
ファンが支えるブランドだけどデータで見えない
ゴンチャ ジャパンは2028年までに400店舗への拡大を目指しています。同社の特徴的な顧客構造について、同社のGong cha 2.0推進部の栗田栄一部長は次のように語ります。

この数字が示すのは、ゴンチャがまさしくファンに支えられているブランドだということ。一方で、同社の主要な顧客層は若い女性のため、彼女たちのライフステージ変化に伴う離脱という課題も抱えています。
「学校を卒業して社会人になったり、ご結婚されてママやパパになったりと、お客様のライフステージ変化に伴ってカフェの利用機会が減るという調査結果がありました。せっかく接点を持つことができた(ファンになっていただいた)お客様を大切にしたい、つながり続けたいという想いから、ファンプログラムを開発することにしました。私たちの主要顧客は10代、20代女性の方が多いですが、顧客戦略としては大人世代へのアプローチ拡大ではなく、今ファンになっていただいている方と一緒に成長していくブランドでありたいと考えています」(栗田氏)
ブランドとして継続的に成長していくために、顧客とも長期的に関係を構築していく。それこそが、今回のプロジェクトのベースにある狙いでした。それと同時に、今回のプロジェクトには、ITシステムの面でも課題がありました。
同社には「失敗を恐れずチャレンジする」という企業文化が強く浸透しており、様々な施策に挑戦してきました。その結果、店頭にはPOSレジ、セルフレジ、LINEミニアプリによるモバイルオーダーという3つの販売システムが、それぞれ異なるベンダーから導入されていました。そのため、それぞれのシステム間で接続されておらず、データも連携できない状況になっていたのです。
システム間でデータが連携できないことによる問題は深刻でした。モバイルオーダーこそ顧客情報と購買情報が把握できていたものの、店頭での購買は紙のポイントカードに頼っており、顧客情報は一切取得できていませんでした。その結果、顧客に合わせた適切なマーケティング施策が実施できないでいました。
「例えば、『3カ月以上モバイルオーダーを使っていないお客様』に再来店を促すクーポンを配信したとしても、私たちにはあくまでモバイルオーダーでの購買情報しか見えておらず、実際にはご来店されてモバイルオーダー以外でご注文いただいている可能性がある、という状況が発生していました」(栗田氏)
「さらに、ポイントカードは紙(POSレジ/セルフレジ)とデジタル(モバイルオーダー)の2種類が存在し、販売チャネルによってポイントの貯まり方や特典が異なるため、お客様にとっては使い勝手が非常に悪い状態となっていました。モバイルオーダー比率を上げたいと考えたときに、紙のポイントカードがボトルネックになっていました」(栗田氏)
1年半の短期決戦で臨んだ開発プロジェクト
これらの課題を解決するため、ゴンチャは2023年末頃からファンプログラムと、そのためのシステムに関する検討を開始。この時、パートナーとして選ばれたのがクラスメソッドのビジネスコンサルティングチームおよびグループ会社であるプリズマティクスが提供する会員・クーポン・ポイント管理システム「fannaly」でした。
クラスメソッドの選定理由について、栗田氏は次のように話します。
「会員・クーポン・ポイント管理システムのSaaSである『fannaly』のご提供だけでなく、ファンプログラムの制度設計フェーズからご支援いただけることと、システム開発を並行して進めることができるという部分を評価させていただき選定いたしました」(栗田氏)
結果的に開発工程を大幅に短縮。2024年1月にプロジェクトを開始し、およそ1年4カ月後の2025年5月にファンプログラム「My Gong cha」をローンチすることができました。もうひとつ大きなポイントだったのは、伴走パートナーとしてのスタンスだと栗田氏は言います。
「単にSaaSの提供だけでなく、事業会社側のビジネス課題をしっかりとご理解いただいた上で課題解決のための機能改善提案などをしていただき、プロジェクトチームの一員として当事者意識を持って伴走していただくことができました」(栗田氏)
全チャネル統合により実現した顧客体験の革命
2025年5月の「My Gong cha」プログラムのローンチは、マーケティング面における大きな取り組みでした。それと同時に「My Gong cha」を支えるITシステムにおいても大きな挑戦でした。
その挑戦とは、3つの販売システムのAPI接続によるデータ連携を行い、全体での顧客情報と購買履歴を可視化することです。これによって、お客様全体を対象としたCRMが実現し、データに基づいた顧客施策が可能となりました。
その代表的な施策が、22歳以下対象のキャンペーン「ENJOY U22割」です。従来は学生証の提示が必要だった「学割」を年齢確認によるサービス提供に変更し、会員証のバーコードスキャン時に生年月日を参照とした自動判定が可能になり、これまではクルーによる目視確認が必要だった権利確認作業が、セルフレジやモバイルオーダーでも自動で年齢確認ができるようになり、お客様の注文体験を向上させることができました。
「これまで学割はモバイルオーダーでは購買することができませんでした。普段モバイルオーダーをご利用いただいているお客様であっても、学割利用時にはPOSレジやセルフレジでご購買いただく必要があったため、貯まるポイントも異なるという問題もありました。すべての販売システムをfannalyとAPI接続することで、購買経路に制約を設けず、またポイントシステムを統合・一元管理できるようにもなりました」(栗田氏)
既存のシステムを改修し、APIによってデータ連携を実現する。それ自体は、さほど難易度の高いプロジェクトではないかもしれません。しかし、今回においては、ゴンチャ ジャパン、クラスメソッドに加えて、POSレジ、セルフレジ、モバイルオーダーそれぞれのシステムベンダーの合計5社が関わるプロジェクトマネジメントの課題がありました。
それぞれを順番に開発して行くのではなく、全てを同時に開発する必要があります。なぜなら、ファンプログラム「My Gong cha」のメリットをお客様が受け、素晴らしい顧客体験を実現するためには、すべての購買経路で「My Gong cha」が実現している必要があるからです。
fannalyを用いた「My Gong cha」向けシステムの開発だけでなく、プロジェクトの全体管理をクラスメソッドが担当することで、非常にスムーズな進行が実現したと、栗田氏は手放しで賞賛します。

企業文化が支えたスピード経営
今回のような大規模なプロジェクトが成功した背景には、ゴンチャ社内の組織体制も重要な要因でした。栗田氏のチーム「Gong cha 2.0推進部」は、経営企画の直下に置かれ、ビジネス推進とIT部門が同じ部署内に配置されるという珍しい構成になっています。
「弊社のITマネージャーは非常に優秀です。システムの開発や保守だけでなく、『何のためにやるんだっけ』というビジネス課題をとても重要視していただいているため、よくあるビジネス部門とIT部門のコンフリクトが起こりにくい関係を構築することができており、プロジェクトをスムーズに進行することができました」(栗田氏)
さらに、「失敗を恐れずチャレンジする」という企業文化が、迅速な意思決定を支えた。こうした背景があり、ゴンチャ ジャパン側がプロジェクトに対して、明確なオーナーシップを発揮。プロジェクトに関わったベンダー側とのコミュニケーションも円滑に進み、プロジェクトをスケジュール通りに進める一助となりました。
次世代ブランドへの進化
今回の「My Gong cha」プログラムは、同社のこれからの成長戦略の重要な一歩となります。栗田氏は、「デジタルはあくまでも手段。お客様の体験がどう変わるのかということがまず初めにあって、その手段としてデジタルを活用している」と言います。
このようにお客様体験の質と変化を突きつめた結果、「My Gong cha」はローンチ後わずか1カ月で100万人を超える新規会員獲得に成功しました。以降も順調に会員数を増やしており、3カ月で150万人を突破するなど、既に当初の年間計画を大幅に上回る会員数に到達しています。
また、月に数十回利用する超ヘビーユーザーの存在が可視化されるなど、これまで見えなかった顧客インサイトを見つけることもできたそうです。
「一度ベースを作れば、あとは状況に応じてアップデートしていけばいい。まずはデジタルの基盤に移ることが大事でした」(栗田氏)
2028年までに200店舗から400店舗への倍増に取り組むなか、今回構築したデジタル基盤は同社の成長戦略のコアとしての役割を果たしていくことになります。
クラスメソッドはゴンチャのビジネスの発展を今後もご支援すると同時に、会員制度設計、「fannaly」を用いた会員・クーポン・ポイント基盤やID基盤の刷新や新規導入を他社に対しても広く進めてまいります。