パーソナライゼーションがマーケティングの中核
1985年に日本専売公社から業務を承継して設立された日本たばこ産業(JT)は、日本のたばこ製造を一手に引き受ける事業者です。
たばこ事業本部マーケティング戦略部の平谷朋也主任は、同社について「国内唯一のたばこメーカーとして、たばこを吸われる方がたばこをより楽しんでいただくことが出来るサービス作りに注力しています。最近では、加熱式たばこ「Ploom TECH」の楽しみ方を喫煙家の皆さんにお伝えしていきたいと考えています」と説明します。
一方、一般的な製造業とは異なり、たばこ事業におけるマーケティングやプロモーションは制限されています。そこでJTでは、たばこを吸われる方専門の会員制サービス「JTスモーカーズID」を展開し、「Jminutes」など個々のユーザーへの情報発信を中心としたデジタルマーケティング活動に注力しています。IT部の田中耕太郎課長代理は「ユーザーとのコミュニケーションチャネルは、急速に変化していきます。多様化するニーズに追随するためには最先端の技術を採用し、スピーディに導入していかなければなりません。スピーディに先進技術を追うには、私たちのリソースだけでは不十分なこともあります。積極的にパブリックサービスを活用したり、パートナーの力を借りたりすることが重要だと考えています」と述べていました。
パフォーマンス向上を目指してデータ分析基盤を刷新
個々のユーザーに注目するパーソナライゼーションを実現するためには、データ分析が非常に重要な要素です。ところが2015年ごろまでのJTでは、サイロ化されたストレージ環境から手作業でデータを集め、それをMicrosoft Excel上で合成して分析するという手法が中心でした。BIツールは導入されていたものの、簡易なものにすぎず、マーケティング担当者が自由にやりたいことを実現できるような環境とは言えませんでした。
そこで同社は2016年にクラウド型のデータ統合基盤を採用し、「Tableau Online」と組み合わせたデータ分析基盤を構築しました。使い方の質問を受ける機会も増え、個々の担当者が自由に分析する流れができつつありました。しかし、新しいことができるようになったことで、それが新しい課題を生み出す結果になります。特に問題視されたのはパフォーマンスでした。
「個人の活動を振り返って、適切なマーケティングを実施するためには、データ分析の“深さ”が重要です。その上でスピーディな試行を繰り返すためには、パフォーマンスが不足していました。また、運用基盤の改作によって参照できるデータが増えたこともあって、従来のデータマートでは容量が不足していたことも問題でした」(平谷様)
安定していてパフォーマンスがよく、利便性の高い分析環境を提供するためにはプラットフォームの刷新が必要。——そう判断した同社は、システムの移行先として「Amazon Web Services(AWS)」を選定します。
「AWSには、データ分析プラットフォームのための機能が豊富で、データ統合基盤と分析基盤を統合的に構築することができます。社内でもAWSの活用が広まりつつあり、コストも比較的安価に済みますし、リードタイムの短縮も期待できました。データウェアハウスの『Amazon Redshift』を利用する前提で導入を検討しました」(田中様)
そして、データ分析基盤の移行パートナーとして選ばれたのが、クラスメソッドです。両氏が注目したのは「カスタマーストーリーアナリティクス(CSアナリティクス)」でした。CSアナリティクスはTableauやRedshiftなどの顧客分析に活用する機能が盛り込まれており、構築や運用を含めた総合的なパッケージサービスとして提供している点を特長としていました。もともと田中様は、以前からクラスメソッドの活動に注目しており、また平谷様も、Tableauに関する情報収集の中心が「Developers.IO」だったと話します。
「AWSだけであればともかく、TableauのようなBIまで含めたシステム全体を任せられるのは、クラスメソッドのほかにないと判断しました。技術的な問いに対する返答が早く、非常に的確であったことも決め手の一つです」(平谷様)
10秒から1秒へ高速化。ストレスなく分析を繰り返せる
JTが構築した分析プラットフォームは、以下のようなものでした。データ収集の基盤は従来の仕組みを応用して、CSアナリティクスへデータを送っています。サービスの分析基盤はTableauであるため、マーケティング担当者はこれまでと同様のWebインタフェースで分析が実行できました。
「パフォーマンスは劇的に改善されました。これまでは画面表示だけでも10秒ほどかかっており、ストレスを感じることも多かったのが事実です。それが1秒、長くても3秒程度へと高速化して、新しい分析を次々と試行できるようになりました。ローンチから1か月ほどですが、スタッフから高い評価をもらっています」(平谷様)
CSアナリティクスを活用したことによって、リードタイムは1カ月ほどで済みました。これは2人が希望していた期間ではありましたが、実際には「無茶な要求だった」と危惧しており、「遅れてもだいじょうぶ」と提言するほどだったそうです。
「このような短い期間にもかかわらず、完成したシステムは完全なものでした。構築は完全に任せることができ、実のところAWSの環境に触れることすらありませんでした。チューニングもしっかりと施され、快適な環境をスタッフに提供できるようになりました。他部門の社員にデモを行ったところ、表示の速さに驚かれたほどです」(田中様)
他部門への展開もCSアナリティクスなら低コストかつスピーディに
AWSの採用によって拡張性を確保できたため、ユーザーやデータが増えても、十分なパフォーマンスを提供することができるようになりました。現状のシステムは、40名ほどの本社マーケティング担当者が活用するにとどまっていますが、平谷様は「この仕組みを他の拠点にも展開し、個々の裁量で活用してほしい」と考えていました。
また田中様は、マーケティング向けの分析だけでなく、他部門での分析基盤としての活用も視野に入れています。
データ分析のニーズは、あらゆる部門に存在していますが、既存のマーケティング向けのシステムを他部門に公開しても、細かなニーズに応えられるとは限りません。
「CSアナリティクスであれば、低コストかつクイックに高度な分析基盤を導入できます。そのため、多様なニーズに応える横展開にも活用できると考えています。また、他の技術やサービスの活用も検討しなければならないでしょう。クラスメソッドの経験やノウハウ、新しい技術領域に関する提案力に、今後も期待しています」(田中様)
JTのビジネスにおけるデータ分析の重要性は、ますます高まっていくことでしょう。その基盤を、今後もクラスメソッドの技術力が支えていきます。