工場データの活用基盤構築と帳票電子化をAWSで実現
AWS IoT Greengrassで生産DXを加速

森永乳業株式会社

コーポレート戦略本部 デジタル経営推進部 DX推進グループ
グループ長 進野佑一 様
アシスタントマネージャー 蜂谷修平 様
リーダー 畑山和輝 様
森永乳業株式会社
公開日:2026年6月17日
BEFORE
  • 設備や品質に関わるデータの紙への記録で現場に負担
  • Excelベースでの帳票管理が非効率
  • 生産製品ごとに異なる計器設定や管理パラメーターで標準化が困難
AFTER
  • 帳票の電子化による年間約5,000枚のペーパーレス化
  • OTデータの帳票反映により約800時間超の作業時間削減
  • 将来の製造最適化や予知保全を実現するためのデータ基盤の構築

1917年の創業以来、練乳や育児用ミルクのほか、「森永おいしい牛乳」「ビヒダスヨーグルト」「クリープ」「マウントレーニア」「ピノ」など、乳製品を軸とした商品を生み出してきた森永乳業株式会社。2019年に策定した「森永乳業グループ10年ビジョン」達成に向けてDXを推進している同社は、生産DXの一環として、工場の機器や制御システムのデータをエッジサーバーからアマゾン ウェブ サービス(AWS)に転送するIoTソフトウェア基盤にAWS IoT Greengrassを採用。OT(Operational Technology)データの転送や帳票電子化に関する技術支援をクラスメソッドに依頼し、工場のデジタル化を推進しています。プロジェクトについて、デジタル経営推進部 DX推進グループの進野さん、蜂谷さん、畑山さんにお話をうかがいました。

生産DXの一環として帳票電子化とOTデータの帳票自動取込プロジェクトを立ち上げ

森永乳業株式会社 森永乳業では、DXを「競争力を向上させるためのデジタル変革」と定義し、「挑戦し続ける組織風土の醸成」と「お客さまの健康で幸せな生活への貢献」の2つをDX推進の柱としています。DX計画は3つのステップに分け、2026年3月期までのステップ1では、全社ITリテラシーの向上やデジタルを活用した生産性向上、社内外に散在するデータの集約・統合・分析に取り組んできました。2028年3月期末までのステップ 2では、全社最適を追求した業務プロセス改革を進め、2029年3月期末までのステップ 3で、データに基づく意思決定の促進を目指しています。

「ステップ 1では全社員の生成AI活用を促進したり、市民開発を担う人材を各組織で育成したりと、DX推進に向けた基盤を整備してきました。具体的な取り組みとして、顧客データプラットフォームの構築、財務会計業務のデジタル化、生産現場におけるデジタル活用、原材料価格変動シミュレーション、AIを活用したアイスの需要予測などがあります」(進野さん)

ステップ 1で掲げた生産DXのテーマとして、今回のプロジェクトで取り組んだのが、生産現場における帳票の電子化とデータ活用基盤の構築です。工場内の各種設備から取得したOTデータをAWSへ転送し、電子帳票の作成やデータ分析に活用する仕組みを整備しました。

森永乳業株式会社 「工場の製造ラインでは、設備の温度や圧力、材料の粘度や硬さなど、品質に関わるデータを担当者が一定時間ごとに計器を確認して紙に記録していました。その後、Excelに転記し、製造部長や工場長へ回覧したうえでファイリングする運用を続けてきました。しかし、アナログの帳票管理は効率が悪く、品質判断やトラブル時の原因究明では、勘や経験に頼る部分もありました。そこで、作業員が計器を読み取ることなくデータを自動取得し、そのまま帳票へ反映させる仕組み、および電子での必要な過去実績閲覧が可能なシステムを目指しました」(蜂谷さん)

さらに将来的には、蓄積したOTデータを分析し、最適な運転条件の特定につなげる狙いもありました。データ分析基盤を構築するためには、データの標準化が欠かせません。しかし、同一ラインで1日に複数の製品を切り替えながら生産する同社では、製品ごとに計器の設定や管理パラメーターが異なるため、データの標準化は容易ではありません。また、工場ごとに利用しているシステムやデータ形式も異なっていました。

「データが統一されていない状態のまま生産データを一元管理・活用することは難しいため、まずはデータを活用できる状態にするための基盤づくりが必要でした」(進野さん)

エッジサーバーからAWS IoT Greengrassを利用してAmazon S3へデータを転送

OTデータを帳票に反映し、電子化するプロジェクトを進めるにあたり、同社はクラスメソッドに技術支援を依頼しました。その決め手となったのが、AWSに関する豊富な知見と、同社のIT環境への理解でした。

「クラスメソッドとは、今回の案件以前から多くの取引がありました。そのため、森永乳業のIT環境を理解したうえでアドバイスがいただける点が、本件の支援をお願いした大きな理由でした」(蜂谷さん)

プロジェクトは2025年7月にキックオフ。基幹工場の1つであり、ヨーグルトやデザートの生産を手がける茨城県の利根工場をパイロット拠点として、生クリームの生産ラインを対象に開発を開始しました。

「利根工場を先行拠点に選定したのは、生産系システムの更新タイミングが重なっていたことに加え、工場側にもDXへの意欲が高いメンバーが揃っていたためです。新しい取り組みに積極的に向き合う姿勢があり、IT環境と現場双方の推進体制が整っていたことからスムーズに進むと判断しました」(進野さん)

森永乳業株式会社 利根工場では、タッチパネル端末からOTデータを制御サーバーへ転送し、CSVファイルに変換してエッジサーバーに出力する仕組みを構築。

その後、エッジサーバーからAWS IoT Greengrassを利用してクラウド上のAmazon S3へデータを転送し、帳票用DBであるAmazon RDSに格納するまでの流れを開発しました。

「これまでオペレーターは、点検作業において計測機器の値を確認しながら紙に転記していましたが、タッチパネル端末の操作のみで点検結果をエッジサーバーへ送信できるようにしました。
エッジサーバーからAWSへの転送については、複数の手法やサービスを検討した結果、必要十分な機能を備え、コストを抑えて構築できるAWS IoT Greengrassを採用し、クラスメソッドの支援を受けながら開発を進めました」(畑山さん)

AWS IoT Greengrassを活用して閉域網とインターネット網の通信を分離

2026年2月に利根工場でのプロジェクトフェーズが完了した後、同年3月から次のステップとして、カップ飲料やアイスなどの生産を手がける兵庫県の神戸工場への横展開を進めました。利根工場ではタッチパネル端末からのデータ出力機能を中心に開発しましたが、神戸工場では同社が内製で開発した制御システムからのデータ出力や、エッジサーバーからAWSへのデータ転送を中心に取り組みました。

「工場ごとにデータ形式や制御方法、制御システムが異なるため、それぞれに合わせた調整が必要です。内製の制御システムは神戸工場以外でも稼働しており、一度対応できれば他工場への横展開も可能になるため、プロジェクトにおける重要なマイルストーンとなりました。制御システムは5分ごとに累積データを出力する仕様となっており、複数のラインをまとめると、1日あたり最大300MB規模のデータ転送が発生するケースもありました。そこで、差分データを取得するロジックの実装や、大容量ファイルのZIP圧縮転送などを行い、帯域への負荷を抑える工夫を施しました」(蜂谷さん)

プロジェクトでは、工場特有の厳しいセキュリティ要件への対応も求められました。特に重視されたのがOTデータの通信経路です。工場の運転データには機密性の高い情報も含まれるため、AWS IoT Greengrassの機能を活用し、OTデータは閉域網経由、死活監視やソフトウェア管理などの管理系通信はインターネット経由と、用途に応じて通信経路を分離する構成としました。

「通信ごとに閉域網とインターネットを柔軟に使い分けられる点は、AWS IoT Greengrassを採用して良かったと感じるポイントで、運用のしやすさを改めて実感しました。これにより、セキュリティ担当者にも納得してもらえる形で構築することができました」(畑山さん)

未知のサービスに向き合う中で専門的な知見を持つクラスメソッドのサポートは不可欠

クラスメソッドとのプロジェクトは、週次の定例ミーティングとBacklogを活用した課題管理を通じて進めました。開発は原則として内製とし、クラスメソッドからは情報提供や技術Q&A、アドバイス、コードレビューなどの支援を受けました。

「社内にはAWS IoT Greengrassに関する知見が少なく、未知のサービスに向き合う中で、専門的な知見を持つクラスメソッドのサポートは不可欠でした。私が通信要件の洗い出しを依頼した際も、漠然とした質問に対してプロトコルからポートまですべてを調査した網羅的な回答をいただき、本当に助かりました」(蜂谷さん)

「質問へのレスポンスも早く、的確な回答に何度も助けられました。自分たちだけでは手の届かない領域までアドバイスをいただけたことで、私たちはコア業務に集中することができました。また、定例会の中で空いた時間にAWSの新しいサービスを紹介していただけたこともありがたく、視野が広がる感覚がありました」(畑山さん)

森永乳業株式会社

年間約5,000枚のペーパーレス化と約800時間超の作業時間を削減見込み

2026年5月末時点で、神戸工場への展開は内製主体で進めています。さらに、次の工場への展開に向けて、より高精度な制御が必要な制御システムへの対応も並行して検証しています。今後は2029年3月期末までの約3年間で国内の全工場へ展開する計画で、年間約5,000枚のペーパーレス化と、約800時間超の作業時間削減を見込んでいます。

「現場では、タブレット端末を操作するだけでデータを自動記録できるようになります。その結果、紙への記録やExcelへの転記が不要となり、現場負荷の大幅な軽減につながると試算しています。また、OTデータを蓄積する基盤整備を進めることで、将来的には製造条件の最適化や予知保全などに活用し、データに基づく意思決定ができる工場を実現したいと考えています」(蜂谷さん)

技術的な知見の蓄積や組織文化の変化も、大きな成果となっています。進野さんは「工場メンバーのDXへの意識も確実に高まっている」と手応えを感じています。

「まだ展開していない工場からも『早く導入したい』『利根や神戸のノウハウを知りたい』という声が上がっているように、現場レベルでも変化が生まれています。結果として、工場で働く社員の意識改革やモチベーションの向上につながっています」(進野さん)

「工場には、いまだにアナログな部分が多く、夜勤など人に依存している側面もあります。DXによって省人化を実現し、より働きやすい環境を整えていきたいと考えています」(畑山さん)

全社最適化に向けて生産から販売までのデータ連携の実現へ

今後は、生産DXだけでなく、S&OP(販売・在庫・生産計画)を含めた全社最適化にも取り組む方針で、生産領域にとどまらない全社的なデータ統合を見据えています。

「生産して終わりではなく、生産から販売までを一気通貫でつなげ、DXのロードマップで掲げたステップ 2、ステップ 3へと進んでいきたいと思います。クラスメソッドには、当社のIT環境や考え方を理解したうえでの、幅広い技術提供に期待しています」(進野さん)

クラスメソッドは、着実に前進している森永乳業の生産DXを、今後も支援してまいります。

この事例はIoTインフラ開発支援サービスをご利用いただいています

クラスメソッドはIoTデバイスを扱うためのフルマネージドサービスAWS IoTを活用した技術支援を行っています。大規模サービスに適したサーバーレス環境の構築から社内検証のためのPoCまでエンジニアが幅広くサポートします。

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