農業の課題解決にITやIoTを活用
従事者の減少が懸念される農業。農林水産省の行った年農業構造動態調査によれば、約145万人の農業従事者のうち8割が60歳以上と高齢化が進んでいます。70歳を超えても現役の方がいらっしゃる農業でも、新たな従事者の劇的増加がない限り「農業人口の減少」や「ベテランの技術が若い人に伝承されずに失われていく」といった課題があり、日本農業継続の危機につながるような状況があります。
今、その課題の解決にITの活用が進んでいます。気温や日射量といった農作物の栽培に重要な環境データをセンサーで自動的に収集・分析するなどの作業効率化に加え、近年は作業技術を情報として蓄積・可視化してベテラン農家の「経験や勘」をデータ化する取り組みが進められています。かつて“長年の試行錯誤による経験の積み重ね”や“熟練者のやり方を見て盗んで覚える”ものだった農業技術の習得がITを用いてデータ化されることによって徐々に変わってきています。
農業AIブレーン「e-kakashi」は2015年10月にスタートした農業IoTソリューションです。田畑などほ場の環境データや作物の生育情報を収集して見える化するだけでなく、作業情報とひも付けることでベテラン農家の経験や勘を電子マニュアル化し、共有を容易にします。さらに、一度マニュアル化されるとその後は収集されたデータをe-kakashiのAIが植物科学の観点から分析し、自動で今どのようなリスクがあり、どのような対処をしたらよいのか具体的にフィードバックすることも可能です。例えば福岡県宗像市では「あまおう」のマニュアル化が進められており、技術継承の効率化や、地域のブランド力を向上させる環境が整備されています。
また異常気象により農作物の生育度合いが年々変化しており、ベテラン農家にとっても農作業実施時期の判断に迷うことがあります。そのようなケースでも「e-kakashi」のフィードバックを活用することにより科学的根拠に裏付けられた判断ができるとして評価を得ています。また、データはクラウドに保存されるため、災害でも失われず、スマートフォンやタブレットなどの端末を活用して場所を選ばずに現場の状況を確認できます。
e-kakashiではさらなる農作業の効率化・高精度化を目指すためにビニールハウスの窓の開け閉めや水を与える機器を遠隔で制御をする機能の追加や、長期的にはAIが自動で環境を制御したりする研究が始まっています。
クラスメソッドは、農場に設置するセンサーデータの取得や、ビニールハウスの窓開閉など環境制御の仕組みと連携するシステムのコア部分の設計および開発を技術支援しました。
技術課題の8割が24時間以内に解決
e-kakashiは2015年10月にサービスをスタートしました。自治体や農家の協力を得て実証実験を進めながら、サービスのスタート当初からバックエンドとしてAWSを採用していました。新システムの開発を行うにあたり、参考にしていた技術ブログ「Developers.IO」を運営するクラスメソッドにコンタクトしました。
「AWSの技術情報を検索すると、3回に2回はDevelopers.IOの記事がヒットします。今回、当社の開発に携わってくれたエンジニアのみなさんも記事を書かれており、参加メンバーの方の得意な技術領域なども知ることができました。ブログを公開記事にするためにもその技術についてよく研究・調査されており、信頼できるという安心感にもつながりました」(CPS事業本部 e-kakashi事業推進部 部長 百津正樹さん)
システム構成は2週間ほどで決定し、5月のゴールデンウィーク明けに開発を開始。サービスリリースは7月と、わずか2か月ほどでサービスが開始できました。今回のクラスメソッドの支援で特にご評価いただいたのは、技術的な情報提供や調査に関するレスポンス速度です。
「これまでの経験では『この件は持ち帰って確認し、次回打ち合わせの際に回答します』となるような内容が、その場で回答していただけるケースがとても多い。オンラインのチャットで質問させていただくことも多いのですが、8割以上が24時間以内には解決していると思います。別の企業の方とミーティング中に技術的な確認事項があって、チャットで質問を送ったりしますが、ミーティングの後半には答えが返ってくることもあります。このスピード感には一緒にミーティングしていた方もかなり驚かれます。通常なら数日かかる様な内容が、そのミーティング中に解決できるなど大変助かっています」(百津さん)
開発スピードを上げるアーキテクチャー
今回のシステムには、開発効率やスピードの確保と、システムの運用工数を抑えることを考えて、マネージドなサービスを積極的に採用し、AWS LambdaやAmazon Kinesisなどを使ってサーバーレス基盤開発が行われました。クラスメソッドはサービスとしての安定性や使い所をアドバイスし、同社のサーバーレスアーキテクチャ採用を後押ししました。また各サービスの特徴に合わせた活用方法をお伝えすることで、開発効率にも貢献できました。
今回のシステムでは、農業デバイスからのデータはKinesis Data Streamsの機能を使って受信しS3へ格納するほか、アプリから利用するデータはLambda経由でDynamoDBに保存します。受信したデータによって自動的にアクションが必要なケースはDynamoDB StreamsからLambdaを起動しリアルタイムに処理を行えるようになっています。すべてのデータはS3に永続的に保存し、今後長期的な分析用途に使うことを考えています。アプリは、API GatewayやLambda、AppSyncを使ってサービスを作成、認証にはCognitoを利用しています。AWSのサービスを活用することで、開発の効率化と運用工数の削減、安定性の確保を実現しています。
農業の新しい働き方を支えるIT
e-kakashiでは気象情報を元に収穫予測や防除計画など、必要な農作業の判断に活用できるスマホアプリ「e-kakashi Ai」の提供も行っています。1km四方の細かさで7日間の天気や、雨量や風速などの気象情報を表示するほか、連続晴れ予報や、高・低温予報など、栽培管理に必要なアラート機能も搭載しています。
例えば、雨が降ると効き目が弱くなる農薬などは、晴れが続くときに作業を計画したいなどのニーズがあります。Aiが農家目線の気象情報をプッシュ通知で教えてくれることで、作業計画が立てやすくなります。また、散布のやり直しには作業や農薬のコストが余計にかかることに加え環境面の問題も出てきます。適切なタイミングで作業が実施できることは、コストメリットだけでなく、環境保全にもつながると考えています。
農業は自然を相手にする仕事と言われますが、気候のほかにも、植物の生長や病害虫の繁殖などコントロールが難しい要素が数多くあります。工場などと違い、植物の生長や病害虫は、人が「止まれ!」と言っても止まってはくれません。適切なタイミングで適切な環境を維持し続けなければ、期待通りには成長してくれませんし、対策をしなければ病害虫は容赦無く広がっていきます。農作物の生産、すなわち植物の生長には適切な時期があるというのも一つの特徴で、新サービスの提供開始が遅れると、次の季節まで待たないといけないということも起こります。
農業に利用されるITは、農業が求める継続性やスピードに対応できるものでないといけません。今後も革新的な農業ITサービスをスピード早く開発し安定的に提供するためにも、クラスメソッドの経験と技術に裏打ちされた支援を行ってまいります。