九州大学ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター(QREC)は2026年4月、大学院生向けの特別講義「社会変革スタジオ」を2日間の集中講義として開講しました。テーマは社会課題×生成AI。クラスメソッドは協力企業として、AIコーディングツール「Claude Code」の演習環境構築から講義設計、当日の受講生サポートまでを担いました。
QRECが社会課題×生成AIの特別講義に踏み出した理由
九州大学のQRECは、特定の学部・学科に閉じない横断型のアントレプレナーシップ教育を提供しています。学生が社会課題を自ら認識し、解決策を構想して実装につなげる力を養う教育を実践しています。この学びをより多くの学生に届けたいという思いが、特別講義の開講の背景にはありました。
生成AIの進化により、エンジニアではない人でもAIを用いて「考えていることを形にできる」時代を迎えています。当時QRECに在籍していた松井克文先生(現・関西大学商学部 准教授)は、社会課題解決のアイデアを生成AIで実装まで持ち込む講義を構想しました。松井先生の異動後は金子晃介先生が引き継ぎ、大学院生向けの展開科目「社会変革スタジオ」として実現に至ります。単位が取得できる特別枠として学生に広く門戸を開き、履修者は情報系の学生からビジネススクールに通う社会人まで約60名にのぼりました。
「この講義には、社会変革に挑戦する大学院生を増やしたいという狙いがありました。大学院での学びや研究を通じて培った専門的な知見と、AIによる支援を組み合わせることで、具体的なサービスやプロダクトが生まれ、それによって、学生が社会を変えていくきっかけになればと考えていました」(金子先生)
約60名分のClaude Code環境を用意できる技術力が決め手に
九州大学がクラスメソッドに関心を持ったきっかけは、クラスメソッドが北海道大学と進めていたIT人材育成の取り組みでした。国立大学間のネットワークでこの取り組みが話題となり、九州大学からも相談が寄せられました。そして対話を重ねる中で、社会課題×生成AIをテーマとした2日間の合同特別講義という形が見出されました。クラスメソッドでは過去にClaude Code勉強会において、来場者向けにブラウザからアクセスできる開発環境を一括提供した実績があります。この仕組みを応用すれば、スキルレベルも使用端末もばらばらな大学の受講生に対して、同一条件の開発環境を配布できます。九州大学側とは2月から講義のアウトラインをすり合わせ、「開発演習に集中する」「個人単位で取り組む」という方針を先生方の期待値に沿って固めていきました(参考:社会変革スタジオの講義情報)。
そして開発演習ではクラスメソッド運営サービス「Zenn」のハッカソン等で採用しているイベント設計に。受講生同士がフィードバックし合う環境やピッチの機会を設けました。自分のプロダクトを誰かに見てもらい、触ってもらうことで、作る手ごたえを実感しながら学べる場を提供しました。
「教育現場でAIを活用するうえで、有料のAIツールを学生全員が利用できるようにし、バイブコーディングに取り組める環境を整備することは、決して容易ではないと感じていました。しかし、クラスメソッドとの対話を通じて、過去に同様の環境を構築した実績があると伺い、教育現場での実現を具体的にイメージできるようになりました。また、コーディングスキルや専門分野が異なる学生たちが、同じ環境でAIを十分に活用できるのかという不安もありました。その点についても、操作につまずいた学生にはエンジニアの方々が個別に対応してくださると伺い、安心して講義に臨むことができました」(金子先生)
ブラウザだけで開発できるAWS環境と講義専用のClaude Skills
本講義で受講生が利用できる環境はAWS上に構築しました。コンテナサービス上にWeb版のVS Code(code-server)を受講生ごとに起動し、AIモデルはAmazon Bedrock経由でClaudeを呼び出す構成です。ブラウザでURLにアクセスするだけで開発を始められるため、様々なPCのスペックやOSに対応しています。モデル呼び出し料金とインスタンス料金がAWSの課金に一元化されるため大学側の支払いがシンプルになるうえ、講義終了後はインスタンスを削除するだけで環境を初期化でき、受講生のPCに影響を残しません。
初日は松井先生による社会課題発見とアイデア創出の講義に続き、クラスメソッドが生成AIの基礎とClaude Code環境の使い方を解説しました。2日目は、各自のアイデアをプロトタイプとして実装する開発演習が行われました。ここで機能したのが、クラスメソッドが本講義専用に設計したClaude Skillsです。受講生が「何を作りたいか」の問いに答えていくと、Claudeが設計・実装・振り返り・プレゼンテーションの各フェーズを順に導く対話型のフローで、開発経験のない受講生でも迷わず進められる仕掛けです。
当日は想定を超える場面もありました。午前の時点で受講生の6〜7割がすでに動く画面を触っており、想定より早いペースで開発が進んでいたのです。クラスメソッドは昼休みの間にランディングページ作成用のSkillを新たに構築し、午後の選択肢として追加しました。結果として受講生の8〜9割がこのSkillに取り組み、ほぼ全員が成果物を完成させました。
当日は福岡オフィスのエンジニアもチューターとして教室に入り、受講生一人ひとりのつまずきを個別に解消しました。また連絡窓口としてDiscordなどコミュニケーションツールを活用し、約60名の質疑応答にも対応しています。
「講義が始まるまでは、コーディングの知識がほとんどない学生が、バイブコーディングによってどこまでプロダクトを形にできるのか、不確実な部分もありました。しかし、講義では全員がClaude Codeとの対話を通じて、それぞれのプロトタイプを制作することができ、その可能性を強く実感しました。一方で、操作に慣れず手が止まってしまう学生もいたため、クラスメソッドのエンジニアの方々による個別のサポートが大変助けになりました」(金子先生)
受講生の8〜9割が成果物を完成させ満足度は5点満点中4.59を記録
2日目の最後には、受講生それぞれが約2分のピッチで自作のアプリやランディングページを発表しました。多様なバックグラウンドの受講生から、多彩なアイデアの成果物が生まれました。受講後アンケートの満足度は5点満点中4.59。自由記述には「意外と短時間で思っているようなアプリを開発できる」「プロトタイピングのハードルが無くなったと感じた」など、開発体験への驚きが並びました。技術に馴染みのなかった受講生からも、短時間でアプリ開発ができた驚きとともに、核となるのは「何を解決したいか」という人間の発想力やクリエイティビティだと実感したという声が寄せられており、ツールの体験にとどまらない学びが生まれています。
ビジネススクールの社会人学生は、自身が普段から抱える課題感を短時間で形にできる体験に価値を見出し、情報系の学生からは「講義後も使い続けたい」「研究活動に活用したい」という声が最も多く寄せられました。単にツールの使い方を学ぶだけでなく、「作ったものを自分がどれだけ理解しているか」を問うSkillの設計により、生成AI時代のものづくりに対する当事者意識まで持ち帰る講義となりました。
「今回の講義を通じて、学生たちは、AIを活用すれば自分のアイデアを形にできるかもしれないという手応えと自信を得たように感じています。この経験が、社会に変化をもたらすための一歩を踏み出すきっかけになることを期待しています」(金子先生)
研究を社会に開く次の一歩へ
九州大学では今回の講義を踏まえ、2027年度に向けた取り組みの整理を進めています。受講生が自身の研究テーマに生成AIをどう活かすかを深掘りする構成や、QRECのプログラム(Student Initiative Programs)への接続など、講義を一過性の体験で終わらせないための構想が検討されています。
クラスメソッドは、今回の講義で培った環境構築とカリキュラム設計の知見をもとに、それぞれの教育現場に合わせたアレンジを加えながらAI人材育成の裾野を広げるとともに、研究と社会をつなぐ九州大学の挑戦をこれからも支援してまいります。


