「BE ANYTHING, BE EVERYTHING.」(意味:なりたい自分に、全部なろう。)をコーポレートスローガンに掲げるマンダムは、1927年に創業した化粧品メーカーで、「ギャツビー」「ルシード」「ビフェスタ」をはじめとするブランドを展開してきました。また、インドネシアやタイなどアジアを中心とした海外での事業にも力を入れています。
同社は生成AIの活用にいち早く着手し、社内で使える環境を整えてきました。しかし、使う人が増えるにつれ、その環境では応えきれない場面も出てきます。扱えるファイル形式、AIモデルの世代、そして利用者数に応じた課金の仕組み。全社へ広げるには、環境そのものを見直す必要がありました。
2026年1月、同社が導入したのがクラスメソッドの生成AIパッケージ「AI-Starter」です。ITイノベーション推進部の西宮さん、南さん、山野さん、リスクマネジメント室の三野さんにお話をうかがいます。
まず、AIに触れられる環境を
マンダムが生成AIに向き合い始めたのは、2023年の春でした。ChatGPTが世に広まり、社員が業務で触れることも想定される。まず着手したのが、社内の利用ガイドラインの整備でした。「機密情報を入力しない」「出力をそのまま公式の文書として使わない」など、全社で使っていくための土台を早い段階で固めました。
こうして生成AIにいち早く向き合った背景には、同社が長く掲げてきた理念があります。
「当社は企業理念に『人間系企業』を掲げています。人にしかできないことに人が集中する、そのためにイマジネーションとクリエイティビティを大切にしたい。『AIに任せられることはどんどん任せていこう』という考え方は、その延長線上にあります」(西宮さん)AI活用の推進を担っているのが、ITイノベーション推進部です。グループのITとデジタルを統括し、社内インフラの運用から業務改革まで幅広く手がけます。生成AIについては、海外のグループ会社も含めて統括する立場にあります。そのなかで、生成AIの社内推進の実務を担うのが、IT企画課の山野さんです。基礎教育から活用の浸透までを受け持ちます。
2024年6月頃、同社ではMicrosoft 365に付帯するCopilotが、利用可能になりました。ただ、同社が目指していたのは特定のツールにとどまらない全社的なAI活用です。同年12月、情報を保護した状態でチャット型AIを使えるSaaSを導入しました。
「情報を保護した状態で、チャット型の生成AIが使える。そこが一番の決め手でした。まずは社内で汎用的にAIを使える、体験できる仕組みを提供する。そういう考えが根底にありました」(山野さん)
あわせて基礎教育にも取り組みます。製品の使い方に加え、プロンプトの書き方を学ぶ講座を用意し、当時の導入ベンダーとともに実施した研修には、延べ200名以上が参加しました。
広がるほどに見えてきた、3つの制約
AIに触れる社員は着実に増え、利用率は4割ほどに達しました。順調に見えた一方で、当時導入していたSaaSならではの制約も浮かび上がってきます。
1つは、扱えるファイル形式でした。ExcelやPowerPointをそのまま添付したいという要望が、社内から挙がってきました。しかし当時のSaaSが対応していたのは、CSVやテキスト、PDFまで。「ExcelもCSVに変換してから添付する」といった一手間が必要でした。
もう1つが、AIモデルの世代です。生成AIの進化は速く、数か月単位で新しいモデルが登場します。しかし当時のSaaSでは、その反映に時間がかかり、社内で使えるのは1世代ほど前のモデルでした。
「新しいモデルが出ているのに、こちらで使えるのは前世代のモデル。『うちのAIはなんでこんなに古いの?』という声が上がることもありました」(山野さん)3つめが、費用の構造です。当時のSaaSは、利用するメンバーのID数に応じて課金される仕組みでした。全社員にIDを発行すれば、実際に使っているのが4割であっても、支払いは全社員分。使っていない6割の費用も、毎月発生し続けることになります。
「全社員分のIDを持っているので、当然その分の費用はかかります。ただ、実際に使っているのは4割。この状態でコストパフォーマンスが合っているのかというと、そうではありませんでした」(南さん)
環境を整え、使い方を伝え、社員の4割にまで広げてきた。だからこそ見えてきた課題を前に、同社は2025年の夏、環境そのものの見直しに動き出します。
条件を並べると、候補はほとんど残らなかった
新たなAI環境を模索するなか、マンダムはクラスメソッドと出会います。きっかけは、2025年5月に届いた一通のセミナー案内でした。
「同業種の方が事例紹介をされるとあったんです。ちょうど東京出張の翌日でしたので、そのついでに参加してみようと」(西宮さん)
そのセミナーで紹介されていたのが、生成AI環境構築サービス「AI-Starter」でした。マンダムはこれまでクラスメソッドとの取引がありません。この日が、最初の接点となりました。
新たなAI環境に何を求めたのか。西宮さんが挙げた条件は、4つあります。
「まずID数に応じた課金ではないこと。これが一番でした。加えて、自社のAWS環境の中で完結すること。複数のAIモデルを切り替えて使えること。そして、新しいモデルが登場したらすぐに使えること。これらを並べていくと、候補はほとんど残りませんでした」(西宮さん)
1つずつなら、満たすサービスはいくつもある。しかし4つすべてとなると、選択肢は極端に狭まります。
その数少ない答えが、クラスメソッドの生成AI環境構築サービス「AI-Starter」でした。企業のクラウド環境上に構築するパッケージで、アプリケーション利用料は定額制。ユーザー数が増えるほど、1名あたりのコストは下がります。複数のAIモデルが統一されたインターフェースで扱え、新モデルへの追従も保守運用に含まれます。マンダムが並べた条件に、そのまま重なるサービスでした。コストを気にせずに、IDを配れること。それは、南さんが抱いていた思いにも応えるものでした。
「使わない人にAIを与えないのかというと、それは違います。IDを渡さなければ、その人がAIに触れる機会は永遠に来ませんから」(南さん)
全社員に正規の環境を用意することには、もう1つの意味があります。AIを使える環境がなければ、必要に迫られた社員は自ら探しにいってしまう。シャドーAIが生まれる余地を、環境を配ることで断つことができる、守りの一手でもありました。
西宮さんがセミナーに参加してから約5か月後、マンダムはAI-Starterの導入を決めました。
広がる活用、深まる使い方
2026年1月16日、AI-Starterが国内の社員にリリースされました。
まず届いたのは、画像を生成できることへの反響でした。前のSaaSには画像生成モデルがなく、必要になれば社外のAIを探す必要があった。AI-Starterでは、Gemini 2.5 Flash Image(Nano Banana)が当初から使える状態で提供されました。
「これまで画像を作るには、別のAIを使うほかありませんでした。それが社内でできるようになり、便利になったという声を聞いています」(山野さん)
ファイルも同じです。Excelもそのまま読み込ませられる。日常的にやり取りする資料が、一手間なしでAIに渡せるようになりました。
こうした改善は、部門を問わず活用の広がりにつながっています。マーケティング部門では、季節に応じた訴求文づくりにAIを活用する。営業では、商品画像から店頭のイメージを生成し、小売店への提案に使う。IT企画課でも、会議の議事録から次の資料までを続けて作る形が定着しつつあります。
なかでもAI-Starterならではの使い方をしているのが、リスクマネジメント室の三野さんです。同室が担うのは、ガバナンスの強化や全社的なリスクマネジメントの推進。三野さんはその一環として、社内規程の見直しにAIを使っています。
例えば決裁権限の規程には、どの案件を誰がどのフローで決裁するかが定められています。「ガバナンスの仕組みとして適切に機能しているか」「その基準は実態に合っているか」といった論点を洗い出すには、専門用語を含む規程を読み込む時間と経験が必要でした。そこで三野さんは、規程をAIに読み込ませ、対話しながら論点を探ります。
「AIとやり取りすることで、課題が見えやすくなりました。根拠を示しながら関係者に共有できるため、認識も合わせやすい。また、所管が異なる部署の規程であっても、リスクマネジメントの立場から論点を捉えられるようになりました」(三野さん)
見えてきた課題は、関係部署と擦り合わせる必要があります。ここで使うのが、画像生成です。
「部署が違えば、考え方も組織も異なります。まず認識を揃えるために、要点を一枚にまとめた資料を画像生成で作成する。文章だけでなく、体系的に整理した形で提示するようにしています」(三野さん)
対話にはClaude、図解にはOpenAIの画像生成モデルと、業務の流れの中で自然に使い分けられるのは、複数のAIを一つの画面から切り替えられるAI-Starterならではです。同室では隔週のミーティングにてAI活用方法を共有する時間を設け、誰がどう使っているかを持ち寄る文化も根づき始めました。
そして海外へ——3か月弱での全社展開
2026年4月、AI-Starterは海外のグループ会社を含む全社へと展開されました。国内リリースから、3か月弱のことです。
「日系企業では、海外支社に届くのがどうしても遅れがちになります。今回のAI環境については、海外でもすぐに使える状態にしました。現地からは、活用できていて助かっているという声が届いています」(西宮さん)
短期間で展開できたのは、海外現地で新たな構築や設定を必要としなかったからです。
マンダムの海外グループ会社は、日本と閉域網でつながっておらず、インターネット経由でのアクセスが前提となります。仮にIPアドレスで接続元を制限する方式をとれば、拠点ごとに固定IPの確認や許可設定が必要になり、展開に時間を要します。そこで同社は、IPアドレスによる制限をかけず、認証レイヤーで守る設計を選びました。
すでに全社で導入していたMicrosoft Entra IDと連携させ、社員は既存のアカウントでシングルサインオンによりアクセスします。新たなID発行もネットワーク側の設定も要らず、正規に認証された社員だけが、AI-Starterを利用できる仕組みです。なお、インフラのセキュリティは、クラスメソッドがマネージドサービスとして担っています。
「日本で構築し、導入済みのEntra IDと連携させる。現地は自分たちの手を煩わせることなく、ある日から指定のアドレスにアクセスすればAIが使える状態になりました。海外の規模が小さい会社には、現地にITやAIの専門家がいないところもあります。そうした拠点にとっては、特に助かっているようです」(西宮さん)
一方、届けたあとの浸透には工夫が必要でした。海外の社員は、AIとの距離が二極化しているためです。個人で使いこなしている人もいれば、まったく触れていない人もいる。
そこで山野さんは、4月のリリースに合わせて英語版のガイドと動画を用意します。内容は、AI-Starterの使い方にとどまりません。プロンプトとは何か、どこに入力するのか。生成AIそのものの基礎から解説しました。
利用率62%へ。次はAIエージェント
リリース直後の2026年1月から3月にかけて、国内の利用率は40%前後だったものが、6月には62%へ。海外も同期間で27%から35%へと伸びました。半年で1.5倍ほどです。
「日常的に使えるAIが、ようやく社内に導入されたという実感があります。ExcelやPowerPointと同じ位置にAI-Starterがあり、なくては仕事が進まない状態です」(山野さん)
「個人でChatGPTを利用する感覚に近く、モデルを変更しても同じ感覚で操作できます。その親和性が、使いやすさにつながっているのだと考えています」(南さん)
「グループ全体の社員に、一定のAI活用の機会を提供できました。しかも比較的低コストで実現できたことは大きい。組織全体のAIリテラシーの向上に貢献したと考えています」(西宮さん)
次に見据えるのは、活用の質です。山野さんは、業務に組み込めるユースケースを発掘し、共有していきたいと考えています。マーケティング、営業といったカテゴリーごとに事例を集め、国内外で数多く紹介していくことを目指しています。
さらに大きな目標が、AIエージェントです。社内で進めている取り組みを、AI-Starterを通じてグループ全体へ広げていく。データをクラウドストレージのBOXへ集約するプロジェクトとの連携も構想にあります。
「クラウドの新しい機能を、我々が使える形に落とし込んでいただける。そのハードルを感じさせずに提供してもらえることが、技術力のあるベンダーの力だと考えています」(西宮さん)
グループ全社員に、AIを使う機会を届ける。マンダムは、国内から海外へ、そして活用の質をより高める段階へと、その歩みを進めています。クラスメソッドは、これからもマンダムグループに対する「AI-Starter」などのAI活用支援を通じて、生活者への新たな価値創造に貢献してまいります。


