タワークレーンの国内出荷台数トップを誇る株式会社北川鉄工所。広島県府中市に本社を置く同社のサン テック カンパニー EG統括部では、建設用クレーンを中心に、橋梁・風力発電・ダムなど多様な現場で使われる特殊機械を手がけています。
またEG統括部では、製造業DXの一環としてAWSを活用した新たな取り組みも進めています。環境構築は自力で進めていたものの、AWSのベストプラクティスに沿った設計になっているか、専門家の視点で確認したいというニーズがありました。
2025年、クラスメソッドのアーキテクチャレビュー支援を実施。AWS Well-Architected Frameworkに基づく設計確認に加え、IaC・CI/CD環境の構築支援、IoT Core運用設計、技術Q&A対応まで、幅広い支援を短期間で提供しました。プロジェクトを推進するEG電装課井上さんに、支援の背景と今後の展望をうかがいます。
タワークレーン国内トップメーカーがAWS活用に踏み出した理由
北川鉄工所は1940年設立、社員数約1,400名の機械メーカーです。自動車部品の鋳造や工作機械のチャック、立体駐車場など多角的な事業を展開しています。サン テック カンパニー EG統括部の主力製品は、クライミングクレーンブランド「ビルマン」シリーズ。中でもNKシリーズは「シンプル・軽量・コンパクト」がコンセプトで、組み立てのしやすさと輸送効率の高さが現場で評価され、2022年には累計2,000台の出荷を達成しました。
井上さんが所属するEG電装課は、このビルマンをはじめとするクレーン製品の電気制御を担う部門。「起伏」「巻き上げ下げ」「旋回」という基本動作を電気的に制御するプログラムや図面を設計しています。加えて、自動運転システムや衝突防止装置など、建設現場の省人化に貢献する新技術の開発にも取り組んでいます。「標準品だけでなく、お客様のご要望に応じた特殊機械の設計・開発も担当しています。社内では“何でも屋”と呼ばれることもありますね」(井上さん)
そんなEG電装課に、新たなミッションが加わりました。製造業DXの一環として、AWSを活用したプロジェクトを推進することです。
2022年に入社した井上さんは、前職で金融系システム会社のソフトウェアエンジニアを務めていました。北川鉄工所では2020年頃からAWS環境を保有していたものの、担当者の異動で活用が止まっていた状況。井上さんはこのプロジェクトを引き継ぎ、独学でAWSを学びながら環境構築を進めていきました。
しかし、開発を進める中で、ある不安が頭をよぎるようになります。
「自分で構築した環境が、AWSのベストプラクティスに沿っているのか判断がつきませんでした。前職での経験上、ソフトウェアは第三者のレビューを受けなければ潜在的なリスクが見えにくいことを理解しています。どこかで専門家の目を通す必要があると感じていました」(井上さん)
とはいえ、社内にAWSの知見を持つエンジニアはほとんどおらず、気軽に相談できる相手もいません。専門家の視点で設計を確認したい——そのニーズが、クラスメソッドへの相談につながりました。
専門家の視点を求め、アーキテクチャレビュー支援を依頼
「専門家のレビューを受けたい」そう考えた井上さんでしたが、当時はクラスメソッドとの接点がありませんでした。AWS環境は以前から請求代行サービス「クラスメソッドメンバーズ」を通じて利用していたものの、技術支援を依頼できることは知らなかったといいます。
転機となったのは、2024年に参加した「AWS Summit Japan」。会場でAWSの担当者から声をかけられ、クラスメソッドの営業担当を紹介してもらえることになりました。同年9月、井上さんはクラスメソッドへ正式に問い合わせを行います。
両社で検討を重ねた結果、最終的にクラスメソッドが提案したのは、AWSアーキテクチャレビュー支援。クラウド設計のベストプラクティスを体系化したフレームワークであるAWS Well-Architected Frameworkの6つの柱に基づき、既存環境が推奨される設計指針に沿っているか、将来的なスケールに耐えうる設計になっているかを専門家の視点で確認するサービスです。レビュー結果はBacklogのWikiにドキュメント化され、技術Q&Aにも対応します。
北川鉄工所にとって外部ベンダーへの技術支援依頼は前例のない取り組みでしたが、支援が絶対に必要と考えた井上さんは粘り強く社内への説明を続けました。
「契約審査の部門と何度もやり取りを重ねました。AWS活用の意義を説明しながら、ひとつひとつ理解を得ていきました」(井上さん)
その間も井上さんは独力で開発を進め、環境構築はある程度形になっていきました。それでも、専門家によるレビューの必要性は変わりません。2025年6月には社内承認を得て、クラスメソッドへ正式に支援を依頼。1ヶ月間のアーキテクチャレビュー支援がスタートしました。
レビューにとどまらない実践的な技術支援
2025年6月下旬、プロジェクトがスタート。クラスメソッドのエンジニアが、AWS Well-Architected Frameworkに基づいて井上さんの構築した環境をレビューしていきます。やり取りを重ねるなかで井上さんから様々な課題や疑問が寄せられ、担当エンジニアは単なる指摘にとどまらず、具体的な解決策をコンサルティングしていきました。
「一番助かったのは、IaC(Infrastructure as Code)の導入です。それまではAWSの管理画面から手動で設定していたので、環境のコピーや変更管理に手間がかかっていました。IaCという手法の存在は知っていましたが、実装方法がわからなかった。具体例を含めた説明をいただいたことで、一気に理解が深まりました」(井上さん)
CI/CD環境の構築も同様です。SAMとGitHub Actionsを組み合わせる方法を提案されたことで、井上さんは自社環境への導入を進めることができました。
「ゼロから1を作るより、1から発展させるほうがずっと楽です。参考にできる情報があることで、手探りで進める時間を大幅に短縮できました」(井上さん)
さらに、Amplify Gen2とReactを組み合わせたサーバレスでモダンなアーキテクチャの提案や、IoT Core運用設計の支援も実施。井上さんが送ったコードに対してセキュリティ上の懸念点を指摘し、より安全な実装方法を具体的に示す場面もありました。
技術的なやり取りはBacklogを通じて行われ、疑問点があれば質問し、回答を得るというサイクルが日々繰り返されました。レビュー結果や技術的な知見はWikiにドキュメント化され、井上さんが後から参照できるナレッジとして蓄積されていきます。
「担当の方のレスポンスがとにかく速かったですね。質問を投げるとすぐに回答が返ってくる。前職の感覚からするとありえないスピード感でした」(井上さん)
約1ヶ月間の支援。当初はレビューのみの想定でしたが、結果としてIaC・CI/CDの導入、モダンアーキテクチャの提案、IoT運用設計、継続的な技術Q&Aまで、幅広い成果が得られました。
社内SE部門との連携が生まれAWS活用の起点に
約1ヶ月間の支援を経て、井上さんの手応えは確かなものになっていました。
「本当に細かいところまで教えていただいて助かりました。自分がやっていたAWSの使い方が、そもそもスタンダードではなかったことにも気づけましたし、初心者レベルから中級者に近いところまで引き上げていただいたと思います」(井上さん)
支援の効果は、技術面だけにとどまりませんでした。プロジェクトを進める中で、社内SE部門との新たなつながりが生まれたのです。
「今回のプロジェクトをきっかけに、社内SE部門から声がかかるようになりました。以前はあまり接点がなかったのですが、私がAWSをやっているということで話を聞かせてほしいと要請があったのです。部門を超えた情報交換ができるようになったのは、大きな変化ですね」(井上さん)
北川鉄工所では、他部門でもAWSを活用したWebサイト公開などの取り組みが進んでいます。井上さんの経験やクラスメソッドから得たナレッジは、EG電装課としてのAWS活用の起点になると同時に、部門の枠を超えて貴重な資産となっています。
一方で、課題も見えてきました。EG電装課でAWSを専門的に扱えるエンジニアは井上さん一人。今後の展開を見据えると、人材の育成が欠かせません。
「今は私1人で担当していますが、それではリスクがあります。人を増やして、教育していく必要がある。クラスメソッドからいただいたドキュメントやサンプルは、そうした場面でも活用できると考えています」(井上さん)
業界トップとしてクラウド活用で先駆けたい
今後の展望について、井上さんはこう語ります。
「やりたいことはまだたくさんあります。少しずつでも発展させて、業界に貢献していきたいですね。タワークレーンのシェアトップとして、先頭に立って取り組んでいく姿勢を見せていきたいと考えています」(井上さん)
クレーン業界では、製品が20年、30年と長期間使用されるため、製品の更新頻度が低く、新しい技術を導入する機会が限られているといいます。井上さんは、だからこそ早い段階から取り組む価値があると感じています。
「機械メーカーの社内にいると、最新のIT情報に触れる機会はどうしても限られます。クラスメソッドには、私たちだけでは気づけない視点からの提案を期待しています」(井上さん)
AI活用への関心も高まっています。2025年12月に開催されたAWS re:Invent 2025では、「AIを使うかどうか」ではなく「AIをどう活用するか」が議論の中心でした。クラスメソッドの担当エンジニアは、こうした最新動向を井上さんに共有。AIを自社で構築するのか、AWSが提供するサービスを活用するのか、北川鉄工所にとっての最適解を一緒に考えていきたいと話しています。
「AIには興味があります。製造業の現場では、制御系へのAI適用はリスクもあり慎重にならざるを得ませんが、それ以外の領域を含め何かしらの形で取り組んでいきたいと考えています」(井上さん)
クラスメソッドは、AWS技術コンサルティングをはじめ、データ可視化やAI活用など幅広い領域での支援を提供しています。製造業DXの推進においても、技術支援だけでなく、最新情報の共有やナレッジの蓄積を通じて、お客様の成長を継続的にサポートできます。
北川鉄工所のAWS活用は、まだ始まったばかり。クラスメソッドは、同社の挑戦をこれからも支援してまいります。


