明海大学は歯学部や外国語学部、ホスピタリティ・ツーリズム学部など多岐にわたる学部構成により、約4,500人に専門教育を提供しています。同大学では浦安キャンパス(千葉県浦安市)に立地する学生食堂「マリーンズ」のリニューアルに伴い、LINEを用いたモバイルオーダーサービス「CX ORDER」を導入。2024年4月に本格運用を開始しました。
浦安キャンパスの在籍者数は3,600人超。食堂ではランチタイムに600食以上を提供する日もあります。そうした大勢の学生に向けたCX ORDERの導入目的や、導入時の取り組みについて、総務部浦安キャンパス管理課の佐藤さんに詳しくお話を伺いました。また、食堂の運営を手掛ける株式会社若菜の上原さんと、明海大学在学生の方々も取材に応じてくれました。
LINEで注文できる点と導入実績を重視
リニューアル前の学生食堂マリーンズは、提供される料理や老朽化した施設、食券購入・配膳で二度行列に並ぶ必要があり、学生や教職員からの評価はあまり良くなかったと言います。
「リニューアル前は券売機の行列が屋外まで伸びることもありました。また、混雑するお昼の時間帯は、学生に悪いからと食堂の利用を避ける教職員もいる状況でした。そこで、メニューや利用体験を一新するため学生食堂のリニューアルが決まりました。運営は、坂戸キャンパス(埼玉県坂戸市)の食堂運営をしていた若菜に、浦安キャンパスも委託することになりました」(佐藤さん)
大学から打診を受けた若菜の上原さんは、キャッシュレス化の動きを念頭に新しい精算方法を提案したそうです。その提案に沿って、当初は券売機の一部をキャッシュレス対応にする方針で進めていましたが、そこにモバイルオーダー導入の選択肢が加わりました。佐藤さんは、過去に喫茶店で経験した、LINEによるモバイルオーダーに関心を持ったそうです。
「スマホにアプリを入れたり、メ―ルアドレスを登録する必要があると、利用のハードルが高くなると考えていました。広く浸透したLINEで注文できるのは、学生だけでなく、教職員にとっても手軽であると思いました」(佐藤さん)
モバイルオーダーサービスの選定ではコスト感や納期に加え、導入実績も重視されます。大学の学食は運営に特徴があり、導入実績の有無は大きいためです。調査する中でクラスメソッドを知ったのも、Webサイトにあった学生食堂の事例がきっかけとのことです。
運用方針で迷ったら“学生の利便性に資するかどうか”で判断
若菜の上原さんは、CX ORDERの導入について当初は不安があったと言います。
「CX ORDERは飲食店向けのサービスなので、一時的に多くのお客様が複数の配膳口にいらっしゃる学食には不向きであると、当初は感じていました。また、厨房スタッフにとってiPad操作と食事提供を同時並行で行うのは、負担が大きいとも思っていました」(上原さん)
明海大学と若菜、そしてクラスメソッドの3者により、運用検討がはじまったのは2024年2月末でした。まずクラスメソッドが試案を作成し、大学と若菜の意見を加える形で修正を重ねました。特に留意したのは以下の3点です。
・厨房でのタブレット操作を極力なくして業務負担を軽減する
・食券とほぼ同じ配膳のフローを構築する
・提供可能なメニューを最大限増やす
この期間、明海大学でモバイルオーダー導入を担当した佐藤さんにはある一貫した“判断基準”があったと言います。
「モバイルオーダーの導入は難しいのではという雰囲気もある中で、担当者として相当な不安がありましたが、上司である総務部長からは学生の利便性を第一に考えるよう助言をもらいました。その助言を基に、いくつも懸案事項はありましたが、常に『どちらが学生のためになるか』を基準に判断するようにしていました」(佐藤さん)
何度か運用案を修正し、3月下旬に迎えた学食でのロールプレイングでは、若菜のスタッフにスマホから注文してもらい、リアルタイムでタブレットに届く様子を確認するところから始まりました。上原さんはその日の様子を振り返ります。
「ロールプレイングでは、クラスメソッドの担当者が根気強く現場に寄り添ってくれました。若菜のみなさんも大変協力的で、機能を把握したスタッフの方からは、運用の新しい提案が出るほどでした。ロールプレイングの様子を見ていると、それまでの不安が徐々に解消されていきました」(佐藤さん)
実務に沿った運用案とロールプレイングが成果につながった
リニューアルオープンを迎えた4月5日は、前期授業の初日。在学生が一斉に登校するため、例年多くの学生が食堂を利用します。券売機の列が長くなるにつれ、スマホで注文して券売機の列に並ばず直接配膳レーンに向かう学生が増えていきました。前日までロールプレイングを重ねた若菜のスタッフは、手際良く料理を配膳していきます。
初日にも関わらず、モバイルオーダーの注文件数は150件を超えました。初日以降も100~200件の水準を維持しています。キッチンプリンタを用いず、タブレットのみで運用できている点について、佐藤さんは「現場の声を踏まえ、実務に沿った運用案を構築して、さらにロールプレイングで実際の営業に近い状態で練習できたから」と言います。
また、モバイルオーダーが浸透するにつれて食堂への移動中に注文を済ませる学生や、最初に席を確保して注文するグループも見られ、ランチの体験そのものも変化しているそうです。
「導入してよかったと感じたのは、学生が券売機をスルーして入って行くのを見た瞬間ですかね(笑)。スマホ持ってそのままカウンターに行く人や、事務室で料理を選んで学食へ向かう先輩職員を見たときも、よかったなと。アンケートでも『券売機に並ぶ必要がなくなったので嬉しい』という声が多いです」(佐藤さん)
モバイルオーダーを利用している学生の方からも好評です。
「リニューアルとモバイルオーダーの導入で、本当に便利になりました」(西川さん)
「先に席を取って注文できるようになったことが嬉しいです。以前は席の確保も大変でした」(木藤さん)
モバイルオーダーの割合を50%に引き上げたい
初日にはオンライン決済後に画面遷移が遅れ、注文が完了したのか判然としないトラブルが発生しました。初日はクラスメソッドの担当者が現地でサポートし、早期に原因を突き止めて数日中に改修を行いました。
「初日にクラスメソッドの社員の方がいてくださったことはとても助かりました。改修についても早期に対応してもらえたという印象です」(佐藤さん)
導入後も、利用促進に向けた取り組みは続きます。一例は食堂内のテーブルに貼り付けた、モバイルオーダーの案内カード。はじめて食堂を利用する場合も、カードに記載されたQRコードをスマホで読み取って注文できます。全体の注文に占めるモバイルオーダーの割合は、リニューアルオープンから2週間は31%でしたが、5月には37%に拡大。さらに利用を広げる計画です。
「当面の目標は50%です。50%なら、利用客が多い時でも券売機に行列ができない状態にできそうです」(佐藤さん)
さらに、モバイルオーダーを学生に体験してもらいたいという、明海大学ならではの理由もあるそうです。
「明海大学には、ホスピタリティ・ツーリズム学部に経営情報専攻というコースがあります。ここでは、デジタル技術とホスピタリティマインドの両方を備えた人材の育成を目指しています。CX ORDERのようなデジタルサービスを利用しその良さを自ら体験することで、社会に出たとき今度はそういったサービスを自分が考えたい、提供したい、と思ってもらえたら一層嬉しいです」(佐藤さん)
日々、数百人が利用する大規模な学生食堂でのモバイルオーダー導入。成功の裏には、「何が学生のためになるか」という学生本位の考え方や、運営会社との密な連携がありました。新札切り替えやキャッシュレス化が話題ですが、食堂のキャッシュレス化を検討する方々には、参考になる事例ではないでしょうか。
クラスメソッドは今後もCX ORDERを通し、明海大学の学生食堂の円滑な運営を支援していきます。