愛知県名古屋市において上下水道事業を運営する名古屋市上下水道局。230万人を超える市民に安全な水道水を届け、快適な生活環境を支える地方公営企業です。年々変化する業務の多様化・複雑化に対応するため、同局では業務効率化に向けた取り組みを積極的に推進。2024年、文章作成や要約、アイディア創出など、様々な庁内業務での活用が期待される生成AIの導入検証プロジェクトを開始し、クラスメソッドがその技術支援を担当しました。
自治体の生成AI活用においては、行政文書を安全に扱える環境の整備が重要です。クラスメソッドは、AWSを活用したセキュアな環境構築と、庁内文書を活用するRAG(検索拡張生成)の実装、そして職員向けの実践的な研修を通じて、情報漏えいのリスクなく庁内業務で活用できる基盤を整備。同局における生成AI導入による業務効率化の取り組みについてお話を伺いました。
RAGによる行政文書活用で実現する業務効率化の基盤
生成AIサービスの利用では、入力データが外部に送信され学習用に保存される可能性があり、行政文書の取り扱いに課題がありました。特に役所内での利用においては、情報管理の観点から安全性の確保が欠かせません。
そこでクラスメソッドは、AWSの生成AIサービスであるAmazon BedrockとAmazon Kendraを使用し、上下水道局が管理するAWS環境内でGenU※アプリケーションを構築。入力データが外部サーバーへ送信されることのない、セキュアな環境を実現しました。
※ GenU:AWSが提供する生成AIビジネスユースケース集を備えた公式アプリケーション
また、行政文書をAIが参照できるこのRAG環境にて経理、労務、給与に関する419件の質問で実用性を検証。経理・給与関連の質問に対してはまだ課題が見える結果となりましたが、それらを分析し、AIが質問の意図をより正確に理解して適切な回答を生成するためには、文書の整備やプロンプトの改善が必要であることも明らかになりました。この分析は、今後のRAG環境の精度向上に向けた重要なきっかけとなります。
「各課から経理・労務・給与部門への問い合わせが多く、職員の負担が大きくなっていることが課題でした。RAGの検証を進めることで、問い合わせ対応を自動化でき、バックオフィスの業務を効率化できる可能性があることがわかりました。ただ、精度面で課題も多く見つかったので、原因の分析を進めていきたいと考えています」(安藤さん)
実践的な研修を通じて職員の活用スキル向上を支援
ほかにもクラスメソッドは、2度にわたる同局内での実践型研修をオンサイトで実施。十数名の職員が参加し、生成AIの基礎知識から実践的な活用方法まで、段階的な理解を深めました。
研修に先立ち、庁内業務の特性を踏まえた効果的な内容とするため、事前の情報収集と同局の担当者との内容すり合わせを入念に実施。文書作成業務における具体的な活用方法を中心に、実務に即したカリキュラムを設計しました。

「研修ではRAGの仕組み以外にも、生成AIの一般的な活用事例を紹介していただき、文書の作成、要約、企画立案に至るまで、さまざまな場面で生成AIを活用できることを学びました」(安藤さん)
参加した職員からは「使い方を学べてよかった」「もっと時間をかけて学びたい」といった好意的な評価が寄せられ、講義後も多くの職員が質問に訪れるなど、生成AI活用への高い関心が見られました。
試行利用の成果から見える今後の可能性
試行利用では、実際の庁内業務での活用を通じて具体的な評価が集まりました。「読み込ませたデータから適切に情報を引き出せている」「根拠を確認しながら庁内業務を進められる」といった手応えがある一方、「実際に発生した事例への対応にはまだ課題がある」「プロンプトの工夫でより適切な回答を得る必要がある」といった課題・改善点も見えてきました。
「生成AIを活用することで、バックオフィスの職員のリソースを本来業務に集中させられる可能性が示唆されました。持続可能な上下水道事業を運営していくために、今回試行を実施した分野以外での取組みを検討し、業務効率化につなげていきたいと考えています」(安藤さん)
クラスメソッドは、セキュアな環境構築からRAGの実装、職員のスキル向上まで、包括的な支援を提供できる強みを生かし、引き続き同局の業務効率化をサポートしてまいります。