塩野義製薬は、医薬品の開発・製造・販売を行う大手製薬メーカーです。同社は2023年6月に「中期経営計画 STS2030 Revision」を策定。その中で、医薬品の提供にとどまらず、顧客ニーズに応じた様々なヘルスケアサービスを提供するHaaS(Healthcare as a Service)企業への変革を進めています。
革新的な製品(創薬)・ヘルスケアサービスを生み出そうとしている同社では、異業界と同様にIT / デジタル技術の積極的な活用を進めています。クラウド活用も推進されており、CCoE(社内でクラウド環境を推進するための組織)体制の構築にも注力してきました。
クラスメソッドはAWS導入・活用に関する技術力をご評価いただき、2020年にパートナーとしてのお声がけをいただいてから継続的な支援を行っています。今回は2023年に行った複数のAWS環境の統合についてインタビューしました。
全社的なAWS環境の統合を支援
2022年頃まで、同社は複数の部署がそれぞれ独自にAWSアカウントを契約し、運用体制の分散と属人的な管理がなされていました。BCP(ビジネス継続性計画)やセキュリティ対策においてリスクが懸念され、AWS運用に関する社内リソースも不足した状態だったといいます。
こうした問題に対し、塩野義製薬ではAWS環境の統合管理を行う方針を決定し、その支援をクラスメソッドに依頼しました。AWS Security Hub、Amazon GuardDutyをAWS Organizationsと連携させ、塩野義製薬全体のAWSアカウントを横断するセキュリティ監視の一元化を行いました。
またIAMの管理についても、クラスメソッドの支援によりIAM Identity Centerを使って組織的なアカウントの一元管理と権限分割を実現。これらにより既存のAWS環境を統廃合し、企業全体での一貫したセキュリティと運用基準を確立することができました。
「既存の運用や構成を考慮して変更したいものや追加したい要件・要望などをこちらから伝え、その都度柔軟に応えていただけました。要望を伝えたあとのレスポンスの速さにも驚きましたね。IAMポリシーに関しても丁寧に教えていただいたことで細かく作り込むことができました。満足のいくものになり、大変感謝しております」(児玉さん)
チームによるAWS運用の標準化
このほか、クラスメソッドは塩野義製薬のAWS運用の標準化もご支援しています。
本プロジェクトでは、これまで体系化されていなかったAWSの運用に対してどういった運用項目が必要かを両社で協議するところからスタートしました。主な項目として
・AWSアカウント利用開始時の定型作業の標準化
・アカウントにアクセスするためのIAM Identity Centerでのユーザの払い出し
・ネットワークなど会社全体で共通利用するリソースの監視
・万一のインシデント対応方針と手順の定義
など多岐にわたる項目を洗い出し、各項目に対して最適なプロセスとツール選定、フローを規定し、同社でより一層安定したAWS環境をご利用いただけるようご支援しました。
そして運用の標準化を実現するにあたって、AWSに特化した知見を持つ運用チームのメンバーをアサインすることも不可欠です。そこでクラスメソッドおよびグループ企業のアノテーションから、AWS資格を保有するメンバーを中心とした運用チームを組成。同社のインフラ運用の標準化プロジェクトを推進しました。
このチームでは前述の方針にもとづいた運用マニュアルの作成・更新、そして運用プロセスの標準化に携わっています。システム監視においても従来以上に範囲を拡げ、CloudWatchによるリソースの使用状況、トラフィック監視などAWSの監視サービスを活用してパフォーマンスとセキュリティを常に最適に保ち、万一の事態にも備えられる体制を整えました。これにより、従来見過ごされがちな小さな問題点の早期検出・予防が可能になっています。
ほかにも運用の一環として、システムの健全性に関するレポートを作成し、定期的な報告を共有できるようにしました。より透明性が高く、組織全体のクラウド運用に対する意識改革の一助ともなりうる同社のAWS運用を維持できるよう、クラスメソッドは今後も継続的なサポートとサービスの改善を続けてまいります。
グループ全体で進むクラウド化
現在、塩野義製薬では、データ分析基盤としてクラウドが少しずつ増えているそうです。オンプレサーバーも稼働していますが、ハイスペックなリソースが必要な時など、場面に応じてクラウドを適宜利用しているといいます。
また、解析環境を考える上で、解析系アプリやETLツールのアップデートに伴い、Kubernetesが推奨されるケースが増えてきたと児玉さんは以下のように話します。
「Kubernetesの環境をオンプレミスサーバーで構築するのは社内外含めリソース確保が難しいと感じています。そのため、Amazon ECSやAmazon Elastic Kubernetes Serviceを使ってコンテナ・Kubernetesの実行・管理を少しでも効率化する必要があるでしょう。今後は、解析ツールに限らずさまざまなアプリ・ツールにおいて、クラウド環境の活用は外部要因的にも進んでいくのではと感じています」(児玉さん)
「サーバーレスコンピューティング、機械学習サービス、コンテナサービス等について社内の関心度が高いです。また、基幹系システムについてもクラウドに移行する計画があり、今後ますますクラウド活用が進むと考えます。IT部門としては、業務部門の要望にタイムリーに応えて、運用の拡充と改善を行っていきたいです」(大田さん)
継続的なIT革新と改善につながる提案力を期待
塩野義製薬とクラスメソッドの連携はAWS技術・運用支援のみならず、様々な領域で横展開しています。例えば、2023年5月には塩野義製薬のグループ会社に製造業向けICTソリューション「Classmethod PLC Data To Cloud」を導入し、指定のデータを取得してクラウドデータベースに保存・可視化できることを確認するPoCプロジェクトを推進しました。
クラスメソッドとの連携に関する今後の展望について、大田さんは以下のように話します。
塩野義製薬が掲げるビジョンの実現には絶え間ないIT技術革新・改善が不可欠です。クラスメソッドはこれからも同社を技術で支えられるよう努めてまいります。