CABIoTは温度や湿度を遠隔監視してトラブル予防・保全を実現する、小型センサーと管理用Webアプリケーションをセットにした監視システムです。このプロジェクトの要件定義からシステム開発、そして現在の運用に至るまでの経緯について、日東工業の田村さん、伊藤さんにお話をうかがいました。
配電盤の予防保全を実現する熱IoT開発プロジェクトが始動
日東工業では市場における配電盤の温度上昇や湿度、結露の問題に着目。「市場ではこれらの問題がすでに顕在化していました。お客様からの声を受け、状態を見える化して対策を先手先手で打てるようにしたいという要望がありました」と田村さんは当時を振り返ります。
同社では、これまでも盤用クーラーや除湿器、ファンといった熱対策機器を提供してきた一方で、IoTを活用した新しい価値の創出にも目を向けていました。センサーで測定したデータを収集し、機器の状態を常時モニタリングすることで新しい予防保全が実現できると考えたのです。
「開発は、仕様に沿ってつくってもらうだけでなく、並走してくれるパートナーを探していました。新しいことに取り組むので変更も多くなる。フットワーク良く対応してくれる企業を探しました」(田村さん)
クラスメソッドを選定した理由について田村さんは、「サービスを提供する側の立場で会話ができたのが大きかったですね。また総合的な技術力の高さや先進的な開発手法に加えて、セキュリティを担保した開発ができるかどうかも重視していました。提案の中でゴールイメージも共有していただき、ポジティブな印象を持ちました」と評価します。
完全なスクラムでの開発手法を提案したのはクラスメソッドだけでした。田村さんもアジャイル開発について知見はありましたが、会社として初めての取り組みです。「それでもやはり、新しい開発手法にチャレンジしてみようと考えました」(田村さん)と、クラスメソッドとの取り組みをスタートさせました。
アジャイル開発で実現する迅速な機能開発とチームづくり
クラスメソッドはまず、PoCを通じた検証と本番開発という2段階のアプローチを提案。1カ月のチームビルディング期間を設け、アジャイル開発の勉強会やプロジェクトの目的の共有から始めました。そしてシステム開発全般も一貫して担当し、IoT機器からのデータ処理と可視化はもちろん、新機能の開発から品質管理の仕組みづくりまで一体となって取り組みました。
クラスメソッドの強みは、アジャイル開発のフレームワークだけでなく、それを支える技術力にあります。単にプロセスを踏襲するだけでは成功は望めません。開発手法とテクニカルな実装、その両方をしっかりと押さえることで、高品質な開発を実現しています。
さらに、開始当時はコロナ禍での完全リモート開発となりましたが、クラスメソッドはSlackでの日常的なやり取り、Google Meetでのオンラインミーティング、オンラインホワイトボードツールとしてMiroを取り入れるなど、複数のツールを組み合わせたコミュニケーション環境を整備しました。
プロジェクトを進めていくと、当初は戸惑いがあったアジャイル開発の良さも実感できるようになったといいます。
「アジャイル開発は初めてでしたが、要求した仕様と実際にできたものとの食い違いが少なく、手戻りもわずか。素早いリリースで頻繁にフィードバックが得られるというスクラムのアプローチは優れていると実感できました」(伊藤さん)
その後、田村さんと伊藤さんはスクラムのプロセスとご自身の役割をより深く理解すべく、認定プロダクトオーナーの資格を取得。日東工業とクラスメソッド、双方がスクラムのプロセスへの解像度を上げながらプロジェクトを進めていきました。
「なぜ」を重視した開発で実現する本質的な課題解決
アジャイル開発では1〜2週間の短いサイクルで機能を開発。毎日の朝会で進捗を確認し、開発中に発生する課題や判断が必要なことについても密にコミュニケーションを取りながら進めることで、手戻りを最小限に抑えています。
「これまでは仕様が決まれば、その通りに開発を進めることが一般的でした。しかし今回は違います。『なぜその機能が必要なのか』とバックグラウンドや目的を共有しながら議論を重ねることができました」と田村さんは評価します。
結露検知機能の開発は、この議論重視のアプローチが効果を発揮した好例です。
「当初は結露を検知して通知する仕組みを考えていましたが、それでは遅いとクラスメソッドへフィードバックしました。結露が発生する前に予測して対策を打つ。そもそも結露を防ぐことが重要だという認識共有ができましたね」(田村さん)
展示会への出展や貸し出しを通じて得られたユーザーの声も、優先順位の見直しによって迅速に反映し、現場環境の写真を記録できるメモ機能や、複数箇所の温度を比較表示する機能など、実際の利用シーンを想定した機能を次々と実装していきました。
また、温度データの表示においても工夫を重ね、急激な変化も適切に表現できるグラフ表示を実現。より直感的に状況を把握できるUIを目指しています。
継続的な開発を支えた品質への徹底したこだわり
2020年12月の始動からプロジェクトは着実に進展。2021年1月からわずか3カ月で熱環境監視の基本機能の開発を完了し、6月にモニターユーザー向けの検証版をリリース。実環境での検証とユーザーフィードバックを重ねながら、UI/UXの全面的な改善に取り組み、CABIoTの販売を開始しました。それ以降もクレジット決済機能の追加やユーザー通知方法の設定など、継続的な機能改善を進めています。
こうした着実な開発の中で、品質面でも成果が表れてきました。
「リリース以降、重大な不具合の報告はありません。品質面で高い水準を実現できています」(伊藤さん)
この品質の高さを支えた要因のひとつが、テストチームとの良好な関係性です。「テストを担当する会社のエンジニアとも、お互いを尊重しながら進めていただけました。開発チームとテストチームが対立するケースもある中で、ひとつのチームとして機能できたことは大きな強み」と田村さんは振り返ります。
さらにもうひとつの要因は、AWSの活用と内部品質の重視です。クラスメソッドは、運用管理の多くをAWS側に任せることで効率化を図る一方、新機能の追加による既存機能への影響を最小限に抑えるための工夫を重ねてきました。自動テストの整備や、変更に柔軟に対応できる内部設計の改善など、リファクタリングによる品質向上にも時間を割いています。
また、3年以上のプロジェクトの中でメンバーの変更もありましたが、新メンバーも短期間で開発プロセスに適応する環境を構築することで品質は一貫して維持。
「チームメンバーが入れ替わる機会が何度かありましたが、開発の品質は変わることなく、高い水準を保ち続けてくれました」(伊藤さん)
IoTの共創パートナーとして次のステージへ
2024年12月現在、熱IoT開発プロジェクトは当初の目標であったCABIoTの製品化を実現。新たな事業領域への展開を示すことに成功しました。
「電気設備機器メーカーとしての強みを活かした、サービスビジネスの第一歩を踏み出せたと感じています。クラスメソッドとの開発パートナーシップも深まり、現在はCABIoTの継続的な機能改善とともに、新たな研究開発にも取り組んでいます」(田村さん)
クラスメソッドは「つくって終わり」ではなく、お客様と一緒に提案しながら並走し、リリース後も継続的な改善を重ねていく開発のあり方を大切にしています。この姿勢が、日東工業との長期的なパートナーシップの基盤となりました。
製造業では製品やサービスのライフサイクルが長いという特性があります。しかし、このプロジェクトを通じて、製品の強みを活かしたサービス展開の素地ができ、継続的な改善による新しい価値創出の可能性を示すことができました。
クラスメソッドは製造ビジネステクノロジー部としての体制を整え、デバイスやIoTの知見を持つメンバーを強化。今後も製品の長期的なライフサイクルに寄り添いながら、日東工業のデジタル化を支援して参ります。