塩野義製薬グループで医薬品・治験薬の製造を担うシオノギファーマ株式会社。摂津工場は固形製剤や注射製剤、治験薬を製造する基幹拠点です。
同工場では製造データの活用を長年構想してきたものの、工場設備からクラウドへの接続に課題がありました。そんな中、2023年6月、塩野義製薬のDX部門からの紹介でクラスメソッドと出会い、PLC Data To Cloudを導入。製造設備のデータをリアルタイムでクラウドに蓄積する仕組みを構築しました。
またプロジェクトを経て、林さんや山田さんも自らAWSを学んでダッシュボードを構築するまでに至っています。工業化技術部の林さんと山田さん、工場技術部の原田さんと高梨さんにお話をうかがいます。
医薬品の安定供給を支える製造データ活用
医薬品製造において最も重要なのは、安定供給です。林さんはその意義をこう語ります。
「薬を待っている患者様に薬が届かないということがあってはなりません。品質を常に一定水準以上に保った上で供給し続けるためには、製造データの活用は不可欠だと考えています」(林さん)医薬品は厳格な品質管理試験を経て出荷されますが、万が一、不合格になれば供給計画に影響が出ます。その後の原因究明にも製造データは欠かせません。同社では以前から、その重要性を認識していました。
「10年以上前から、現場のデータを集めて可視化するという構想はありました。ただ、当時はそれを実現するための基盤が整っていなかったのです」(高梨さん)
工場ではGMP(医薬品の製造管理及び品質管理の基準)で求められるデータは当然記録していたものの、製造設備の電流値やトルク値、設備のオン・オフのタイミングなど、製品の品質に直接影響しないパラメータまでは記録しきれていませんでした。またデータを取得する手段はあっても、SDカードで取り出してExcelで確認するという運用。現場に行かなければアクセスできず、リアルタイムでの把握は困難でした。
「意識せずとも、データが自動的にクラウドへ蓄積されていく。そんな仕組みがあればと考えていました」(林さん)
工場設備からクラウドへ、データを自動で送る仕組みをどう構築するか。これが同社の課題でした。
塩野義製薬との実績を背景にプロジェクト始動
製造データをクラウドへ送る仕組みを実現するため、同社はクラウドベンダーとの検討を進めていました。しかし、思うように進まない時期が続いたといいます。
転機となったのは、塩野義製薬のDX部門への相談でした。当時、クラスメソッドは塩野義製薬の全社的なAWS環境整備を支援していました。
「困っている状況を相談したところ、塩野義製薬での支援実績についての情報共有をもとに、クラスメソッドと一緒に取り組んでみてはどうかと紹介していただきました」(林さん)
製造現場には、工場設備やPLCを制御する「OT(Operational Technology)」と、クラウドや社内システムを扱う「IT(Information Technology)」の2つの技術領域があります。OTは外部と接続しない閉じたネットワークが一般的で、ITとは異なる技術やプロトコルが使われています。そのため、工場設備からクラウドへデータを送るには、両方の領域に対応できるパートナーが必要でした。それが可能なのが、クラスメソッドでした。
クラスメソッドはPLC Data To Cloudを提案。PLCデータをクラウドに保存し可視化・分析・通知を行うソリューションです。3つのフェーズに分けて段階的にデータ活用の範囲を広げていく計画のもと、プロジェクトが動き出しました。第1フェーズでは2023年6月から約6ヶ月をかけて工場設備とクラウドをつなぐゲートウェイを設置し、208棟の打錠機を対象にデータ収集体制を構築しました。翌2024年には第2フェーズとして、ゲートウェイを更新して複数棟でのデータ統合管理を実現。その後、第3フェーズとして2025年にはPLCへのデータ書き込み機能の開発と207棟への横展開を進めています。
最初の取り組みでは、208棟の打錠機を対象にゲートウェイを設置し、PLCからのデータ収集を開始しました。実際にデータがクラウドへ流れ始めると、同社の手応えも確かなものになっていきます。
「いくら優れたクラウド環境があっても、工場の設備とつなぐ手段がなければ活用できません。その入り口ができたことが大きかった」(高梨さん)
自らダッシュボードを構築し、活用の幅を広げる
2024年、プロジェクトは第2フェーズへ進みました。ゲートウェイソフトウェアを更新し、複数台のPLCから同時にデータを収集できる体制を構築しました。
またクラスメソッドは並行して、今後の内製化に向けたドキュメント整備も進めました。特筆すべきは、収集したデータを閲覧するダッシュボードの構築を林さんや山田さん自身が行ったことです。2人はプロジェクト開始当初、AWSの知識はほとんどなかったといいます。
「最初は何もわからない状態でした。ただ、実際にデータが取れることを確認してから勉強を始めて、グラフやSQLも扱えるようになりました。作りたいグラフのイメージは最初から明確にあったので、ようやくやりたいことができたという感覚です」(林さん)
山田さんもLambdaを活用した解析処理を実装するなど、活用の幅は着実に広がっています。当初は林さんと山田さんだけが見ていたダッシュボードも、今では部内でユーザーが増えつつあるとのこと。「これまでアクセスしづらかったデータが、すぐに見られる。決まった形で出力されるので使いやすいと、社内でも好評です」(山田さん)
クラスメソッドの支援姿勢を、原田さんはこう評価します。
「丁寧なマニュアルを何度も作成してくださり、自分たちでできる範囲を広げていけるようサポートしていただいています」(原田さん)
PLCへのデータ書き込みという新たな挑戦
2025年1月、プロジェクトは第3フェーズへ。新たに「PLCへのデータ書き込み」という機能の開発に着手しました。きっかけは、連続生産設備(※)における課題でした。秤量値を人の目で確認し、紙で記録するという作業が残っていたのです。
※連続生産設備……原料の投入から製品の完成まで、工程を止めずに連続的に製造する設備。従来の医薬品製造では、一定量の製造を一工程ずつ進める「バッチ生産」が主流だったが、近年は連続生産の技術開発も進んでいる。
「連続生産設備では省人化を進めていますが、秤量値の記録のように人の手でしか進められない部分もありました。この点を自動化できないかと考えたのです」(原田さん)
この自動化は、生産管理システム(MES)を改修することで実現できます。しかしその方法ではMESとPLC双方の改修が必要となり、コストが大きく膨らむことがわかりました。そこで検討したのが、ゲートウェイを経由してPLCにデータを書き込む方法です。
クラウドにデータを蓄積すれば、ダッシュボードでの可視化や分析には活用できます。しかし、MESはPLCからデータを読み取る設計になっており、クラウド上のデータは直接参照できません。ゲートウェイで計算した結果をPLCに書き込めば、MESは従来通りPLCを参照するだけで済み、改修は不要になります。
しかし、PLCへの書き込みは慎重に扱う必要があります。不用意な操作は設備の誤動作につながりかねないためです。今回は生産に影響しない領域に限定し、検証を重ねながら開発を進めることで安全な実装を行うことができました。
「スケジュールが決まっている中で、短期間での対応をお願いすることもありました。それでもクラスメソッドはスムーズに仕組みを作ってくださり、検証のベースも素早く出していただいたおかげで十分な検証ができました。非常に助かりました」(原田さん)
GMP対応に向けた準備も進んでいます。ゲートウェイ自体の検証は完了し、生産への正式導入に向けた手順整備を進めている段階です。
スマートファクトリーの実現に向けて
プロジェクトを通じて、製造データの可視化基盤は着実に整ってきました。同社は今後について、どのような展開を描いているのでしょうか。
「製造データだけにこだわっているわけではありません。人、モノ、金のデータをクラウドに集めて連携させていきたい。何か問題が起きた時に、様々な観点から原因を分析できるようになればと考えています」(原田さん)
高梨さんは、データ活用がもたらす変化に期待を寄せます。
「データを集約することで、経営層は意思決定に活用できる。現場のオペレーターは、ダッシュボードやサイネージで自分の工程の状況がすぐにわかる。それぞれの立場でPDCAが回るような環境になればと期待しています」(高梨さん)
林さんも、外部パートナーとの協業の価値を実感しています。
「自分たちだけでは到達できない領域に、専門性を持つ企業と一緒に取り組むことで近づける。そうした協業は積極的に進めていきたいですね」(林さん)
山田さんは、社内でのデータ活用の裾野を広げることに意欲を見せます。
「ユーザーを社内に増やして、必要な人が必要なデータにアクセスできる環境を整えたい。敷居が高いと感じている人にも、歩み寄っていけるような仲介役になれればと思っています」(山田さん)
2027年4月には、シオノギファーマは塩野義製薬に再統合される予定です。林さんはこれを新たな契機と捉えています。
「環境は変わりますが、それをきっかけにデータ活用をさらに加速させていきたいですね」(林さん)
クラスメソッドでは、クラウドにとどまらず、工場設備へのアプローチも含めた上流から下流までの幅広い支援が可能です。シオノギファーマ様のスマートファクトリー実現に向けて、今後もともに歩んでまいります。


