無添加化粧品、栄養補助食品などの研究開発・製造・販売を手がけるファンケル。同社は、コーポレートサイトとECサイトを運営するWebシステムのOSサポート終了を機に、インフラ基盤のクラウド化を決断。クラスメソッドに技術支援を要請し、アマゾン ウェブ サービス(AWS)へ移行しました。スケーラブルなクラウドへの移行と、サーバーの台数を自動的に増減させるAmazon Auto Scalingにより、ECサイトへのアクセス集中時もユーザーが快適に利用できる環境の提供が可能になり、機会損失を防ぐことに成功しました。プロジェクトリーダーを務めた岸田さんにお話をうかがいました。
ECサイトをクラウドに移行して高負荷対策を実施
「もっと何かできるはず」を経営理念に、お客様本位の商品・サービスを開発して提供するファンケル。1980年の創業時から化粧品通信販売を開始した同社は、1996年にはインターネットサイトをオープンし、1997年8月からインターネットからの受注を開始しました。現在、通販、店舗、流通(卸販売)、海外と4つの販売チャネルを持つ同社において、通販の売上構成比は51.5%(2023年度)を占め、その中核を担うECサイトの重要性は高まっています。
ファンケルのコーポレートサイト、ECサイトの「ファンケルオンライン」、グループ会社のアテニアが運営するECサイトの「アテニア公式オンラインショップ」の3サイトはこれまで、オンプレミスベースのインフラ基盤で運営してきました。前回のリプレースから5年が経過し、サーバーOSのサポート終了が近付いたことから、これを契機にインフラ基盤をクラウドに移行し、従来課題である高負荷対策、セキュリティ対策、DR対策の3つを実施することにしました。

「ファンケルオンラインの場合、アクセスが集中するタイミングは月に3日程度あります。そこで、アクセス集中にあわせてフレキシブルにインフラ増強ができるクラウドに移行することにしました」(岸田さん)
セキュリティ対策については、最新の攻撃手法にも対応できる強固な対策を打つことを目的としました。DR対策は、ランサムウェアなどの不正侵入でシステムが壊滅的な状況になった場合でも、短時間かつ確実にサイトが復旧できる対策を目指しました。
サーバーの負荷に応じた自動スケールを実現
クラウドサービスの採用を前提に、複数のベンダーにRFP(提案依頼書)を送付した同社は、AWSを活用して上記の課題解決を実現する提案を示したクラスメソッドをパートナーに採用しました。
「決め手は、クラスメソッドの支援範囲(スコープイン)と範囲外(スコープアウト)を細かくかつ明確に示していただき、お互いの役割分担が理解できたことでした。私たちが提示したインフラ要件に対しても、できること、できないことをネガティブな情報も含めて伝えていただきました。技術面の疑問点に対する回答も的確で、導入前の不安を払拭することができたこともあり、クラスメソッドにお願いすることにしました」(岸田さん)
プロジェクトは2023年6月にキックオフし、要件調整フェーズと移行推進フェーズを経て2024年7月末に本番切替を実施して、8月1日よりAWS環境上での本番運用を開始しました。リスクとコストを最小限に抑えながら十分な効果を得ることを目指して既存のアーキテクチャを踏襲することを原則とし、アプリケーションの改修やミドルウェアの変更も極力行わない方針で進めました。
インフラのベースとなるサーバーは、APサーバーをAmazon EC2に移行することを基本とし、DB、KVS、ロードバランサーはAWSのマネージドサービスを採用しました。EC2の構築でポイントになったのが、注文集中時の負荷対策として自動的にサーバー台数を増減するAmazon Auto Scalingの構成です。
セキュリティについては、IPS/IDSとエンドポイントをクラスメソッドから提案されたフルマネージドのCloud One Workload Securityに移行。AWSのセキュリティ対策として、クラスメソッドメンバーズのセキュアアカウントを利用して、操作ログの取得、構成履歴管理、脅威検知、セキュリティアラート管理などを実現しています。
DR対策は、データセンターレベルの障害対策として複数のアベイラビリティゾーン(AZ)で運用するマルチAZ、大規模災害対策としてAWSの大阪リージョンを利用したバックアップ構成を採用しました。これにより、東京リージョンでバックアップデータが消失した際も、大阪リージョンのバックアップデータで復旧ができるようになっています。
クラスメソッドの寄り添う姿勢を評価
プロジェクトは、ファンケルの情報システム部門を中心に、インフラ構築ベンダーのクラスメソッド、アプリケーションベンダー、インフラ運用ベンダー、コンテンツ会社のマルチベンダー体制で実施し、各社が連携しながらスムースな移行を実現しました。
「多数のベンダーが関わる中で、クラスメソッドは各社と積極的にコミュニケーションをとって意見が違う部分の落としどころを見つけてくれたほか、あらゆることに対して私たちに寄り添った解決策を提案していただきました。
その中で印象に残っているのは、先ほども触れたAuto Scalingのリードタイムの短縮の際の対応です。プロジェクトの要の機能であったため、妥協したくないこちらの気持ちに寄り添っていただき、技術的なサポートの枠を越えて、本質的な課題解決に向けて一緒に考えて下さいました。困難な課題に対しても私たちのためにギリギリまで粘っていただけたことが、ファンケルの経営理念である『もっと何かできるはず』に通じる部分があり、シンパシーを覚えました。
私たちとしてもAWSを本格的に使うのが初めてである中、豊富な技術知識とノウハウを持つクラスメソッドは頼もしい存在でした。またbacklogを活用した進捗管理では、質問への個別回答にくわえてDevelopersIOの関連リンクを貼っていただき、豊富な情報がアーカイブされていることに驚くとともに、AWSのサービス概要や仕組みを理解するのにも役立ちました」(岸田さん)

アクセス集中時にも快適な注文環境を提供
コーポレートサイト、ファンケルオンライン、アテニア公式オンラインショップの3サイトをAWSに移行してから約4カ月(2024年12月時点)。本稼働から数回のチューニングを経て、現在は安定運用に移行しています。インフラリソースを柔軟に拡張できるクラウドのメリットと、自動でスケールするAmazon Auto Scalingにより、ファンケルオンラインの月3回のアクセス集中時にもサーバーパフォーマンスの低下はなく、快適な注文環境を提供できるようになりました。
「アクセスの集中が予想される際はあらかじめサーバースペックを上げておくことで、パフォーマンスの低下が起きないようにしています。予期せぬアクセス増が起きた際も、Amazon Auto Scalingで確実に増強ができるので安心感があります。結果として、注文集中時にサイトに負荷がかからなくなり、販売機会ロスを削減することができました」(岸田さん)
セキュリティに関しても、課題が解消されて安心感が高まりました。DR対策もマルチAZやバックアップ環境の整備により、さまざまな障害に対応できるようになっています。
「DRについては本稼働前にリハーサルを実施し、想定の時間内に復旧できることを確認済みです。バックアップデータもより確実に安全に保管される仕組みに生まれ変わりました」(岸田さん)
クラウド移行と並行して店舗DXへの支援を期待
今後については、AWSの定額割引サービスであるAmazon EC2 リザーブドインスタンスを購入し、コストの最適化を図っていく計画です。今回のプロジェクトでは既存サービスを流用したWAF/CDNについても、クラスメソッドの支援を受けてAWS WAFとAmazon CloudFrontを導入中で、これにより通信コストが削減される見込みです。
現在、岸田さんはECサイトなどのシステムを管理する情報システム部のチームから離れ、2024年10月から店舗販売企画部の業務改革推進グループで店舗DXを担当しています。店舗スタッフの業務効率化をデジタルで促進するミッションを担う現在の部署においてもクラウドを活用し、さまざまな取り組みを進めていく考えを明らかにしています。
「IT技術によって店舗のアナログ的な業務をデジタル化し、スタッフの余白時間を生み出すことが私の仕事です。それによりスタッフが接客に注力できるようにして、最終的にはお客様体験を高めることが目標です。AWSのサービスで店舗内の課題が解決できることもあると思いますので、クラスメソッドには新たな切り口での提案に期待しています」(岸田さん)
クラスメソッドは、クラウドサービスから最先端の技術を利用したDXまで幅広い領域をカバーしながら、ファンケルの事業と業務を支えてまいります。