観光事業者向けに、予約管理から現場運用、顧客対応までを一気通貫で支えるSaaSを提供。近年はAIを活用した顧客からの問い合わせ対応の自動化にも注力し、観光・宿泊施設のDX推進を支援しているNutmegLabs Japan。アメリカでの創業以来シドニーリージョンで運用するAWSを基盤としてきましたが、日本での事業拡大により東京リージョンで運用するAWS基盤が必須に。当初は時間をかけて行う予定だったデータ基盤の移行を短期間で終える必要が生じ、クラスメソッドによる支援が行われました。NutmegLabs Japan SaaS事業本部 観光DX事業部 エンジニアの柳吾朗さんに、その支援内容と評価などについて話を伺いました。
創業時の前提が成長フェーズで新たな課題に変わった
NutmegLabs Japanは、AWSを基盤に採用して観光業に特化したSaaSを展開しています。予約サイトの構築、来訪時のサービス提供、旅行後のアンケートやアップセル、ニュースレター配信まで、観光事業者の顧客接点を一気通貫で支えるのが特徴です。日本でもアミューズメント施設や観光バス、レジャー施設など、チケット発券や入場管理が求められる現場で導入が広がっています。
同社は創業当初、オーストラリア市場を主軸にBtoBモデルで事業を展開していました。そのため、AWSの本番環境はグローバル展開を見据え、海外のリージョンで構築。しかしコロナ禍の危機を機に事業をピボットし、現在のBtoBtoC型SaaSへと転換しました。観光需要回復とともに事業が伸び、日本国内の民間企業や公共団体の案件が増えてくると、「データをどこに置くか」という問題が現実的な経営課題として立ち上がります。柳さんは、当時の状況をこう振り返ります。
「一般的にデータは設置された国の法律に従うため、海外リージョンではなく日本国内にデータを置くことが導入条件になるケースが増えました。とりわけ公共系の案件では、その条件を満たせなければ採用が難しい。こうした背景から東京リージョン整備を検討していました。しかし当初は2026年度のうちにできればよいという認識で、リソース確保も具体設計も進んでいませんでした」(柳さん)
国内の大型案件が始動。わずか2カ月で東京リージョン構築が条件に
そうした中、2025年後半に始動した大型観光施設の案件では個人情報保護の観点から、データの所在地を東京リージョンとする必要に迫られました。年内には東京リージョンでの稼働を一定レベル以上でできる状態に持っていく必要がありましたが、その時点で残された時間は実質2カ月ほどだったそうです。
時間の短さもさることながら、単に運用リージョンを変えれば済む話ではなかった点がプロジェクトのハードルにもなりました。既存システムは長年の継ぎ足しにより全体像の把握が困難で、過去の設定も残っていました。AWSは進歩が速く、以前は利用できた機能が新しい環境ではそのまま再現できないこともあります。たとえば認証系データは単純にデータベースを移せばよい構造ではなく、既存顧客をそのまま東京リージョンへ載せ替えるのは現実的ではありませんでした。
そこで同社では、AWS構築に豊富な知見を持つクラスメソッドに相談。その経緯を柳さんは次のように説明します。
「詳細な技術ブログの『DevelopersIO』もあり、エンジニアであればクラスメソッドの存在を知らない人はいません。知人のエンジニアにも太鼓判を押してもらったこともあり、クラスメソッドへお願いすることに決めました。スケジュールやコストなどに厳しさがある中、現実的な条件で支援いただけたのは非常に心強かったです。本当に最適な選択だったと感じています」(柳さん)
「何を、いつまでに」が見えたことでやるべきことに集中
今回NutmegLabs Japanが支援を受けたのはクラスメソッドのAWS技術コンサルティングサービスです。超短納期のプロジェクトを現実的に進めるため、既存環境の純粋な移行ではなく、別アカウント上に新規環境を構築することを決断。新しくサービスを利用する顧客向けにAWSインフラを東京リージョンで提供することにしました。
柳さんの印象に残っているのは、クラスメソッドが行ったタスクの交通整理です。「インフラ専任ではない立場から見ると、何をどの順番で進めるべきか、どこに先回りすべきかが見えにくい。ゴールから逆算して整理してもらえたことが、プロジェクト全体の安心感につながりました」と話し、このように続けます。
スケジュール優先をするため、今回はあえて見送りの判断をしたものもありました。例えばKubernetesクラスター管理ツールの「kOps」は、既存環境でも利用していたものを踏襲。AWSのフルマネージドサービスを採用する選択肢もありましたが、基盤ツールまで変えると運用が複雑になり、短期立ち上げのリスクが増加します。理想論ではなく、今この案件で何を優先すべきか。その現実的な線引きを一緒に考えられたことも、伴走支援の賜物でした。
「一人で対応していたら、確実に行き詰まっていたと思います。廃止された機能の代替や、最新のAWSではどう組むのが妥当なのか、自分だけでは判断しきれない場面が多かったのも事実です。信頼できる相談相手に、その場で方向性を示してもらえたことが何よりも大きな価値ですね」(柳さん)
プロジェクト成功だけでなく次の展開を見据えた土台も整備
今回の構築でNutmegLabs Japanが重視したのは再現性です。単発の対応で終わらせるのではなく、今後、顧客ごとに個別環境が求められた場合や、他リージョンへ展開する場合にも活かせる形にしたいとの考えから、構成はCDKでコード化しました。手作業での構築ではなく、設計を残し、同じ仕組みを再利用できる状態へと整えたのです。それにより、結果としてスピードと品質の両立にもつながったといいます。
東京リージョンの構築を終え、国内大型案件は無事サービスインしました。開始からしばらくは想定以上のアクセスが集中したものの、現在までインフラ起因の不具合やインシデントは起きていません。短期間で立ち上げた新環境が、実運用でも安定して機能しています。
この成果について柳さんは「得るものが大きかった」と手応えを感じています。東京リージョンの整備により、日本国内の案件に自信を持って提案できるようになったことがその手応えの一つです。もう一つは、コード化した構成が米国を含む他地域への横展開にも活かせる見通しが立ったことです。データ所在地の要件が世界的に強まる中で、今回の取り組みは同社の成長ドライバーそのものになりつつあります。それを踏まえ、柳さんは最後にこう締めくくりました。
「AWSのインフラは日進月歩であるがゆえに、判断が難しい場面や前例のない課題、緊急対応を要する局面での専門的な知見が必要です。そうした際に別の選択肢や最適解を一緒に考えてもらえる存在として、これからもクラスメソッドを頼りにしたいと思っています」(柳さん)
今後もクラスメソッドは“頼れるパートナー”として、NutmegLabs JapanのAWS活用に伴走してまいります。


