北海道全域をカバーする民間テレビ放送局の北海道文化放送(以下、UHB)では、さまざまなAWSのサービスを活用しています。2024年11月には、自社開発した縦型動画自動生成基盤をSaaS化するプロジェクトが発足。クラスメソッドの支援を受け、わずか1カ月でミッションを達成しました。その濃密な内容について、キーパーソンの杉本歩基さんにお話をうかがいました。
短納期の開発で内製では間に合わず技術支援を決断
1972年に開局したUHBは、北海道札幌市に本社を置く地元密着型の民放テレビ局です。FNN(フジニュースネットワーク)/FNS(フジネットワークシステム)系列の番組を放送するとともに、独自制作の番組で北海道の情報や魅力を伝えています。
放送業界にもクラウド化の波は押し寄せており、同社では以前からニュース動画のネット配信に注力してきました。パブリッククラウドにはAWSを採用し、ニュース原稿や動画の作成効率化に生成 AI サービスのAmazon Bedrock、AI音声ジェネレーターのAmazon Polly、ニュースソースの検索性向上にAmazon DynamoDBを活用しています。
AWSとの関係が始まったのは2021年のこと。編成局に異動した杉本さんが視聴率等のデータ分析基盤としてBIツールのAmazon QuickSightを導入したのがきっかけです。本件を皮切りに、前述したサービス群の活用方法をすべて独学で習得した杉本さんは、現在は社内随一のAWS専門家として活躍しています。
中でも大きな成果が、AWS Lambdaを利用したサーバーレスの縦型動画自動生成基盤です。本基盤では、AWS AmplifyでWebアプリ化したツールによって、社内ユーザーがニュース動画をもとに簡単に縦型動画を生成できます。

動画はYouTubeショートやTikTokへと配信され、スマホでニュースを観るユーザー層への訴求に成功しました。「コンセプトは、『まったく編集の知識がない社内ユーザーでも使えるアプリ』でした。タイトルと動画を読み込ませれば、指定したテンプレートをもとに自動的に合成されて縦型動画が完成する仕組みです」と杉本さんは説明します。

「技術ブログの『DevelopersIO』にはこれまでも情報収集でかなりお世話になりましたし、札幌市に拠点があることからAWSのイベントや勉強会でクラスメソッドのエンジニアたちと知り合う機会も多かったので、非常に技術力が高いことは把握していました。納期が短かったこともあり、重視していたのは豊富な知識と円滑なコミュニケーション。個人的にはクラスメソッド一択だと考えていたので、最良の結果となりました」(杉本さん)
IaCツールでデプロイ短縮し知恵を借りながらSaaS化に成功
現場の支援には、イベントを通じて交流があった2人のエンジニアがアサインされました。「蓋を開けてみたら、いつも私がDevelopersIOでブログ記事を参考にしている『激推しのエンジニア』達でした。最初からコミュニケーションの壁がなくスタートできたのは時間的にもかなり節約できました」と杉本さん。やり取りはBacklogで行ない、課題や進捗状況などがわかりやすく共有できたことも迅速な進行に結びついたそうです。
成果物はまずPoCとして展開することがゴールでした。クラスメソッドはIaC(Infrastructure as Code)ツールによって縦型動画自動生成基盤のもとになる各種AWSサービスのデプロイ時間短縮を図り、杉本さんは自社用に開発していたテンプレートの汎用化を担当。限られた時間の中で役割を分担しながらプロジェクトは進みました。
「シングルテナントにするかマルチテナントにするかの相談から始まり、この短期間で何を優先すべきかを判断しながら、IaCやAWS サーバーレスアプリケーションモデル (AWS SAM)によるAWS環境を構築していきました。並行して、汎用的なSaaSにするための壁打ちをし、これまで独学でやってきた部分の改善点や疑問点をくまなく聞けたのは本当に助かりました」(杉本さん)
杉本さんは、チャットでの高速なレスポンスや回答精度の高さにも満足しています。「すぐに回答できない場合は後から参考となるブログを書いて送ってくれたこともありました。自分専用の手順書を作っていただいたようなもので、大変助かりました」と振り返りました。
一方、支援を担当したクラスメソッドの担当者は「杉本さんは優れたエンジニア。ベースのコードがクラウドネイティブに近かったので移植しやすかったです」「システム構成を含めて当初からストーリーをきちんと説明いただけたことも大きい。そのおかげで取捨選択がスムーズにできました」と感想を述べます。こうしてチーム一丸となった結果、1カ月というタイトな期間でのミッションは無事に成功を収めたのです。
習得した知識やスキルが自身の財産に
杉本さんはクラスメソッドの技術支援について「今回のプロジェクトは私が1人で開発したら1カ月以上かかるものが1週間でフィニッシュしたような感覚。支援がなければ間違いなく実現できませんでした。有償コンサルティングを受けた経験は初めてでしたが、常に信頼感はありました」と評価します。
もう1つの成果は、プロジェクトを通じて多くの知見を得たことです。
「IaCにいつか取り組まなければいけないことは意識していましたが、このプロジェクト以前には自分の仕事で使う機会がありませんでした。今回初めて取り組むタイミングで自分が作った環境をそのままIaCにしてくれたので、それをもとにIaCを勉強できることは貴重な財産となりました。あたかも手元に教科書が残っているかのようで、今後の学習期間やコストも大幅に短縮・圧縮できたと思います」(杉本さん)
さかのぼると、UHB社内でAWSの活用が進んでいない頃から、杉本さんは自分でAWSを学びたいという気持ちから自主的にAmazon QuickSightを利用し始めた経緯があります。社内での地道な普及活動の結果、今では社内の半分ほどの人が分析ツールとしてAmazon QuickSightを使うまでになりました。杉本さんは社内でのAWS活用の今後についてこう語ります。
「クラウドは本業である放送事業でもかなり浸透してきています。今回のプロジェクトはそちらでも活かせる部分が多いので、大きな意味がありました。身につけたスキルは自社の縦型動画アプリをアップデートする際に活用しています。このように、支援期間以外の恩恵も非常にあったと感じています」(杉本さん)

ともに歩みながら北海道のAWSシーンを盛り上げていく関係
現在、SaaS化した縦型動画簡易生成基盤は9つの放送局でPoCが行なわれ(※2025年2月現在)、準キー局も採用しているとのこと。ショート動画を増やしたことでSNSのフォロワーが10万人を突破した例もあるなど、想定以上の反響が寄せられています。
他社展開が本格化した場合、SaaSの販売・保守運用はUHBの子会社が手がけますが、完全移行するまでは杉本さんとクラスメソッドの関係は続きます。例えば運用効率化のためにCMS機能がほしいとなれば、UHBに残っている開発環境をベースに構築することも想定しています。さらに、杉本さんは「縦型動画以外にもFAXの自動原稿化、音声データ化などAWSを基盤とした多くのアプリがあるので、それらで横展開の機会があればまたご一緒したい」と話してくれました。

今後もクラスメソッドはUHBに寄り添い、テレビ局のクラウド化に貢献していきます。