コロナ禍での入場制限の影響もあり激減した入場者数を盛り返し、2024シーズンは入場者数が過去最多大となる1200万人を突破した公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(以下、Jリーグ)。その裏にあるのは、2017年頃から推進したデジタルマーケティング戦略です。2022年からはクラブチームへのシステムのオープンプラットフォーム化、マーケティングデータベースと紐づけることで顧客データを最大限生かした施策を行ってきました。
さらに、Jリーグはライト層への訴求などを目的に2022年10月にLINEミニアプリの提供を開始。その開発支援をクラスメソッドに要請しました。現在では60あるクラブの7割のクラブに導入され、新たなファンの獲得に貢献しています。デジタルマーケティングを推進する野溝さんと一柳さんにLINEミニアプリの開発背景と機能、クラスメソッドの支援体制や今後の展望まで話を聞きました。
クラブにも導入しやすかった認証認可サービス
Jリーグは、日本サッカー協会(JFA)の傘下にあり、主にJ1、J2、J3の各リーグ、ユース選手権などの育成年代の大会を運営するほか、サッカーを通じた地域貢献活動やスタジアム推進事業などを行っています。事業マーケティング本部では、マーケティング、プロモーションを主軸に置き、デジタルを駆使しながら各クラブのファン獲得や集客支援を実施しています。
Jリーグがデジマ戦略に大きく舵を切ったのは2017年。まず、顧客データの取得とファンエンゲージメントを高めるためにJリーグIDを導入しました。最新のチケット情報はもちろん、お気に入りクラブ情報やJリーグID会員限定のキャンペーンの応募や限定グッズの購入などが可能になりました。その後、J1のクラブを中心に、クラブ毎のニーズに特化した独自サービスを構築したい、他の機能との連携も増やしたいなどのニーズが高まっていきました。

現在JリーグIDとAPI連携しているサービスはJリーグ以外のものでも60種類以上あります。Jリーグは各クラブにIDを付与するプロバイダーの役割を担っているので、もしも独自性の強い認証基盤であれば、導入の手間とコストがかかってしまいます。その点、Baristaはその仕様から「各クラブへの導入が非常にしやすかった」と野溝さんが振り返ります。

IDに紐づいた顧客データをさらに有効活用すべく、JリーグはMAツールやCRMの提供と連携、各クラブ向けにマーケティングツールの活用方法などを伝える育成講座も開催してます。そして2022年には各クラブが保有する顧客データを共通で使えるよう、システムのオープンプラットフォーム化も推進します。
「大規模プロモーション(テレビCM、デジタル広告)でJリーグを知ってもらい、招待施策と連動することで、まずは一度スタジアムに来場してもらう。その際にJリーグIDに登録してもらい、その顧客データを分析し、リピーターを増やすためにPDCAを回しながら施策を実行していきました」(一栁さん)
また、テレビなどメディア露出が減ったことからJリーグへの関心度が低下傾向であったため、昨年でいうと地上波キー局サッカー番組「オフ・ザ・ピッチ」の開始であったり、また外部IPとのコラボ施策などの取り組みにも力を入れています。ローカルについてもクラブにJリーグの担当者が専任で付き、伴走することで露出の強化が進み、その結果J1だけでなくJ2、J3の来場者数を増やすことにも成功しました。
開発内容だけでなくアプリ開発の本質的な理解にも積極的
マーケティングを推進していくことでスタジアム来場者数を伸ばすJリーグ。2022年にはデジタル共通基盤もオープン化したことで各クラブが使いやすくなり、ファンエンゲージメントを高める施策をさらに実行できる環境になりました。ただ、リピーターの来場者が増えている一方で、ライト層の獲得に「まだ課題があった」といいます。そこで、同法人では同年10月からLINEミニアプリの提供を開始しました。導入に関して、野溝さんは以下のように振り返ります。
「Jリーグ内の共通基盤は、CRMを含めて充足してきたのですが、そもそもIDの顧客データというのはチケットやグッズを購入しないと上がってきません。すでにサポーターになっている方への具体的な施策を強化してきましたが、スタジアムに一度も来たことのないライト層へのアプローチはあまり注力してきませんでした。そこで、考えたのがLINEミニアプリです」(野溝さん)
LINEミニアプリの開発にはクラスメソッドへ支援を依頼しました。その理由について野溝さんは以下のように話します。
「アプリ開発に関して、クラスメソッドはLINEも含め実績豊富なことを知っていました。私は前職からすでにクラスメソッドとお付き合いがあったのですが、なぜこのアプリが必要なのかという課題・背景のところから『深く知ろう』『向き合おう』という真摯な姿勢が非常に印象に残っており、そうした面からも信頼できると感じてました。」(野溝さん)
LINEミニアプリ上で展開している機能は、ファンクラブ会員証の表示、QRチケットの表示、即時抽選型キャンペーン、誘い誘われ友だち紹介機能、推し選手動画の5つ。会員証とQRチケットの表示機能は、JリーグIDを紐づけて利用頂く機能のため、ファン・サポーター向けの便利機能です。友だち登録をするだけで応募できる即時抽選型キャンペーンは、主にライト層向けに活用できる機能となっており、JリーグIDを取得、連携することでインセンティブを付与したり、ファンクラブ会員であれば応募回数を増やしたりできるなど、各クラブでカスタマイズできる仕様になっています。
キャンペーン機能に関しては、クラスメソッドと共にアジャイルで開発するなかで生まれたアイデアも多くあったと一栁さんはいいます。

誘い誘われ機能では、すでにサポーターであるユーザーが、スタジアムに誘いたい友だちに対して無料チケットが取得できるクーポンを送ることができます。
「宅配サービスと同じようにモニター体験という意味合いがあります。誘われた方は無料でチケットを手に入れることができますが、発行は自分で行います。そのようにチケットの疑似購入体験をさせることで、2回目から購入のハードルを下げたいという狙いもあります」(野溝さん)
コミュニケーションに長けたエンジニア集団
最新の推し選手動画の機能は、2024年10月からリリースされました。最大3クラブ、1クラブにつき3人で計9人までの推し選手を登録でき、選手プレイ集や試合のダイジェストなどをLINE上で見れるというものです。この機能に関しては、2024年8月から開発を始めわずか3カ月で完成しました。

「基本はWSC Sportsの要件に沿ってクラスメソッドに進めてもらいました。海外ベンダーとの仕事の経験があまりなかったこともあり、クラスメソッドには技術的な内容を直接英語でやり取りしてもらえて大変ありがたかったです。LINEミニアプリでの機能提供は初の試みとのことでしたが、スムーズに開発を進めることが出来ました。」(一栁さん)
Baristaの導入、LINEミニアプリの開発、推し選手動画機能の追加とクラスメソッドに様々な支援を要請した同法人。複数にわたる支援を通じて、「クオリティが全く変わらないことに驚いた」と野溝さんは以下のように話します。
「クラスメソッドはほぼ毎回異なるメンバーが参加していたのですが、支援内容はいつも濃かったです。前回の支援内容をドキュメントにして後任の方に引き継いでいたので、情報共有はしっかりされており、毎回スムーズにコミュニケーションが取れたのがよかったです」(野溝さん)
また、野溝さんは今回のLINEミニアプリに関しAWS環境で構築していたことにも触れています。
「AWSに関してはクラスメソッドの技術は飛びぬけていますので、今回の開発工程もかなり早く作りあげることができ、大変満足していますね」(野溝さん)
コミュニケーションの観点では、一栁さんも「非常に話しやすい雰囲気だった」と振り返ります。
「クラスメソッドのエンジニアは本当に話やすい方ばかりで、開発期間中は素直に楽しかったです。要望をお伝えする際も、こういう背景で困っているという質問の仕方をよくしていたのですが、それに対し的確な回答・レスポンスをもらえるので非常に頼もしかったですね。動画新機能に関しては、トップの一覧の動画を縦にするのか横にするのかなど、UI面でもよく相談していました」(一柳さん)

また、LINEミニアプリの機能は今後さらに追加していく予定だといいます。例えば、動画機能については、現在は試合動画のみ表示されますが、今後は推し選手のオフ動画といった親しみやすいものも増やしていく考えです。
LINEミニアプリの導入で新規ファンを増やすことにも成功し、2024シーズンは歴代最多となる年間1,200万人を超える入場者数を実現できました。
「最終的にはJリーグIDの連携をさらに増やしていき、CRMの先にあるLINEを通じたユーザーとの1on1のコミュニケーションを取っていきたいです。ライト層の獲得やその先にある接点を築いていく上で、サッカーだけでなくほかのスポーツでもLINEミニアプリは有効だと思いますよ」(一栁さん)
デジタルマーケティング施策により、シーン全体の活性化に成功したJリーグ。クラスメソッドは引き続き、Jリーグの挑戦を応援し続けます。