白物家電やAV機器で身近な存在であるパナソニックは、電子デバイスやデータ分析、AIなどの非常に広範なビジネス領域でも高い技術力を持ち、革新的なものづくりを行っています。
2020年3月時点の同社では、アプライアンス、ライフソリューションズ、コネクティッドソリューションズ、オートモーティブ、インダストリアルソリューションズなど、事業分野と地域別に7つのカンパニー体制を敷いていますが、新たなテクノロジーを創造する社内ベンチャープロジェクトは、これらのカンパニーには属さずに進められています。
若井さんは、現在特に注目されている画像解析に関わるベンチャープロジェクトに所属しています。これまでは集めづらかった情報を画像解析によって収集し、分析結果をアウトプットする一連の仕組みを提供する「Vieureka(ビューレカ)プラットフォーム(以下、Vieureka PF)」を若井さんの部署では展開しています。
業態や目的に応じた一連の仕組みをSaaSのような形で導入出来るVieureka PFは、機能開発を行う30社ほどのパートナー企業が集い、成長を見せつつあります。同社ではAWSクラウド開発経験者のさらなる参画を目指し、AWSをエッジデバイスに拡張できるAWS IoT Greengrassへの対応を決め、システムの改善を図りました。この改善にクラスメソッドは協力しています。
プロトタイプ開発を通して課題を洗い出したい
Vieureka PFは、様々なアプリケーションをインストールできるIoTカメラを活用し、映像データを目的に応じて簡単に収集・分析・活用できるサービスです。
当時のことを若井さんは振り返ります。
「デバイスに対して画像解析アプリを遠隔からデプロイする仕組みが無かったため独自で開発をしていたのですが、それが可能なGreengrassというサービスが発表されたことを知り、 Vieureka PFに活用できるのではないかと考えたのです。AWSのマネージドサービスが利用できればアプリのデプロイ機構の運用やメンテナンスが楽になりますから。」
さらに、EC2を利用した旧来のアーキテクチャでは運用コストやサーバー管理の負荷が大きくなりがちです。サーバーレス環境が出来ればコスト面のメリットも大きいであろうことが想定できたため、適用の検討を始めました。
しかし、Vieureka PFにGreengrassを導入できるかどうか、社内での調査では詰め切れませんでした。
「Greengrass版にすることで運用が良くなるという感触はありました。評価も試みましたがヒューマンリソースも不足しており、自分たちで置き換えるのは難しいと思ったのです。自分たちで実装が難しい部分をパートナーに協力依頼して、新しいアーキテクチャを学び、最終的にチーム内にノウハウを蓄積出来ればと考えるようになりました。」(若井さん)
そのような状況にあったときに、新しいアーキテクチャに対応できるパートナーとして、クラスメソッドを思い出してもらえたそうです。
「クラスメソッドが運営している技術ブログのDevelopers.IOも愛読していましたし、社員個人での付き合いもありました。社員の個人的な付き合いのある企業と、技術ブログを通して高い技術力を感じる企業というバラバラだった当社と御社の関係が1つに結びついた形になり、依頼することにしました。」(若井さん)
クラスメソッドへの最初のご依頼は、プロトタイプの開発により課題を洗い出すことでした。
AWSの最新アップデートを活かして本番開発へ
クラスメソッドからは、洗い出した課題への解決策の提案や、それまで利用していなかったアーキテクチャの活用についてのアドバイスをさせていただきました。
Vieureka PF管理コンソールのマネージャーアプリ(VieurekaManager)にGreengrassを導入する際の課題の指摘と解決方法の提案も、その一つの例です。
その他にも、Greengrassのデバイスで発生したイベントをクラウドでどのようにハンドリングするかといったイベント処理についても、サービスの組み合わせや処理フローをクラスメソッドから提案し、実装しています。
また、Greengrass導入のタイミングで、AWS Lambdaに関するご相談もありました。
AWS LambdaはVPC内での利用に課題があったのですが、AWSの最新アップデートにより、構築期間中に解決できる可能性が高いことが分かっていました。クラスメソッドでは、この情報に基づいて構築を進める提案をしています。
「最新のアップデートやアーキテクチャのベストプラクティスをウォッチしているクラスメソッドからタイムリーに教えていただけることが、より良い判断に繋がりました。」
このようにして新たに設計、構築することになったのが、下図の新バックエンドです。現行のバックエンドもしばらくは継続させるため、新旧の環境を一元管理できるようにしています。
新バックエンドでは、サーバーレス環境を実現し、遠隔デバイスへのアプリデプロイが可能となります。アプリケーション開発パートナーとの連携も取りやすい仕組みができてきています。
構築は順調に
プロトタイプ開発による課題の洗い出しを終え、構築を行ったのは2019年4月。ここからおよそ半年かけて構築作業を行いました。物理環境の準備に少し時間がかかりましたが、クラスメソッドに依頼いただいた構築は順調に終了しています。
本インタビュー時点(2020年3月)では、物理的なカメラとの接続をいよいよ控えた最終段階に入っています。仮想カメラ環境での接続テストにはクラスメソッドも協力し、
「遠隔制御のふるまいは確認できていましたし、順調でした。」(若井さん)
とご満足いただいています。
また、同プロジェクトが進められている大阪でのサポート体制についても評価いただきました。
クラスメソッドは大阪にも拠点があることを生かして、オンラインに加えて、対面でのサポートも行なっていました。月に1度から2度は対面し、ホワイトボードなどを使って詳細な打ち合わせをしていました。
「知識量ももちろんですが、納得いかないことや懸念していることを置き去りにせず、その場で進めるやり方をしていただきました。とても安心感がありました。」(若井さん)
パートナーを増やしたい
Greengrass対応のVieurekaManagerは、最小構成の機能を2020年5月〜6月に対応し、少しずつ機能拡張をしていくそうです。Vieureka PFをさらに魅力的なサービスにしていくためには、Vieureka PF対応カメラで利用可能な画像認識機能を開発するパートナーが増えていくことも重要です。
「パートナーから『Greengrassの対応はまだですか?』という声もあったくらいですので、手応えは感じています。SDKがPythonにも対応するようになりましたし、2019年度の目標でクリアできた30社というパートナー企業数をもっと増やして行きたいですね。」
と若井さん。パートナーが新機能を開発しやすい環境を整えることで、パートナー数の増加にもさらに期待がかかります。
「3ヶ月に約1回のペースでパートナーセミナーも開催していて、SDKを使った開発のハンズオンや事例紹介、パートナー同士のネットワーキングも行っています。クラスメソッドさんにもいつか登壇してもらいたいと思っています。」
変化が早く、複雑性の高まったVUCAの時代には、新しいビジネスをスピーディーに立ち上げ、効果の出るものに注力していく姿勢が必要になっていると言われます。
若井さんは自社のビジネススピードを高めるために、外部パートナーと協力しつつ最新情報の導入を進めるだけでなく、同時に自社にも技術を理解できる人員を育てたいと考えていたと言います。
「社内の体制を整えていくにあたって、AWSの知識についても、ビジネスの柱として事業を進めるのにふさわしく蓄積していかなければならないと考えています。外部の企業とタッグを組むときに、作業を丸投げしてしまっては社内にノウハウは貯まりません。新しいことを自ら学びながらパナソニックのブランドも活用してビジネスを進めて行きたいですね。」
とこれからの展望を語っていただきました。
クラスメソッドはお客様に伴走し、最新情報を活用したアーキテクチャのご提案やナレッジの共有によりビジネス展開の支援を行なっていきます。
[参考]
Vieurekaプラットフォーム公式サイト
https://www.vieureka.com/