化粧品事業を中心に多彩なブランドを展開し、創業から95年以上の歴史を持つポーラ・オルビスホールディングス。同社は、グループ全体の業務効率化と生産性向上を目指し、生成AI活用の基盤となるAzureによるインフラ環境を構築しました。すでにグループ会社であるポーラ化成工業では社内向けチャットボットを有効活用するなど、具体的な成果も表れ始めています。その技術支援をクラスメソッドが担当しました。
今回は、総合企画室アドバンスドプランニングチームのマネージャー 吉村隆一郎さんと川井俊樹さんに、生成AIを活用するための環境構築の経緯から、今後の展望に至るまでお話を伺いました。
ノウハウ蓄積のために生成AIチャットボット自社開発を計画
同社総合企画室のアドバンスドプランニングチームでは、グループ全体のDXを推進するために、データ活用、AI活用といった先端技術を積極的に取り入れています。当然、生成AIにも着目しており、事業成長を実現するための社内での活用方法を検討していました。

マネージャーの吉村隆一郎さんは、生成AI環境構築の背景について、以下のように語ります。
「大規模言語モデル(LLM)がどのような業務・場面で使えるのか、実験的に活用してみたいという思いがありました。そして、アプリ開発において実際に自分たちが手を動かすことで、ノウハウや注意すべきポイントに関する知見を深めていきたいと考えました」(吉村さん)
アドバイザリーとして自社開発を支援してくれるベンダーを探した
生成AI活用にあたり、セキュリティの観点からAzure OpenAI Serviceの採用を決定します。そこで、Azureのインフラ環境を構築するにあたって、クラスメソッドに技術支援を要請しました。
吉村さんは、クラスメソッドに依頼した理由を以下のように振り返ります。
「社内にAWSに対する知見が豊富な従業員はいましたが、Azureの知見は少なく、Azure環境でのクラウドネイティブ化に課題がありました。さらに、インフラ環境だけでなく、その上に載せるアプリケーションレイヤーの開発まで含めた支援をお願いしたいと考え、クラウド全般に対する知見が豊富なクラスメソッドに依頼することにしたんです」(吉村さん)
開発現場で「DevelopersIOもよく参考にしていた」と川井さん。
「全ての環境をベンダーに委託開発するのではなく、アドバイザリーとして自社開発を助けてくれるパートナーを探していたので、徹底的に伴走支援してくれるクラスメソッドはまさに理想のベンダーでしたね」(川井さん)
素早い対応や代案までしっかり提示するサポート体制に満足

「当初Microsoft TeamsだけをAPIで繋げる予定だったのを開発中にSlackも追加した際も、クラスメソッドに相談すると、セキュリティ面を考慮しながら迅速に対応してもらえました。一方でこちらが相談したことに対してただ受け入れるのではなく、リスクがある場合は説明の上でしっかり止めてくれたり、代案をメリット・デメリットとともに提示してくれるなど、充実したサポートを受けることができました。Backlogでの技術的な質問への対応も大変素早く、支援内容については非常に満足しています」(川井さん)
また、今回のプロジェクトではRAGを活用した社内向け生成AIチャットボットを開発しましたが、当時はIT業界ですらまだ事例が少ない状況でした。そうした中、クラスメソッドはすでに実装経験を持ち、エンジニアによる研究・実証も積極的に行っていました。そういった実績をもとにした技術コンサルが「とても有意義だった」と川井さんは評価します。
「初めてRAGを活用する弊社にとって、先行して知見のあるクラスメソッドは非常に頼もしい存在でした。前もって、注意すべきポイントを教えてもらったので、効率よく開発を進めることができました」(川井さん)
ポーラ化成工業で生成AIチャットボット導入による効果を実感
現在、このシステムは同社での実装を目指しながら、グループ会社での導入も積極的に進めています。その中でも成功例と呼べるのは、ポーラ化成工業の包装設計部門で行ったPoCです。
化粧品の外箱や容器の設計・開発を行っている同部門では、ISOの標準規格や製造ライン向けのルールなど、参照すべき文書・マニュアルが社内に数多くあります。新入社員や中途社員など、まだ業務に慣れていない従業員にとっては、「具体的にどのマニュアルのどの部分を参考にすればいいのか分からない」という課題がありました。
「ポーラ化成工業にあるマニュアルやドキュメントは、探しにくいという課題はあったものの適切に作成・更新されていたため、生成AIチャットボットと非常に相性が良かったんです。実際にデータを取りこんで検索用途で使用してみると、ユーザーが質問した内容に対して正しいドキュメントを提示する確率が高い結果となりました」(吉村さん)
さらに、システムの精度を向上させるため「開発段階で工夫を凝らした」と川井さんは振り返ります。
「最初は質問への回答を一つの大きなタスクとして処理しようとしていましたが、それを細分化することで精度を大きく向上させることに成功しました。また、回答には必ず参照元の資料URLを付けることで、情報の正確性も担保しました」(川井さん)
ポーラ化成工業では、包装設計部門での結果を受けて、今後は生成AIチャットボット導入の対象部門を段階的に広げていく予定です。
今後は生成AIによる非構造化データの活用にも意欲
ポーラ・オルビスホールディングでは、ポーラ化成工業での導入結果を受けて、生成AI活用をグループ全体で進めていく予定です。また、同社では生成AIの活用用途を広げることも検討しています。例えば、社内での説明会の動画を文字起こしして検索可能にするほか、マルチモーダルが今後進むことを見据え、社内でのセミナー・研修等の動画や音声の管理ルールを整理していくなど、さまざまな非構造化データの活用を視野に入れています。
また、吉村さんは生成AIについて「新たな用途の構想がある」と以下のように語ります。
「製品アンケートのポジティブ・ネガティブ回答の分類や、製品の質感評価を考えています。これまで数値化が難しかった定性的なデータの分析・活用に可能性を感じます。例えば化粧品の肌触りや使用感などは、これまでお客様の口コミやアンケート回答をもとにした主観的な評価になりがちだったところを、生成AIを活用することで定量的に分類できるのではないかと考えています」(吉村さん)
最後に、プロジェクト全体を通したクラスメソッドの支援体制・内容について、川井さんと吉村さんは以下のように評価しました。

「当初から考えていた、あくまで自分たちで開発して知見を深めたいというねらいをクラスメソッドはうまく汲み取ってくれました。私たちがうまく開発できるように導いてもらえたのは非常によかったです。今後は成功事例だけでなく、失敗から得られた知見も共有していただけるとありがたいです。どんどん新しい技術へ積極的にチャレンジしてもらい、発信し続けてほしいと思います」(吉村さん)
クラスメソッドは、今後もポーラ・オルビスホールディングスのDX推進を技術面からサポートしていきます。