江戸時代の創業以来300年以上の歴史を持つ小野薬品工業は、「病気と苦痛に対する人間の闘いのために」を理念に掲げ、独創的な医薬品を開発しています。2014年には世界に先駆けて抗悪性腫瘍剤「オプジーボ」を発売し、がん免疫療法の新たな道を切り拓きました。売上収益に対する研究開発費比率は21%(2021年度)と、積極的な研究開発投資を継続しながら革新的な新薬の創製を進めています。
医薬品の開発・製造には、スピーディなIT基盤構築が可能なクラウド活用が欠かせません。同社でも早くからAWSを活用していましたが、制約の多い既存システムではタイムリーな対応ができない状況が続いていました。そこで自社の各組織でAWSが活用できる環境の構築をクラスメソッドに依頼し、AWS Organizationsによって複数のAWSアカウントを安全かつ効率的に管理する体制を整備しました。そのメリットについて、デジタル・IT戦略推進本部の木佐貫さん、田和さん、舟橋さんの3名にうかがいました。
AWSアカウントの自主的な管理を目指して
新薬開発に挑み続ける小野薬品工業のデジタル・IT戦略推進本部は、同社の成長戦略を組織横断的に推進する「強力なエンジン」の役割を担い、現在は「デジタル・ITによる企業変革」をテーマに、IT基盤の整備、DX人財の育成、データ活用に取り組んでいます。
同社では2012年頃からAWSを利用していますが、従来は用途に応じて都度ベンダーに依頼しなければならず時間と費用がかかっていました。現状のままでは、クラウドのメリットを活かすことができず、各ビジネス部門は試したいと思った時にすぐに利用することができません。そこで現状を打破するべく、自社でAWS環境が構築できる体制を整備することを決断しました。
AWS Organizationsによるマルチアカウント管理
課題解決に向けて同社はAWSアカウントを運用するためのコンセプト提案をベンダー各社に依頼し、その中からクラスメソッドの提案を採用してAWS Organizationsによるマルチアカウント管理の環境を構築することにしました。
「RFPを送付した各ベンダーからは、AWS Organizationsを使った解決方法や、それ以外の方法を使った提案など複数ありました。その中でもクラスメソッドから提示された内容はわかりやすく、進め方についても具体的にイメージすることができたことが採用の決め手となりました」(木佐貫さん)
デジタル・IT戦略推進本部は、事業を加速させる強力なエンジンとしての役割を担う一方、事業を守るセキュリティの役割も担っています。セキュリティが事業推進のブレーキとなっては本末転倒であるため、「攻め」と「守り」の両立を意識したうえで、クラスメソッドを選定したといいます。
「AWS Organizationsは、『攻めのデジタル』と『守りのセキュリティ』の両輪を兼ね備えたサービスですが、国内でそれが実現できるベンダーは限られています。クラスメソッドからは、提案段階からサービスの導入事例や制約事項について具体的な説明を受け、理解が一番深いと感じたことからパートナーとして協力をお願いしました」(舟橋さん)
セキュリティを重視した設計/実装を実施
同社はプロジェクトを開始した後、3ヶ月ほどかけてクラスメソッドとコンセプトを検討し、アカウントやネットワーク、セキュリティ、運用、コスト、ログなどを幅広くカバーするマルチアカウント戦略を策定。その方針を具体化するために、AWS Organizationsを中心としたサービスを構成し、AWSアカウントの一元管理、新規アカウントの作成・管理、請求とコストの一元管理ができるようにしました。クラスメソッドはマルチアカウント統制やAWS環境へのアクセス制御、AWSアカウントやオンプレミス環境とのネットワーク、各種ログや各種セキュリティについて設計・実装という形で技術支援しています。
「設計・実装の際に意識したのは、外部からの脅威に対する保護と多様な利用者でも破綻しないアクセス管理の2つです。加えて、セキュリティを高めつつ拡張性を損なわない仕組みであることも重視して開発を進めていきました」(木佐貫さん)
プロジェクト期間中はコロナ禍であったため、ほとんどがオンラインでの開発となりましたが、デジタル・IT戦略推進本部のプロジェクトメンバーとクラスメソッドのエンジニア間のコミュニケーションは良好で、大きなトラブルもなく計画どおりに進んだといいます。
「プロジェクトで印象に残っていることは、アジリティの高い課題管理です。今までの取引先は、隔週で打ち合わせを実施し、ExcelやPowerPointで進捗報告や課題管理を行っていました。コミュニケーションもメールベースが中心でしたので、効率の悪さを感じていました。クラスメソッドとのプロジェクトでは、Backlogを使って課題管理やコミュニケーションを行いました。これにより、タスクの実施状況やコミュニケーション管理を一元化し、意思決定のプロセスを短縮できたことがスムーズに進んだ要因のひとつです」(舟橋さん)
プロジェクト全般については、クラスメソッドのスピーディな対応と、的確な技術の提供を評価しています。
「技術面についても私たちが納得するまで説明してくれました。ビジネス部門からのニーズについて相談した際も、翌週には何らかの回答を用意していただき、安心してプロジェクトを進めることができました」(田和さん)
ビジネス部門でAWS利用が拡大
AWS Organizationsの導入以降は、デジタル・IT戦略推進本部が独自にAWS環境を払い出すことが可能になりました。導入以前は7アカウントのみでしたが、導入後は半年間で30以上のアカウントが新たに増えました。
「導入プロジェクトの進行と並行して、まずはデジタル・IT戦略推進本部内やニーズの高そうなビジネス部門を中心に声をかけました。その結果、多くの利用ニーズが集まりました。その中には、当社が統合データ利活用基盤として構築し、2022年8月から稼働を開始した『OASIS』が含まれています。AWS上でOASISが稼働したことで、各部門が保有しているデータを横断的に管理する準備が整ったことが大きな成果です。その他、ビジネス部門の個別のアプリケーションについても利用が始まっております。すでに研究部門を中心に、AWS上でのさまざまなAI検証・導入プロジェクトの実施や、オンプレサーバーのAWS移行、API連携のテスト環境の立ち上げなどで利用が進んでおり、現在も新たな利用要望が続々と集まってきています」(田和さん)
「まず、環境払い出し時にユーザーに確認するヒアリング項目が減りました。ネットワークの設計もAWS Organizationsの配下にあるAWS Transit Gatewayを設定するだけで済み、CloudFormationでテンプレートにパラメータを入力することで必要な環境が作成されるので、全体の工数は大きく減っています」(舟橋さん)
先進的なクラウド活用企業を目指して
デジタル・IT戦略推進本部において、今回のAWS Organizations導入プロジェクトは、フェーズ1の位置付けであり、現在も追加開発は継続しています。今後はセキュリティ環境のさらなる充実や、運用の自動化環境の整備を進めるなど、常に技術トレンドを追いながら最適な環境実現に向けて取り組んでいきます。
「まずは2022年度末に向けて環境を整備し、全社に対してAWSの積極的なAWS活用を呼びかけていきます」(木佐貫さん)
AWS環境については、一般的な業務システムから、AIサービス、大量データ処理やHPC環境を要するシステム構築まで、より幅広い用途での活用を検討しています。さらに、大学や研究機関など社外の共同研究先との共同利用環境の構築なども見据えており、クラスメソッドに対して、AWSの活用に関する継続的な支援に期待を寄せています。
「今回の取り組みの結果、グローバルスタンダードなクラウド活用企業への第一歩を踏み出せたと実感しています。一方でAWSの世界は日進月歩であり、日々のアップデートを怠ると、あっという間に取り残されてしまう危機感を抱いています。クラスメソッドには、私たちが時代の一歩先をリードする企業であり続けるために、新たなソリューションの活用提案などを期待しています」(舟橋さん)
がんや神経疾患など難易度の高い領域でチャレンジする小野薬品工業において、スピーディかつ柔軟に開発環境が得られるクラウドの活用は今後も重要になってきます。クラスメソッドは、製薬業界で培った実績を活かして、同社の新薬の創製に貢献していきます。