東北地方を代表する新聞社である河北新報社が、CentOSのEOLを契機にAWS基盤のモダナイゼーションを実施。クラスメソッドの技術支援を受けながら、IaCによる自動化とチーム育成を同時に進めました。その背景と成果、今後の展望について、システム開発部の鮱名(えびな)さんと日下さん、菅原さん、そしてシステム管理部の菊地さんに話を伺いました。
システム開発部を新設して内製を強化
宮城県仙台市に本社を置く河北新報社は、東北を代表するブロック紙「河北新報」の発行元として知られています。同社におけるWebニュースサービスは1996年にスタート。読者サービスの一環として無料サービスの期間が長く続いたのち、2023年1月からは「河北新報オンライン」として会員制の有料サービスも導入されました。
河北新報オンラインはAWS上で運用されています。メインのニュースサイトの開発は外部ベンダーに委託していますが、そのほかの特集サイトやキャンペーンサイト、有料会員ページの開発・保守については自社で行っています。2024年4月には新たにシステム開発部が設立され、さらなるシステム内製の強化を図りました。

「AWSによってクラウド化されていたものの、EC2のイメージをコピーしてたくさんの特集サイトやキャンペーンサイトを制作することが常習化し、インスタンスが乱立していました。それに加え、手動で運用する場面が多く、AWSの良さを活かしきっていないジレンマがありました。Web開発の視点でいけば明らかにムダが多かった。これでは効率が悪いと考え、CentOSのEOLを機に、社内を説得してモダナイズのプロジェクトを立ち上げました」(鮱名さん)
IaCによって既存サイトのバックエンドを刷新
モダナイズの目的はIaC(Infrastructure as Code)によるインフラ構築の自動化、さらにはコンテナベースの開発を視野に入れたクラウドネイティブ化でした。
「メディア事業は走り続けるのが宿命ですが、このまま非効率な作業を続けていたらデジタルのスピード感に追いつけず、新しいことにもチャレンジできません。さらに保守に関するメンテナンスコストを可能な限り下げることを踏まえると、IaCによるクラウドネイティブ化が最も有効な選択肢でした。ただし開発に慣れていないメンバーが多いため、基礎からの研修も兼ねて進めることにしました」(鮱名さん)
過去に「AWS Dev Day」で知り合っていた経緯もあり、技術支援はクラスメソッドに依頼しました。「AWSの技術的な疑問を検索すると『DevelopersIO』が必ずと言っていいほど上位に出てきます。その内容からも確かな技術力があってわかりやすい印象が強かったので、本プロジェクトのパートナーに最適だと考えました」と鮱名さんは話します。
支援内容は、すでに公開済みの特集サイトなどの刷新をスコープとしました。ただしステージング環境までがゴールであり、本番環境は自社で開発することを目標に定めました。
「研修だけでは実務への反映は不可能です。サンプルサイトではなく、実運用しているサイトを作る緊張感があってこそスキルが身につくと考えました」(鮱名さん)
初心者が開眼したモブプロの成果とは
河北新報社では鮱名さんをリーダーに、システム開発部から日下さんと菅原さん、システム管理部から菊地さんが参加してチームを結成。約半年間のプロジェクトを実施しました。まずは全体の方向性を鮱名さんとクラスメソッドが話し合い、IaCツールには汎用性を考慮してTerraformを選択しました。
「Terraformは初めてでしたが、過去にChefを触った経験があるので自動化に関してつまずくことはありませんでした。しかし私以外のメンバーは何もかもが初めてで面食らったと思います」と鮱名さん。その言葉通り、日下さん、菅原さん、菊地さんはほぼゼロからのスタートでした。
「システム開発部としては、1人でも多くクラウドネイティブで開発できるメンバーを増やしたい。クラスメソッドさんからご提案いただいたモブプロを中心に、とにかく実践しながら覚えていくスタイルを採用したのはそのためです。モブプロでは菊地、菅原がメインで手を動かし、日下にもオブザーバーとして積極的に参加してもらいました」(鮱名さん)
モブプロは週2回のペースで行いました。「すべてが初めての経験だった」と話す菅原さん、菊地さんですが、学習内容には手応えを感じています。
「これまでは新聞制作の部署にいたので、そもそも外部の人とのプロジェクトが初めてでした。とくに役立ったのはモブプロの録画映像です。映像を見返しながら反復復習できたのは効果的でした。支援を通じて、自分自身も成長したことを実感しています」(菅原さん)

「AWSの基本を学ぶ貴重な機会でしたし、初歩的な質問に対しても非常に丁寧に答えてくれたので助かりました」(日下さん)
鮱名さんは「クラスメソッドのアプローチはダイレクトに正解を教えるだけではなく、答えを探すためのヒントを教えてくれるので自身の成長につながります。それ以外でも開発に関するアドバイスをたくさんいただきました。この経験はほかのプロジェクトでも、探し方のコツがわかっているので流用できます。そうしたメリットは大きく、私自身も大いに満足しています」と評価します。
アプリケーションレイヤーの効率化も狙う
現在は本番環境構築に向けてチーム一丸となって開発に励んでいます。支援の前から、既存サイト以外ではコンテナベースのアプリを開発していた経緯もあり、今回のIaC導入をきっかけにクラウドネイティブ化が加速すると期待しています。

「年度末をメドに、既存環境のバックエンドを置き換えて順次リリースしていきます。工数が削減できる期待も大きいですが、コンテナベースになれば開発スタイルそのものが変わってくるので、品質とスピードはかなり向上するはずです」(鮱名さん)
インフラレイヤーの自動化にメドがついたことで、今後はアプリケーションレイヤーの効率的な開発を目指す予定です。「サーバーレスのAWS Lambdaで開発できる部分も多い。クラウドネイティブをきちんと使いこなし、よりチームの機動力と開発力を上げていくつもりです」と鮱名さんは話してくれました。
2023年12月にはクラスメソッドの仙台オフィスが開業し、物理的な距離もぐんと近くなりました。これを受け、「仙台のクラウドコミュニティを一緒に盛り上げていきたい」と結んだ鮱名さん。東北随一の新聞社に寄り添いながら、これからもクラスメソッドはさまざまな形で貢献していきます。