「ICTの力で決算関係者を本質的業務へと導く」というミッションのもと、開示決算自動化システム「WizLabo(ウィズラボ)」を提供する宝印刷。同社ではWizLaboの安心・安定した稼働を維持しつつ、トラフィックの増減に対応した運用コストの削減を目指し、DR環境をAWS上に移行することを決定しました。クラスメソッドとの取り組みの背景にあった課題、支援により得られた成果について、プロジェクトをご担当いただいた皆さまにお話を伺いました。
ピーク時は閑散期の2~3倍のアクティブユーザー数。DR環境の維持コストに課題を感じていた
お話を伺ったICTソリューション部システムインフラ課では、WizLaboのインフラ基盤、具体的にはオンプレミス環境に構築されている本番環境、AWS環境のステージング環境、そして以前は、オンプレミスとクラウドの2つの環境を組み合わせて構築されていたDR環境の運用保守を担っています。執行役員としてICTソリューション部を管掌する牟田さんは「非常に責任の重い仕事」だと話します。
本番環境の継続利用が不可能になった際にシステムを復旧・修復するためのDR環境は、お客さまに安心してWizLaboをご利用いただくために必要不可欠な存在です。以前のDR環境は、データの同期を行っている部分をオンプレミス環境に、フロントのアプリケーションサーバーをクラウド環境に構築していました。しかし、お客さまの決算月による繁閑の差が大きいこと、それによる運用保守のコストマネジメントに課題を感じていたそうです。以前のDR環境が抱えていた課題について、システムインフラ課長の村越さんが振り返ります。
「上場企業のお客さまは、3月決算が最も多く、4月下旬から5月中旬までのピーク時はWizLaboのアクティブユーザー数が閑散期の2~3倍にまで増加します。オンプレミスのDR環境は、このピーク時に合わせたインフラ基盤に構築されており、監視・保守コストがどうしても大きな負担でした。」(村越さん)
細心の注意とリスク管理が求められるサービスだからこそ、クラスメソッドの技術力の高さが決め手に
構築と運用のコストを抑えられること、サーバー環境の統一でより安心できる環境を実現することを目的に、DR環境のクラウド化が決定しました。すでにステージング環境をAWS上で構築していた実績もあり、DR環境でもAWSが選定されています。その理由として村越さんは「AWSのインフラ基盤は他のクラウドより群を抜いている」と感じたそうです。
「大手動画配信サービスが、アクセス数が急増するサッカー世界大会の配信をAWS環境で大きな障害もなくさばき切ったというニュースが個人的には印象に残っておりまして、AWSは相当しっかりしたインフラ基盤を整えているのだと感じていました。AWSの潤沢なITリソースを、必要なときに数クリックの操作だけでサーバー台数を調整できること、つまりWizLaboの繁閑に合わせて柔軟にサーバーリソースを調整できることは、維持コストの軽減と安心したシステム運用にとって大きなメリットです」(村越さん)
「複数社にご提案いただき、実際にPoCとしてWindows OS環境でAuto Scaling運用を実現できるかどうかを確認させていただきました。WizLaboの運用には細心の注意とリスク管理が求められるため、『やっぱりできませんでした』ではとても困ります。
クラスメソッドのご提案で特に高評価だったのが、私たちが求めていた環境をAWSのサービスだけで完結して開発できる高い技術力と実績でした。Windows OSに関する知識も充分でSysprepといったWindows特有の概念を踏まえたAutoScaling実装も安心してお任せできています」(村越さん)
6カ月でAWSへの移行を完了。アーキテクチャ全体を俯瞰したサポートを提供しました
AWS構築プロジェクトは2024年3月からスタートし、6カ月後の同年9月には構築フェーズに一区切りがつき、無事に運用フェーズへ移行しました。構築にあたっては開発パートナーとしての距離感ではなく、同じプロジェクトに取り組む姿勢で臨んでいます。日々の開発進捗はプロジェクト・タスク管理ツール上で密にコミュニケーションさせていただき、やり取りが多いものでは1課題で最大150件ほどのやり取りをしました。
本番環境とDR環境の接続についてセキュリティの観点からのご提案をしています。以前の本番環境とDR環境の拠点間の通信は、万が一どちらかがマルウェアに感染してしまった場合、互いに波及する恐れがあると判断しました。現在は特定サーバー間だけを通信できる仕組みに変えています。
また、PoCにて重視されていたWindows OSのAuto Scaling運用では、バックアップからサーバーを復元した際にSIDが重複してしまい、同じサーバーとみなされるという問題を抱えていました。この点についても弊社からご提案させていただき、サーバーを複製する際に一度ドメインを抜け、Sysprepという処理を組み込むことで、SIDをリセットした状態のバックアップを取得するフローに変更しています。
「クラスメソッドの担当者の方とは何度もお打ち合わせを実施させていただき、DR環境だけでなく本番環境やステージング環境の構成に対して、 どういった影響が起こり得るかといったアーキテクチャ全体を俯瞰してサポートいただきました。その他にもパラメータの命名規則など、AWS環境のシステムを扱うにあたっての基本設計まで踏み込み、さまざまな場面でサポートいただいています」(小俣さん)
完全なクラウド移行で数百万円の導入コスト削減効果を実感。スムーズかつ丁寧なコミュニケーションを評価
DR環境の構築・運用コストの軽減を目的にスタートした今回のAWS移行。取り組みが始まってからおよそ8カ月が経った現在、実際にどのような成果が得られているのでしょうか。プロジェクトマネジャーを務めた村越さんに総括いただき、現時点で得られている定量的な成果を伺いました。
「DR環境のAWS導入コストは、オンプレミスのサーバーを購入・更新しないだけでも最大で数百万円の削減効果を実感できています。まだ構築が完了してから3カ月の段階ですが、運用コストは年間で2割ほど減少する予想です」(村越さん)
導入、運用コストを削減できた一方で、繁閑の差にも柔軟に対応できるクラウド環境が得られたことも大きな成果です。3月決算以降のピーク時に耐えられることはもちろん、数クリックの操作でサーバー70台分のITリソースをたった15分でオートスケールできることが確認できています。目標復旧時間に関しても当初の要件通りの環境を実現しました。
「私は入社してまだ2年程度なのですが、今回の取り組みで無事にDR環境をクラウド化できたことによってWizLaboのシステム構成を改めて深く理解することができました。クラスメソッドだけでなく、WizLaboのアプリケーション担当のエンジニアと密に連携させていただいたことで、今後新規案件で構築する機会へ繋がる大きな学びを得られています。クラウド移行を進めつつ、WizLaboとAWS環境について改めて学ぶ余裕があったのは、安心してプロジェクトに取り組めたことが大きな要因だったと思います」(小俣さん)
より多くの上場企業、監査法人へのサービス提供を支えるインフラ基盤
ステージング環境のAWS導入に続き、DR環境のAWS導入も完了したことで、今後は、従来のお客さまであった上場企業に加え、上場企業の監査を担う監査法人にも新たなサービスを提供していきたいとのことです。現在、「監査・開示DX研究会」を発足し、監査業務のDX推進について議論し、より効率化していく取り組みとして、WizLaboと監査法人をつなぐ監査法人向けAPIを開発・リリースされました。
「今後より多くの上場企業、監査法人の課題を解決していくためには、増大するトラフィックでも安定して稼働するインフラ基盤は必要不可欠な存在です。今回サポートいただいたクラスメソッドには、今後も心強い強力なパートナーとしてインフラ基盤の運用保守に対して新しい提案やアイデアをいただけると嬉しいですね」(牟田さん)
事例取材の最後に、プロジェクトを最前線で主導された小俣さんより、AWSへの移行を検討されている方へのメッセージをいただきました。
「今回の取り組みで改めてAWSを触って感じたのは、AWSはサービスのアップデートが頻繁であることとサービスラインナップが豊富であることです。どちらも魅力的で頼もしい要素ではありますが、自社だけでAWSのすべてを知り、自社に最適な構成を導き出すのは、AWS未経験ではまず無理だなと感じました。だからこそ、クラスメソッドさんのような頼もしいパートナーとAWSを活用していくことは正しい選択だと、私は思います」(小俣さん)