印刷技術をコアとして幅広い事業を展開する共同印刷。同社のサービスの中にお客様から紙の請求書、申込書、契約書などをデータ化し納品するパンチ入力サービスがあります。業務支援システムとしてクラウド版のAI-OCRを導入するにあたり、社内ネットワークからAWS Direct Connectを介してAI-OCRにAWS PrivateLinkで接続することになり、VPCをはじめとするAWSリソースの構築が必要になりました。その際、クラスメソッドの「AWSコンサルティング」サービスを活用し、約2カ月間で環境構築を終えました。
その後、BPOサービス事業のメニューの一つとして提供しているコールセンターサービスにおいて、お客様のAWS環境と共同印刷のオンプレミス環境の間で、ファイル連携ミドルウェアのサーバーを介してファイル転送する案件が発生しました。そこで再びクラスメソッドに支援を要請し、AWS環境上にファイル転送用のVPCを新設。AWS環境上のVPC間はVPC Peering、オンプレミス環境とAWS間はAWS Direct Connectによって接続し、1カ月間の短納期でセキュアなファイル交換環境を構築しています。
これらのプロジェクトについて、ビジネスメディア事業部 製品サービス設計本部の鎌田さんと、情報セキュリティ本部 事業企画部の高倉さんにうかがいました。
パンチ入力業務の効率化に向けてSaaS型のAI-OCRを導入
同社が注力するサービスのひとつ「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)」。データプリントのノウハウを核に、各種通知書発送に関連するバックオフィス機能、データ処理機能、コールセンター機能、システムソリューション機能といったリソースを組み合せて最適な業務設計とソリューションを提案しています。
クラスメソッドが「AWSコンサルティング」サービスを通じて支援したのは、BPOサービスにおけるデータ処理サービスのデータエントリー領域になります。同社は、生命保険会社、損害保険会社、官公庁など個人情報を扱うお客様から紙の請求書、申込用紙、アンケートなどを預かり、記入された情報をパンチ入力してデータ納品しています。その業務において新たにSaaS型のAI-OCRを導入し、効率化を図ることにしました。
「コロナ禍で人手不足が顕在化する中、パンチ入力担当者の負担軽減、作業時間短縮を目的にAI-OCRの導入を決めました。ただし、クラウド環境で運用するAI-OCRサービスを使って個人情報などの機密データを扱うことに関しては、お客様に不安を抱かせることにもなりかねません。そこで、インターネットを介さない形でデータをやり取りする環境を構築する必要が生じました」(鎌田さん)
“TOMOWELへの共感”とアジャイル開発により環境構築
AI-OCR導入にあたってセキュアな環境の構築を決定した同社は、社内ネットワークからAWS Direct Connectを介してOCRサービスにAWS PrivateLinkで接続することが課題でした。インターネットを経由せず外部のサービスなどと接続するPrivateLinkを使用するためには、VPC環境上にVPCエンドポイントを作成する必要があります。そこで同社は、接続に必要なVPCをはじめとするAWSリソースを構築するパートナーとしてクラスメソッドを指名しました。
「複数のベンダーの中からクラスメソッドを選んだ理由は、一緒になって完成度の高い環境を作りましょうという姿勢でした。共同印刷のコーポレートブランド『TOMOWEL(トモウェル)』には、“共に良い関係を築く”という意味が込められおり、「関わるすべてと共に良い関係であり、未来を創り拡げていく」という願いが込められています。私たちは、構築を丸投げでお任せするより、自社にもノウハウを蓄積して共に成長したいという思いがあり、クラスメソッドの提案はその要望に沿ったものでした」(鎌田さん)
AWS環境の構築は2022年春の約2カ月間で行われました。ネットワーク回線事業者、AI-OCRのアプリベンダーなど複数のステークホルダーが参加する複雑なプロジェクトとなりましたが、ほぼ計画通りのスケジュールで開発を終えています。
新サービスの追加でお客様に新たな選択肢を提供
セキュリティに配慮して開発されたAI-OCRによるパンチ入力サービスは、データエントリーの新たな提供形態としてリリースされました。営業部門ではお客様向けの提案書を作成し、既存のお客様を中心に紹介活動を開始しています。
「金融サービスを扱うお客様に対しても、万全のセキュリティ環境を構築し、クラウドでも安全に運用できることを提案書に記載して紹介しています。私たちにとっては、AI-OCRを利用したパンチ入力サービスのラインアップへの追加で、お客様に新たな選択肢が提供できたことが一番のメリットです。高いセキュリティを求めるお客様にはネットワークを介さない従来どおりのサービス、効率化を重視するお客様にはAI-OCRを使ったサービスと、さまざまなニーズに応えられるようになりました」(高倉さん)
今回の取り組みは、社内DXの事例としても注目されており、今後もこうしたチャレンジを通して実績を積み重ねていくことが期待されています。
コールセンター業務において個人情報を含むファイルを交換する案件が新たに発生
AI-OCRサービスの導入に続いて新たに浮上したのが、セキュアなファイル転送環境の構築です。
BPOサービスの中には、お客様のコールセンター窓口を代行するサービスがあります。コールセンターサービスを利用するお客様が新たなWebサイトを立ち上げることになり、AWSを介して顧客情報や商品情報を連携したいという要望が寄せられました。しかし、機密性の高い情報を両者間でやり取りすることになるため、高いセキュリティが求められます。そこで同社は、AWS上でインターネットを介することなく、セキュアにデータ連携できる方法をクラスメソッドに相談しました。
「当初は専用線の敷設を検討していましたが、クラスメソッドからはVPC間をダイレクトにつなぐVPC Peeringによって解決できるという提案をいただきました。専用線を敷設するとなると新たにハードウェアが必要で、機器の調達に数カ月から半年はかかるため、納期遅れが発生します。VPC Peeringなら短期間で構築できるという話を聞き、迷わずクラスメソッドの提案を採用しました」(鎌田さん)
複数の選択肢からVPC PeeringによるVPC間接続を採用
プロジェクトは、2022年4月末~5月末までの約1カ月間で行われました。ファイル連携ミドルウェアのサーバーを介したファイル転送を実現するために、共同印刷のAWS環境上とお客様のAWS環境上にはそれぞれファイル転送用のVPCを新設し、両者のVPC間はVPC Peeringによってインターネットを経由しない接続としました。
VPC間の通信は、必要外の通信を制限するためにセキュリティグループでアクセスを制御し、VPC Flow Logsを有効化してVPCの通信ログをAmazon S3に保存する構成としています。また、共同印刷側のVPCとデータセンターのオンプレミス環境はAWS Direct Connectで接続しています。
クラウドを活用した新たなBPOサービスの提供へ
AI-OCRサービスの導入をきっかけに始まった共同印刷とクラスメソッドの取引ですが、今後もAWS案件に関してさまざまな施策を検討中で、今後もさらなる支援を期待しています。
営業企画やサービス開発の観点でも、クラウドを活用した新たなBPOサービスをお客様に提供していく予定です。
「クラスメソッドには、AWSのサービスの新しい使い方の提案や、サービス設計の観点から支援いただけたらありがたく思います」(高倉さん)
クラスメソッドは、数多くの企業のアーキテクチャ設計、運用設計、AWS技術を支援してきたAWS技術コンサルティングサービスにより、共同印刷が手がける幅広いビジネスに貢献していきます。