新型コロナウイルスの流行によってダメージを受けた業界のひとつ、宿泊業。しかし、大きなダメージを受けた企業のひとつであり、国内有数のリゾート運営会社の星野リゾートはそのピンチを機会に仕組みを進化させました。同社はシステムのコストを徹底的に見直して改善し、余裕ができた分でウィズコロナを意識したサービスを短期開発。ニューノーマル時代に対応した宿泊施設として評価されました。
数々の取組みのなかで星野リゾートはAWS総合支援サービス「クラスメソッドメンバーズ」をご契約いただいています。クラスメソッドはAWSのシステム構成やコスト・契約に関するアドバイスを行い、星野リゾートのスピーディーな開発と改善を繰り返す“攻めのコロナ対策”を支えました。
この記事ではAWS Summit Onlineで行われた星野リゾートの「コロナ禍に躍進した星野リゾートのIT戦略 〜コストカットと事業拡大を両立するAWS活用術〜」と題したセッションの模様をお届けします。
稼働大幅減の先を見据えたコロナ禍対策
情報システムグループシニアアーキテクトの藤井崇介氏は2018年に星野リゾートに中途入社し、それまでほぼ外注メインでシステムを開発していた同社への内製化を推進してきました。
そんななかで2020年にコロナ禍が訪れ、星野リゾートも苦境に。3月から北海道や東京で宿泊施設の稼働が落ちはじめ、4月の緊急事態宣言発令を境には稼働が軒並み前年の1〜2割と大きく落ち込みました。施設の長期休業や開業延期、スタッフも一時帰休するなど藤井さんは「リーマンショックや東日本大震災とも比べ物にならない大ダメージ」だったと、創業以来最大の赤字だったことを紹介しました。
これに対し、同社の代表・星野佳路氏は全社一丸となって取り組む18ヶ月におよぶ非常時対応を策定しました。いずれ開発される治療薬やワクチンが登場すれば、旅行需要は反動で大爆発すると見込み、それまで資産・人材を維持してコロナ禍で行うべきことを優先させる方針を打ち立てます。
それをきっかけに、システム開発の責任者である藤井さんは、マーケティングや予約担当の方との綿密な打ち合わせを行う日々が始まりました。
クラウド活用による2段階のコストカット
藤井さんはシステム担当として、情報システムグループのコストカットを
・適切なクラウドサービス利用
・機能が重複するサービスの廃止
・コストパフォーマンスの悪いサーバの破棄
・コストパフォーマンスの良いサービスへの置き換え
の4ポイントに絞りました。
「データセンターのサーバはコストパフォーマンスの良いクラウドに置き換えました。さらにAWS利用費もコストカットの対象にして、稼働時間やサービスそのものが適切かをすべて見直しました。200台ほど立ち上がったEC2のうち、テスト環境であればいつまで動かすか、本番環境は動かさない時間帯がないか見直しています」(藤井さん)
このほか、長年運用してきたAMIやS3に不要なデータが蓄積され、コストに悪影響を与えていることが判明。インスタンスタイプも、T2系、M4系などの古いものを新しいものに置き換えるだけでもコスト削減の可能性が見えてきました。2ヶ月におよんだコスト削減施策の結果、星野リゾートは13%のコスト削減に成功しました。
AWSコンサルティングでさらなる改善に
成果を出した藤井さんに、経営陣はさらなる期待をかけます。しかし、自力ではここまでが限界でした。そこで、外部の力を借りて新しいヒントを得ることを考え、AWS環境の無償コスト診断を受けたことをきっかけにクラスメソッドをパートナーにしました。
契約の見直しによるコスト削減
同じサービスを利用する際にも、契約プランを見直すだけでコストが下がることはあるものです。クラスメソッドメンバーズの請求代行によって、それまで契約していた一律割引のプランから、CloudFrontの割引が大きいEC2/CDN割引プランに切り替えました。
リザーブドインスタンスの購入
一定期間の継続利用を条件に、大きな割引が受けられるAWSのリザーブドインスタンス。「購入すればコストが削減できること自体はわかっていましたが、具体的にどのように進めればよいのかわからない」という藤井さんの疑問点もクラスメソッドはサポートしました。EC2リザーブドインスタンスでは、オンデマンド料金に比べて最大72%の割引が期待できるケースもあります。
結果、EC2を78台、RDSを18台をリザーブドインスタンスに置き換えることにより、星野リゾートは大きなコストダウンに成功しました。
サーバの監視結果から適切なインスタンスタイプに変更
コンピューティングリソースに対して「余裕を持ちたい」「管理を少しでも楽に」という理由で大きめに確保してしまうケースはあるものです。クラスメソッドは、メモリやCPUなどサーバーの負荷状況をチェックしてインスタンスタイプを適切なものに変更する提案も行いました。
こうした改善を積み重ねていった結果、AWS利用料金の節約の効果が出て、約29%のコストカットに成功したのです。
サービス開発の加速化
守りの新型コロナ対策が成功した同社は、次に“攻め”の新型コロナ対策に転じます。コストカットできた予算をもとに新たに投資をしようという流れです。
需要を回復するためにできること、効率を改善できること、そのためにシステムを導入していこうという狙いで、短期間のうちに成果を上げることが求められていました。同社はコロナ期間中に大浴場の混雑状況を可視化するサービスやGoToトラベルキャンペーン対応、ギフト券の販売をふるさと納税に絡めるサービス、結婚式の新サービスを開発していきましたが、これらはすべて1〜3か月でリリースしています。
しかし、新型コロナが逆に追い風となりました。コロナによって生まれた「密の状態を作らない」という評価軸をもとに、人手では大浴場の混雑状況の把握が難しいという課題が生まれました。この課題を聞いたその日のうちに、IoTを活用するアイデアを思いつき、急きょIoTに強い協力会社へ相談し、社内でもチャットを活用して担当者を決めることで、投資の合意を得ることができ、開発を進めます。
センサーからデータを取り込んで通知する、といった部分は専門企業に依頼し、AWS上でサービスを作るコアの部分は自社で構築しました。これらの取組が、メディアの取材を通じて『星野リゾートは三密対策がしっかりしている』という対外的なブランディングにつながったり、社内でも課題を次々達成することでの信頼感向上につながったりして次のIoT投資へとつながっています。
コスト削減とシステム投資によるコロナ禍の躍進
「やったことは『コストを削減し投資できる余力を蓄える』『世の中の状況に合わせて素早く対応する』の2つです」
星野リゾートはどうしてコロナ禍において前進できたのか、藤井さんはこう振り返ります。その上で新しい挑戦ができることで、またコストが下げられる良いスパイラルも生まれたと付け加えます。
同社はコスト削減について
・コスト削減の対象を見極める
・専門家に適格なアドバイスをもらう
・定期的なモニタリングで改善を繰り返す
そしてシステムへの投資としては
・レガシーのシステムを少しずつでも減らす
・世の中のニーズを素早く察知し実現する
・小さく始め、改善し続ける
に取り組んできました。
そのためには欠かせない技術基盤がありました。それは、AWSを駆使したクラウド環境です。アイデアがあった翌日にはデモを出せて、利用状況に合わせて進化させ、開発コストを削減できるメリットも生まれる。ただし、クラウド利用ですぐにこのメリットが享受できるわけではありません。藤井さんは続けます。
「大切なのは内製化です。変化をいかに早く察知して対応するか、現場や経営陣から出た意志をいかに実現するか。そのスピード化を図るには、組織の内製化が必要です。それは完全に自分たちだけでできるとは思っていません。コストダウンなどでクラスメソッドの力が必要でした」
パートナーの持つノウハウと自社のノウハウをあわせて蓄積し、最終的に自分たちの力にしていく。こうした流れを実現するためには、土壌の整備が必要となります。自社だけでは困難だとしても、外部でそのきっかけを提供して伴走しながらノウハウ・スキルを取り込めば、内製化は実現します。
コロナ後には、現在停滞している宿泊需要の反動により、かつてない需要の高まりが想定され、今はその時に備え、準備をする段階になっています。
そのために、現在星野リゾートでは、クラスメソッドメンバーズを活用し、以下の取り組みを行っています。
・さらなるコストの改善
・開発の効率化
・開発の標準化作成
・セキュリティの強化
・AWS人材の育成
今のうちからスキルを高め、効率的な基盤を構築することで、変化の激しい時代を乗り越えたいと考えています。
クラスメソッドメンバーズで内製化をサポート
事業を成功させるためには、素早く世の中に出してフィードバックを受けながらトライ&エラーを繰り返すことが大切です。そのためには、自分たちの事業を把握する自社メンバーが主導権を持ち、事業環境に応じて、スピード感ある対応できる体制づくりが必要になります。
クラスメソッドの内製化支援サービスでは、各社の状況に合わせて内製化を実現するための支援を行います。体制づくりからコンサルティング、技術支援、コスト削減など、多岐にわたる支援が可能です。自社の内製化力を高めるために、クラスメソッドメンバーズをご活用ください。