「サステナブルインフラ企業」として、不動産事業やクリーンエネルギー事業を展開するいちご株式会社。グループ共通データ基盤のプラットフォームとしてSnowflakeを導入した同社は、本格展開に備えたSnowflake環境の設計と構築の支援をクラスメソッドに要請。ベストプラクティスに沿ったアクセス制御やセキュリティの設計を進めながら内製開発で構築を完了し、適切なデータ保護体制を確立しました。プロジェクトについて、DX推進部の西本さん、幸田さん、太田さんと、同社のグループ会社であるコリニア株式会社の岩澤さん、菅原さんにお話をうかがいました。
「データの民主化」を実現するべくグループ共通のデータ基盤を構築
「日本を世界一豊かに」を経営理念に掲げるいちご。商号の「いちご」は、千利休が説いた茶人の心構えである「一期一会」に由来し、「人との出会いを大切に」の精神を理念としています。現在、不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」を中心に、太陽光発電や風力発電等の「クリーンエネルギー事業」、不動産運用を行う「アセットマネジメント事業」の3つを柱に事業を進めています。
グループ一体でIT化を推し進める同社は、ホテルの最善価格決定を支援するAIレベニューマネジメントシステムの「PROPERA(プロペラ)」の自社開発や、ブロックチェーン技術を活用した「不動産セキュリティ・トークン」を発行しながら、お客様に新たな価値を提供しています。
IT技術の進歩で産業のあり方が転換点を迎えている中、この変化をビジネスチャンスとして捉える同社は、グループの長期VISION「いちご2030」を策定し、新たな収益基盤の構築を目指しています。グループのDX戦略や基盤の整備を担うDX推進部では、「いちご2030」に貢献するべく「データの民主化」を掲げ、特定の担当者や部門に情報が偏らず、誰もが必要なデータにアクセスできる環境の構築を目指しています。「一般的に不動産業界は取引の個別性が高く、IT化が遅れていると言われています。当社も同様で、同じデータを複数の担当者がそれぞれのExcelファイルに何度も入力するといった非効率な作業が日常的に発生しています。このままではノウハウやデータが属人化し、全社的なデータ活用の妨げになる恐れがあります。そこで、グループ全体でデータを一元的に管理し、共有・活用できる共通のデータ基盤を構築することにしました」(西本さん)
提案の的確さと技術に裏打ちされた信頼性を評価しクラスメソッドに支援を要請
データの民主化に向けて、まずは「貯める」ことを重視した同社はデータウェアハウス(DWH)の導入を決断。セキュリティポリシーと運用体制を基準に候補を絞り込んだ結果、要件適合性・バランス・将来性を評価してSnowflakeを採用しました。
Snowflakeを中心としたデータ基盤の構築は、業務特性や現場の状況を踏まえてボトムアップ型で進める方針とし、現場の業務を改善しながらデータを順次蓄積していく個別構築のアプローチを採用しました。実現に向けてコリニアと協業し、内製開発に着手します。
Snowflakeの採用決定後、スモールスタートとして試験環境を構築して様々な機能を試行しながらノウハウを蓄積し、まずは不動産関連のデータを扱う一部署にSnowflakeを中心とするデータ基盤を提供しました。試験環境では基本的なデータ連携は実現していたものの、グループ展開やデータ活用を本格化していくためには、ガバナンスやセキュリティを考慮した再設計が必要不可欠でした。
こうした中で設計・構築の技術パートナーを検討した同社は、クラスメソッドの採用を決めました。決め手は提案の的確さと、技術ブログ(DevelopersIO)などに裏打ちされた信頼性の2点にありました。「DevelopersIOは依頼する前から個人的に愛読していて、Snowflakeに関する記事が多く掲載されていることから、技術力が高いことは認識していました。実際にお会いして提案を聞いてみると、その内容も的確でした。複数のSnowflakeベンダーに声をかけましたが、他社はSnowflakeの基礎教育や、要件を固めた後に構築を請け負うスタイルがほとんどでした。クラスメソッドは、いちご側にノウハウが貯まる形で伴走し、最終的に自走を目指しましょうという提案でした」(太田さん)
習熟度に応じたノウハウの提供と寄り添った形での伴走支援を評価
Snowflake環境の設計・構築プロジェクトは、2025年1月から4月末にかけて実施。同社のDX推進部が全体の推進と意思決定をリードし、コリニアがプロジェクトマネジメントや実行支援を担当する役割分担で進めました。
初期フェーズでは、試験的に利用してきた既存のSnowflake環境の分析と課題抽出を実施し、クラスメソッドと共にいちごグループが重視するガバナンスやセキュリティの方針を共有しながら、設計・運用方針をすり合わせていきました。次のフェーズで本格的な全社展開を見据えて、既存の構成をベースにSnowflake環境のアカウント・レイヤー構成、アクセス制御、セキュリティの設計を進めていきました。最後の構築フェーズでは、設計に基づいてSnowflakeによるデータ基盤を内製で構築しました。
クラスメソッドに対しては、Snowflake環境設計のノウハウ提供と寄り添った形での伴走支援を評価。社内の習熟度に応じて段階的に支援を拡大していく進め方は大きな安心材料になったといいます。
「クラスメソッドには、スケジュール変更が発生する場面でも優先度を考慮して柔軟にスケジュールを組み替えながら、マイルストーンを守る形でリードいただきました。要件が何度も往来する複雑な局面でも、前提の整理や選択肢の提示が丁寧で、合意形成に至るまで粘り強くサポートいただけたことも印象的でした。コミュニケーションでも、質問へのレスポンスが迅速で、背景や根拠の説明も一貫しており、高い信頼感がありました」(幸田さん)
「私たちが本当に求めているものを的確に提供いただけたことが個人的な印象です。Snowflakeの基礎は自分たちで習得できますが、業務に役立つ知識には限界があります。その点においてもクラスメソッドには実務に使えるノウハウを教えていただきました。実務に応用できるサンプルクエリを提供いただけたことも、今後につながるうれしい支援でした」(太田さん)
不動産業界に求められるデータガバナンスとセキュリティを維持したデータ基盤を構築
DX推進部はクラスメソッドの支援でSnowflakeのベストプラクティスに沿った設計を実施し、データガバナンスとセキュリティを維持したデータ基盤を構築することができました。一般的に権限設定は属人的になりがちで、設定ミスや漏れへの懸念は常に残るものですが、クラスメソッドの伴走支援により技術的な仕組みとして設定ミスを排除し、ガバナンスを担保することができた成果は大きいといいます。
「グループ会社や部門をまたいだ柔軟なデータ共有と、守るべき部分の明確な区分けといった相反する要件についても、複数のベストプラクティス案を提示いただき、メリット・デメリットを比較しながら合理的に設計できたことも成果でした」(菅原さん)
あわせて、環境構築に要する時間も大幅に削減されました。クラスメソッドの支援を受けることなく、同社だけで構築していた場合、少なくとも倍以上の期間を要していたと分析しています。さらに、人員追加の際のロール設定も標準化され、これまで多くの工数を割いていた作業が短時間で完了できるようになりました。将来的なデータ量増加やユーザー拡大にも対応できるスケーラブルな設計により、追加開発のコストも最小化しています。
「加えて、導入を通じてSnowflakeの特性を理解できたことも収穫でした。これにより今後の展開に期待が持てるようになり、社内全体に『Snowflakeを前向きに活用していこう』という機運が生まれています」(菅原さん)「Snowflakeを触ってみてわかったことは、機能群が豊富なことです。当初は巨大なDWH程度の認識でしたが、Snowflakeマーケットプレイスでサードパーティデータも取得できますし、LLMやAI機能にもアクセスできます。加えて、PDFなどの非構造化データもSQLのように扱うことが可能です。不動産業界でも利用実績があることがわかり、Snowflakeに対するイメージは大きく変わりました」(幸田さん)
データを貯める“守り”のフェーズからデータを使う“攻め”のフェーズへ
Snowflakeによる持続可能なデータ基盤を構築した同社では、人力で行っていたチェック作業が自動でできるようになったり、全社横断でデータを見られるようになったことで部門間のコミュニケーションが活性化されたりと、業務へのポジティブな影響も生まれました。現場もデータを蓄積することの有用性に気づき、DXの取り組みに対して協力的な姿勢に変わっています。
今後は現場の業務に合わせるアプローチも採り入れながら導入効率を高めていく構想で、業務への浸透とデータ活用文化の醸成を並行して進めていく計画です。
「今回のプロジェクトで適切なデータ保護を確立し、内製開発で横展開できる体制が整いました。今後もデータの民主化を進めるべく、ボトムアップ型で現場のデータ活用課題に向き合っていきます」(西本さん)
「中長期的な視点としては、開発自体をAI駆動化していくことにもチャレンジしていきたいと思います。正しいデータを正しく貯めていくことでAI駆動開発が実現し、真の効率化に貢献できると考えています」(岩澤さん)
クラスメソッドに対しては、引き続きSnowflakeに関する情報提供から技術支援まで、幅広い視点での支援に期待を寄せています。
「これまでは、データガバナンスといった“守り”を中心にサポートいただきました。今後は、業務フローの改善などに取り組みながら、蓄積したデータを“使う”フェーズへと進化させていきます。その際には、生成AIとの連携などの“攻め”のサポートにも期待しています」(西本さん)
不動産、クリーンエネルギー、アセットマネジメントとグループ一体で多彩なデータを扱ういちごグループ。クラスメソッドはSnowflakeを中心とする技術支援により、グループのデータ活用を支援してまいります。