国内大手の化粧品メーカーであるポーラが提供する、産後ママの心と体をケアするモバイルアプリ「mamaniere(以下、ママニエール)」。ビッグデータと顔認識技術を活用し、子ども優先になりがちな母親の心身両面の状態を分析し、ぴったりなケア方法を推奨するアプリとして、優れた育児向けの製品やサービスを表彰する「BabyTech Awards 2023」大賞受賞をはじめ高い評価を得ています。
このほど、クラスメソッドのグループ会社であるクラスメソッド・ダナンが、同アプリのAndroid版の開発と機能追加の支援を行いました。これは当初、アプリ開発を担当した他ベンダーからクラスメソッドが引き継いでの開発でした。ポーラはどうしてクラスメソッドにベンダーチェンジしたか、ポーラの浦上さんに、その理由や「ママニエール」の特徴や魅力、オフショア開発の所管、今後の展望などを伺いました。
「産後ママを助けたい」という熱い思いから開発がスタート
化粧品・カウンセリング・エステの3サービスが融合した専門店「ポーラ ザ ビューティー」を軸に、全国約2700の店舗を展開するポーラ。国内大手の化粧品メーカーである同社は2023年7月に、産後ケアアプリ「ママニエール」を開発しました。
「ママニエールは、産後ママを助けたいという、1人の社員のアイデアから始まったプロジェクトです。ただ、当初からアプリの開発を考えていたわけではなく、ママの課題について調査・アンケートを実施していく中で、アプリというサービス形態がふさわしいと結論づけました」
浦上さんは、ママの課題を解決するサービスは世の中に数多くある一方で、そうしたサービスを知らない産後ママが多く、ひとりで悩んでしまっている状況にあることも知ったといいます。
「産後ママと、産後ケアに関するサービスを結び付けたらいいのではと考えましたが、ただでさえ育児で忙しいなか、隙間時間にはスマホを見るくらいしかできないというママも多い。そこで、『産後ママの心と体をケアする』をコンセプトにアプリを開発することにしたんです」
ポーラには、肌分析に基づいたアイテムとケア方法を提案する「APEX」というブランドがあります。「APEX」では、30年以上にわたる展開のなかで、約2070万件の肌データを蓄積してきました。そうした肌分析技術を活用して「産後ケア版APEX」を実現するべく、「ママニエール」は開発されました。
「独自の顔分析技術により、30秒間顔を撮影するだけで、ユーザーの自律神経の状態や、蓄積された疲労、心拍数などが分かります。産後ママの心と体の状況を把握し、ユーザー個人に合ったケア情報や産後サポートを提案できるアプリになっています」
「ママニエール」には、100以上もの企業による産後ケアサービスが掲載され、ユーザー数も拡大してきました。そこで、従来はiOS版のみ提供していた同アプリですが、Android版の開発と機能追加を決めたといいます。
しかし、ポーラは、当初のアプリの開発を以来したベンダーではなく、クラスメソッドに開発支援を打診しました。
コミュニケーション向上を目指しベンダーチェンジ
今回、ベンダーチェンジした背景について、浦上さんは以下のように振り返ります。
「自分たちがアプリ開発の経験に乏しかったこともあり、開発過程でベンダーにうまく説明できず、コミュニケーションに課題を感じていました。その結果、実現したかったものとは異なる開発内容のアプリになってしまいました」
コミュニケーションが円滑に進まなかった理由の1つに、「ママニエール」が前例のないアプリだったことが挙げられます。ポーラとしてアプリで実現したかったのは、ただの顔色診断アプリではなく、「APEX」で蓄積された肌データと、ママの心と体の調子や嗜好性などを考慮し、そこに産後ケアサービスをマッチングするといった、まったく新しいユーザー体験です。個人に寄り添ったケアサービスに結び付けられる「複雑なマッチングのロジック分析システムを理解してもらうのが(以前は)難しかった」と浦上さんは振り返ります。
そこで、ポーラは、ママニエールのPoC(コンセプト実証)を担当したクラスメソッドに、改めてiOS版の開発引き継ぎとAndroid版の開発を依頼することに決めました。
今回は、ベトナムの開発パートナー企業とクラスメソッド・ダナンが共創でアプリ開発を担当。また、ポーラにはオフショア開発の経験がなかったため、クラスメソッド側で日本・ベトナム間のコミュニケーションを支援しました。
プロジェクトは、2024年1月からスタートし、開発期間は4カ月。2024年4月に改良されたiOS版とAndroid版が共にローンチされ、現在はクラスメソッドダナンが運用保守も担っています。
初めてのオフショア開発に対して、「当初は不安があった」と浦上さんは正直に話します。
今回の共創開発プロジェクトにおいて、クラスメソッドおよび開発パートナーのチームメンバーは、スクラム開発で臨みました。役割やタスクを分散したチームを組成し、スプリントごとに作成したバックログに基づき、効率よく開発を進めていきました。スプリントを繰り返すことで、「ママニエール」の改善や機能追加が目に見えるため、浦上さんからも「実際にアプリを操作して、進捗状況や成果物を確認できるため、修正や意見も言いやすかった」と評価していただきました。
アプリ開発ではGoogleの「Flutter」を採用しました。通常のアプリ開発の現場では、iOS版とAndroid版で使用する言語が異なるため、OSごとに担当エンジニアと、コーディング作業が必要となります。しかし、Flutterを使用すれば、同一の言語でiOS版とAndroid版が開発でき、エンジニアの人数と工数を減らすことができます。今回もFlutterの採用によって、開発期間の短縮に寄与できました。
また、「ママニエール」の開発メンバーはそれぞれ社内で本業を持ちながら、アプリ開発に携わっています。多忙な毎日の中、どうしてもアプリ開発に関するタスク管理やタイムマネジメントが疎かになってしまったことがあったといいます。
「プロジェクト中に、返信が遅れたり、指示できなかったりしたことがあったのですが、クラスメソッド・ダナンのメンバーはそうした事情も配慮していただき、完成まで私たちを先導してくれました。いつまでに、何をすればいいのか、などのタイムマネジメントも行ってもらえて良かったです」
「ママニエール」の機能開発は継続し、最終的にはメディアとしての役割も
今回リニューアル版をリリースした「ママニエール」は、UIのブラッシュアップも含めて開発を継続していくといいます。また、マネタイズ部分も強化していくと浦上さんは話します。
「アプリユーザーを増やしていく施策やマネタイズにも注力していきます。掲載企業を増やすほか、ユーザーにマッチングされたサービスへの申し込みや問合せにつながるような送客を意識したマーケティング施策も実施していきます。ほかにも、プレパパ用のパパニエールや、海外展開も視野に入れています」
更に、「ママニエール」は今後、メディア機能も強化していくそうです。
「現在コラムなどは掲載していますが、引き続きママに必要な記事や情報を掲載していくことで、最終的にメディアの役割も担っていきたいです。産後ママたちが自分にとって本当に必要な情報を得たり、同じような悩みを抱えるママたちと出会えたり場所に進化させていきたいですね」
その上で浦上さんは、「ママニエールはあくまで産後ママをケアするための手段のひとつである」と強調します。そのため、アプリだけに注力するのではなく、リアル・デジタル両面で産後ケアができるようなサービスを提供するなど、事業を多角的に広げていく予定だといいます。
最後に、今回クラスメソッドから支援を受けた感想について、浦上さんに聞きました。すると、以下のように回答してくれました。
「まず、技術力と圧倒的なスピード感に驚きました。その上で、専門知識に不安のある私たちに対しても、懇切丁寧に説明してもらえましたし、私たちの要望を、分解・整理した上で開発していただいたので、成果物がイメージと異なることはほぼありませんでした。現在は運用保守をお願いしていますが、今後も機会があれば、開発支援もまた依頼したいと考えています」
約1世紀にわたり、多くの女性たちの肌の悩みを解決してきたポーラ。現在は「ママニエール」など、産後ママのケアにも注力しています。クラスメソッドは、女性たちの笑顔を守り続けるポーラの事業をこれからも支援して参ります。