LIXILの企業理念は「世界中の誰もが願う、豊かで快適な住まいの実現」であり、2011年に住宅設備機器メーカー5社が合併してできた会社です。その後海外企業のM&Aを経てグローバル化が一気に進みました。さらに、デジタル化の普及に伴い、製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。
LIXILでは、「製品を販売して利益を得る」というモデルから「製品が提供するサービスを付加価値として販売する」というビジネスモデル自体のトランスフォーメーションに取り組んでいます。
同社が2018年に販売を開始したスマート宅配ポストも、宅配ボックスという製品に荷物の受け取り状況を遠隔で確認できるというサービスで付加価値を提供している例です。今回のメルカリポストの開発も、ユーザーの利便性を高めるサービスを提供することが重要な目的であり、あわせて個人間取引によって増加し続ける物流の課題へのひとつの解決策とすることが狙いです。
従来、BtoBを主軸にサービス展開をしていたLIXILがメルカリと協力し、BtoCtoCの領域における開発に取り組む背景と今後の展望について、本プロジェクトのプロダクトオーナーであるエクステリア事業部の佐々木 義さんに詳しくうかがいました。
IoT宅配ボックスの知見をメルカリポストに応用
LIXILは住宅設備機器メーカーとして、キッチンなどの水まわり製品や、住宅のエクステリア、建材などの製造をおこなってきましたが、近年はIoTなどによるサービス提供にも取り組みを広げており、デジタルに強いメンバーも増えてきています。こうしたデジタル領域への取り組みからフリマサービスを運営するメルカリ社と縁ができ、さらに鹿島アントラーズのスポンサーとしても交流の機会がありました。
メルカリ社が全国展開を予定しているメルカリポストについて、サプライヤーの1社としてLIXILが候補に上がったのは、こうしたご縁によるものだったそうです。
もともとLIXILエクステリアではIoT宅配ボックスとして「スマート宅配ポスト」を展開しており、物流の社会課題をメルカリ社とも共有していました。スマート宅配ポストのノウハウをメルカリ社の事業にも生かせると考え、供給していくことが決定しました。
IoTに必要なデバイスからクラウドアプリケーションまで幅広く相談できるメンバー
今回のメルカリポストのプロジェクトは、LIXILがキッチン製造で培った板金技術と、スマート宅配ポストで培ったIoT技術を最大限に活用するものであり、佐々木さんは「ものづくりのプロ」として機能やセキュリティについても手を抜かずに進めたいと考えていました。
LIXILとしては、筐体製造やIoTなどの各技術要素については知見があるものの、新しい領域でのチャレンジでした。また、プロジェクト自体も短期決戦で、可及的速やかに最短でのスケジュールが組まれていました。
そこで、佐々木さんは、新しいパートナーとゼロから開発体制を作って取り組むのではなく、パートナーシップを組んでから3年が経過し、すでに文化や価値観が共有できているクラスメソッドとならハードウェアも含めて一緒にIoTをフルスタックで実現できると考えたそうです。
これまでのIoT宅配ボックスの開発にともに取り組んだ実績(「IoT宅配ボックスのシステム連携をサーバーレスで実現」)があり、ビジョンが共有できているこの強いチームであれば、テーマを選ばずこの厳しいスケジュールも乗り越えられるだろうと考えたそうです。
今回のメルカリポストの開発では、量産体制を構築するために、工場での出荷フローについても検討する必要がありました。そのなかには、工場の方がメルカリポストを出荷するために、メルカリポストのキッティングをするという業務もありました。
クラスメソッドは、工場でのフローをしっかりWhyから考え、出荷時の業務を迷いなく実行できるようQRコードの読み込みだけではなく、Amazon Pollyで作成した音声案内を付け加えるなどのオペレーション支援の仕組みをつくり、出荷業務をより効率よくサポートできるようになりました。
「これもプロダクトの価値が共有ができており、チームメンバーが個々に判断して行動することができる、自己組織化ができているチームだからこそ出てきた発想であり、まさに私が求めているチームのあり方だと改めて感動しました。」(佐々木さん)
デバイスとクラウドを並行してアジャイル開発実施
メルカリポストについては、メルカリ社のCtoC向けサービスで利用されるものであるため、できるだけセキュアな設計にする必要がありました。
そのため、認証情報の保存や認証操作にはハードウェア保護モジュール(セキュアチップ)を活用しています。一方で、デバイス証明書はメルカリポストの移設交換などによる失効等を考慮して、筐体の設置先が決まったプロビジョニング時に発行することとしました。
これらの要件を満たしながら、できるだけ早くメルカリ社へデモを行う必要があったため、デバイス側はRaspberry Piで業務を体験レベルで具現化していきました。
クラウド側アプリケーション開発とRaspberry Pi上のプログラム開発、基板設計を同時に進めていくためには、最初に仕様をきっちり決めてから開発するのではなく、優先順位を決め、定期的にリリースしながら開発するアジャイル開発が向いています。
佐々木さんは「クラスメソッドさんとは、以前からスマート宅配ポスト開発でアジャイル開発を行っていましたので、心配なく進めていくことができました」と言います。
アジャイル開発をする上では、機能を追加しながら順次アップデートできる仕組み(CI/CD)が必須になりますが、メルカリポストの筐体用プログラムをクラウド経由でアップデートできるよう開発の早い段階で準備することで、メルカリポストのデモ機にその時点での最新版の機能が動いている状態にできたのも、アジャイル開発の利点だったといいます。
アジャイル開発をより効率よく行うため、LIXILでは検証用の筐体として机上に置けるメルカリポスト(通称ミニメルカリポスト)を伊深さんがスクラッチで手作りして提供しました。このミニメルカリポストを使うことで、本体無しで動作確認やデバッグできます。
デバイスとアプリケーション、それぞれについてLIXILとクラスメソッドの2社が連携してアジャイル開発に取り組めたことで、互いの開発スピードと品質を高めることにもなったようです。
検証用筐体を用意したことについて、佐々木さんは「開発メンバーからの評判も良かったので、次回のプロダクト開発時にもこの方式は継続して行いたい」と語ります。アジャイル開発への取り組みが、次回の開発プロセス改善に向けたノウハウにもなったようです。
toCに広がるプロダクト領域と、社会への価値提供
メルカリ社の文化やビジネススピードに対応していくため、さまざまな調整を重ねて短期間での量産化体制の構築にこぎ着けたことを、プロダクトオーナーとして感慨深いと語る佐々木さん。
「今回のメルカリポストでtoC向けの市場に対してもLIXILのプロダクトを展開することができました。今後はさらにIoTサービス連携を深めていき、IoTのエコシステムを作り、社会に価値を提供していきたいと思います。そのためには、開発パートナーであるクラスメソッドさんのデバイスからクラウドまで一気通貫でできる技術力が不可欠となりますので、今後も宜しくお願いいたします。」(佐々木さん)
今後も生活に溶け込んだサービスを提供し、さらなる発展を目指すLIXIL様を、クラスメソッドは高い技術力と柔軟なチームサポートで支えていきます。