に対しAIが完全な回答を出せていないところが課題としてあります。クラスメソッドとは現在の運用保守段階においても質問に対して丁寧に回答していただいています。読み込ませるドキュメントの整理などもサポートしていただきました」(弓削さん)
現在の生成AIチャットボットの2点の課題については、製品マニュアルの修正・追加を通じてドキュメントを整備する改善施策と、生成AIに対する“正しいプロンプトの書き方”を検証し、最終的には「適切な質問方法」をチャットボットアプリ上で説明するなどの運用改善で是正を目指しています。これらの精度検証を続け、2024年春には新人教育用の生成AIチャットボットを社内ローンチする予定です。
「新人が自社製品について分からなかった時に、先輩社員に聞きづらい、リリースしているソリューションが多岐にわたるため誰に聞いたら分からない、などの課題があると思うので、そうした際にAIを活用して解決できればと考えています」(黒宮さん)
そして、最終的にはクライアントに出せるほどのクオリティになれば、問合せ用のシステムに組み込むとのこと。生成AIチャットボットの期待感について、黒宮さんは以下のように話します。
「当然、AIは完璧なものではないので、Q&A画面で全て解決できるとは考えていません。どうしても答えられない質問などは、社員による解答などが必要になり、そこへの導線づくりも必要になってくることでしょう。ただ、チャットボットによるQ&Aの設置だけでもサービス品質は向上すると期待しています」(黒宮さん)
また、同社は今回の生成AIチャットボットだけでなく、Amazon Connectの活用についてもクラスメソッドにご相談していただいています。
「Amazon Connectを活用した電話予約サービスに興味があり、今回とは別件でクラスメソッドにご相談しました。ほかにも、人材不足が深刻化している飲食業界では、DXが進んでいます。そうした飲食店でのAWSを活用したDX事例などがあれば、我々の医療業界でも応用しやすいと考えているので、情報交換や技術支援といった文脈で今後も関係を続けていけたらと考えています」(弓削さん)