ガス事業をベースに、電力事業やエネルギーマネジメントを手がける北海道ガス株式会社。カーボンニュートラル(脱炭素化)に向け、太陽光や風力を活用した再生可能エネルギー(以下、再エネ)の拡大と高度化を進める同社は、再エネ発電量予測システムの内製開発化支援をクラスメソッドに依頼。Amazon SageMakerを活用した機械学習の精度向上と、Git/GitHubを用いた開発体制の構築に取り組みました。プロジェクトについて、上長の中村さんと、実務を主導した石川さんにお話をうかがいました。
再エネの拡大に伴い発電量の正確なコントロールが必須に
「北のくらし、もっとできること。」をスローガンに総合エネルギー事業を展開し、「北ガス」の愛称で親しまれている北海道ガス。2050年以降のカーボンニュートラル時代を見据える同社は、2030年を中間点と位置づけた北ガスグループ経営計画「Challenge 2030」を策定。次世代プラットフォームの構築など事業構造変革を進めています。
その中で、「総合エネルギーサービス事業の進化による分散型社会の形成」「デジタル技術の活用による事業構造変革」と並んで重点施策として打ち出しているのが「カーボンニュートラルへの挑戦」です。現在、太陽光、風力、バイオマスなど再エネの積極活用による電源取扱量の拡大を目標に掲げ、低・脱炭素に資する次世代技術への挑戦を続けています。
再エネ電源の導入拡大に伴い、重視されているのが発電量の正確な予測と管理です。発電事業者は事前に発電計画を提出する義務があり、計画値と実発電量に差がある場合はインバランス料金(計画値同時同量からの逸脱に対する調整金)が発生し、事業の収益性を圧迫する要因となります。そのため、気象データの活用などによる予測精度の向上が不可欠となっています。そこで同社は、2023年9月よりアマゾン ウェブ サービス(AWS)による再エネ発電量予測システムの内製開発に踏み出し、同年12月には小規模での運用を開始しました。「再エネ発電量予測システムの開発はゼロから始めるプロジェクトで、実現の可能性も見通せない中、まずは自社でチャレンジしようという方針のもと、少人数体制での内製開発を進めました」(中村さん)
「電力業界は制度の変化が激しく、需給管理のオペレーションも柔軟に変えていく必要があります。また、再エネ電源は今後も導入の拡大が見込まれます。そこで拡張性や柔軟性が高いクラウドに着目し、サービスが充実したAWSを採用しました。再エネ予測の中核となる機械学習についても、ノーコードから始めて段階的にステップアップできるAmazon SageMakerなら一歩ずつ知見を蓄積しながら、自社内での開発が可能になると感じました」(石川さん)
システム開発に着手した当初は、担当者が独学で進めており、開発環境はローカルPCが中心でした。ソースコードやデータも個人環境に依存していたため属人化が進み、人事異動によるナレッジの散逸リスクも高まっていました。機械学習のワークフロー策定にも遅れが目立ち、独学で学びながら開発を進めることに限界が見えてきました。
「独学ゆえに、AWSのベストプラクティスに則ったアプローチが取れているかにも不安がありました。チーム開発や将来的な拡張を見据えた基盤整備も急務となっており、専門家の力を借りる必要性を感じました」(石川さん)
札幌オフィスに機械学習エンジニアが在籍する安心感
内製開発を加速するパートナーを検討した同社は、社内の他部署での導入実績を評価して、クラスメソッドに技術支援を依頼しました。
「クラスメソッドを選んだ理由は、当社への支援を通して事業を熟知していただいていることと、クラスメソッドの札幌オフィスに機械学習エンジニアが在籍し、対面による密なコミュニケーションが可能であったことです。近い場所に信頼できるエンジニアがいることは、開発に不慣れな私たちにとって一番の安心材料です。契約前から丁寧な姿勢で課題整理に対応をいただいたことにも好感を持ちました」(石川さん)クラスメソッドによる技術支援は2025年6月にスタートし、2026年3月にかけて機械学習の精度向上と開発体制の構築の2つに取り組みました。
機械学習の精度向上に向けては、現状や課題を整理したうえで優先付けを行い、データの前処理・特徴抽出・モデル選択・モデル評価など機械学習モデルの開発に関わる一連のプロセスを確立しました。
「機械学習のワークフローを標準化・定型化し、データ前処理からモデル構築、評価までの流れが整理できたことで、試行錯誤のサイクルが高速化されました。クラスメソッドには、必要に応じてサンプルコードも提示していただき、イメージを共有しながら進めることができたことも助かりました」(石川さん)
開発体制の構築では、Git/GitHubやBacklogを導入してチーム開発やプロジェクト管理の手法を確立し、Git/GitHubのフローに基づいて実開発を進めました。並行してGit/GitHub利用のベストプラクティス、マニュアル、コーディングAIのナレッジ、AWS環境のガイドラインなどの整備を進めていきました。
「Git/GitHubの利用は、クラスメソッドから提案をいただきました。当初は不慣れなツールへの戸惑いもありましたが、直感的な操作性のおかげですぐに習熟することができました。一方で、本格的な開発フェーズに入ると、チーム間でのコード管理や一貫性の維持といった運用の奥深さにも気づかされました」(石川さん)
プロジェクトを通じて同社がクラスメソッドを評価したのは、高い技術専門性と現場に寄り添う姿勢です。
「表面的な技術支援でなく、当社に最適な開発体制や環境を考慮し、親身になって考えていただけたことが印象に残りました。機械学習という専門領域において実践的な知見を持つエンジニアが札幌にいたことも大きく、週に1回のペースでクラスメソッドのオフィスを訪ねて直接アドバイスを聞けたことにも心強さを感じました」(石川さん)
適切な電力需給バランスが実現し経営にも貢献
今回のプロジェクトで得られた大きな成果は、機械学習のワークフローを標準化・定型化できたことです。試行回数が増えたことで、複数の手法を検討しながら精度検証ができるようになり、最適化したモデルの構築が進みました。
「精度の具体的な数値は非公開ですが、従来の予測手法と比較しても精度が向上しています」(石川さん)
「自然環境に左右されやすい再エネ電源において、従来よりも精緻な予測精度を維持できる仕組みが整いました。これにより経済合理性の高い電源調達を通じて、経営に大きく貢献していくことを期待しています。」(中村さん)
開発面では、Git/GitHubやBacklogの導入によりチーム内でのプログラム共有や進捗状況の可視化が進み、共同開発体制が確立されました。
「属人化の解消はこれからの取り組みになりますが、ナレッジを蓄積する基盤を構築できたことが一歩の前進です。チーム全体が同じ環境でプログラムを動かしながら検証できるため、経験の浅いメンバーとも歩調を合わせて進むことができます。これらの仕組みは再エネ発電量予測システムにとどまらず、今後のシステム開発全般への応用も期待できます」(石川さん)
再エネ予測の対象拡大と精度向上を目指して開発を継続
今後は、再エネ予測の対象拡大と精度向上を目指して、開発を継続していく方針です。さらに、今回確立した機械学習基盤を活用し、市場価格予測をはじめとする電力事業全般への応用や、さらなる領域の拡大を目指します。将来的にはその知見を活かし、エネルギー事業における多様なニーズにも対応していければと考えています。
「今回は、太陽光発電や風力発電の一部設備に限定して予測モデルを適用した段階です。設備の設置場所や規模などさまざまな条件に合わせて細分化を進めながら、より精緻な予測を目指します。また、予測対象を電力事業全般に拡大することで、電力オークションなど他の分野にも適用できると考えています」(中村さん)
開発体制では、新たなメンバーの参画を見据えたチーム強化を進め、内製開発のスピードアップや、予測精度の向上を図る考えです。クラスメソッドに対しては、引き続きフェーズに応じた技術支援を期待しています。
「ビジネス状況により、必要な技術や目指す方向性が変わることも考えられます。今後も私たちのレベルに応じた支援と、データ分析・予測領域における高度な知見の提供をお願いします」(石川さん)
クラスメソッドは、今後も高度な技術でシステム開発を支援し、北ガスが目指すエネルギー社会の実現に貢献していきます。


