2000年に創業したグラニフは、「デザインTシャツストア」として多くのファンを獲得してきました。2021年のリブランディングを機に、自社オリジナルIP(知的財産)を軸にした新たなファンとの関係構築を図り、現在ではアパレルから雑貨までを幅広く展開する「IPマーチャンダイジングのリーディングカンパニー」へと事業を進化させています。
そうしたファンとの接点において、もっとも重要な位置付けとされているのが、スマートフォン向けアプリです。ローンチ当初は単なる会員証アプリでしたが、長年にわたるバージョンアップによっていまではEC売上の約半分を占める販売チャネルに成長。ブランド体験とビジネスの双方において、大きな役割を担っています。
しかし、従来のアプリは外部プラットフォームに依存していたため、表示速度とブランド独自の体験設計の面で限界を迎えていました。この課題を突破するためにグラニフが選んだのが、Flutterによるネイティブ化と、クラスメソッドの伴走による内製化への転換です。
プロジェクトオーナーの同社CTO・山田豊さんと、プロダクトマネージャーの小林靖享さん、UI/UXデザイナーの西垣菜摘さん(共にテクノロジーDiv. デベロップメントSec.)の3名にお話を伺いました。
CEO直々のミッションとして始まったアプリ刷新
グラニフのアプリに対する認識は、単なるチャネルのひとつではありません。ブランド体験を担うものとして、非常に重要な位置付けとなっています。
「アプリはお客様との関係構築において、非常に大事な役割を果たします。常にブラッシュアップしていかなければいけない中で、社内で短いサイクルで進化させていける体制を作ろうと、インハウス開発体制に至りました。これは私に限らず、代表の村田も含めた全社的な方針です。」(山田さん)代表取締役の村田さんはデジタルマーケティングやEC、テック領域に精通するエキスパート。自らストアレビューをチェックし、気になる点は現場にアドバイスするなどアプリへの関心が高く、今回、ネイティブ化に踏み切ったのも、代表からの直接の言葉がきっかけでした。
「アプリをブラッシュアップしてほしい、と直接言われた時にはちょっと緊張しましたが、頑張らないといけないと気が引き締まりました。」(小林さん)
旧アプリの課題は大きく2つで、①表示速度が遅いことと②ブランド独自の体験設計が難しいことにありました。アプリ開発向けのSaaSを利用し、画面表示をWebViewで構築していたため、コールドスタートからトップページ表示までに3〜4秒を要することがありました。ユーザーアンケートやストアレビューにも、動作の遅さへの指摘が多数寄せられていたといいます。
「技術的負債となっているところもあって、表示速度を大きく改善するのはもう限界でした。それに、外部プラットフォームなので、弊社で独自に機能追加することが難しかったというのもあります」(小林さん)
外部サービスであるがゆえの制約もありました。UI/UX面での改善やアイデアを西垣さんが提案しても、小林さんも「プラットフォーム依存のところだから変えられない」と返さざるを得ないことが多く、現場にもアプリの現状に対する歯がゆさが蓄積していました。
ビジネスまで一気通貫で相談できるパートナーを選定
開発現場での課題感と代表からの声がけが重なったことで、アプリのネイティブ化プロジェクトがスタートしました。そこでパートナーとしてグラニフが選んだのは、クラスメソッドでした。依頼に当たって、実は他社との比較検討はほとんど行われていません。その背景には、同社のEC基盤にクラスメソッドグループのプリズマティクスが採用されており、その構築と運用を通じて積み上げられてきた信頼関係があります。
「クラスメソッドとは定期でミーティングを持っているので、そこで気軽にディスカッションをさせていただきました。こちらの質問に対し、案件に関係ないことでも真剣に向き合ってくれるのです」(山田さん)
もう一つ、山田さんがクラスメソッドに感じていたのは、ここ数年でのケイパビリティの広がりでした。
「以前は、企業のクラウドマイグレーションを担うエンジニアという印象でしたが、今はソリューションの提案やビジネス支援も積極的にやられている。そこを幅広い分野で一気通貫でやっていらっしゃる会社は、少ない印象です」(山田さん)
小林さんが中心となった約3ヶ月のPoC(概念実証)で技術的実現性を確認したうえで、2025年7月にクラスメソッドに正式に依頼がなされ、Flutterでのネイティブ化プロジェクトが動き出しました。
アプリエンジニア不在から内製化を見据えたFlutter開発へ
プロジェクト開始時、実はグラニフ社内にアプリ専業のエンジニアはいませんでした。小林さんを含めメンバー全員が本来はWebエンジニア。この体制からネイティブ化を進めるにあたり、クラスメソッドに求められたのは単なる受託開発ではなく、内製化への併走役としての動きでした。
そもそもグラニフがFlutterの採用を決めた背景には、iOS/Androidそれぞれをネイティブ開発するのに比べて少人数で開発・保守がしやすく、グラニフのミニマルな体制と相性が良いという判断がありました。クラスメソッド側もFlutterでの開発支援を積極的に進めていたタイミングと重なり、双方の方向性が一致しています。
プロジェクトは3フェーズ×各3ヶ月で進行。後半からはFlutter歴の長いエンジニアが加わり、ドキュメント整備と並行して生成AI活用の基盤づくりも進められました。「少人数体制でのアプリ開発において生成AIをどう活用するか、継続的なディスカッションを経て形にしてくださり、持続可能でスケールできる開発基盤を築けたのは本当によかったと思っています。」(小林さん)
最も苦労したのは、旧アプリの仕様解読でした。旧アプリは外部プラットフォーム上に構築されていたため、グラニフ側に仕様書やソースコードは存在しておらず、「当たり前に使っていた機能」の多くがプラットフォーム固有の挙動だったことが、開発が進むにつれて判明していきます。プラットフォーム内部がブラックボックスのため、クラスメソッドのエンジニアが約1ヶ月かけて旧アプリを検証し、仕様を一つずつ明らかにしていきました。
もう一つの難所が、ログイン認証と多言語対応の両立です。グラニフのECは世界各国への配送に対応しており、従来はWebブラウザの翻訳機能による多言語化を行っていましたが、ネイティブアプリではブラウザ翻訳が使えなくなります。商品ページは言語切り替えのタイミングでWebViewに切り替える方式で対応しつつ、ログインページだけは複数言語へのネイティブ対応が必要でした。ネイティブとWebViewをまたぐ認証連携は複雑な設計となりましたが、協議を重ねて解決に至っています。
こうした事情があったため、プロジェクト進行にも通常とは異なる工夫がありました。すべての仕様を事前に詳細調査してから開発に入るのではなく、ざっくりとしたスケジュールで毎週開発を進めながら、そのつど判断を重ねていくスタイルが採られました。
「見切り発車的ではありましたが、小さい判断の積み重ねで上手くいきました。まず旧アプリでの仕様はそのままにリプレイスし、その後1画面ずつネイティブ画面へ置き換えるやり方にしたので、ネイティブ側の開発にもシームレスに着手することができ、社内にナレッジが残る進行ができた。アプリをゼロから作り直すやり方だと、引き継ぎのコストが大きかったと思います。」(小林さん)
表示速度1秒以内、ストア評価は2点台から4.7へ
「コールドスタートから最初のトップページ表示まで、長い時で3〜4秒かかっていたのが、今は1秒以内です。表示前に離脱してしまうユーザーは大幅に減り、商品の詳細ページへの到達率も5%程度向上しました。」(小林さん)
もう一つの大きな成果が、アプリストアの評価とレビューです。ネイティブ化により、アプリを離脱せずにApp StoreやGoogle Playのレビューができるポップアップ表示(In-App Review)が実装可能になったのです。
「数年にわたってアプリを提供してきて合計900件程度だったレビューが、ポップアップを始めてから1ヶ月で4,000件以上になりました。スコアも2.1から4.6〜4.7に推移しています」(小林さん)
「根本から無理ということがなくなったので、よりお客様に楽しんでもらうアプリというのを、社内で優先順位付けしつつ目指せるようになりました。そこが一番良かったです」(西垣さん)
「以前は西垣さんの要望に応えられないことが多くて、いつも申し訳ないと思っていました。ネイティブ化により多くのことが実現可能になったので、いまは自信を持って応えられます」(小林さん)
アプリ×生成AIで「IPに触れる時間」を広げる
アプリのネイティブ化は、一般的な商品の購入フローを起点にして、トップページ、商品詳細、商品一覧と段階的に進められてきました。最終目標はもちろん、すべての画面のネイティブ化です。ただし、カート周りのように決済と世界各国への配送仕様が絡む領域は、慎重に進める方針です。
アプリ独自機能の拡充も進んでおり、来店と購入でオリジナルキャラクターのスタンプが付与される「店舗スタンプカード」はすでに稼働中。今後は会員証のキャラクター着せ替え機能なども予定されています。
「アプリはグラニフにとってお客様とのデジタル上の最重要接点で、IPを届ける上では欠かせません。生成AIと組み合わせることで、カメラや動画撮影の体験の中にグラニフ固有のコンテンツやIPを動的に登場させるといったこともできます。グラニフのミッションを具現化するうえで、中核に位置します」(山田さん)
継続的なアプリの進化を実現する上で、不可欠なのが内製化です。採用は大量採用ではなく、あくまでミニマルな体制を志向。少人数でも生成AIを活用して生産性の高いチームをつくり、大きな変革が必要な局面ではパートナーと組むというのが基本方針です。
「事業会社の課題を自発的にテクノロジーで解決する人材が必要だと考えています。クラスメソッドが我々の課題を常に自分ごととして捉えてくださる点は素晴らしいと思いますが、常に進化が求められている状況において、インハウスのエンジニアは非常に重要な人材です。」(山田さん)
テクノロジーを売上に転換するフェーズにおいて頼りになる存在
小林さんや西垣さんが所属するテクノロジーディビジョンのミッションは、アプリ開発に留まりません。EC事業と技術基盤の強化を通じて「デジタル/テクノロジーを活用して会社全体のケイパビリティを上げること」にあると、山田CTOは言います。
「この5年で、グラニフはテクノロジーやケイパビリティという意味で確実に変わってきています。やりたいと思ったことができる体制、ケイパビリティを持ち始めている。ただ、それによるビジネスインパクトはまだこれからだと思っています。具体的には顧客基盤の強化というところで、ファンがついているIPがあって、アクティブユーザーが右肩上がりに拡大している。ケイパビリティを使って具体的な数字を作っていくフェーズに入っているという感覚があります。」(山田さん)
ケイパビリティを売上インパクトに転換するこのフェーズにおいて、これまで以上に重みを増しているのがパートナーの存在です。ネイティブ化プロジェクトで併走してきたクラスメソッドに対して、3名はこう語ります。
「感謝しかありません。アプリ開発はもちろん、生成AIや採用などのざっくばらんな相談についても真剣に考えてくださるのがクラスメソッドの良さで、いつでも頼りになる存在です。」(小林さん)
「本当に頼もしいです。こういうことがやりたいという相談に対して、実現のためにさまざまなパターンで検討と検証をしていただけましたし、仕様変更やレイアウト追加にも柔軟に対応いただけてありがたかったです。」(西垣さん)「今回作ったアプリはこれからさらに進化させていきます。プリズマティクスについても引き続き活用していきますし、またいろいろと一緒に取り組めると面白いことが実現できそうかなと思っています。」(山田さん)
グラニフは、『遊びゴコロで世界を彩る』というミッションを掲げており、IPやコンテンツを起点にして、いまではTシャツだけでなくさまざまなアイテムを展開するIPマーチャンダイジングのリーディングカンパニーへと発展してきました。これからもクラスメソッドは、グラニフのミッション実現をテクノロジー/デジタル面から支援して参ります。


