土木・建築から電気、環境、情報分野まで幅広い領域を手がける中電技術コンサルタント株式会社。中国電力グループの総合建設コンサルタントとして、地域の公共インフラと暮らしの安全を支えています。
同社の先進技術センターでは、自治体が抱える公共インフラの維持管理課題に対し、ICTやAIを活用した新たなソリューションの開発に取り組んでいます。その1つが、住民からの電話問い合わせをAIで自動対応する仕組みです。クラスメソッドはAmazon Connect AIエージェントセルフサービスの技術支援を実施し、電話自動応答ソリューションの技術検証を支援しました。インフラマネジメントプロジェクトの曽我部さん、廣田さんにお話をうかがいます。
公共インフラを守る「先進技術」の現場
中電技術コンサルタントは、公共インフラの調査・計画・設計から工事管理まで、社会資本整備をトータルに支援する総合建設コンサルタントです。橋梁やトンネル、道路、上下水道など、暮らしを支えるインフラの点検・維持管理も重要な業務領域の1つ。壊れてから直すのではなく壊れる前に検知して修繕する「予防保全」の取り組みを推進しています。
曽我部さんと廣田さんが所属する先進技術センターは、こうしたインフラ維持管理の高度化・効率化を先進技術で支える組織です。約10名の体制で、衛星画像を使った広域点検やAIによる損傷検知、社内DX推進など、全社横断的に新たなソリューションの開発と自治体への提案を手がけています。
同社がこうした技術開発に注力する背景には、自治体を取り巻く環境の変化があります。高度経済成長期に整備された公共インフラが老朽化を迎える一方、自治体の人員や予算には限りがあり、膨大なインフラの管理を効率化するニーズは年々高まるばかり。国土交通省も官民連携による課題解決を推進しており、民間の技術を積極的に取り入れていこうという動きが広がっています。
曽我部さんは、複数の自治体への提案活動を重ねる中で、ある共通した課題に着目しました。住民から寄せられる様々な相談や報告への電話対応です。道路のひび割れや陥没、ガードレールの破損といったインフラの不具合に関する連絡もその1つで、こうした電話は日常的に寄せられますが、専任のコールセンターを設ける余裕がなく、職員が他の業務と兼務しながら対応しているケースも少なくありません。この電話対応を効率化できれば、行政サービス全体の質を底上げできるのではないか、という考えから曽我部さんは自社の技術で応える余地があると考えました。
「どの自治体でも電話対応の効率化は共通のテーマでした。AIを活用して対応を効率化し、その分の人手を現場のインフラ管理や住民サービスの向上に充てていく。インフラの現場を知る当社だからこそ提案できるソリューションがあると感じました」(曽我部さん)
同社が構想したのは、AIが住民からの電話を受け、道路損傷の内容や場所を自動でヒアリングする仕組みです。道路損傷報告は、損傷の種類・程度・場所といったヒアリング項目が明確で、AI自動応答との相性がよいテーマでした。
電話であれば年齢やITリテラシーを問わず誰でも利用でき、既存の住民サービスの延長線上で導入できるのもメリットでしょう。24時間365日の対応が可能になることで、住民にとっての利便性向上と行政の業務効率化を同時に実現できると考えました。
この取り組みは単発の受託開発ではありません。同社はインフラの点検・維持管理をトータルに支援する「インフラ包括管理モデル」を構想しており、AI電話自動応答はそのモデルを差別化する柱の1つに位置づけられています。土木インフラの現場を知り、自治体との信頼関係を持つ同社だからこそ、技術を行政の現場に届けられる。この構想を技術面から支えるパートナーとして声がかかったのが、クラスメソッドでした。
DevelopersIOとセミナーがつないだクラスメソッドとの出会い
転機になったのは、クラスメソッドが開催していたAmazon Connectの無料セミナーへの参加です。セミナーでは、Amazon Connectと生成AIを組み合わせた自動応答の事例が紹介されており、曽我部さんはまさに自分たちが実現したい仕組みだと感じたといいます。技術ブログ「DevelopersIO」でもAmazon Connect関連の記事を読み込み、クラスメソッドの技術力への信頼を深めていきました。
「セミナーでAmazon Connectを活用した自動応答の事例を知り、自分たちが構想していたサービスを実現できる手段があると確信しました。DevelopersIOの記事でも技術面の知見を確認していたので、クラスメソッドであれば安心してお任せできると判断しました」(曽我部さん)
当初、曽我部さんはAmazon BedrockとAmazon Lexを組み合わせた構成をイメージしていましたが、セミナーを通じてAmazon Connect AIエージェント(旧称:Amazon Q in Connect)の存在を知り、構想が一気に具体化。セミナー後のアンケートを通じて相談を申し込み、クラスメソッドとの技術的なやりとりが始まりました。
社内でも自力で開発する選択肢は検討されましたが、Amazon Connectは専門性の高い領域です。曽我部さん自身、AWSの基本的な知識はあるものの、電話応答処理の実装経験はなく、短期間で形にするには専門家の力が不可欠と判断しました。加えて、年度末までに成果を出したいというスケジュール上の制約もあり、クラスメソッドのスピード感のある対応が決め手になったといいます。
今回のプロジェクトには、もう1つの狙いもありました。曽我部さんは廣田さんにもプロジェクトに参加してもらうことで、外部の専門家との協業がもたらす効果を実感してほしいと考えていたのです。
「AWSの専門家と協業する過程を社内で共有し、生成AIやクラウドサービスを組み合わせた技術開発の具体的な進め方を、今後のプロジェクトにも展開していきたいと考えていました」(曽我部さん)
相談を受けたクラスメソッドは、Amazon Connect AIエージェントを用いた技術検証を実施し、要望された動作が実現可能であることを確認した上で提案を行いました。Amazon Connect AIエージェントはリリースから間もないサービスで、国内での導入事例や技術情報はまだ限られていました。その中でクラスメソッドは、リリース直後から検証やブログ執筆を重ねており、蓄積した知見をもとに技術的な裏付けのある提案ができたことが、迅速な立ち上がりにつながっています。
2025年10月からプロジェクトが始動。約3ヶ月間のPoC(概念実証)として、AI電話自動応答の技術検証を進める計画が動き出しました。
技術検証が広げた「自動応答」の可能性
PoCでは住民からの電話を受けたAIが、道路損傷の種類や程度、場所などを順にヒアリングし、記録として残す仕組みの構築を目指しました。クラスメソッドがAmazon Connect AIエージェントの環境構築とプロンプト設計、そしてヒアリング項目をうかがって会話の流れを設計。そして、曽我部さんに設計内容の確認やフィードバックをいただきながら進行しました。
まずはチャット形式でAIの応答を検証し、フィードバックをもとに改善を重ねるサイクルからスタート。その後、電話番号を発行して音声での最終検証へと段階的に進めました。
曽我部さんがまず驚いたのは、AIへの指示文(プロンプト)の手応えです。
「プロンプトの分量自体はそれほど多くないにもかかわらず、想定していた水準の応対ができていました。クラスメソッドのプロンプト設計のノウハウがあってこその結果だと感じています」(曽我部さん)
技術検証で重要なテーマとなったのが、AIモデルの選定です。Amazon Connect AIエージェントでは、Amazon BedrockのAIモデルの中からプロジェクトに適したモデルを選択する必要があります。Amazon NovaとAnthropic Claudeを試し、今回の応答内容ではClaudeを採用。さらにClaudeの中でも応答速度と品質のバランスが取れたSonnet、高速なHaikuの2モデルを検証しました。
電話応答では、AIの返答が遅れるとそのまま沈黙になるため、応答速度が重要なポイントになります。チャットでは気にならない間も、電話では利用者のストレスに直結するためです。クラスメソッドはこれらのモデルを実際の電話環境で比較検証し、応答速度と会話の自然さのバランスからSonnetを推奨。道路損傷報告のような短文のやりとりであればHaikuも候補になり得るという選択肢も示しました。こうしたモデルごとの特性と使い分けの知見を得られたことは、今後のサービス展開に向けた大きな収穫でしょう。廣田さんも、クラスメソッドの対応力を実感していました。
「電話応答の検証で応答速度が気になった際も、すぐにモデルの調整で改善していただけました。相談してから解決までのスピードが速く、検証をスムーズに進められたと感じています」(廣田さん)
もう1つ、検証を通じて得られた発見がありました。Amazon Connect AIエージェントは、電話だけでなくチャットでも同じAIモデルとプロンプトをそのまま活用できるという点です。曽我部さんは、自治体のWebサイトにチャットウィジェットを組み込むことで、電話以外のタッチポイントも提供できると気づきました。既存のWebサービスへの組み込みが容易なことも、実用化に向けた大きなメリットです。
一方で、Amazon Connect AIエージェントの特性と限界も明らかになっています。すぐにサービスとして形にできる手軽さがある反面、外部APIとの連携など柔軟なカスタマイズには制約も。例えば、ヒアリングした場所の情報から地図上に位置を表示する機能は、現時点ではAIエージェント単体では実現が難しく、将来的にはAmazon Bedrockを使った独自開発も視野に入れる必要があります。こうしたサービスの可能性と制約の両面を具体的に把握できたことは、今後のサービス展開に向けた重要な知見となっています。
AIとともにインフラ維持管理の未来を
同社はすでに、国土交通省主催の「民間提案型官民連携モデリング事業」や、自治体・官庁・公共機関が全国から集まる展示会「自治体・公共Week」において、インフラ包括管理モデルの提案を行っています。官民連携によるデジタル管理体制の構築やデータ活用によるインフラの可視化など、複数のソリューションで構成されるこのモデルの中で、今回のAI電話自動応答は住民対応の高度化・効率化を担う柱として位置づけられています。
展開の構想は道路損傷にとどまりません。自治体が管理するインフラは、道路だけでなく橋梁や公園、街路樹、上下水道と多岐にわたります。さらに社内の問い合わせ対応など、電話応答のニーズは行政に限らず幅広い領域に存在するため、今回の技術検証で得た知見の応用範囲は広いと曽我部さんは見ています。
曽我部さんが次のステップとして見据えているのは、今回構築した電話自動応答を起点に、業務全体の流れを自動化していく構想です。現状のAI自動応答では、住民からの通報内容を記録するところまでが対応範囲。しかし実際の業務では、その先に「どの場所か」を特定し、「誰が対応するか」を判断し、「作業員に通知する」という一連のプロセスが続きます。
「今回の電話自動応答はあくまで入り口です。ヒアリングした内容から位置情報を地図上に特定し、作業員への通知まで自動で完結する。そうした一連の業務プロセスを、複数のAIサービスやAWSの機能を組み合わせて実現していきたいと考えています」(曽我部さん)
この構想において鍵を握るのが、廣田さんが手がけるAIによるインフラ損傷検知の技術です。廣田さんは、橋梁のクラック(ひび割れ)を画像から自動検出する仕組みの開発に取り組んでいます。電話で寄せられた通報と、AIが画像から検出した損傷データが連携すれば、点検帳票の自動作成や損傷度の判定まで自動化できる可能性が広がります。
「人による判断にはどうしてもばらつきが生じます。AIで判定基準を統一できれば、品質を安定させるだけでなく、ベテランの知見をシステムに蓄積していくことにもつながる。こうした画像認識の領域でも、今回のようにクラスメソッドの知見をお借りする場面が出てくるかもしれません」(廣田さん)
曽我部さんは、クラスメソッドとの協業をこう評価します。
「とにかくレスポンスが速く、こちらの相談に対してすぐに回答が返ってくる。短い期間でしたが、電話だけでなくチャットへの展開可能性まで見えるなど、想定していた以上の成果を得ることができました。今後もAWSを軸に様々な技術開発を進めていく中で、引き続きサポートをお願いしたいと考えています」(曽我部さん)
公共インフラの維持管理という社会課題に、先進技術で挑む中電技術コンサルタント。同社が掲げる「地域課題の解決」という使命は、中国電力グループ全体にも通じるものです。
クラスメソッドは、中電技術コンサルタントのインフラ維持管理DXをはじめ、中国電力グループの挑戦をこれからも支援してまいります。


