25周年を迎えたウィメンズヘルスケアサービス「ルナルナ」をはじめ、多様なデジタルサービスを提供して成長を続けてきた株式会社エムティーアイ。ソフトウェア開発における生成AIの全社活用を課題としていた同社では、社内のマインドチェンジと技術習得を目的に、クラスメソッドが提供する「AI駆動開発実践プログラム」を採用。実践ワークショップによる集中的な学習の結果、同社のソフトウェア開発体制そのものに大きな変革が進みつつあります。取り組みを主導したテクノロジー本部 AIエンジニアリング部の西川さんと平野さんにお話をうかがいました。
AI駆動開発の潮流に適応しなければ競争力が失われると懸念
ヘルスケア、音楽・動画配信、天気・防災、エンターテインメントなど、幅広いデジタルサービスを提供しているエムティーアイ。1996年の創業以来、モバイルコンテンツ市場の成長とともに事業を拡大し、現在は個人向けサービスだけでなく、法人向けソリューションまで多彩な領域で事業を展開しています。
同社にとって、ソフトウェア開発力の強化とスピードアップは、まさに永遠のテーマといって過言ではありません。そうした中で昨今の生成AIに関する動向を注視しており、AI コーディングアシスタントのGitHub Copilotを早くから導入していました。ただ、実際の利用は一部のエンジニアに限られており、開発体制の抜本的な変革には至っていないという課題がありました。
こうした状況を憂慮し、「もっと活用を広めなければ」と思い立ったのは、同社の執行役員であり、テクノロジー本部に新設されたAIエンジニアリング部の部長を務める西川真五さんです。西川さんは、2025年に国外の開発者向けイベント「Microsoft Build」で、生成AIを活用したソフトウェア開発に対するグローバルな熱量の高まりを肌身で実感。さらに2025年に国内で開催された「AI駆動開発カンファレンス」に参加し、時代が大きな転換期を迎えていることへの確信を深めていきました。
もともと大学時代からAIを学び、過去の何度かのブームを知る西川さんにとって、当初は「またマーケティング主導による過剰な盛り上がりではないのか」という懐疑的な目で動向を眺めていたと振り返ります。そこに「今回は本物かもしれない」という大きな気づきを与えたのが、前述したAI駆動開発カンファレンスだったのです。
「当社全体としてこの潮流をしっかりキャッチアップしていかなければ、歴史的な転換期に適応することができなくなり、市場競争力を失ってしまいかねないという危機意識が高まりました」(西川さん)
全社的なマインドチェンジを求めて「AI駆動開発実践プログラム」を採用
その後も同社は、DevinやClaude Code、CursorといったAIコーディングエージェントの導入を進めています。しかし、単にツールを拡充するだけでは、ソフトウェア開発に対する全社的なマインドチェンジを促すことは難しかったと西川さんは振り返ります。
「当社のエンジニアは、新しいツールをカジュアルに遊び倒しながらモノにしていくというよりも、どちらかといえば実直に取り組んでいくタイプが多いです。そうしたカルチャーのもとでさらなる浸透を目指すには、ツールや環境をただ用意して渡す以上の取り組みが必要だと感じていました」(西川さん)
腰の重い開発者たちをどうすれば動かすことができるか。同社の経営層からも生成AIを用いた開発生産性向上への期待が高まる中で、西川さんが着目し採用を決定したのが、クラスメソッドが提供している「AI駆動開発実践プログラム」です。⽣成AI技術を活⽤した「トライ&エラー」の⼿法を習得し、失敗から学び、成⻑するイノベーション⽂化を根付かせるための実践的な研修を行うサービスです。
AI駆動開発は2025年段階では業界各社でも模索中の概念であり、まだ厳密には定義されていませんが、クラスメソッドとしては、「ソフトウェア開発やシステム構築における要件定義から設計、実装、テスト、運⽤まで、すべてのプロセスに⽣成AIの技術やツールを積極的に組み込むことで、開発のスピードや品質、効率を⾶躍的に向上させる⼿法」と捉えています。
同プログラムの中心に位置しているのは、主要なAIコーディングエージェントの活⽤⽅法を学ぶ座学に加え、実際に⼿を動かして使い⽅を習得する「実践ワークショップ」です。そこでは、GitHub Copilot Agentや、Cursor、Devin、Claude Code、Clineなど、現在AI駆動開発で使われている主要なツールに対応したメニューが用意されており、各企業が利用しているツールや参加者のスキルレベル、バックグラウンドに合わせた内容を受講できます。
もちろん、生成AIツール活用に向けた類似の教育・研修サービスは他社からも提供されています。そうした中で、同社はなぜクラスメソッドのプログラムを選んだのでしょうか。西川さんはこう振り返ります。
「クラスメソッドはAWSの会社というイメージがあったのですが、カンファレンスでの同社の講演を聞いてその認識が変わりました。自分たちで何らかの製品を取り扱っているベンダーの場合、どうしても教育・研修内容にもバイアスがかかりがちです。私たちが求めたのは、あくまでもニュートラル視点での実践的な知識や技術の習得です。良い意味で『一歩引いた立ち位置』から主要なAIコーディングエージェントの概念や勘所を教えてくれるクラスメソッドのAI駆動開発実践プログラムは、きっと私たちにとって貴重なものになるだろうと判断しました」
若手と中堅をペアにして社内へのスムーズな普及を図る
研修プログラムの内容は、クラスメソッドとの打ち合わせを重ねながら、自社の現状に即したものに調整していきました。実施に際して、同社は次のような方針で臨みました。
「まず人選ですが、若い世代の社員はAI活用に対する意欲を持っている一方、現場の中堅社員は現行業務を維持しなければならない使命があり、そのプロセスに不慣れなAIが突然組み込まれることに抵抗を示す傾向が見られました。そこで若手と中堅をペアにしてプログラムへ送り出すことにしました」(西川さん)
実際、若手からは「新しい開発手法にチャレンジしたいが、なかなか認めてもらえない」という声が寄せられており、同社はクラスメソッドに対して、「今回のワークショップをぜひ双方の対話の場にしてほしい」と希望したと西川さんは語ります。
また、実際に手を動かしてみなければ理解できない部分も多いため、自分たちの実務にどう生成AIがフィットするのか、「その場で試行錯誤しながら取り組める環境を提供してほしい」というオーダーを出しました。
「非常に多岐にわたるリクエストになりましたが、クラスメソッドは私たちの思いをしっかり汲み取ったワークショップを組み立ててくれました」(西川さん)
研修後、実際の開発での生成AI活用例が確実に増加
こうして2025年8月に、丸1日をかけて集中的な研修プログラムが実施されました。当日は、AI駆動開発やAIコーディングエージェントの潮流や概要を学ぶ座学のほか、先述のように、手を動かして使い方を学ぶワークショップを実施。AIコーディングエージェントの研修には、エムティーアイが全社的に採用しているClaude Codeが盛り込まれました。このプログラム実施後、同社のソフトウェア開発体制に着実に変化が見られています。西川さんも、「実際の新規サービス開発プロジェクトでも、積極的に生成AIツールを活用する場面が増えています」とその成果を示します。
さらに、「生成AI活用の輪は、ソフトウェア開発を本業とするエンジニアだけでなく、各事業部門の担当者の間にも広がっています」と語るのは、テクノロジー本部 AIエンジニアリング部 スペシャリストの平野祐一さんです。
「事業部側からワークショップに参加したメンバーの中には、自らUI/UXのモックアップを作れるようになった感度の高い人もかなりいます。ソフトウェア開発ツールはエンジニア専用という先入観は、生成AIによって払拭されつつあります。実際に動かすことができるプロトタイプを、誰でも簡単かつ素早く作れるようになったことで、要件定義や基本設計段階における事業部門とエンジニア間のコミュニケーションは、従前に比べて格段にスムーズになり、意思決定もスピードアップしています」(平野さん)
現時点では、エンジニアの生産性のみでAIコーディングエージェントの効果を語ることはできません。確かにコーディング作業に関しては相当なスピードアップが期待できますが、現実問題として既存のソフトウェア資産とのしがらみも多々あり、整合性を保つための調整作業も必要となります。一部のコードを単純に置き換えられるわけではないのです。
その観点から同社は、平野さんが語った組織横断での生成AI活用を重視しています。
「各サービスのオーナーや企画担当者などが、パワポで作った資料をベースに『こんなデザインにしたい』と口頭でいくら説明しても、エンジニアに意図を正確に伝えるのが難しいことがあります。それに対して生成AIは、素早いプロトタイピングによってプロジェクトの初期段階からイメージを共有し、さまざまなアイデアを具現化していくのに大きな効果を発揮します」(西川さん)
ソフトウェア開発ライフサイクルそのものの変革へ
クラスメソッドによるAI駆動開発実践プログラムを通じて、エムティーアイではわずか半年の間にも生成AIの活用が大きく進んでいます。もちろん、同社の取り組みはまだ道半ばです。
「単に開発ツールを置き換えただけでは、これまでと何も変わりません。生成AIを中核に据えてソフトウェア開発ライフサイクルそのものを変革していく必要があります」と西川さんは話し、全社を挙げた開発体制の最適化を見据えています。
平野さんも同様に「部署の垣根を越えたイネーブリングを拡大し、生成AIツールを自律的に活用していく組織づくりと、新たな企業カルチャーの醸成を目指します」と今後に向けた意欲を示します。
そうした中で、これまでソフトウェア開発を一手に担ってきたエンジニアの役割も、自ずと大きく変化していくことになります。「事業部門から指示された通りのアプリケーションを作るだけで、自分の仕事は終わりとする考え方が通用した時代は終わります」と西川さんは語ります。
「実際にそのサービスを利用するエンドユーザーの顔を思い浮かべながら、そこに向けて自分たちがどんな世界観を提供すべきなのかを発想し、行動できる人でなければ、存在価値はどんどん低下してしまいます」と、エンジニアが積極的に上流工程に関与していくことの重要性を強調します。
AI駆動開発という新しい潮流の中で絶え間ない試行錯誤を繰り返し、エムティーアイでは引き続きソフトウェア開発プロセスの刷新に向けた歩みを進めていきます。


