ホテル椿山荘東京や箱根小涌園、ワシントンホテル、ホテルグレイスリーといったホテル施設や結婚式場の運営、レジャー事業などを手掛ける藤田観光株式会社。中期経営計画でデジタル活用を進める同社では、社内業務におけるデータ活用を促進するため、「AWSコンサルティング」にてお取り組みいただきました。クラスメソッドとの取り組みの背景にあった課題、支援により得られた成果について、プロジェクトをご担当いただいた皆さまにお話を伺いました。
顧客体験のデジタル活用が進む一方、社内ではアナログなデータ活用による人的工数の負担が課題に
今回お話を伺った企画本部DX推進部では、一般的な情報システム部門が担う基幹システムの導入や運用保守に加え、藤田観光グループの会員プログラム「THE FUJITA MEMBERS」における会員情報の管理やメルマガ配信といったデジタルマーケティング領域の業務も担当しています。
特に「THE FUJITA MEMBERS」を通じたお客様との関係構築は、2024年〜2028年の中期経営計画において成長戦略の一つとして掲げられており、会員数の増加や売上規模の拡大などが期待されています。この中期経営計画には「顧客データの活用基盤展開」「定着化・リテラシー向上」について言及されており、これらの方針が今回の取り組みに繋がっているとのことです。担当部長としてDX推進部を管掌する荒井さんに、データ活用ワークショップとAWS総合支援によるAWSコンサルティングにてお取り組みいただいた背景をお聞きしました。

ホテル管理システムを日々の業務で使用している販売部門が抱えていた課題は、現場だけでなく同社の経営層も理解していたそうです。そこで今回のデータ活用ワークショップへの参加をきっかけに、会員プログラムの構築やデジタルマーケティングの実施など、デジタル活用が進んでいたDX推進部が旗振り役となり、販売推進室やマーケティング室、そして施設で価格・在庫調整の実務を担当するレベニューマネジメント課といった事業部メンバーが一体となってプロジェクトを組成し、データ活用による課題解決の取り組みがスタートしました。
クイックな対応と豊富な情報量で、データ活用ワークショップの期間内でダッシュボードを実現
データ活用ワークショップでは、複数のAWSユーザー企業が合同で参加し、各社が抱えるデータ活用における課題や、パートナー企業と共に構築したダッシュボードと課題に対する解決策が共有されました。同社がデータ活用ワークショップへの参加を決断したポイントは以下の3つです。
・情報システム部門だけでなく、実際にデータを活用する事業部門の参加が必須であること
・座学だけでなく、Amazon QuickSight を活用したダッシュボードを実際に構築すること
・専門知識を持つパートナー企業のサポートを受けられること
一般的なデジタル活用のプロジェクトは、社内の関係各所に説明し、理解を得ることからスタートします。しかしデータ活用ワークショップは事業部門の参加が必須であることに加え、ダッシュボードという具体的なアウトプットが得られることで、同社の事業部門や経営層からの理解がスムーズに得られたとのことです。

データ活用ワークショップ全体の実施期間である3〜4カ月のうち、以下の4日間のプログラムが実施されました。
・Day1:ベースとなるアイデア出し。課題に対しての意見交換
・Day2:データ分析の専門家によるセッションを受講。ダッシュボードのイメージを作成
・Day3:ダッシュボードのモックを発表。フィードバックを受け、開発における課題感を理解
・Day4:完成したダッシュボードと今後の活用計画を発表する
4回に分けられたワークショップの中で特に重要だったのはDay2からDay3にかけて、つまり作成したイメージに沿ったダッシュボードを構築するフェーズです。Day2からDay3の間は週次でオンラインの打ち合わせを実施するだけでなく、コミュニケーションツールやプロジェクト管理ツールを活用し、実装の進捗管理や質問に対するアドバイスを受けながらダッシュボードを構築していきます。
「クラスメソッドによる伴走で特に印象に残っているのが、サポートのクイックさと豊富な情報量です。ダッシュボードの実装でどこかにつまずいても、すぐにチャットでアドバイスをいただき、さらにはクラスメソッドのオウンドメディア『Developers.IO』に後日私たちが受けたアドバイスを整理した内容の記事が公開されていました。このクイックさと豊富な情報量のおかげで、短期間でもダッシュボードを実装することができました」(川本さん)
ワークショップへの参加時点では、同社ではAmazon QuickSight の活用が進んでいる状態でした。そこでダッシュボードの構築よりも前段階、つまりダッシュボードにつなぎこむデータの前処理やAmazon Athenaによるデータ抽出、データ加工といった発展的なサポートを提供しています。
データの可視化は実現したものの、データ収集・加工における人的工数削減の課題が残っていた
データ活用ワークショップ終了後、Amazon QuickSight で構築されたダッシュボードの本格運用に向け、データ活用よりも手前の工程、データ収集とデータ加工についての実装が検討されました。構築されたダッシュボードによってデータの可視化は実現できたものの、データフロー全体では人的工数が削減されておらず、特にデータ収集とデータ加工は人的工数の温床となっていたのです。データ活用ワークショップ後も残っていた課題について振り返っていただきました。

実際に施設ごとの販売部門では、ホテル管理システムから毎日データをダウンロードし、販路別や部屋タイプ別の価格と在庫の前日差異をExcelで記録していました。そのデータを基に需要や環境の変化を分析し、適切な価格を判断しています。WHG事業部全体では「ホテルグレイスリー」や「ワシントンホテル」など約30施設を運営しており、1施設あたり1日1時間程度、この価格最適化業務の前段階となるデータ収集・加工作業が発生しています。そのため、WHG事業部全体で見ると、毎日30時間、年間では全施設で約1万時間もの単純作業に人的工数が費やされている計算になります。
AWSコンサルティングの支援を受けてデータフローを構築し、データ処理業務で年間2,400時間を削減
データの収集から加工までのデータフロー全体を構築するため、クラスメソッドが提供するデータ活用基盤のサービスなどをご参考いただき、クラスメソッドからはAWS総合支援によるサービス「AWSコンサルティング」をご提供させていただきました。この「AWSコンサルティング」は、AWSやデータ活用基盤の構築に豊富な知見を持つクラスメソッドの技術アドバイザーであるエンジニアが課題ごとにご相談をお受けし、その課題を解決するための技術ノウハウをご提供するサービスです。なお、今回の取り組みではワークショップにて同社をサポートさせていただき、ビジネスモデルや課題などを熟知している担当エンジニア3名が引き続き、技術アドバイザーとして伴走支援させていただきました。同社ではアドバイスを求める際、「技術的に可能な方法」ではなく「無理なく運用できる方法」を意識していたそうです。
「弊社のDX推進部には、直近まで現場で接客をしていた社員も在籍しており、全員がコーディングやデータに関する専門知識を持っているわけではありません。そのため、データフローを構築する際には、ITに不慣れな社員でも運用できる仕組みが求められました。クラスメソッドの担当エンジニアの方々は、まるで“先生”のように親身に寄り添い、弊社のリソースや技術レベルに合わせて自走可能な方法を丁寧に教えていただきました」(田畑さん)
その結果、BIとしてAmazon QuickSight、データの加工・結合にはノーコードETL、データ収集にはRPAを導入し、これらを組み合わせることで、大量のデータを高速に検索・集計・可視化できるデータフローの構築に成功しました。この仕組みを活用した業務フローへの移行により、たとえば手作業と目視で予約情報やマスタの正確性を確認していたデータ処理業務では、年間2,400時間の工数削減を実現しました。これは1人のフルタイム従業員が約1年間に費やす労働時間に相当します。今後はさらなる安定稼働を目指し、RPAに代わるデータ連携基盤の開発にも取り組んでいます。
“作業”を減らして人にしかできない“仕事”を増やし、さらなる顧客サービス向上を目指して
今回のデータ活用ワークショップとクラスメソッドの「AWSコンサルティング」の取り組みによって、情報システム部門としてのDX推進部の役割に変化があったといいます。今回の取り組みを総括した上で、今後の展望をお伺いしました。

「これまでの情報システム部門は、システムの運用保守といった『守り』の役割が中心という印象がありました。しかし、業務フローの工数削減を通じて利益を生み出す『攻め』のサポートができるようになったと感じていますし、社内からの期待も高まっています。今後の取り組みでは、さらなる工数削減によって“作業”を減らし、人にしかできない“仕事”を増やすことで、データ分析の高度化を目指していきたいですね。そしてその先には、お客様のためのサービスや顧客体験の改善まで実現できればと考えています」(久保田さん)
取材の最後にクラスメソッドの「AWSコンサルティング」を活用いただく際のアドバイスをいただきました。
「他社のSEの方々と異なる点は、依頼主が実現したいことや抱えている課題をしっかりと汲み取った上で、適切な提案をしてくださるところだと感じています。クラスメソッドの皆さんはプロフェッショナルなので、私たちの状況を踏まえ、逆算して技術的に何を実現すべきか、そしてそのための具体的なフローを示してくれます。技術的な展望を無理に話そうとするよりも、ビジネス上の課題や悩み、理想像を自分の言葉で率直に相談してみるのが良いのではないでしょうか」(荒井さん)