自動車用鋳鉄部品のサプライヤーとして、グローバルでトップレベルの実績を持つアイシン高丘株式会社。100年に一度の大変革期を迎えた自動車業界で持続的成長を見据える同社は、DX推進の施策としてデータクラウド基盤の構築を決断。データプラットフォームサービスのSnowflakeを採用し、クラスメソッドの技術支援を受けて導入しました。すべての部門でデータ活用ができる環境の整備と、データ活用ラボでの活動により、データに基づいた意思決定を行う文化が醸成されつつあります。ゼロから挑んだ取り組みについて、プロジェクトを立ち上げた佐藤さんにお話をうかがいました。
効率化から次のステージへ進むため、全社共通のデータクラウド基盤の構築を決断
愛知県豊田市に本社を置くアイシン高丘は、鋳鉄・アルミ・ステンレス鋼などの素材を用いて自動車のエンジン部品やブレーキ部品を製造しています。早くからグローバルに展開し、海外に進出する自動車メーカーを支えてきました。
社会に求められるニーズへの対応を目標にDXを推進する同社では、市民開発やツール導入などにより業務効率化を進めてきました。しかし、効率化だけで未来に勝ち残れるのかという疑問が残り続けていました。そこで各部門長がゼロベースで議論し、DXの方向性を「高まる顧客ニーズへの対応」「次世代のビジネススタイルへの変革」「未来をひらくイノベーション」に整理しました。
ところが理想と現実の間には大きなギャップがあることがわかり、改めて共通課題を以下の3つに集約しました。
①分断されたデータの統合による顧客ニーズへのタイムリーな対応
②AIやBIによる働き方の抜本的な変革
③クラウドの柔軟性を活かした新技術の試行と革新的な方法の模索
これらを包括的に解決する施策を検討した同社は、データクラウド基盤の構築を決断しました。
「構築に踏み切った理由は、効率化から次のステージへ進むため、全社のデータ活用を支えるため、そして未来の変革を実現するためです」(佐藤さん)
Snowflakeを中心とした統合データプラットフォームを「HOKORA(祠)」命名
データクラウド基盤を構築するにあたり、同社は「社内に点在するデータをSnowflakeに集約してすべての部門でデータ活用ができる環境を実現すること」と、「データに基づいて戦略や意思決定を行うデータドリブン文化を社内に根付かせること」の2つをゴールに設定。Snowflakeを中心とした統合データプラットフォームを「HOKORA(祠:ほこら)」と名付けました。
HOKORAは単なるシステム名称でなく、データプラットフォームのSnowflake、データ変換ツールのdbt Cloud、クラウドサービスのアマゾン ウェブ サービス(AWS)、可視化・分析のMicrosoft Fabric/Power BIといったエコシステムを有機的に連携し、誰もがガバナンスを確保した状態でデータにアクセスできる概念を意味しています。
「HOKORA(祠)の言葉には、日本文化に根付いた“大切なものを収める空間”のイメージがあります。私たちもデータという宝をひとつひとつ磨きあげて統合し、最終的には意思決定やアクションによる価値創造につなげていきたい。そんな思いを込めています」(佐藤さん)
一歩ずつ手触り感を確かめながら進めるクラスメソッドの伴走体制を評価
Snowflakeによるデータ基盤の構築からBIツールによる可視化・分析環境の整備まで、幅広い領域をカバーするプロジェクトにおいて、同社は信頼できるパートナーとの“伴走”が成功のカギを握ると判断。「共創姿勢」「技術力と柔軟性」「持続支援」の3つの観点からクラスメソッドを採用しました。
「多くのベンダーが完成形を目指したデータ基盤を提案してきた中、クラスメソッドからは、実際の活用を想定しながら一歩ずつ手触り感を確かめていきましょうという話をいただきました。これなら一方通行でなく、対話を重ねながら進めることができると判断しました」(佐藤さん)プロジェクトは2024年10月からスタートし、1年かかりで構築を進めていきました。データの集約では、社内に点在するデータをSnowflakeに連携する機能を構築。RDBレコード、ファイル、 IoTデータといったさまざまなデータを取得し、前処理してSnowflakeに連携しています。
Snowflakeによるデータプラットフォームは、「蓄積層」「統合層」「マート層」の3層で構成しています。蓄積層で生データを蓄積し、統合層でデータを加工し、マート層でユーザーが直接利用できるデータを公開する流れです。これにより、品質保証と利便性を両立しながら、用途に応じたデータを提供できるようにしています。
「Snowflakeの構成はベストプラクティスや王道のアーキテクチャを第一候補として選択し、シンプルな設計による運用コストの低減と少人数体制での維持管理を目指しました」(佐藤さん)
分析に適した形式へのデータ変換はdbt Cloudを活用。公開用データの整備と加工をdbt Cloudで行い、ユーザーが直接SnowflakeにアクセスまたはBIツールで接続する環境を整えました。また、開発管理はdbt Cloudに一元化し、データマート開発やデータカタログ、ドキュメント生成までを自動化しています。
インフラ面ではコード化(IaC)を徹底し、AWSのリソースはAWS CloudFormationやAWS SAMによりほぼすべてをコード化しています。今後は Snowflakeのオブジェクト定義もTerraformでコード化を進め、共通のルールとセキュリティで動く体制を目指しています。
社員の育成と成長を目的とした「データ活用ラボ」を立ち上げ
HOKORAの構築と並行し、同社はデータ活用を推進するための横断組織「データ活用ラボ」を立ち上げました。学び・実践・HOKORAのブラッシュアップを繰り返すことで、データを使うのが当たり前という文化を広げていくことが目標です。
「基盤と体制を整えたとしても、利用する人が育たなければ意味がありません。そこで実践的なアウトプットを通してデジタルスキルを高め、自部門におけるデータ活用推進の担い手として成長してもらうことを目的とし、各部から選抜されたメンバーと技術サポーターによる推進体制を構築しました」(佐藤さん)
データ活用ラボの活動を進めるのに際し、クラスメソッドのBIチームにも参画を要請。ラボの参加メンバーに対する教育、SQLやツールの操作指導、ダッシュボードを作成するハンズオンなどの支援を受けました。その後、各部門から課題・テーマを収集し、重要度と実現可能性を踏まえてテーマを決定。優先順位を付けてテーマを推進し、成果と課題を全員で振り返りながら共有しています。現在は経理などバックオフィス系の業務において、社内データをSnowflakeに取り込んでPower BIで月次のレポートを作成するといった活用を始めています。
「強調したいのは、単なる研修や実践で終わらせない、データドリブン文化を醸成する波を起こす仕組みづくりです。アウトプットを通じた試行錯誤の過程でデータを理解し、整備する力、データを活用できるスキルを育て、実践の成果がHOKORAにフィードバックされることで基盤自体もブラッシュアップされていく。この循環によって、学びと成果が組織全体に広がると考えています」(佐藤さん)
“データを使って考える” 文化が徐々に全組織へ浸透
プロジェクトを立ち上げてから約1年。その間に同社のデータ活用環境は大きく変化しました。従来は基幹システムや周辺システムのデータはすべてOracleに集約されていたものの、直接アクセスして分析しようとするとシステムの稼働やデータに影響が出るリスクがあり、簡単には触れない存在でした。Snowflakeにデータが集約されたことで、安心してデータをオープンにできる環境が整いました。「IT部門として“この環境なら公開しても大丈夫”といえるようになったのは大きな前進」と佐藤さんは語ります。
もう一つ大きいのは、データの見える化が進んだことです。以前は、Excelの中に担当者しか知らない数字や集計ロジックが眠っており、部門をまたいだ共有ができていませんでした。現在は、HOKORAに統合されたデータをもとに、経理・調達・生産といった各部が自分たちの方針としてデータ活用を位置づけるようになっています。
「データを使って考える文化が、組織の中に広がり始めています。基幹システムの中にある大量のデータもHOKORAを通じて活用できる資産に変わりつつあります。単なる効率化でなく、データを資産に変えていく活動にステージが上がった。この1年で感じている大きな変化です」(佐藤さん)
Snowflakeついては、開発者ライクなUIで扱いやすいという印象が確信に変わったといいます。機能アップデートも速く「世界の技術トレンドにキャッチアップしている感覚がある」と佐藤さんは語ります。
「使えば使うほど単なるデータベースではなく、技術成長に追随できるプラットフォームであることを実感しています」(佐藤さん)
Snowflakeに統合されたデータを活かしたAI活用へ
今後については短期的な計画として、グローバル拠点も含めたデータ共有の仕組みを整えることを目指しています。データの取込み方式についても基幹システムやCSV/Excelのバッチ連携に加え、設備データやIoTデータの準リアルタイム連携を目指す方針です。また、SnowflakeのIaC化や必要最小限の情報開示を実現するダイナミックデータマスキングの運用整備も進めていく予定です。
中長期的には、Snowflakeに統合されたデータを活かしたAI活用を見据えています。Snowflake Cortex AIのエージェント機能により自然言語でデータにアクセスできる環境を整備し、Snowflake Inteligenceを利用してデータ探索やモデル生成の効率化を図るものです。また、Microsoft FabricのCopilotやCopilostudioを活用して利用者がデータに質問すれば自動でレポートや可視化が生成される仕組みを実現し、誰もがデータと会話しながら意思決定ができる世界を目指します。将来的にはRAGの仕組みを整え、社内のデータに基づいた業務特化型のAIエージェントの開発に取り組む計画です。「購買担当者が“この仕入先の取引トレンドとCO2排出量をまとめて欲しい”と聞けば、Snowflakeから関連データを抽出し、Power BIで可視化し、AIが解釈して答えてくれる、そんな未来像を描いています」(佐藤さん)
1年間にわたりプロジェクトを支援したクラスメソッドについては、次のように評価し、今後への期待を寄せています。
「データクラウド基盤の構築は、私たちにとって前例のない挑戦です。だからこそ、単に技術支援をしてもらうのではなく、一緒に悩み、一緒に考え、前に進める“伴走型”のパートナーを求めました。
当初、私たちは3つの観点に期待をおいていました。
1つ目は、共創姿勢。正解のない中でも、対話を重ねながら道筋を見つけていけること。
2つ目は、技術力と柔軟性。SnowflakeやAWSといった新しい技術を理解し、最適解をスピーディに提案できること。
3つ目は、持続支援。構築して終わりではなく、社内に根付く仕組みを一緒に作れること。
そして今回、まさにその3つを兼ね備えたパートナーに出会うことができました。
「まずは手触り感を大事にしながら、一歩ずつ確かめていきましょう」。――この言葉どおり、伴走してくださったおかげで、HOKORAは着実に形になっていきました。
この“伴走の力”こそが、私たちがデータ基盤を構築できた最大の原動力だったと思っています」(佐藤さん)
HOKORAの構築により新たなデータ活用のステージへ踏み出したアイシン高丘。クラスメソッドはSnowflakeを中心としたデータクラウド基盤への技術支援を通して、データドリブン文化の醸成に貢献してまいります。


