iPadを使ったクラウドPOSレジ「ユビレジ」を提供する株式会社ユビレジ。「ユビレジ」のインフラ基盤にアプリケーション開発向けPaaS(以下、PaaS)を採用し、10年近くにわたって運用を続けてきた同社は、サービスレベルの向上、コスト最適化、セキュリティ強化を目的にアマゾン ウェブ サービス(AWS)への移行を決断。クラスメソッドの技術支援を受けながら、約1年かけて移行を終えました。Amazon CloudFrontを活用したノーダウンタイム移行や、TerraformによるCI/CDパイプラインの設計・構築などについて、開発グループの森さん、小池さん、松塚さんにお話をうかがいました。
サービスレベル、コスト、セキュリティの課題解決に向けてAWSへの移行を検討
2025年8月でサービス開始から15周年を迎えたiPad POSレジ「ユビレジ」。世界でiPadが発売された2010年に「カンタンがいちばん」をコンセプトに提供を開始し、以来、iPad POSレジのパイオニアとして店舗運営の効率化や顧客体験の向上を支援してきました。当初は小規模店舗を中心に普及が進んだ「ユビレジ」ですが、近年は「ユビレジ エンタープライズ」として開発やカスタマイズを伴う大規模導入を手掛け、大学生協への3,000台導入や、居酒屋チェーン最大手への導入などで実績を残しています。
「ユビレジ」のインフラ基盤は、10年以上にわたりPaaSを採用し、開発言語・フレームワークにはRuby on Railsを利用してきました。順調にユーザーが増えて成長を続けるユビレジでしたが、2022年頃になるとPaaSでの運用に課題が見えてきました。そこで、安定したサービスを継続的に提供するために見直しに着手したのが今回のプロジェクトのきっかけです。「開発者体験の点でアドバンテージが高かった前サービスのPaaSには課題もありました。移行を検討した理由は主に3つあり、1つめはサービスレベルの向上です。小規模な飲食店向けからスタートした「ユビレジ」も、ビジネスが拡大する中で大規模なお客様が増え、2022年当時の運用水準では安定したサービス提供の維持に対してインフラの改善が必要な状況でした。2つめはコストです。他のクラウドサービスと比べてコスト最適化が難しく、シングルサインオン(SSO)の料金も高止まりしていました。3つめはセキュリティです。2022年にPaaS起因のセキュリティインシデントが発生したことを受け、安全性を考慮するためにも移行が現実味を帯びていました」(小池さん)
技術力が高くインフラの移行実績が豊富なクラスメソッドに要請
PaaSからの移行先を検討した同社は、すでに「ユビレジ」のDBがAmazon Auroraを利用している点や、他のサービスでもAWSを採用している点などを考慮して、AWSに統合することがセキュリティや運用上のメリットがあると判断。さらにアプリケーションをコンテナ化することを決定し、実行基盤としてAmazon ECSを採用しました。
「コンテナ実行基盤は、Amazon ECS、Amazon EKS、AWS App Runner、GoogleのCloud Runなどを比較した結果、Amazon Auroraとの親和性、コストコントロール、機能の豊富さ、デプロイのしやすさなどを総合的に判断してAmazon ECSを採用しました」(小池さん)
その後、移行パートナーの選定に着手した同社は、AWSに関して高度な知見を持ち、インフラの移行実績が豊富なクラスメソッドに支援を要請しました。「決め手のひとつは、クラスメソッドメンバーズによるコスト最適化です。以前はAWSとの直接契約で、請求代行を利用してきませんでした。クラスメソッドなら、請求代行によるディスカウントのメリットが得られるうえに、高度な技術支援が受けられることから、クラスメソッド一択で採用を決めました」(森さん)
「AWSによるインフラ構築や、CI/CDパイプラインに関する知見は社内にもありましたが、不安を覚えながら自社で対応するより、プロの力を借りて安心・確実にサービスレベルを高めるのがベストと判断しました。その中で、信頼のおけるパートナーとして真っ先に頭に浮かんだのがクラスメソッドでした」(小池さん)
段階的移行によりサービスに影響を与えることなくノーダウンタイムで移行
AWSへの移行プロジェクトは、2024年6月から2025年8月末までの1年3カ月で実施しました。AWSのリージョンは既存のPaaSのリージョンがUSを採用していた関係から、レイテンシーを考慮してバージニアを採用しています。
プロジェクトの役割分担としては、技術情報の提供、実現方式の提案、設計・設定レビュー、Q&A対応をクラスメソッドが担当し、構築作業や移行作業はユビレジの開発グループのメンバー数名が対応する形で進めました。コミュニケーションは週次のミーティングの他、Backlog上でのフォローを中心に、随時相談しながら技術支援を受けました。
「AWSに関する知見が乏しい中、自分たちのアイデアだけでは自信が持てず、先に進めるのに不安がありました。こうした中、クラスメソッドからお墨付きの意見をいただいたり、根拠を示したうえで具体的な解決策を提案していただいたりしたおかげで、自信を持って前に進むことができました。例えば、オートスケーリングのスピードが十分に出ない時にfast-autoscalerを紹介いただき、スケールアウトを高速化することができました」(松塚さん)プロジェクトのハイライトは、稼働中のサービスに影響を与えることなく、安全かつ確実にインフラ基盤を移行するため、CDNサービスのAmazon CloudFrontを活用してノーダウンタイムで移行したことです。AWS上に新環境を用意しておき、Amazon CloudFrontのオリジンフェイルオーバーおよびLambda@Edgeの機能を活用してアプリケーション、DB、KVSを段階的に移行していきました。
「一斉移行はトラブル時のリスクが高すぎるため、クラスメソッドに相談したところ、段階的に移行ができるアーキテクチャを提案いただき、基礎的概念の解説・説明から具体的な実装まで、全面的に支援をいただきました」(小池さん)
実際の移行作業は、APIなどの機能単位や、特定のユーザー単位など、細分化して移行検証を繰り返し、徐々に移行単位を大きくしながら進めていきました。
「最初は最低限の機能やユーザーを新しい環境に移行してみて検証し、不具合があれば旧環境に戻すといったことを繰り返しました。最終的にはランダムに一定の割合で移行する形になったものの、想定外のことが起きた時もすぐに切り戻してトラブルを最小限に留めながら移行作業を重ね、お客様に迷惑をかけることなく完了することができました」(小池さん)
TerraformによるCI/CDパイプラインの設計・構築についても、クラスメソッドの技術支援を受けながら自社で対応しました。
「元々自分たちで作っていたものがベースにあり、それをもとに相談してアドバイスをいただきました。最終的に自分たちでコードを書いた部分もあるものの、根幹的な部分はクラスメソッドから提案されたものを活用することで作業時間を短縮しています」(小池さん)
プロジェクトを支援したクラスメソッドについては、「安心を得られたことが大きい」と小池さんは語ります。
「サービスの品質が高いことはもちろんのこと、AWSのベストプラクティスを熟知し、さまざまな移行で経験を重ねてきたクラスメソッドから得られる情報提供や実現方式の提案、設計・設計レビューなどは安心感につながり、確信を持ってプロジェクトに臨むことができました」(小池さん)
AWSに関するノウハウが蓄積されエンジニアも大きく成長
PaaSからAWSへの移行を終えた現在、当初の課題であったサービスレベル、コスト、セキュリティの課題はすべてクリアされました。性能面でもCPU性能の強化などでレスポンスが向上しています。
プロジェクトを担当した開発グループの内部では、AWSに関するノウハウが蓄積され、エンジニアの成長にもつながりました。
「社内でなかなかいい考えが浮かばない時も、クラスメソッドに聞くと次々と斬新な解決策を提案いただき、自分自身の成長につながりました」(松塚さん)
AWSの東京リージョンへの移行を自社で実施予定
今後については、今回移行した「ユビレジ」のインフラ基盤を、バージニアから東京リージョンに移行する予定で、このプロジェクトは自社で実施する計画です。
現在のAWS環境についても、インスタンスの調整などでコスト最適化を図っていくと同時に、アプリケーションのモニタリング(APM)に関してもAmazon CloudWatchを活用した環境を構築し、オブザーバビリティの強化を進めていく予定です。
クラスメソッドに対しては、今後のAWS東京リージョンへの移行から、「ユビレジ」以外のシステムのクラウド移行やモダナイズまで、さまざまな支援に期待を寄せています。
「大規模ユーザー向けの『ユビレジ エンタープライズ』を拡大するにあたり、AWSのマルチアカウント管理も今後は考えていく必要があります。また、「ユビレジ」以外にもさまざまなプロダクトを展開していますので、技術支援が必要になった際は随時相談させていただければと思います」(森さん)
クラスメソッドは、サービス産業の活性化を通して社会の発展を支援するユビレジのビジネスを、今後もクラウド技術を通して支えてまいります。


