クレジットカード決済、口座振替、コンビニ決済、電子マネー決済など、私たちの生活において決済サービスは欠かせないものになっています。こうした決済手段をワンストップで提供しているのがビリングシステム株式会社です。現在、収納代行(決済代行)、公共料金等支払代行、NFCリーダーの販売といったBtoB向けのサービスから、BtoC向けのスマホ決済まで多彩なサービスを提供しています。
スマホ決済サービスは、当初からAWS上にシステムを構築していましたが、年を重ねるごとに最新のアーキテクチャから離れていき、システムの拡張や運用が困難になっていきました。そこで同社はクラスメソッドに協力を仰ぎ、最新のアーキテクチャに移行。合わせて、社内の知識レベルを底上げすべく、クラスメソッドが提供するAWS公式トレーニングサービスを活用し、システム関係者が受講しました。
クラスメソッドに依頼いただいた経緯や実際の取り組みを、システム本部 システム基盤部 部長の中山優さんと、同マネージャの磯本康佑さんにうかがいました。
スマホ決済サービスのアーキテクチャをモダンに進化
企業向けの収納代行を主力事業とするビリングシステムですが、近年はスマートフォンの普及により、個人向けのスマホ決済サービスが急成長しています。同社の「スマホ マルチ決済サービス」は、国内加盟店向けに、訪日中国人観光客が利用しているWeChatPay/Alipayや、日本国内で普及拡大しているPayPay等のスマホ決済を同一画面から利用可能とするサービスです。現在、多くの企業や店舗が採用して集客に活用しています。
また、独自のスマホ決済サービスとしては、コンビニ払込票のバーコードをスマホのカメラで読み込むだけで金融機関口座から即時に支払いができる「PayB(ペイビー)」を提供しています。現在、ゆうちょ銀行やメガバンクなど44行と接続し、加盟店数は一般企業7,611社、地方公共団体1,056団体に達しています(2021年6月時点)。
「スマホ マルチ決済サービス」および「PayB」のサービス基盤は当初からAWS上に構築し、フルスクラッチでアプリを開発していました。しかし、スマホ マルチ決済サービスはリリースから5~6年、PayBは4年の歳月が経過し、開発面や運用面で課題が発生していました。
そのタイミングでAWSのサーバOSであるAmazon Linuxがサポート切れを迎えるとアナウンスがあったことも追い打ちとなりました。同社はサービスを発展させていくためには、最新アーキテクチャにモダナイズする必要があると判断。改めて社内にクラウド基盤の専門部隊を設け、開発から定期的なアップデート、構成変更、既存環境との接続まですべて自社で対応することにしました。
AWSのベストプラクティスに沿った基盤を構築
「スマホ マルチ決済サービス」および「PayB」のモダンアーキテクチャへの移行と内製開発を決断した同社は、複数のAWSパートナーを検討した中から、クラスメソッドを採用しました。選定の決め手は、料金体系と信頼性の高さの2つにありました。
「一定のバッファを持って契約したうえで、実際に発生した作業時間分だけ支払う料金体系は、決済担当者としては魅力的でした。加えて最上位のAWSプレミアコンサルティングパートナーに連続して認定されているクラスメソッドの実績は非常に心強いものでした」(中山さん)
移行プロジェクトは、2019年12月にキックオフ。2020年は新型コロナウイルス感染症の対応などで開発はいったん中断。一段落がついて再開し、2021年6月の段階では基盤構築とサーバとアプリ間の通信テストまでは終了しています。今後、全体テストなどを経て、2021年内には新アーキテクチャに切り替える計画です。
新たなアーキテクチャは、従来のAmazon EC2とAmazon RDSの組み合わせを、Amazon EC2と高性能のAmazon Auroraの組み合わせに変更し、ロードバランサーとしてALBを採用しています。高いセキュリティレベルと可用性が求められる金融系のサービスとして、セキュリティの機能はAWS WAFを追加し、Amazon Inspectorでアプリのセキュリティ状態を監視しています。BCP対策としてはAWSの大阪リージョンにDRサイトを構築し、AWS Backupでバックアップの自動化を実現しました。開発を振り返り、磯本さんは次のように語ります。
クラスメソッドは開発チームに対して、環境構築のための叩き台を提供したり、AP+DBの2層構造の検証をサポートしたり、エンジニアからのQA相談に対応したりと、さまざまな支援を行いました。
「AWSに不慣れなメンバーが多い中、クラスメソッドからは丁寧なサポートいただきました。アーキテクチャに関しても、豊富な実績をもとにAWSのベストプラクティスに沿った提案をいただき、時代の流れに沿ったサービス基盤を構築することができました」(磯本さん)
新アーキテクチャへの移行後は、自社内にさまざまなノウハウが蓄積されるため、開発効率や運用効率の向上が期待されています。
「今回の内製開発により、基盤側とアプリ側が一気通貫で見渡せるようになり、さまざまな要望にも迅速に対応することが可能になります。従来システムではアーキテクチャの事情でメンテナンスは月に1回、サービスを止めて夜間に実施していましたが、新アーキテクチャによってサービスを止めることなくいつでもメンテナンスができるようになりました。今後も、安定稼働とコスト削減に向けてさらなる改善を続けていきます」(中山さん)
開発現場を熟知したクラスメソッドのAWSトレーニングサービスを活用
一方、今回のプロジェクトの過程で明らかになったのは、開発チームのメンバーの中でAWSの知識に濃淡があることでした。そこで技術レベルの底上げと均質化をはかるべく、同社はプロジェクト中の2021年3月~4月にかけて、クラスメソッドのAWSトレーニングサービスを受講することにしました。
「Amazon EC2、ELBといった言葉の共通認識がないと、チームで開発を進めることが難しいことを実感し、役職や年齢に関係なく開発に関わるチーム全員がトレーニングを受ける必要があると判断しました。せっかく受けるなら、私たちの事情をよく知っているクラスメソッドが提供しているサービスがいいだろうというのが選定の理由です。加えて、クラスメソッドなら受講費用の割引が受けられること、AWSを使った開発現場をよく知るエンジニアがトレーナーを務めることも加味して決めました」(中山さん)
「単に聴講するだけでなく、ハンズオンで実体験したいと思っていたので、まさに理想どおりのプログラムでした。役員会の席では、管理職も含めて最低限の底上げが必要であることを訴え、プロジェクト関係者全員が受講する承認を得ました」(中山さん)
セミナーは受講者からも好評で、実施後のアンケートでも「基礎が学習できてよかった」「開発時にどのサービスを使うかがわかった」「過去に学習したことが復習できた」「新しいサービスを知ることができた」「ハンズオンで操作することで理解が深まった」といった声が寄せられています。
「当初はAWSに関心のなかったメンバーもいたと思いますが、実際の開発と並行して進めたこともあり、自発的に学ぶ姿勢が見られました。受講後にAWS認定クラウドプラクティショナーやAWS認定ソリューションアーキテクトの資格を、自発的に取得した人がいたことは目に見えた変化でした」(中山さん)
トレーニングを主導したクラスメソッドに対しては、トレーナーの丁寧な指導を評価。「AWSについて初めて学ぶ管理職のメンバーもハンズオンに取り残されることなく、ひととおりのものを作るまで、根気よく教えていただき、非常に感謝しています」と中山さんは語ります。
今後も今回のメンバーを対象に、第2弾、第3弾として、開発の手法を高めたり、運用レベルを高めたりするような応用編のトレーニングや、全体のレベルを底上げするようなトレーニングの受講を検討しています。
クラウドシフトに向けて、さまざまな情報提供を期待
今回の「スマホ マルチ決済サービス」および「PayB」のサービス基盤の移行を終えた後には、現在オンプレミス環境で稼働しているサービス基盤をAWSに移行するべく準備を進めています。
「今後のクラウド化構想も含めて、クラスメソッドには相談に乗っていただけたらと思います。日々増え続けているAWSのサービスをユーザー企業である私たちがキャッチアップするのは不可能に近いので、当社で有効な新しいサービスがあれば随時紹介してもらえたらうれしいです」(磯本さん)
クラスメソッドは、ビリングシステムが進めるクラウドシフトと、AWSやクラウドに関するレベル向上を引き続き支援してまいります。