クラウド上のHPC環境で創薬サイクルを高速化
CCoE創設による活用推進

塩野義製薬株式会社

経営戦略本部デジタルインテリジェンス部
奥村利幸様、勘場大様、黒澤晋様、岩本遼様、髙市伸宏様

公開日:2020年8月26日

国内大手製薬会社の塩野義製薬株式会社は、カタカナ4文字の「シオノギ」の名前でも親しまれています。感染症治療薬が主力の同社は1878年創業と歴史も古く、2018年には抗インフルエンザ薬を発売、現在も新型コロナウィルス感染症に対する薬・ワクチンの開発を行っています。

新薬の開発(創薬)には、いまや高速なコンピューティングリソースによる科学技術計算が欠かせません。同社でも開発候補化合物の探索にオンプレミスのマシンによるシミュレーションを実行していましたが、クラウド活用を検討するようになりました。そこで、AWS環境の初期構築やCCoE体制作りについて支援させていただいたのがクラスメソッドです。

AWSを活用したシミュレーション環境とログ管理環境の構築で同社は何を目指し、クラスメソッドがどのような貢献をしたのか。経営戦略本部デジタルインテリジェンス部の岩本遼様、黒澤晋様、髙市伸宏様にお話をうかがいました。

創薬の研究現場で活用されるIT

近年、創薬のプロセスは変化してきており、医薬品になりそうな化合物を見つけ出すためにコンピュータ上でのシミュレーションが行われるようになってきています。こうしたシミュレーションには高速なコンピューティングリソースが必要です。そのため、スーパーコンピュータや、複数のマシンをクラスタリングして並列演算ができるようにするなど、コンピューティングリソースも専用のものを使用するのが一般的になっています。

同社でもこれまでは、社内でGPU搭載マシンを数十台クラスタリングして日々演算をさせていました。たんぱく質と医薬品候補化合物の結合のシミュレーションでは、その環境をフル稼働させても休む暇がなく、ジョブが逼迫するほどの忙しさだそうです。

「社内に薬の候補となる化合物が数多くあり、そこから様々なシミュレーション・テストを行って候補を絞り込む作業をします。何十万の枝をそれぞれ演算して一つの当たりを引く宝くじを、ずっとしているような感じです」(岩本さん)

シミュレーションを繰り返すにあたって、演算速度が重要になるのは言うまでもありません。
医薬品として開発を進める化合物の候補をいかに早く見つけられるかどうかは、創薬プロセス全体の期間の短縮にも関わってきます。

しかし、オンプレミスで使用していたGPUマシンのクラスターには課題を感じることもあったと言います。
一つは、複数の研究者が同じマシンを使うことによる、計算環境のコンタミネーション。研究者によって使用したいプログラムが異なるのはよくあることです。計算環境に導入されたプログラムと相性の良いジョブ、悪いジョブが混在してしまうことがあり、環境の調整作業が必要になることもあったそうです。
もう一つは、シミュレーションの環境を新たに構築するのに、サーバー購入から始めると3ヶ月から半年ほどかかってしまうこと。そのため、計算リソースを増やしたいと考えても、すぐには増やせない状況でした。
さらに、研究者がシステムの環境のメンテナンスに時間を取られることで、本来の研究時間を環境の構築・維持の時間に奪われてしまう、という問題もありました。

こうした課題が絡み合い、
「計算をあきらめざるを得ないような場合もありました。そうすると、見つかるはずだった大切な結果が見つからないで終わってしまう、ということにも繋がるのです」(岩本さん)
と、研究開発にも影響が出ていたのです。

運用コストの低い計算リソースの確保に向けたクラウドの活用

こうした課題を解消して、創薬に必要な計算をさらに効率よく実行していきたいと考えた同社では、クラウド利用を視野に入れ始めたそうです。AWSの導入を決めた理由は次の3点だったと言います。
1.計算リソースの柔軟な確保:シミュレーションは一時的に大量のリソースを必要とするが、利用する時期は限られている。使えるときだけ使いたい。
2.AWSから提供されているAI(Amazon Comprehend Medical)を活用したい。
3.AWS Security HubAWS Configなど、自動化の進んでいるAWSのサービスを活用し、社内で発生している運用負荷の多い業務を軽減したい。

「もともと運用を支えていた部門ではありません。会社として攻めのデジタルを切り開く部なんです。『今ある負担を軽減する』ことを目的とするのではなく、『最新のテクノロジーを使うことで、従来では考えられなかったスピード感で、未来を自分たちで切り開く』という将来を描いていきたかったのです」(岩本さん)

同社では2019年末にAWSへ相談。AWSの運用は自社で行うことを前提に、技術アドバイスやノウハウ共有をしてくれるパートナーの紹介を依頼したところ、クラスメソッドら数社が紹介されました。
2019年のAWSのビッグイベントre:invent2019に参加していた岩本さんは、たまたま現地でクラスメソッドの社員と接する機会もあり、当社のことをご存知だったそうです。
「講演を聴いていたときに隣に座っていた方がクラスメソッドのジャンパーを着ていたんです。後日、技術ブログ『Developers.IO』でその方が書いたレポートを読み、講演の内容をあらためて理解できた、ということがありました」

社内にクラウド利用の知見、ノウハウを蓄積していくことが大切と考えていた同社では、サービスの受発注の提案ではなく、技術支援を行うパートナーとして活動することを提案したクラスメソッドに指名いただいたのです。

CCoEの創設と、クラスメソッドのサポート

技術力と技術支援による顧客伴走のスタイルを認められて、契約をいただいたのは2020年3月のこと。
ちょうどそのころ、AWSが開催したオンラインカンファレンス「AWS Innovate Online Conference」で、クラウドを活用していくための組織作りをテーマとした講演があり、そこでCCoE(Cloud Center of Excellence)という概念を知りました。

CCoEとは、クラウド活用推進を目的とした企業内の専門組織であり、導入計画立案、運用管理ポリシーの策定、技術情報の収集、人材育成などを担います。クラウドの全社横断的な活用を推進するために重要な役割をもち、AWSのホワイトペーパーなどでも企業内に設けることを推奨しています。

それまで岩本さんが所属する部署ではPoC的にクラウドは使っていたものの、ほかの部署を巻き込むことはもちろん、全社的な動きを進めたりするような推進力は欠けていました。そこで、CCoEを参考にしてクラウド利用の体制を組みなおそうと考えるようになりました。

まずは、社内にAWSスキル保有者を増やすべく、勉強会を開催することから始めたそうです。
「CCoEの人材は外部から登用と、内部人材の育成を両輪で回すことが必要になると思いますが、現状は内部人材育成から着手しました。そうした状況でナレッジを教えて頂くことは重要で、クラスメソッドにはかなりサポートしてもらっています。CCoEのメンバーはデータサイエンティストのような役割の人が多く、インフラ面・セキュリティ面の知識は不足していたので、運用・ネットワーク・セキュリティのことを教えてもらえて助かっていますよ」(岩本さん)

人材育成に向けた取り組みは功を奏し、徐々にAWS認定資格の取得者も増えているそうです。
クラスメソッドが行ったCCoEに対するナレッジの共有や、技術アドバイスについても高く評価いただけました。

また、クラスメソッドは、同社のユーザーがAWS環境を適切に利用できるようにするため、初期環境構築のサポートも実施しました。

AWS OrganizationsAWS IAMCloudFormationなどのサービスを使用して、複数のAWS環境へのアクセス権をユーザーごとに管理できるように設定したり、既存のオンプレミス環境やデータセンターとAWS環境を接続できるよう Amazon VPCAWS Transit Gatewayなどのサービスを利用した構成も提案、実装しました。

このような段階を経て、現在は各研究員が使いやすい形で準備できるAWS ParallelClusterを使い始めています。

「AI・デジタルを使って競争優位性を生み出したい人にはぜひ使ってもらいたいですね。社内の先進的な利用者が作ったアプリケーションをほかの研究者が使うなどして、波及的に全従業員に良い影響が出てくれればよいと願っています」(岩本さん)

クラウドの運用は4人でチームを作っていますが、従来のオンプレミス環境では4人で管理することは無理でした。
それが、クラウドファーストの組織を作ることによって少数精鋭のチームで運用できるようになり、必要なハイスペックのリソースを必要な時に即時に提供できるクラウドの利点を活用し、研究開発環境も改善しました。

「従来、オンプレミスで30日かかっていた計算が1日で出来るようになると、それが同じ薬を作る工程だと仮定したら、29日早く患者さんに薬を届けることができるのです。」(岩本さん)

製薬は特許ビジネスでもあります。29日早く特許(パテント)を取れれば、売り上げも億単位で変わってきます。研究環境の改善はそれだけインパクトが大きいのです。

運用性の向上を目的に、Sumo Logicを導入

クラウドを活用するにあたり、岩本さんは「自分たちの環境で何が起こっているかを把握したい」と考えていました。それを解決するために、同時にログ管理・分析ツール「Sumo Logic」を導入しました。

AWSの膨大なログからインスタンスの消し忘れをチェックしたり、ユーザーの処理を検索したりするには経験とコツがいります。ログ管理ツールを導入することで、こうした分析にかかる運用コストを軽減することができます。

AWS以外を使用したマルチクラウド化の可能性も視野にあり、AWSに特化したサービスだけではなくサードパーティーのログ管理ツールで可視化することを考えたそうです。
Sumo Logicを知るきっかけになったのも、技術ブログ「Develpers.IO」でした。決め手となったのは、無料で試せたことに加えて一覧性がよいという点でした。

クラスメソッドからは、Sumo Logicへのログの取り込みやログの検索、ダッシュボードの作成・カスタマイズなどに関する方針案を提示させていただきました。また、利用方法や活用についてのノウハウを1ヶ月程度かけてレクチャーさせていただきました。その後は同社だけでログの管理と運用ができるようになっています。

主に管理しているログはAWS CloudTrail、VPCフローログ、Amazon S3のアクセスログ、AWS Security HubAmazon GuardDutyなど、AWSセキュリティに関連したもの。

「守りの観点は比重が重いです。クラウドという新しいアーキテクチャを開拓・活用していく中で、セキュリティ情報の可視化と、セキュリティの担保は当然必要です。またクラウドの社内推進のために、セキュリティに問題がないということを社内で証明していかなければなりませんから」(岩本さん)
「一方で、ユーザーの活用の仕方についての情報は、攻めの観点でも活用できると考えています。将来に向けて、より良い研究環境を作るための参考情報にもなりそうです」(髙市さん)

研究者が研究に専念できる環境を構築できた

研究開発の効率化・ログの適切な管理は、社内でも確実に認知されはじめているといいます。
オンプレミスで運用していた際は、機械学習などの専門性を持つエンジニアがサーバー運用保守にも時間を割いていました。これらの時間を本来の業務に割り当てることができるようになったそうです。また、研究所から依頼をもらってから2週間程度で計算リソースを提供できるようになり、オンプレミスの時との違いも社内に示せています。

さらに、利用しやすくなっただけでなく、シミュレーションのパフォーマンスも向上しているそうです。
「CCoE中心にコンサルやインフラサポートを含めて、使える環境を提供できました。また、マシンのパフォーマンスが上がったことで研究者の待ち時間も減少し、本来やりたかったことができるようになりましたよ」(黒澤さん)

Amazon S3で社内データの共有化も図れ、ノウハウの浸透もスムーズになりました。R&Dの環境提供は大成功だったといえそうです。
これらの実現に際し、新型コロナウィルス感染症拡大の影響によって対面でのサポートは行えませんでしたが、「まったく問題なかった」と岩本さんは振り返ります。
オンラインでの定例ミーティングのほか、AWSのアカウント設定に関連するCloudFormationなどの機能や、Sumo Logicの具体的な操作方法などについてはアドホックに対応させていただくことで、充分なノウハウの伝達ができました。

「クラスメソッドの実力はもちろん、対応も早かったです。逆にこちらの技術力不足で、ご担当者の力を引き出し切れなかったのではないかと思うくらいです」(岩本さん)
と、ご満足いただけています。

自分たちで出来る領域を増やしていく

クラウド技術の活用でパフォーマンスを高めながら、その技術を社内に浸透させるための組織「CCoE」も創設した同社。

「クラウドを使いながら仮説検証をするプロセスを見せることで、自社内でも先進的なことができるのだという自信を会社としてつけていきたいと思っています」(岩本さん)
と、手応えを得ています。

創薬に限らず、研究開発やビジネスの現場における仮説検証を高速化することは、競争優位性を高めることに繋がります。そして、その高速化のためにはITシステムの開発・運用の内製化に取り組み、社内に知見やノウハウを蓄積していくことも必要です。
受発注の関係に止まらず、社内に知見・ナレッジを獲得して技術力を高めていけるパートナーをお探しでしたら、ぜひクラスメソッドにご相談ください。

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