1963年に九州初の政令指定都市として誕生して以来、ものづくりの街として、そしてアジアの玄関口として発展を続けてきた北九州市。同市は現在、「北九州市DX推進計画」を掲げ、デジタル技術を活用した市民サービスの向上と行政事務の効率化を強力に推進しています。その中核を担うのが、組織横断的な取り組みを行うDX・AI戦略室です。
全国の自治体にとって喫緊の課題といえば「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」に基づく「基幹系20業務」の標準準拠システムへの移行です。国が整備するガバメントクラウドの活用や標準準拠システムへの移行対応が求められる中、従来のオンプレミス環境におけるシステム運用とは異なるクラウドネイティブな運用知識が不可欠となっていました。この潮流に対して北九州市は実践的なAWSの知識向上を目指し、クラスメソッドのエンジニアによる研修を採用。この取り組みの背景についてお話を伺いました。
事業者任せの運用からの脱却と「共通言語」の必要性
「これまでのシステム運用において、システムの運用保守は基本的に民間事業者が行い、職員の主な業務は運用に関する協議や課題対応が中心となっています。しかし、クラウド環境へのシステム移行にあたり、これまでのオンプレ環境とは大きく異なるため、適正なコスト管理やセキュリティ対策を考慮しながら円滑なシステム運用を目指すには、事業者からの提案をただ受け入れるだけでいいのだろうかという懸念がありました」
そう語るのは、DX・AI戦略室 情報システム部門の担当者である池田さんです。
従来のオンプレミス運用では、ハードウェア導入後はそのままの状態であることが多く、運用・保守契約期間が終わるまでシステムを使い続けることが一般的でした。しかし、クラウド環境は日々進化し、継続的なアップデートやコスト最適化が求められます。また、システム標準化に伴い、これまでの運用手順が通用しなくなることへの現場の戸惑いもありました。「職員は民間事業者に指示を出し、コミュニケーションを取る立場。こちらに一定の技術知識がないと、相手の言っていることが理解できず、適切な判断が下せません。例えば、提示された構成がオーバースペックでコスト高になっていないか、あるいはセキュリティ設定に不備がないか。これらを職員自身が見極め、事業者と対等に渡り合い、安定的にシステムを運用するための『共通言語』を持つことが急務でした」(池田さん)
加えて、専門的なITトレーニングサービスを研修事業として自治体が契約するには、さまざまなルールがあります。一般的なITトレーニングサービスは「前払い・クレジットカード決済」が主流ですが、自治体は「役務完了後の後払い」が大原則です。そのため、受講したい良質な講座があっても契約に至らない、あるいは個別の事務処理が煩雑すぎて多人数をターゲットにした研修事業の展開ができないというジレンマを抱えていました。
自治体ニーズに即した「現場力」と「おまとめ契約」
こうした課題を解決できるパートナーとして北九州市が選定したのがクラスメソッドでした。自治体の事情を深く理解した契約形態だけでなく、単なる一般的なクラウド知識習得に留まらず、北九州市のクラウド環境に合わせた実践的なカリキュラムを提供するクラスメソッドの提案力も、同市は高く評価しています。
1.「AWSトレーニングおまとめ契約プラン」の提供
今回のトレーニング実施にあたっては、受講者個人ごとの都度契約という膨大な事務処理を解消し、約30名規模という多人数による専門的な研修を行うための予算の確保と実行を実現。クラスメソッドの提案した「官公庁・自治体向けAWSトレーニングおまとめプラン」では自治体の会計年度に合わせた請求書払い(後払い)や分割払いなど、柔軟な対応が可能でした。
「市の事務手順に沿って実施でき、まとまった人数での受講が可能になったのは、このプランの柔軟性があってこそでした」(池田さん)
2. 体系的なAWS認定トレーニングの提供
単なる動画視聴ではなく、AWS認定インストラクターが指導するライブ形式の研修が提供される点も評価されました。受講内容は基礎的な「Cloud Practitioner」から設計者向けの「Architecting on AWS」、さらにセキュリティや運用に特化した専門コースまで、職員のレベルや役割に応じ柔軟に設定可能です。
今回は技術・知識レベルも様々なメンバーがそれぞれのレベルに合わせたコースを受講しました。専門性の高いコースは3日間にわたる集中講義でしたが、「公務がある中で3日間デスクを離れることは容易ではありませんでした。それでも『体系的に学びたい』という職員の意欲が高く、多くの参加者が時間を捻出して受講しました」と池田さんは振り返ります。
3. 現場力を養う「集合研修(ワークショップ)」の独自提案
最も特徴的だったのが、既存の認定トレーニングに加え、クラスメソッドが北九州市向けにスクラッチで企画・提案した「集合研修」です。この集合研修は、個別の講習を経た後、2026年3月に認定トレーニング受講者を対象として行われました。
集合研修では座学で得た知識を定着させるため、実際の業務シーン(事業者との打ち合わせ、仕様書の読み解きなど)を想定したロールプレイングやディスカッションを、クラスメソッドの講師が主導し実施。 「単に資格を取るだけでなく、学んだ知識をどう実務に活かすか、どう事業者と会話するかという『現場力』を重視した提案が、私たちのニーズに合致しました」(池田さん)
断片的な知識が繋がり、事業者との対話に自信
自身もCloud PractitionerとArchitecting on AWSを受講した池田さんは、その成果を次のように語ります。 「これまでは書籍などで独学していましたが、どうしても知識が点在していました。研修を通じてそれらが線で繋がり、AWSのサービス全体像やアーキテクチャの構造が見えるようになりました」。
さらに、今回の研修参加者を一同に集めた集合研修では、「北九州市のクラウド共通基盤を踏まえた内容となっていたので、オンライン研修とは違った実運用を見据えた面からの学びとなった」といった感想も挙がり、本来であれば「事業者任せ」になりがちな領域に対し、職員側から「もっとコストを抑える構成はないか」「このセキュリティ設定の意図は何か」といった具体的な問いかけができる素地が整いつつあります。
大規模な研修では「誰が・いつ・どの講座を受けたか」の管理が煩雑になりがちですが、クラスメソッド側で受講状況を可視化・フォローアップするという手厚い受講管理サポートにより、研修を主幹するDX・AI戦略室の管理負担も大幅に軽減できました。
「研修内容検討から実施だけでなく、受講管理も適切に行われ、検討時よりも充実した内容の研修となりました。今後の本格的なクラウド利用に活かしていきたいと思います」(池田さん)
継続的な人材育成で「使いこなす自治体」へ
北九州市では、今後、基幹業務システムの統一・標準化に向けてクラウド利用への移行プロジェクトが進行していきます。今回の研修で得た知識は、実際の移行プロジェクトや、その後の運用フェーズで真価が発揮されます。
自治体組織では、定期的な人事異動があるため、どの職員が業務を担当しても同じ品質で遂行できる体制を整える必要があります。そこでは知識の継承という課題もあり、池田さんも「システムは作って終わりではありません。人が変わっても適正な運用が継続されるよう、組織として知識を継承していく必要があります。一度研修をして終わりではなく、継続的な学習環境を作ることが重要です」と指摘します。
今後は、新たに配属された職員へのクラウド運用を踏まえた教育プログラムの検討が必要になります。変化の激しいクラウド技術に追随するため、北九州市は最新技術のキャッチアップや継続的なトレーニングの検討など、引き続きクラスメソッドと情報交換を含め、連携していきたいと考えています。
「単なるシステムのクラウド化ではなく、それを使いこなす『人』と『組織』のアップデートこそがDXの本質です。クラスメソッドには、単なる研修事業者としてではなく、自治体が自走するための伴走パートナーとしての支援を期待しています」(池田さん)


