三菱電機グループの最大手エレクトロニクス商社として、半導体、FA(ファクトリーオートメーション)、冷熱ビルシステムなど多岐にわたる事業を展開するRYODEN。その事業の先進性に反して、新卒採用市場における学生からの認知には課題を抱えていました。特に理系人材の獲得競争が激化する中、「技術商社」の魅力をどう伝えるか。この難題に対し、RYODENは長年のパートナーであるクラスメソッドに協力を要請します。
クラスメソッドとRYODENの協力により実現したインターンシップの全容と、その背景・成果について、人事部の及川さん、戦略技術センターの熊谷さん、五十嵐さんにお話を伺いました。
人事と技術部門が抱えていた採用へのジレンマ
RYODENが直面していた最大の課題は、理系学生へのリーチ不足でした。研究職志向の強い理系学生にとって、就職先の第一候補はメーカーやIT企業になりがちです。「商社」という業種は、そもそも選択肢に入らないことも珍しくありません。新卒採用を担当する人事部は、新卒学生にリーチする難易度の高さに頭を抱えていたといいます。
「当社は『技術商社』であり、技術力を活かして新しい価値を生み出したいと考える理系人材を求めています。しかし、学生からすると『商社は文系の世界』というイメージが強く、まずは認知してもらうこと自体が非常に高いハードルでした。営業職向けのインターンシップはありましたが、技術職志向の学生に刺さる専門的なコンテンツがなかったのです」(及川さん)一方、技術部門である戦略技術センターもまた、採用に関する課題を感じていました。従来、会社説明会などで技術職の社員が登壇することはありましたが、そこには“コミュニケーションの壁”が存在していました。
「私たち技術者は、普段お客様と話すようなトーンで学生に接してしまいがちで、『入社後が心配』『冷たそうな会社だ』という印象を与えてしまうことがありました。そのため技術の魅力を伝えきれず、時間をかけて接した学生が入社してこないという徒労感がありました」(熊谷さん)
「技術を伝えたい人事」と「魅力を伝えきれない技術部門」。両者の課題が一致する中、解決のパートナーとして白羽の矢が立ったのがクラスメソッドでした。
RYODENとクラスメソッドは、以前よりAWS環境の構築支援やソフトウェア開発、社内エンジニア向けのトレーニングなどで取引があり、技術パートナーとしての信頼関係が構築されていました。しかし、今回のような「採用イベントの企画」は、クラスメソッドにとっても通常のサービスメニューにはない、イレギュラーな相談でした。それでもRYODENがクラスメソッドを選んだ理由は、同社が持つ「発信力」と「教育ノウハウ」への信頼でした。
「クラスメソッドは『DevelopersIO』などのオウンドメディアを通じて、常に最新技術をわかりやすく発信されています。『技術を伝える力』への弊社からの信頼は厚く、学生に対して当社の技術的な側面をキャッチーかつ適切に伝えてくれるパートナーは、クラスメソッドしかいないと考えました」(熊谷さん)
目的別に設計された2つの夏期インターンシップ
プロジェクトは、2025年1月に実施されたRYODEN主催の冬期インターンシップ(1Day)からスタートしました。
最初に企画されたのは、AWSが提供するハンズオンを活用した「生成AIチャットボットの構築体験」です。トレンドである生成AIに触れられる体験に加え、RYODENの若手社員や技術部門のメンバーが参加する座談会形式を取り入れました。
この初回イベントは、学生からも好評を博しました。特に効果的だったのは、RYODEN社員の「人柄」が伝わった点です。当初参加予定のなかった熊谷さんが「面白そうだから」と飛び入り参加し、学生の輪に入ってフランクに議論する姿は、学生たちが抱いていた「堅苦しい会社」というイメージを払拭するのに十分でした。実際、この回に参加した学生の中から複数名が内定を承諾し、入社を決めています。
しかし、運営側にはさらなる改善の余地が見えていました。
「用意されたテキストをなぞってチャットボットを作る、いわば『穴埋め形式』の要素が強かったんです。技術に触れることはできても、学生自身の創意工夫が入る余地が少なく、一方通行のレクチャーになりがちでした。説明されたとおりに作るのではなく、参加者同士で協力しながら問題を解決するような相互コミュニケーションが必要だと感じました」(熊谷さん)この反省を活かし、同年8月・9月には目的とターゲットを変えた2種類のインターンシップを実施しました。信州大学とのコラボレーションによる「5Daysインターンシップ」と、生成AIを活用したアプリ開発を行う「1Dayインターンシップ」です。
いずれのイベントも、クラスメソッドが全体の枠組みや技術選定を行い、RYODENが実務に基づく具体的なコンテンツや課題設定を担うという「共創体制」で制作されました。
①5Daysインターンシップ:議論を通じて「コミュニケーション力」を見極める
信州大学とのコラボレーションで行われた5日間のプログラムのうち、クラスメソッドは1日分の企画進行を担当しました。ここで人事部から求められたテーマは、技術スキルよりも「学生のコミュニケーション能力を見たい」というものでした。参加者は理系だけでなく文系学生も含まれています。ITリテラシーにもばらつきがあるため、特定の技術を教え込むのではなく、全員が参加できるディスカッションを中心とした構成を選択しました。
テーマは「スマートファクトリーの課題解決」。前半ではクラスメソッドがクラウド技術やスマートファクトリーの基礎知識についてレクチャーし、RYODENの社員がコンテンツの中核となる、工場のリアルな課題や製品知識をインプットしました。
後半のグループワークでは、工場の現状課題を生成AIを使って調査し、RYODENの製品を使った解決法を、RYODENの社員を交えて議論。クラスメソッドの講師はあえて教えすぎず、学生同士の議論を促すファシリテーションに徹しました。その結果、学生たちが自発的にタイムキーパーや司会といった役割分担を始め、議論を組み立てていく様子が見られました。
クラスメソッドが用意した議論の場の中で、RYODEN社員が現場の知見を注入するという座組により、人事担当者が面接では見えにくい学生の主体性や協調性を確認できる実践的なプログラムとなりました。
②1Dayインターンシップ:生成AIツール「v0」で技術の楽しさを体感する
一方、ものづくり体験に特化した夏期インターンシップ(1day)では、前回の反省を踏まえてコンテンツを大幅に刷新。ここでクラスメソッドが提案したのは、生成AI開発支援ツール「Vercel v0(以下、v0)」を活用したアプリケーション開発ワークショップです。
理系学生といってもプログラミングスキルは千差万別である上、今回は文系学生の参加も想定されていました。そのため、コードが書けなくても自然言語で指示を出すだけで直感的にアプリを作ることができ、かつデザインされた動くものが出来上がるため「やった感(達成感)」が得やすいツールであるv0を選択しました。
このワークショップでは、単にアプリケーションを作るだけでなく「どんなアプリを作るか」という企画・設計のプロセスに時間を使える点を重視しました。
スタートはいきなりAIを触るのではなく、まずは紙とペンを使って「身の回りの困りごと」の抽出から始めました。「ToDo管理がうまくいかない」「朝起きられない」といった個人的な課題を挙げ、それを解決するためのアプリ機能を設計し、その設計図をもとにv0へのプロンプト(指示文)を作成。そして生成されたアプリを実際に動かし、改善し、最後は全員の前で発表するという過程は、システム開発における「要件定義・設計・実装・テスト・リリース」の縮図でした。
「学生が自分の私生活に近い悩みを解決しようとするため、思い入れの強さが違いました。ただ言われた通りに作るのではなく、『もっとこうしたい』という意思が生まれ、そこに対して私たち社員も『それならこういう技術が使えるよ』とアドバイスすることで、自然に双方向のコミュニケーションが生まれました」(五十嵐さん)
クラスメソッドが最適な技術選定とファシリテーションで場を作り、RYODEN社員が実務経験に基づいた具体的なアドバイスで学生のアイデアを引き上げるコンビネーションにより、RYODENが掲げる「技術商社」の姿を伝える最適解となるイベントが完成しました。
双方向コミュニケーションが生み出す納得感の高い採用
8月・9月のインターンシップの結果は、定量・定性両面で大きな成果をもたらしました。参加人数こそ少数でしたが、5Daysおよび1Dayの参加者の中からすでに複数名の内定者が誕生し、入社承諾にもつながっています。母集団形成に苦戦していた以前の状況を考えれば、極めて大きな成果だといえます。
「学生が課題に取り組む姿を見ることで、面接だけではわからない『素のコミュニケーション能力』や『思考プロセス』を知ることができました。また、学生側も当社の社員と一緒にモノづくりを体験することで、社風や仕事内容を深く理解した状態で選考に進んでくれます。結果としてミスマッチが減り、お互いにとって納得感の高い採用につながっています」(及川さん)
また、今回の取り組みは、参加したRYODENの若手社員にも良い影響を与えています。
「学生たちが目を輝かせてアプリを作る姿を見て、私自身も刺激を受けました。また、熊谷のようなベテランが、学生が作ったアプリに対して『プロならこうする』とさらに高度な実装を即座に見せて驚かせる場面もありました(笑)。学生に対して『社会人になるとこんなことができるようになるんだ』というロールモデルを示せたと同時に、私たち自身も自社の技術力や仕事の面白さを再確認する機会になりました」(五十嵐さん)また、今回のインターンシップを通じて、技術商社の定義を正しく伝えられたのも大きな収穫でした。
「RYODENが掲げる技術商社の定義は『技術を用いて新しい価値や体験を創造する企業』です。今回のv0を使ったワークショップは、まさに『技術で課題を解決し、価値を作る体験』そのものでした。学生たちは、ただプログラミングをしに来たのではなく、技術を使って価値を生み出すプロセスを楽しんでくれました。その体験こそが、私たちが伝えたかったことなのです」(熊谷さん)
クラスメソッドのサポートについては、単なるイベント運営代行ではなく、共に採用課題に向き合うパートナーとして高く評価いただいています。
「初めての試みで不安もありましたが、クラスメソッドは当社の要望を汲み取り、それを『生成AI』という最新の技術トレンドと掛け合わせて形にしてくれました。イレギュラーな相談にもかかわらず、柔軟に対応していただけたことに感謝しています」(及川さん)
今後は、理系学生の就職活動の早期化に合わせ、開催時期の前倒しや規模の拡大を検討しています。また、オンラインとオフラインのハイブリッド開催や、よりゲーム性の高いハッカソン形式など、コンテンツのさらなるブラッシュアップも視野に入れています。
「採用活動において、技術の力で自社をアピールすることは今後ますます重要になります。来年以降もクラスメソッドと一緒に、学生がワクワクするような新しい仕掛けを作っていきたいですね」(及川さん)
企業のビジネス課題は、システム構築やクラウド移行だけではありません。「採用」という企業の未来を左右する重要課題に対し、クラスメソッドは技術力と創造性で解決策を提示しました。
技術商社RYODENとクラスメソッドの共創は、未来のエンジニアたちに「技術の楽しさ」と「働くことの希望」を届け続けています。


