生活用品の製造販売を行うライオン株式会社は、1891年の創業以来、日々の暮らしに役立つ製品を提供し続けています。オーラルケアに関しての高い技術力を持つメーカーとして、人々の健康で快適な毎日と、よりよい生活習慣作りに貢献してきました。
ライオンのオーラルケア製品のブランドに「クリニカ」があります。クリニカでは、お客様の前向きな予防歯科実践をサポートし続け、生涯におけるお口の健康を守るというコンセプトをもとに、製品開発や予防歯科の啓発活動を行っています。その中で、クリニカが取り組みをスタートしたのが1人ひとりに合った習慣化までのサポートでした。
その実現を目指すにあたり、保護者の心理的負担が大きいお子さんの歯磨きを、お子さんの一人一人に合った形でサポートできるプロダクトを作る社内プロジェクトが立ち上がります。こうして誕生したのが、子どもが進んで歯みがきを続けたくなるIoTハブラシ「クリニカKid’s はみがきのおけいこ」です。
このプロジェクトの開発パートナーとしてクラスメソッドが選ばれ、アジャイルでのスピーディーな開発をサポート。AWSとGoogle Cloud Platformによるマルチクラウドのシステムの構築や、アプリ開発などを共に行いました。開発の背景や課題、解決策などについて、オーラルケア事業部の遠藤さんと、CXプランニングチームの笠原さんにお話をうかがいました。
1人ひとりの習慣に合ったオーラルケア体験を提供するIoTハブラシ
近年、健康意識は高まる一方です。また、共働き世帯が増加するなかで、子どもの健康や自立に対して不安を抱く親も増えています。特にお子さんの歯みがき習慣においては、「嫌がる、適当にすませる」子どもにどう対応して良いか分からない、というお悩みが多く見受けられます。
「子どもの歯磨き嫌いは、触覚防衛反応という本能的な反応であって、ごく自然なものです。親と子どもが一緒に過ごせる時間は、幼稚園を卒園する時点で3分の1も消費してしまうと言われています。クリニカのブランドとして、歯磨きの時間を、お子さんの成長を感じられるような瞬間に変えていきたい。そのような思いをこめて、今までにない新しい商品の開発を目指してまいりました」と遠藤さんは説明します。
ウォーターフォールからアジャイルへの転換
開発の経緯を遠藤さんはこのように話します。
「IoT歯ブラシにより、お客様にどんないいことを届けられるかを知るところからのスタートでした。他社製品も色々使ってみて、歯みがきを続けられない、つまり『飽きる』ことが課題として見えてきました。プロジェクトでは、続けるためには何が必要なのかに重点を置いて、超えるべき障壁を見出していきます。簡単なプロトタイピングをして、初回利用時に離脱を防ぐ要件は何か。3日、1週間、1カ月と期間を延ばして、顧客体験調査を繰り返して製品を磨き上げていきました」
IoT歯ブラシの開発では、テストを繰り返し、お客様の声を取り入れた製品にする、アジャイルでの開発を行う必要がありました。しかし、従来のライオンでのモノづくりは、歯磨き、歯ブラシといった日用品の開発であって、要件を完全に定義して、ウォーターフォールの形で進むのが普通でした。IoT歯ブラシについても、完全に要件定義をしたあとで、アプリやデバイスを開発していく進行が予定されていました。
「お母さんの悩みを解決していこうとなると、我々の想像で進めるよりも、ユーザーテストを繰り返してお客様の声を取り入れた製品にするのがいい。それが『飽きない』という点につながると考えました。そうすると、ウォーターフォールではうまくいかない。アジャイルでの開発を進めたいというのが第一歩でした」と笠原さんは言います。
プロジェクトチームでは、今までに経験したことがない開発の進め方を模索するなか、様々な会社に相談をもちかけます。しかし、ウォーターフォールで完全に要件が定義されないと、開発がすすめられないという返事が多く返ってきます。開発を続けながら、一緒に考え、時には進め方を相談できるベストなパートナーを探していきます。そして、共に開発を進めるパートナーして選ばれたのがクラスメソッドでした。
プロジェクトマネジメントの提案、データ利活用の最適化
プロジェクト内では、やりたいタスクは多くあるものの、それをどうやって整備したらいいのかがわからない状態でした。どのようにアプリに落として、どの時点でユーザーのフィードバックを取り入れればいいのか。それが円滑なプロジェクト進行における大きな課題でした。
「クラスメソッドさんと相談し、プロジェクトマネジメントの体制、プロジェクトの進行方法検討した上で、さらに適切なパートナーを紹介してもらえたのは、我々としては安心して進められる要因でした。開発を請け負ったら開発だけやるというのではなく、出来ることと出来ないことをきちんと整理してくれる。このプロジェクトはどうやったらうまく行くのかを考えてもらえ、さらにパートナーを紹介してくださったというところが、やはりクラスメソッドと一緒にやれてよかったと思います」と笠原さん。
IoT歯ブラシという新しい形の生活用品の特徴はデータの取得とその利活用にあります。歯ブラシに接続するデバイスがセンサーデータをアプリと連携し、そのアプリ上には独自アルゴリズムで採点した点数が表示されます。そのデータ活用の要望においても、クラスメソッドでは柔軟な対応を行っています。1つは社内での他部署も巻き込んだ利活用。2つ目が、プロジェクト内で、ダッシュボード的に、アプリ内での毎日のユーザーの動向を見ることでした。これには、Google Cloud Platform内のBigQueryと、Google Data Portalで対応。AWSとGoogle Cloud Platformとによるマルチクラウド対応で、低コストで堅牢なシステムを実現しました。
「IoT製品においてデータ活用をしようと思った際に、我々にはまだ知見が少ない。分析の目的に応じて、社内専門部署、マーケティング担当者、外部パートナーの誰がどのタイミングでデータを扱うべきか、クラスメソッドさんに切り分けのアドバイスをいただきました。データ分析にして不慣れなマーケティング部門の我々でも、日常的にデータが見られるシステムを提案していただいたことで、日常的なサービスの改善だけでなく、ランニングコスト・社内リソースの大幅な削減にもつながったと考えています」と遠藤さんは言います。
同じ想いでいいものを作るパートナーになる
3歳から5歳のお子さまをお持ちのご家族をメインのユーザーとしたIoTハブラシ「クリニカKid’s はみがきのおけいこ」は2020年9月に販売をスタートしました。今後は集積したユーザーデータをもとにしたサービスの拡充、ユーザー層の拡大などさまざまな構想があるそうです。
クラスメソッドは、今回の開発において、最初から全てをシステム化するのではなく、段階的にシステム化していくことを提案しています。プロジェクトの全体の動きを見ながら、期間とコスト、そしてIoT歯ブラシの今後の拡張性を考え、同製品にとってもっとも効率的で効果の高い方法を提供しています。
「なによりも熱意というところで、同じ想いでいいものを作りたいというパートナーと巡り合えることは、あまり機会がないものと思っていました。同じように開発をするときには、もっと初期の段階から入ってもらいたい」と遠藤さんは言われました。
クラスメソッドでは、どのようにすればプロジェクトがうまくいくか。そして、効率よく低コストで実現できるかを、お客様と共に考え、共によりよいものを作りあげていきます。