モリサワは、コンピュータや印刷物などにおいて、文字を表示するためのデジタルフォントのリーディングカンパニーです。モリサワのフォントは、多くのWebサイトや書籍、製品パッケージなどで利用されており、日常生活において誰しもが目にしているでしょう。
モリサワでは、フォントをクラウドベースで提供するサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」を2022年10月にスタートさせました。このサービスのローンチに先立って、事業に関わるデータを収集し分析するためのデータ分析基盤を構築しており、クラスメソッドがサポートしています。
同社がデータ分析基盤を構築した背景と、今後目指している未来について、同社開発イノベーション課の小室貴史さんと岡田晃さんにお話を伺いました。
月次で集計されていたデータを日次で把握できるように
モリサワは、2022年10月にフォントサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」をリリースしました。これは、年額でのサブスクリプション契約に基づいて、約2,000種類のフォントを利用できるサービスです。書籍や雑誌を製作する出版社、広告やパンフレット、製品パッケージをデザインするデザイナーなど、多くのクリエイティブ関係のユーザーに利用されています。
「以前までは日々更新されるデータを分析したり、データに基づいて判断する文化が弱い状況でした。また、データがサイロ化しており、営業部門とサポート部門が違うデータを見ながら議論することもありました」(小室さん)
Morisawa Fontsを提供開始する以前から、Webのフォントダウンロードサービスを提供していましたが、そのログデータは月次で集計されるため、必要な時に欲しいデータを見ることが困難でした。このため、社内ではデータに基づいて判断したり、企画したりといった取り組みが、あまり注目されてきませんでした。
「2019年に我々の上司にあたる邊川が開発部門長になり、開発部の改革を始めました。その一つがデータドリブンの導入です」(小室さん)
それをきっかけにして、主力事業であるフォントビジネスにおいて、データを正しく使うための基盤整備の機運が高まり、Morisawa Fontsのリリースに合わせてデータ分析基盤の整備へと踏み出したのです。
幾たびの変革を乗り越えてきて、いまクラウドの時代に
モリサワは設立当初、創業者の森澤信夫らが発明した邦文写真植字機を扱う機械メーカーでした。その後、1980年代にコンピュータによる電算写植機の開発を経て、1989年に日本語初のポストスクリプトフォントを共同開発し提供を開始しています。このように、アナログからデジタルへと技術の変革に合わせて、主力事業も変化させてきました。そして今、クラウドという新たな変革の時を迎えています。
「設立から76年になりますが、変革に慣れている会社だと思います。今までも大きな会社の形態の変化を何度も経て、会社も人も生き残ってきました。だから、クラウド化という大きな変革に合わせて、会社もデータドリブンへとシフトしていく時期なんです」(小室さん)
社内でMorisawa Fontsのリリースが決定したのに合わせて、小室さんもデータ分析基盤の構築に取りかかりました。しかし、小室さん自身はクラウドでのシステム開発経験こそあったものの、データサイエンティストではないため、仕様の策定などで行き詰まりを感じていました。
「AWSは使っていたので、見よう見まねで試したのですが、周りに聞ける人がいないため、何が正解か分からず、頓挫していました。そこで、以前にも仕事を一緒にしたことがあるクラスメソッドに相談をしました」(小室さん)
前回はコンテンツ配信システムの構築をクラスメソッドへ依頼した実績があります。そして、今回はデータ分析基盤を内製化するため、必要な知識のトランスファーやアドバイスを行うコンサルティングを依頼しました。
2022年1月からプロジェクトを開始し、同年3月には基本的なシステム構築が完了しました。5月にはデータサイエンティストとして岡田さんがジョインし、ダッシュボードの構築などを行いました。そして、10月のMorisawa Fontsのリリース前にデータ分析基盤の準備が整いました。
構築にあたっては、すべてがAWS上、かつサーバーレスで完結することを目指したと小室さんは言います。
「Morisawa Fontsのログデータを取得して、AWS Glueでデータを加工し、Amazon S3をデータレイクとして使っています。Amazon QuickSightでダッシュボードを構築して、Amazon Athenaを通してクエリを掛けています。
プロジェクトの開始当初は、まだ岡田が入社しておらず、私ひとりだったので運用やメンテナンスに工数を取られないことが目標でした。データウェアハウスの選択も、構築当初はAmazon Redshiftにサーバーレス版がなく、マネージドサービスでは運用コスト等も不透明だったのでデータウェアハウス製品を使わずにストレージとしてAmazon S3を使うことを選択しました」(小室さん)
誰もがデータを見て、データを活用できる会社に
モリサワでは、データ分析基盤の構築によって、社内にデータを意識する文化が少しずつ醸成されてきました。構築後、ニーズの多いデータについては、ダッシュボードで素早く見られるようになっています。
「社員なら誰でもダッシュボードを見られます。例えば、日次の売り上げは、確定した段階でボットがSlackに自動投稿する設定になっており、社員全員がビジネスの状況を素早く確認できます」(岡田さん)
「ダッシュボード上で日次データを見られるようになり、経営陣からも好評です。新しいフォントがリリースされると、フォントを作っている人たちもアクティベート数やPV数に興味を持って見ています」(小室さん)
ただし、すべての社員がデータを見られる現在でも、誰もが仕事のなかでデータを活用できるようになるのには、もう少し時間が掛かりそうだと小室さんと岡田さんは言います。
「売り上げやアクティベート数など全体の数字は見ても、その内訳や時系列での変化など、踏み込んだ分析まで興味を持つ人は、まだ少ないです。そういったデータにも興味を持ってもらうための施策を検討中です」(小室さん)
「マーケティング部門には、エンジニアではないけれど自分でAthenaからクエリを実行して分析する人たちも出てきました。今後は、QuickSightで各々が必要なダッシュボードを作れるように、普及活動をしていきたいです」(岡田さん)
社内でよりデータを活用しやすくするための方策として、LLMや機械学習などの活用も検討しています。Amazon BedrockやAmazon Qにも注目し、一部で検証も始めているとのこと。将来はそうしたところでも、クラスメソッドの協力を期待しているそうです。
「弊社では機械学習を分析だけでなく、フォント開発などにも取り入れたいと考えています。そうした知見はまだまだ足りないので、クラスメソッドには期待しています」(小室さん)
写真植字機から電算写植システム、そしてデジタルフォントと、長年にわたり日本の出版やデザイン業界を書体によって支えてきたモリサワ。クラスメソッドは、クラウド時代におけるモリサワの変革をこれからも支援して参ります。