社会全体の成長と発展のために、「働く」ことを通して新しい価値の創造とプラットフォームを提供し続けているHRソリューションズ株式会社では、利用していたクラウドサービスの終了に伴い、AWSへのマイグレーションを検討することになりました。
使用中の仮想サーバーを、そのOSやアプリケーション・データなどに影響を与えることなく、そのまま新しい環境へ移行させる「リホスト」の手法をとり、AWS上で稼働させることを選択した同社。
このマイグレーションのコンサルティングとサポートを、クラスメソッドはパートナー企業のクロス・ヘッド株式会社と共に行い、当初想定よりも大きく期間短縮することに成功しました。
AWSのマイグレーションツールを活用した大規模な移行作業のプロセスと、サポートおよび移行後の運用についての感想を同社の事業創造部の皆様にうかがいました。
既存利用サービスの終了によって余儀なくされたマイグレーション
同社は人材の募集から応募・採用・入社・再雇用まで、採用と雇用にかかわるあらゆるフェーズで課題解決を図るサービス「ハイソル」「リクオプ」をはじめ、様々なサービスを展開しています。
同社のサービスは1,080企業41万事業所以上に導入されており、年間のべ600万人以上の就転職を支援しています。
2018年夏頃から仮想サーバーの移行について検討を始めた同社。
当初は、同じクラウドサービス事業者が提供する別サービスをはじめ、どのクラウドサービスを利用するかという点から検討していました。
「これまでの事業者に加え、大手クラウドサービス企業が候補に上がりました。当社代表からは、選択する際の一つの観点として、共に成長できる企業であることという声があり、新しい価値の創造に向けて柔軟に取り組むことができる環境づくりもテーマでした。新サービスを次々に提供し新たな価値を生み出していくAWSは、当社の企業理念にも通じる企業でしたし、現場にとっても魅力あるサービスだと映りました」
と事業創造部を統括する小山さんは語ります。
複数のクラウドサービス候補の中から、社会課題への解決策を様々打ち出している企業姿勢に共感し、AWSを使う決意を固めたそうです。
テクノロジーによって課題解決を目指す姿勢に共感
AWSへの移行を想定してパートナー企業を探していた同社は、その候補としてAWSからクラスメソッドを紹介されました。
クラスメソッドは最新技術を自ら試して「やってみた」ブログを「DevelopersIO」に数多く公開しています。この「やってみた」を実店舗にまで拡大して実証実験しているのが、秋葉原にあるウォークスルー型レジレス店舗「DevelopersIO CAFE」です。
テクノロジーを通じて、次の時代に何を作るのか、どのような社会課題にアプローチするのかという意識を強くもつ同社では、新たな顧客体験価値の創造に取り組む同カフェの在り方について
「AWSと同様に、社会の課題を解決する姿勢を体現している」
と共感いただけたそうです。
同社の顧客にはサービス業も多いとのことで、
「少子高齢化による人口減少などで働き手の確保がより難しくなる時代、クラスメソッド様の技術を活用したウォークスルー型レジレス店舗のような省力化、省人化の事例は、私自身とても感化されました」(小山さん)
IT技術を活かして人材不足の社会課題に取り組み、新しい技術を活用していくという姿勢の部分にも共通点を見出していただき、システムのマイグレーションを進めるパートナーとしてクラスメソッドを選んでいただきました。
大規模マイグレーションの計画立案
HRソリューションズが移行を予定する環境は、大規模であっただけでなく、サーバー間でまたがって処理機能を構成しているケースもあり、切り替えのタイミングは慎重を要しました。
さらに同社にはシステム停止の時間も可能な限り短くしたい事情がありました。
「求職者が企業に応募する機会を逃してしまうことが、当社のお客様にとっては『機会損失』となります。ビジネスインパクトが最小限になるようリスクを明確に洗い出すのはもちろんのこと、できるだけシステムを停止させないように移行する必要がありました」(小山さん)
利用者や求職者へのサービス提供への影響と移行作業の安全性を秤にかけて、手順や順序を何度も組み直しながら複数回にわたり作業リハーサルを行った結果、導き出したのは約10時間。この時間内での移行を目指して作業計画がたてられました。
全業務サーバーの移行をするにあたり、移行作業も2フェーズに分けることとしました。
まず、パブリッククラウドのサービス停止がせまっているサーバー群をフェーズ1として2019年4月から検討開始。残りのサーバーをフェーズ2として2020年4月から開始する計画を立てました。また、マイグレーションの実施にあたって、クラスメソッドによる移行環境の設計のほかに、サーバーごとの設定など実作業量の増大も見込まれたことから、マイグレーション実績が豊かなクロス・ヘッド株式会社をパートナーとして、共同でプロジェクトを遂行することとしました。
CloudEndure Migrationを活用して2年計画を前倒しで終了
移行前の環境で10年ほど稼働していた同社のサービスは、月日が経つにつれてインフラネットワーク構成も複雑になっていました。
当初は同社にてプロジェクトを全体推進し、マイグレーション作業も進める予定でしたが、
「製品の改良開発やサービスの品質向上活動を止めずに前に進めながら、AWSへの移行を行うにあたって、技術面や体制面での補強は必要でした」(小山さん)
プロジェクト途中で役割分担を組み直し、クラスメソッドはコンサルティングとして技術要件の整理と、AWS環境の設計支援、移行方法の選定を実施、クロス・ヘッド社は常駐スタッフも配置して移行作業をサポートしました。
移行ツールは、AWSへの移行を自動化するCloudEndure Migrationを用いました。
移行元サーバーにCloudEndureエージェントをインストールし、システムのパフォーマンスを下げることなく情報を収集、AWS内に作成されたステージング領域に複製します。
複製された後も、CloudEndureエージェントは移行元サーバーに対する変更を追跡して随時更新、その情報を元にAWSの新たな本番環境にマイグレーションを行います。
フェーズ1はCloudEndureの動作などを丁寧に検証しつつ、予定どおり1年間で完了することができました。フェーズ2では、フェーズ1での検証や蓄積されたノウハウを活かしてスピードアップを図ることができ、大幅に期間を短縮することができるようになりました。
当初、全サーバーのマイグレーションの終了は2021年3月を予定していましたが、2020年9月にはすべて完了。2年間の予定を1年半に大幅に短縮して、2020年10月にはAWS環境での運用を始めることができました。
システムの「見える化」により次の課題がクリアに
以前のクラウド環境にあったサーバーの移行はすべて終了しました。社内業務に使っていたADサーバー、ファイルサーバーまで移行が完了し、業務に必要なサーバーは全てAWS上で稼働しています。
AWSの新機能・新サービスを活用した本格的な運用はこれからですが、早くもブラックボックス化していたシステムにAWSならではの「見える化」効果が表れてきています。
今回はOS、ミドルウェア、アプリケーションには触れずにインフラだけの移行だったため、現行システムをAWSに最適化していくことで、さらにコストや運用を改善していける可能性があります。
また、今後のAWS活用にむけた希望も社内に広がりつつあります。マイグレーションを通じて、同社のエンジニアにAWSに関するスキルトランスファーが行われたことで、サーバー増設を行った際も、AWSクラウドならではのスケーラビリティを活かして社内エンジニアによって素早く環境を構築できるようになりました。ビジネスのスピードアップに重要なクラウド技術を社内にも獲得できたのです。
「これからは攻めの運用に向かうべく、AWSのサービスを使い倒したいですね。例えば機械学習を活用して、応募が多かった求人原稿を分析すれば、企業と求職者のマッチングを高める工夫をすることもできるでしょう。当社のお客様に対するサービス向上にも繋がります。」(倉重さん)
部門のエンジニアにも良い影響が出ています。最新かつ汎用性の高い技術を使ったシステムの運用・管理ができるようになったことで、モチベーションの向上が見て取れるようになりました。
「エンジニアがAWSの資格を取得し始めました。技術習得の目標が明確になってきました」(林さん)
クラスメソッドは、移行後の環境について最適化を目指すHRソリューションズに対してAWSの新しいサービスをご紹介したり、セキュリティ面のアドバイスなど、引き続きサポートをしています。
長年運用したシステムのマイグレーションを行うのは、作業工数の負担やリスクなどを考慮して躊躇することもあるでしょう。限られた時間や制約がある中ではなおさらです。
しかし、運用保守や、将来的な拡張性などを考えると、クラウドに移行するメリットは非常に大きなものになっています。
既存のシステムに大きく手をいれることなく、まずはそのままAWSにリフトし、その後で最適化へシフトを図ることも可能です。
クラスメソッドは、お客様の環境や条件にそって最適なマイグレーション計画・設計をご提案します。