「No AI, No FUTURE」というスローガンのもと、全社的なAI活用を推進しているアスクル株式会社。2025年5月にはAIトランスフォーメーション室を設立し、業務効率化とサービスへのAI組み込みという2軸で取り組みを加速させています。その一環として実施されたクラスメソッドのAI駆動開発研修について、AIトランスフォーメーション室の生駒さんとプロダクト&マーケティング本部の高橋直樹さんにお話を伺いました。
業務へのAI活用推進はトップダウンでの全社方針
アスクルのAIトランスフォーメーション室には本部メンバー6名に加え、各部署から選抜されたAIに感度の高い人材21名が兼務メンバーとして参加しています。
「全社的に取り組む重要性を社長がトップダウンで伝えており、現在、全ての社員がAIを活用することを目標に入れている」と生駒さんは語ります。社長自ら「No AI, No FUTURE」という標語を考案した事実が、経営層の本気度を物語っています。エンジニア組織ではすでに「業務効率化」と「サービスへのAI組み込み」という2つの軸で、10以上のプロジェクトが同時進行しています。既に商品レビューの要約機能がリリースされるなど、具体的な成果も生まれています。
さらに、全社AIコンテストの開催、AIエージェント開発勉強会、総合職向けSaaSツール活用講座など、多層的な取り組みを展開。LiteLLMを活用した社内基盤の構築も進め、全エンジニアが利用できる環境整備を進めています。
エンジニアが実践している「生きたノウハウ」を求めて
クラスメソッドとの出会いは、2025年4月のAI関連カンファレンスでした。AIトランスフォーメーション室のメンバーのひとりがクラスメソッドの登壇セッションに参加し、その内容に強い関心を持ったのでした。
「クラスメソッドは、実際に積極的な開発をしている会社で、登壇した方も優秀なエンジニアだと伺っていたので、エンジニアが実践する生きたノウハウを吸収できることが非常に魅力的に思いました」(生駒さん)
さらに生駒さんは「他社には、企業向けの研修やセミナー専業の会社もありますが、講師は必ずしも現役のエンジニアとは限りません。そうではなく、実際に開発の現場で使われている”本物の技術”というのを期待して依頼した」と、実践に裏打ちされた知識への期待を語りました。
クラスメソッドのエンジニアが日々の開発現場でAI駆動開発を実践し、それら数百から数千名のエンジニアから集めた実践的なノウハウという点が決め手となりました。
柔軟にカスタマイズできる研修プログラム
クラスメソッドが2025年に提供を開始したAI駆動開発支援は、生成AI技術によるお客様のソフトウェア開発のさらなる進化を目指し、研修やPoC、伴走など多彩な方法でサポートするサービスです。日々更新されていく生成AIを使った最新技術を熟知したエンジニアが実践的なノウハウをご提供しています。
今回は研修の実施に向けて、2〜3回の事前打ち合わせが行われました。当初、アスクル側は、保守チケットの3割をAIで処理するという目標を掲げており、その実現に向けてのプロンプトエンジニアリング中心の研修を要望していました。
しかし、クラスメソッドからは、より長期的な視点から「コンテキストエンジニアリング」へのシフトを提案しました。当時はプロンプトエンジニアリングではなく、AIに与えるコンテキストを調整するというのが今後大事になるという話が出てきたばかりのタイミングです。講師役のエンジニアも実際に使いながらその重要性を体感していたことが背景にありました。2、3年先まで使える汎用的な概念を学ぶことの重要性を重視し、すぐ役立つノウハウではなく、長期的な視点からエンジニアにAI活用の本質的理解を促す。それが今回の提案でした。
結果、この考えに基づいて約6〜7時間の丸1日研修として設計されたプログラムは、具体的なツールの使い方と抽象的な考え方のバランスを重視したものになりました。
GitHub Copilotなどの具体的な操作方法を学びながら、コンテキストエンジニアリングという普遍的な考え方を理解できるよう構成。座学だけでなく、ハンズオンやワークショップの時間も設け、チーム内での認識共有も促進しました。なお、クラスメソッドのAI駆動開発支援ではCursor、Claude Codeなどお客様ごとの利用環境などに応じてワークの内容もカスタマイズして提供しています。
AI駆動開発の本質的理解と実践的ノウハウを学ぶ
アスクルの研修では、AI駆動開発の概要と現状から始まり、経営視点での「生産性向上による競争優位性の確保」という観点も議論されました。高橋さんは「経営層視点という高い視座での会話をしたことがなかったので、新鮮で楽しかった」と振り返ります。核となるコンテキストエンジニアリングについては、以下の重要な概念が解説されました。
・タスクの分解と実行の分離
・インストラクションの分割
・コンテキストの適切なサイズ管理
・アスクモードで計画を立てさせてから実装させる手法
「タスクを分割したり、各項目を計画と実行に分けたりといった部分は日々の開発で常に意識するようになりました」(生駒さん)
「予測で生成しているだけ」というLLM(大規模言語モデル)の本質を理解することで、AIを過信せず適切に活用する姿勢を養うことも重要な学習内容でした。これにより、「理解負債=AIが生成したコードをエンジニアが理解できず、そのまま採用してしまうこと」や「目が滑る問題=AIが生成したコードのチェックを、エラーがないなど表面的な確認だけで済ませてしまうこと」など、AI駆動開発特有の課題への対処法も学びました。
知識のベースライン統一と実践への展開
研修には社内からAI感度の高いメンバー12名が参加しました。そのうちのひとりである高橋さんは研修からの学びは非常に大きなものだったと評価します。
また、参加者からは「触れる怖さがなくなった」という声も多く、AIツールを使うことへの心理的ハードルが下がったことも大きな成果でした。研修で学んだ内容は、すぐに実務に活かされています。
・アスクル標準ガイドラインとなるGitHub CopilotのInstructions作成
・AIに任せる用の詳細なチケット記述への変更
・コンテキストサイズの適切な管理
「研修を受けた当時の生成AI活用といえばプロンプトエンジニアリングの話が多かったのですが、あのタイミングでコンテキストエンジニアリングを先に知ることができたのはよかったですね」(高橋さん)
継続的な学びと今後の展望
今回の支援では、研修後に1カ月間の質問対応期間を設けていました。
「研修後のアフターケアも非常に丁寧にしていただいて、後日こちらからたくさんの疑問点をリストにして送ってしまったんですけど、1つ1つ丁寧に回答していただき、メンバーが喜んでいました」(生駒さん)
高橋さんは「打合せには営業の方と実際にエンジニアとして仕事されている方が出てこられて、エンジニア同士のリアルな会話など、密にコミュニケーションを取れたのがすごくよかったです」とクラスメソッドの支援のあり方を評価します。
この研修を通じて、開発部門でテックリードを担う高橋さんだけでなく、AIトランスフォーメーション室のメンバーが最新情報をキャッチアップし、チームや全社に展開していくという流れを形作ることができました。そして、研修から3カ月が経過してからも、コンテキストエンジニアリングという考え方は有効であり続けています。
単なるツールの使い方ではなく、本質的な考え方を学んだことで、アスクル社は「No AI, No FUTURE」の旗印のもと、AI駆動開発を通じたさらなる生産性向上と競争力強化を目指しています。そして、クラスメソッドはアスクルにおけるAI利活用を今後も支援していきます。


