関西電力グループの通信事業を担う株式会社オプテージは、光回線サービス「eo光」や格安スマホサービス「mineo」など、関西圏で圧倒的な存在感を示す総合通信事業者です。
同社の経理部門では全社員から寄せられる膨大な問合せの数やそれらの対応時間が大きな業務課題となっていました。この状況を打開すべく、同社は2024年11月に全社展開したITヘルプデスクでの生成AI導入成功を踏まえて経理部門への横展開を決定。クラスメソッドは前回のプロジェクトに続き、技術支援パートナーとして選ばれました。
今回は2025年4〜8月までの5カ月間、経理部門向け生成AIチャットボット「ケイリー(kAIly)」の開発に着手。Microsoft Azureをシステム基盤として当時最新だったGPT-4.1とRAG技術を活用し、現場の実務知識を最大限に引き出すことで、正答率86%という高精度を実現しました。経理サポートチームの横田さん、宇野さん、辻さん、DX推進チームの山谷さんにプロジェクトのお話をうかがいます。
問合せ対応に追われる経理部門がクラスメソッドを再選定
オプテージの経理部門が抱えていた問題は、多くの企業に共通する課題でもありました。全社員2,972名(2025年4月1日現在)から会計処理や経費精算などに関する問合せが回答窓口の経理サポートチームに集中。特に、2024年4月の社内システムリプレース時には月1,200件、1日50件以上もの問合せが殺到しました。「問合せを登録してから回答を得るまでの待ち時間は中央値で5時間49分。質問者の業務が停滞し、ストレスを与えてしまう状況になっていました」(辻さん)
この状況に加え、改善しようとしても実現できない悪循環がありました。同社ではFAQやマニュアルを用意してサポートを充実させる予定でしたが、日々の対応に追われて進まず、ExcelやSharePointをベースにしてFAQを用意したものの検索性が低く、活用しづらい状態でした。
「FAQは整備していたものの、経理担当者自身でもたどり着けない。情報量が多く、分類するのも難しい状態になっていました」(横田さん)
この状況を変えたいという横田さんの強い思いと、DX推進チームの全社的な視点が合致。2025年1月、経理部門向け生成AIチャットボットプロジェクトが始動しました。プロジェクトの開発パートナーとして複数社を比較検討した結果、クラスメソッドを選んだ決め手は、過去に支援を受けたITヘルプデスクプロジェクトで実証された対応力でした。「生成AIプロジェクトは発注段階で詳細な要件が決まっていないことが多く、それに対してどれだけ柔軟に対応してもらえるかが選定のポイントでした。クラスメソッドは当社の構成も熟知しており、精度とコストを総合的に判断して選定しました」(山谷さん)
この開発の方向性を定めるなかで、経理部門特有の課題として、独自の社内用語への対応が必要であるという認識を共有。柔軟に用語を汲み取れるチャットボットを目指し、精度検証を3サイクルにわたって実施する計画でプロジェクトがスタートしました。
現場の知恵をAIに注入する画期的なアプローチ
2025年4月のキックオフを迎え、プロジェクトは本格始動。週1回の定例会議と対面を重視したコミュニケーションで、経理サポートチーム、DX推進チーム、そしてクラスメソッドが一体となった推進体制を構築しました。
大きなハードルとなったAIが理解できない社内用語の存在。それはオプテージ独自のサービス・システム名称に加え、自社システムと社外とで異なる運用ルールや呼称をAIが区別できないというものでした。
「検証時、FAQ自体はヒットしているのに生成AIが適切に回答できていないケースがありました」(辻さん)
従来のサポートコンテンツで発生していた課題に対し、クラスメソッドはAIが理解できなかった用語を一覧化し、経理部門がその意味を定義するという協働方式を提案しました。
「ゼロベースで作ったのではなく、AIが答えられなかった用語のリストをいただきました。それに対して回答を作成する形だったので、効率的に進められました」(宇野さん)さらに同義語集も作成。正式名称と略語の両方に対応できるようにし、様々な入力パターンに対応可能にしました。
「正式名称を使う人もいれば、略語を使う人もいます。同じ意味を指していても表現が異なると、AIが混乱してしまう。そこで同義語集も併せて作成し、様々な入力パターンに対応できるようにしました。加えて、利用者が入力した質問から関連キーワードをAIが予測して検索語を補う『クエリ拡張』も導入し、より幅広い情報を拾えるようになりました」(宇野さん)
今回の支援を通じ、チャットボット開発とあわせてFAQも整備。その項目を約700件から1,700件まで大幅拡充しました。DX推進チームが生成AIで土台を作成し、経理部門が精度を高める効率的な手法で、短期間での整備を実現しました。
もうひとつの重要な改善が対話履歴機能でした。同社が定例会議で要望を出してから3週間後にはデモが完成します。
「従前のワークフローでの問合せでは一度の回答で解決せず再問合せに繋がる場合が多く、この課題も解決したいと要望を出したところ、3週間後には実装していただけました」(辻さん)
この機能により、最大10ラリーまでの文脈を踏まえた回答が可能に。会計処理の複雑な質問にも対応できるようになりました。
週次の高速改善と効率的な検証で実現した86%の正答率
プロジェクトの成功を支えたのは、毎週改善を重ねる「プロトタイピング開発」でした。従来の要件定義書完成後の開発とは異なり、最小限の機能を持つ試作版を作り、実際に使いながら改善を重ねるアプローチです。
「いろいろとお願いしても、次の週には『これでどうですか?』と見せていただける。本当にすごいスピード感でした」(横田さん)
特筆すべきは、環境構築の速さです。ITヘルプデスクでの経験を活かし、5〜6月には実用可能な環境を早期に整備。通常なら契約期間終了後にようやく使えるシステムが、プロジェクト開始から2カ月で提供されました。
「本当に早くてびっくりしました。2カ月目から実際の業務で試験的に使えたことで、『これなら本当に使えるものになる』と早い段階で手応えを感じることができました。実務目線での課題出しができたのが大きかったです」(横田さん)
精度向上の鍵は、効率的な検証プロセスでした。クラスメソッドが生成AIによる自動評価と担当者の詳細確認を実施し、経理部門4名が最終判定を行う二段階方式を採用。
「AIが正答と評価しても、クラスメソッドが『私は誤答だと思います』とコメントしてくださる。経理が本職ではないのに、ここまで詳細に確認いただけるとは」(宇野さん)
3サイクルの検証結果からも、プロジェクトの着実な進捗がうかがえます。初回は77.8%だった正答率は2サイクル目で86.1%まで向上。そして実際の問合せデータを使って実践的検証となった3回目でも83.3%とその高水準を維持しました。
同社は当初の目標値を「正答率80%」に設定していましたが、2回目で早々に達成したことでさらなる品質向上へと舵を切りました。クラスメソッドからの提案を受け、評価の軸を変更して過去の実際の問合せデータで検証を試みます。「同じデータセットで精度を微調整するより、運用を見据えて評価基準を変え、別観点で課題を洗い出す提案をいただきました。より良いものを創り上げようという意識の高さを感じました」(山谷さん)
この挑戦的なアプローチの結果、正答率はわずかに変動したものの、システムの実用性は格段に向上しました。
細部へのこだわりも印象的でした。経理部門が作成したキャラクター「kAIly」のアイコン実装やライトモードへの変更など、現場が愛着を持って使えるシステムへと仕上がっていきました。
わずか5カ月。現場の実務知識とクラスメソッドの技術力、そして週次の高速改善サイクルが融合し、目標を大きく上回る精度と実用性を兼ね備えた生成AIチャットボットが完成しました。
全社展開で実現した問合せ業務の劇的な改善
2025年10月、「kAIly」が全社公開を迎えました。AIで作成したロボットキャラクターとともに、経理部門への問合せに24時間365日対応するサービスが始動しました。キャラクターの“作者”でもある辻さんが当日を振り返ります。
「第2四半期の決算処理直前に公開できました。役員から直接『ついに動いたね』とお声がけいただき、導入初日には他部門から『うちでも導入したい』というメールが届きました」(辻さん)
効果は即座に出ました。これまでは経理サポートチームのメンバーによる人的対応をしてきましたが、チャットボット導入によってスーパーフレックス・土日勤務の社員も待ち時間なく回答を得られるようになり、「kAIlyで解決しました!」という声が経理部門にも届いています。
運用面では、月次でのログ分析により継続的な改善を実施。回答に失敗したFAQは優先的に追加し、Like/Dislikeボタンで利用者の評価も自動収集しています。また、FAQ更新の簡略化を目的とした管理機能の実装も検証を進めており、運用担当者の作業負荷軽減と更新頻度の向上を目指しています。
「回答成功率や満足度はBIツールで継続ウォッチしています。kAIlyを経理部の一員として、愛着を持って育てていきます」(宇野さん)
三者連携で実現したサポートのDX
プロジェクトを振り返り、成功の要因はどこにあったのでしょうか。オプテージは口をそろえて、それぞれの専門性を活かした見事な連携にあったと語ります。
「DX推進チームの調整、経理部門の本気の協力、そしてクラスメソッドの技術力。お互いのクイックな連携があったからこそ、短期間で実現できました」(横田さん)
現場で直接やりとりを重ねた経理サポートチームは、クラスメソッドのユーザーに寄り添う姿勢を高く評価しています。
「ユーザーのメリットを最大限に考えてくれる姿勢に、プロジェクト中も『お任せしてよかった』と常々感じていました。難しい要望にもまず検証で応え、オープンなスタンスで寄り添っていただけたのがうれしかったです」(宇野さん)
「個人的にはクラスメソッドとお仕事をご一緒できて、スピード感やご対応の丁寧さ・的確さが大変刺激になりました!運用フェーズでも改善を続け、全社員がハッピーになれるよう尽力します」(辻さん)
プロジェクト全体を管理したDX推進チームの山谷さんも、その提案力と推進力を「期待以上だった」と語ります。
「忖度なしに期待以上でした。こちらが課題を伝えなくても先回りして提案・実行いただけたのは素晴らしい。毎週の定例で確実に進捗する安心感もありました」(山谷さん)
問合せ対応に追われていた経理部門は、生成AIの力を借りて新たな働き方を手に入れました。その成功体験は、確実に全社へと波及し始めています。最後に、山谷さんは今後の展望をこう語ります。
「ITヘルプデスクと経理で型ができました。各部署の問合せ業務ニーズは高いので、スピード感をもって横展開していきます」(山谷さん)
クラスメソッドは今後も、オプテージの生成AI活用を技術面から支援し、さらなる業務改善に貢献していきます。


