世界最大級のロイヤリティフリー音源サービス「Audiostock」を運営する、株式会社オーディオストック。BGM、効果音、ボイス、歌もの曲など100万点以上の音源を提供し、動画制作やゲーム開発など幅広い用途で利用されています。
同社は、2024年6月から9月までの4カ月間、クラスメソッドの支援のもとでAWSを活用したレコメンドシステムの構築に着手。ユーザーの利用傾向を学習し、個々のニーズに合った楽曲を推薦する仕組みを実現しました。また、並行して不正クロール対策のためのWAFルールチューニングも実施し、本番運用を開始しています。運営責任者の山口さん、開発担当者の小西さんにプロジェクトのお話をうかがいました。
データ分析基盤の整備で見えた次なる課題
膨大な数の楽曲の中からユーザーに効率的に音源を見つけてもらうことは、音源販売サービスにとって重要な課題です。Audiostockも100万点以上の音源を抱え、レコメンド機能の改善が急務でした。
「元々レコメンド機能はありましたが、ユーザーの購入やダウンロード履歴をもとに、同じクリエイターの新曲を紹介するだけの単純な仕組みでした。その上、月に1回の全カスタマーのデータ集計処理には半日以上という長い時間がかかっていました」(小西さん)この状況を改善すべく、2023年12月にクラスメソッドへ相談。同社は2021年からAWS環境の構築・運用でクラスメソッドの支援を受けており、その技術力と提案力を高く評価していました。
中でも、前回クラスメソッドの支援で構築したデータ分析基盤は今回のプロジェクトのきっかけにもなりました。検索キーワードのランキング化や音源数の推移など、これまで把握できなかったデータが可視化されるようになったことで、社内でのデータ活用意識が大きく変化したのです。
「検索キーワードを分析すると、季節要因やトレンドが如実に表れます。『今はシティポップ調の楽曲が流行っている』など、ユーザーが何を求めているかが把握できるようになりました」(山口さん)
クラスメソッドから「データ分析基盤は今後、レコメンドエンジンにも活用できる」と聞いていた小西さん。社内ミーティングでこの話を共有したところ、サービス向上と業務効率化の両面から、AI活用への期待が高まりました。
「パーソナライズされたレコメンドは、ユーザー満足度を上げサービスへの信頼度も向上させます。しかもAI活用により月次更新にかかる処理時間の問題も解決できる。二つの課題が一気に解決できるなら、ぜひお願いしたいと思いました」(山口さん)
ユーザーの利用傾向に寄り添うレコメンド機能の構築
こうして相談を受けたクラスメソッドは、2024年5月、レコメンド機能の実現方法として3つのアプローチを提案しました。「アイテムベースレコメンド」は購入した商品に関連する別の商品を推薦する手法、「ユーザーベースレコメンド」は利用者の行動履歴(閲覧・購入など)に基づいて最適な商品を推薦する手法、そして両方を組み合わせる方法です。
「単一の解決策ではなく複数のやり方をご提案いただき、それぞれの手法の特徴や他社事例まで詳しく説明していただきました。メリット・デメリットを理解したうえで自社に最適な方法を選べたのは大きかったです」(山口さん)
「オーディオストックが選んだのは、ユーザーベースレコメンド。行動履歴を元に「おすすめ作品」を提案する機能の実現を目指しました。この選択には明確な理由がありました。
「私たちは既存のレコメンド機能の改善を目指していました。ユーザーの利用傾向に基づいて最適な楽曲を提案する仕組みこそ、まさに求めていたものでした」(小西さん)
柔軟な提案力で実現したレコメンド設計
開発は同年6月にスタート。AWSのフルマネージドレコメンデーションサービスであるAmazon Personalizeを活用したレコメンドシステムの構築が始まりました。しかし、100万点の音源データを扱うシステムの実装には、予想以上の試行錯誤が必要でした。
当初は全データを投入すれば精度が上がると考えられていましたが、実際にはデータの取捨選択こそが成功の鍵でした。インタラクションデータだけでなく、楽曲やユーザーのメタデータをどう活用するか。学習期間をどう設定するか。定額ユーザーと単品購入ユーザーをどう区別するか。こうした細かな設計の積み重ねが、レコメンド精度を大きく左右することが明らかになりました。
見えてきた課題に対し、クラスメソッドは柔軟な提案で対応しました。その一例として、小西さんはユーザー属性の活用についてのエピソードを挙げます。
「個人利用者と法人利用者でレコメンドを分けたいと考えていましたが、技術的に可能かどうか判断できませんでした。相談したところ、『ユーザー属性として扱えば条件に組み込めます』と即答していただき、実装することができました」(小西さん)
また、データ調整の過程で見つかった課題の1つが、複数ジャンルの楽曲をまとめて提供する「BGM福袋」商品の扱い。この特売商品の購入履歴が、レコメンド精度に影響していることも判明しました。
「福袋には多様なジャンルが混在しているため、購入者の音楽的嗜好を正確に把握する材料にはなりません。このデータは除外するよう依頼し、適切に対応していただきました」(山口さん)
プロジェクト中は週次の定例会議をオンラインで実施。最初はデータの所在確認など開発担当である小西さんとの技術的なやり取りが中心でしたが、レコメンド結果が出始めると運営サイドの山口さんも参加し、実際の出力結果を確認しながら改善を重ねていきました。
精度検証と運用を見据えた仕組みづくり
こうしてチューニングを繰り返したことで、レコメンドはユーザーの利用傾向を多角的に分析する設計になっていきました。前月のダウンロード履歴から頻繁に聴いているクリエイターを特定し、そのクリエイターの新作を優先的に提案。さらにお気に入り登録やフォロー中のクリエイター情報も考慮し、最終的に各ユーザーに最適な50曲を毎月自動生成する仕組みを構築しました。
精度の検証は、オーディオストックの社内スタッフが実際のユーザー視点で評価。YouTuber、法人利用者、効果音メインの利用者など、様々な利用パターンを想定してテストを実施しました。
「複数の利用パターンごとに5、6件程度の楽曲で新旧のレコメンドを比較しました。『この曲の次にこれが提案されたら自然だ』という感覚的な観点での評価でしたが、新システムの方が明らかに精度が高いという結果が得られました」(山口さん)さらに、将来の運用を見据えた仕組みづくりも重要なポイントでした。
「毎月、前月のデータをもとにレコメンド結果を更新する必要があります。その際、新着音源が日々登録されるというサービスの特性も考慮したい。こうした要件に対し、定期的な自動更新の仕組みを構築していただきました」(小西さん)
山口さんはクラスメソッドの支援を振り返って、こう語ります。
「要望を伝えると、『それならこういう機能も実装できます』『別のアプローチもあります』と複数の選択肢を提示していただきました。1つお願いしたことが10の価値になって返ってくる。単なる機能実装ではなく、私たちの目的を理解した上で最適な提案をしていただけたことが印象的でした」(山口さん)
こうして2024年9月にプロジェクトは完了しました。
音源販売サービス特有の課題に挑むWAF対策
レコメンド機能の開発と並行して、オーディオストックはもう一つの課題解決に取り組みました。不正なクローラーアクセスによるサーバー負荷の増大です。
「正規ユーザーではない、おそらくスクレイピング目的のアクセスが常にありました。明らかに人間が聴いているわけではないペースでの、楽曲の詳細ページへのリクエストです」(小西さん)
この問題は2018年から断続的に発生。突発的に夜中に大量アクセスが来てサイトが重くなることもあり、インフラ担当者が夜中でも手動でIPアドレスをブロックする対応を余儀なくされていました。
2025年夏、この状況を抜本的に解決すべく、クラスメソッドにWAFルールチューニングの相談。しかし、そこには音源販売サービス特有の難しさがありました。
「音源を購入前に試聴するため、正常なユーザーも短時間で多くの再生ボタンを押します。単純に頻度が高いから攻撃と判定すると、楽曲を探している正常なお客様までブロックしてしまうのです」(小西さん)
実際に自社でWAF設定を試みた際も、この問題に直面していました。
「自分たちで設定してみたら、ただ曲をたくさん聴いた人をブロックしてしまった。これは安易にできないと思い、詳しい人に聞いた方が早いと判断しました」(小西さん)
運営側の視点からも、慎重な対応が求められました。
「すべてのクローラーを遮断してしまうと、検索順位が落ちるなどSEOやAIOに影響が出て、サービスの認知度に影響します。適切なアクセスまで止めることは、サービスとして避けなければなりません」(山口さん)
クラスメソッドは、Audiostockのサービス特性を理解した上で、サイトごとに最適なルールを設定。他社事例の知見も活かしながら、正常な利用を妨げることなく不正アクセスを制御する最適なバランスを追求しました。
「最新の事情や他社の対策事例も含めて提案いただけました。持っている知識と経験が豊富で、本当に信頼できると思いました」(山口さん)
継続的な協業で最新技術の活用を目指す
2025年9月にレコメンド機能をリリースし、その効果は着実に表れています。
「アクセス解析を見る限り、以前と同等以上にレコメンド機能が利用されています。まだ詳細な分析はこれからですが、現時点で言えることは、ユーザーからのクレームが1件もないこと。もしレコメンドの精度が低かったり不具合があれば、必ずユーザーから指摘が来るはずです。それがないということは、適切に機能している証拠だと考えています」(山口さん)
まずは半年程度のデータを蓄積し、本格的な効果検証を行う予定です。今後アルゴリズムの改良だけでなく、データの加工方法やセグメントの分け方、再学習頻度の調整などを行うことで、さらにレコメンド精度が改善される可能性も残されています。
一方、WAFルールチューニングは現在も進行中。テスト環境での検証を経て、本番環境への適用を控えています。
プロジェクトを通じて、クラスメソッドとの協業の価値を改めて実感したオーディオストック。特に印象的だったのは、タイムリーな情報提供でした。
「WAFの定例会の中で、CloudFrontに定額料金プランが登場したという情報を教えていただきました。これまで従量課金だったCDNサービスに定額プランが追加されたことで、『オーディオストックさんなら料金削減できるのでは』とご提案いただいたのです。私たちの業種やサービス特性を理解した上で、有益な情報をピックアップして教えてくれる姿勢は本当にありがたいです」(小西さん)
「今日リリースされたばかりの情報を、その日のうちに教えてもらえる。どこよりも早く最新情報を得られるのは心強いです」(山口さん)
今後の展望として、オーディオストックは継続的な技術活用への意欲を示します。
「クラスメソッドは知見と経験が豊富なので、定期的な情報交換を通じて、新たな改善や施策につなげていきたいです。世の中の技術はどんどん進歩しています。それを活用してユーザーのニーズを満たせるなら、積極的に取り組んでいきたいです。」(山口さん)
「具体的な案件がなくても、定期的な情報交換の場があると助かります。やりたいことに対して技術がどう活用できるか、そういった相談ができる良い関係を今後も続けていきたいです」(小西さん)
クラスメソッドは、これからもオーディオストックの継続的な成長を技術面から支援し、最新のAWSサービスや機械学習技術の活用を通じて、サービス価値の向上に貢献していきます。


