東京都の多摩地域に位置する調布市。行政のデジタル化を推進するべく、デジタル人材の育成に取り組む同市は、クラスメソッドの支援を受けて職員向けの生成AI研修を実施。30名の職員が、基礎研修とワークショップを通して、実務を想定した生成AIの使い方を学びました。研修の企画目的から、実施内容、成果、感想について、企画者の星野さん、新井さんと、受講者の早﨑さんにお話をうかがいました。
デジタル化推進員への実務研修で全庁の活用レベル拡大へ
調布市は、「ゲゲゲの鬼太郎」の作者である水木しげるさんが暮らした街として知られ、街中では鬼太郎や妖怪のオブジェと会うことができます。市内には関東屈指の古刹として知られる深大寺があり、将軍家から賞賛されたという「深大寺そば」が有名です。
同市では2021年4月、ポストコロナを見据えた新たなライフスタイルへの社会的要請を背景に、デジタル行政推進課を発足。2023年には「デジタルの活用で一人ひとりの幸せを実現する地域社会」をメインテーマとする「調布市デジタル化総合戦略 1.0」(以下、総合戦略)を策定しました。総合戦略では、テーマを実現するための視点として「市民サービスのデジタル化」「行政内部のデジタル化」「地域社会のデジタル化」の3つを定め、市民の利便性向上、業務の効率化、デジタル(IT)人材育成、安全・安心の確保、データの利活用、デジタルデバイド対策の6つを目標に掲げています。
デジタル行政推進課では、目標の1つである「デジタル(IT)人材育成」を推進するべく、各課に「デジタル化推進員」を指名。デジタルに興味を持ち、職場に積極的にデジタルツールを浸透させるITスキルを持つ推進員の育成を通して、業務のデジタル変革を加速しています。
もう1つの目標である業務の効率化についても、情報システム標準化対応を中心に業務改革に取り組んでいます。その一環として2023年度に生成AIを約130名のデジタル化推進員を対象に試験的に導入しました。その後、全庁的な試験運用を経て、2025年度から職員用の業務ポータルに生成AIツールを組み込む形で本格運用を開始。全正職員約1,200名に活用を促しています。一方、全職員への導入により、一部から「使い方がわからない」といった声も出てくるようになりました。活用度も職員によって異なり、温度差が生まれてしまう懸念もありました。そこでデジタル行政推進課は、デジタル化推進員を対象に生成AIの実務研修を実施し、推進員を通して全庁の活用レベルを高めることにしました。
「まずは推進員にスキルを身に付けてもらい、自分の部署に戻って広めることで業務効率化を加速して欲しいと思いました」(星野さん)
実務想定の生成AI活用について「期待以上の学び」
研修の企画にあたり、デジタル行政推進課はIT系イベントで交流が生まれたクラスメソッドに相談。プログラムの内容、始めやすさ、自治体での実績などを考慮しクラスメソッドの「生成AI実務導入研修」の実施を決めました。
「実務で使えることを最重要視していましたので、現場の業務課題に焦点を当てながら、ワークショップやハンズオンなどで実践的なスキルを学んでいく研修プログラムに魅力を感じました。クラスメソッドの担当トレーナーと会話をする中でも、発想力の豊富さと引き出しの多さを感じましたし、フランクな雰囲気が職員にも好影響を与えるのではないかと期待しました」(星野さん)
研修は、基礎を学ぶインプット研修と、実務を想定して学んだ成果を発表するアウトプット研修の2回に分けて行いました。1回目の研修前、2回目の研修前(中間)、2回目の研修後(振り返り)には受講者にアンケートを実施し、アンケートの結果を研修に反映させます。
調布市では、1回目を2025年8月末~9月初旬、2回目を10月末~11月初旬にかけて実施しました。1回目と2回目の間に約2カ月のインターバルを設けている意図は、受講者が1回目の研修後に実務の中で生成AIを活用し、そこでの課題を2回目のアウトプット研修で活かすためです。受講者はデジタル化推進員の中から希望者を募り、最終的に30名が10人ずつの3グループに分かれて研修に参加。受講者の早﨑さんは動機について「効果的な使い方が知りたかった」と語ります。
「生成AIの使い方はある程度理解していましたが、業務でどのように使えば効果的なのかを知りたいと思いました。デジタル化推進員として、学んだ知識を自分の課に持ち帰り、職場の人に説明できるレベルまでスキルを高めたいという思いもありました」(早﨑さん)
1回目のインプット研修では、生成AIの基礎を習得しながら、生成AIに最適な指示を与える「プロンプトエンジニアリング」についてハンズオン形式で実用に即した形で学びました。2回目のアウトプット研修では、1回目の講義やアンケート結果を振り返りながら、市役所の業務における活用例を共有、その後グループに分かれて業務を想定した生成AI活用方法のディスカッションと発表会も実施します。
「クラスメソッドは研修前のアンケートから受講者の習熟度や理解度を把握し、レベルにあわせてプログラムをカスタマイズしてくれました。またアウトプット研修でも、アンケートの回答を受けて実務に即した形でカリキュラムを作成していただき、おかげさまで私たちが期待した通りの形で研修を終えることができました」(新井さん)受講後の感想について、早﨑さんは「期待以上の学びになった」と語ります。
「参加当初あやふやだったプロンプトエンジニアリングをしっかり学べたことは、自分の意識が変わるきっかけになりました。グループワークでは、私の所属課である児童青少年課で、新任など業務に不慣れな職員が市民への案内のロールプレイングに使えるプロンプトを考えました。生成AIに『あなたは学童クラブの入会希望者です』という役割を与え、職員の案内に対して想定される質問を生成AIが作成するものです。出力された質問に職員が答え、それを上司が添削することで、業務の習熟度が高まると考えました」(早﨑さん)
受講した職員にマインドの変化とモチベーション向上が実現
研修後の成果について新井さんは、「受講した職員に大きなマインドの変化が見られた」と語ります。生成AI活用の自信度について、研修前アンケートに多かった「自信がない」の回答が研修後アンケートでは0になり、「ある程度自信がある」「非常に自信がある」の回答が50%を超えました。
「アンケートで印象的だったのは、アウトプット研修の実施後に、『業務への活用イメージが湧いた』という回答が多かったことです。早﨑さんのロールプレイング用のプロンプトのほか、マニュアルを読み込ませてチャットボットとして使いたいと回答した職員もおり、こうした発想が生まれてくることにグループワークの成果が確実に反映されていると思います」(新井さん)
研修を受けたデジタル化推進員が自分の部署に戻って課内に広めるという、当初の目的も実現しつつあると、星野さんは手応えを感じています。
「単に個人が生成AIを使いこなすだけでなく、アウトプット研修のワークショップやグループワーク、またそれを人前で発表するプログラムを通して、自分の考えを人と共有することも学びました。課内に戻っても学習した成果を広げようという意識が強くなっています」(星野さん)
受講した早﨑さんも、自分の業務と課内への展開において、以前と意識が大きく変わったといいます。
「職場に戻った現在は、自発的に課内で情報発信するように心がけています。生成AIへの質問の仕方がわからないという同僚には『こうして使ってみたらどうですか』と情報を共有するようにしており、その結果、課内で生成AIを使う人が以前より増えています。自分の業務でも新たな活用法の試行錯誤を繰り返しています。1つの回答が欲しい場合でも、プロンプトを工夫して生成AIに2つのパターンの出力を指示し、多角的に検討するといったことができるようになりました」(早﨑さん)
IT関連職種でない受講者に対するわかりやすい教え方を評価
星野さん、新井さんは研修を振り返り、研修中の雰囲気の良さや、IT関連職種でない受講者に対するわかりやすい教え方、そして行政の環境を意識したプログラム内容を評価しています。
「冒頭のアイスブレイクの上手さには驚きましたし、みんなで意見を出しながら和やかな雰囲気で進む研修は新鮮でした。担当トレーナーは職種にあったアプローチで受講者のアイデアを引き出してくれました。誰でも理解できるように平易な言葉を使い、難しい言葉が出てきた時も解説を加えるなどして噛み砕いてくださり、誰一人取り残すことなく研修を終えることができたのも良かったです」(星野さん)
「調布市の業務環境ではこうした使い方があるとか、行政での生成AI活用ではこうした制限があるとか、行政に即した形で教えていただけたことはありがたく思います。私はITの経験がほぼないままデジタル行政推進課に配属されたため、生成AIの活用に関して個人的な学びにもなりました」(新井さん)
受講者として参加した早﨑さんも、雰囲気の良さと、教え方の上手さを評価しています。
「インプットだけでは時間が経つと忘れてしまいますが、アウトプットを通して体に染みこませ、繰り返し練習ができたことは非常にありがたかったです」(早﨑さん)
業務に生成AIを当たり前に使う文化の醸成
今後は、デジタル化推進員を中心に各課内への横展開を加速することで、全職員の活用レベルを底上げすることを継続しつつ、業務に生成AIを当たり前に使う文化の醸成を図っていく考えです。研修についても、2025年度の実績を評価しながら次年度の方向性を検討する方針で、習熟度別研修や階層別研修などの実施も視野に入れています。
また、プロンプトエンジニアリングを学んだ受講者などが作成したプロンプトやAIボットを庁内で共有することで、誰でも一定水準の成果が出せるような仕組みづくりも続けていくとしています。
「クラスメソッドには、今後の横展開や文化の醸成も含めて支援をいただければと思います」(星野さん)
「生成AI以外にも、さまざまなデジタルツールにお強いと思いますので、今後も相談させてください。また、さまざまな自治体の支援で得られた知見を共有していただけるとうれしく思います」(新井さん)
クラスメソッドは、行政のデジタル化を推進する調布市の取り組みを、これからも支えてまいります。


