1893年創業、「はかりのイシダ」として知られる株式会社イシダ。計量機器メーカーとしての歴史を持つ同社ですが、近年はスーパーや家電量販店の値札を電子化する電子棚札事業が急成長し、トップクラスのシェアを誇る事業の柱となっています。
同社では、主力システムの次期バージョン開発にあたり、クラウドを活用した新たなアーキテクチャへの刷新を推進。あわせて、将来にわたってシステムを自社で維持・発展させていくための内製化が課題となっていました。2025年10月、クラスメソッドがAWSの活用とテストコードに関する実践的な伴走支援を開始。SE部システム技術一課の皆さんにお話をうかがいます。
成長事業を支える若手チームの挑戦
イシダのSE部では計量器や電子棚札などの製品に関わるソフトウェア開発を幅広く担っています。たとえば小売店舗に設置された機器のデータを収集・管理するシステムや、顧客の基幹システムと連携する仕組みなど、ハードウェア製品をつなぎ、動かすためのソフトウェア基盤が守備範囲です。
今回の支援対象となったのは、同社製品に関わるシステムの次期バージョンを開発するチーム。このシステムはこれまで、顧客ごとにサーバーを構築する方式で運用してきました。しかし、導入先が増え、顧客ごとのカスタマイズも多様化する中で、保守管理の負担が年々増大。現在開発中のバージョンでは、AWSを活用したマルチテナント型のアーキテクチャへと大きく刷新する計画が進んでいます。
この刷新にあたって浮上したのが、将来にわたってシステムを自社で維持・発展させていく体制をどう構築するかという課題です。新たなシステムではクラウド技術の比重が大きくなり、求められる技術領域も従来とは異なります。外部の開発パートナーにプロダクトコードの開発を委託する一方で、コアとなる部分の理解まで外部に委ね続ければ、今後の改修や機能追加のたびに自社だけでは判断できない状況に陥りかねません。プロジェクトマネージャーとしてチームの技術面をリードする岩崎さんは、こう振り返ります。
「開発を外部にお願いすること自体は必要なことです。ただ、コアの部分を自分たちで理解できていなければ、出来上がったものの品質を自分たちの目で判断できなくなってしまう。その力だけは持っておかなければと考えました」(岩崎さん)一方で、システム開発チームが正式に発足したのは2025年。岩崎さんを除くメンバーのほとんどが入社1、2年目の若手で構成されていました。開発チームのリーダーを務める東さんも入社2年目。AWSやPythonの実務経験はほぼない状態からのスタートでした。
「Pythonはなんとなく知っている程度で、業務でしっかり使ったことはありませんでした。Lambdaに至っては名前を聞いたことがある程度。そこからのスタートでした」(東さん)
こうした状況の中、チームの底上げを図るパートナーとして白羽の矢が立ったのがクラスメソッドでした。
「一緒に理解して伴走してくれる」パートナーを求めて
内製化を進めるにあたり、チームの技術的な底上げを支援するパートナー探しが始まりました。SE部の部長がクラスメソッドの技術ブログ「DevelopersIO」やイベントでの発信に関心を持っていたところ、紹介を受けたのがきっかけでした。
「クラスメソッドのイベントに初めて参加させていただいたのが、2019年のことです。その際に部内に共有したナレッジに『当時さかんだったプラットフォーマー主催のイベントと違い、最新の技術の紹介ではなく、やりたいことに対して、どのように使いこなすか、という目線で登壇者の方が実際に試されたことをベースに語られているのが新鮮だ』ということを書いていました。そのときから、エンジニアが新しいことを試せる環境、エンジニア起点の発信の文化を羨ましく感じながら、クラスメソッドのご活躍を追わせていただいていました」(SE部部長 寺田清一 様)
AWS環境の構築・運用を専門とする企業や、教育カリキュラムを体系的に提供する企業など、複数の選択肢を比較検討したと岩崎さんは話します。
「製造業は自分たちで製品を作り、お客様に届け、それを継続していくことが求められます。対応範囲をきっちり区切るスタンスではなく、そうしたものづくりの考え方も含めて一緒に理解して、伴走してくれるパートナーを求めていました。クラスメソッドはまさにそういう姿勢で向き合ってくれました」(岩崎さん)
2025年9月に契約を締結し、10月後半から約3ヶ月間の内製化支援が始まりました。クラスメソッドが提案したのは、テストコードの書き方やAWSの基礎を学ぶワークショップと、同社システムの実際のソースコードを使ったモブプログラミング(チーム全員で1つの画面を見ながらコードを書く手法)やコードレビューを組み合わせた、実践重視のプログラムです。
メンバーのレベルに合わせて段階的にスキルアップしていく設計で、カリキュラムの詳細は固定せず、受講者のフィードバックを見ながら柔軟に調整していく方針としました。
お客様にあわせたオーダーメイドのワークショップ
2025年10月、2週間で全8回のワークショップが始まりました。テストコードの基礎から、AWSの仕組みを実際に手で動かして学ぶハンズオン、実践的な演習まで、段階的に内容を深めていく構成です。参加者はチームメンバーに加え、SE部内から興味を持った若手社員も自由に参加し、最大12名ほどが受講しました。
特徴的だったのは、カリキュラムの作り方です。大枠のスケジュールと内容は事前に提案していましたが、各回の終了後にアンケートを実施し、受講者の理解度やつまずきを確認した上で、次回の内容を調整していきました。難易度が高かった回の後には、フォローアップの回を差し込むこともありました。資料もワークショップの直前まで調整を続け、質疑応答の内容はテキストに起こして後日共有するなど、1つひとつの回を受講者に合わせて作り込んでいます。
東さんはその違いを実感していました。「以前に別の研修でテストコードについて学んだことはありましたが、それは講義を聞く形式でした。今回は実際に手を動かして書くハンズオン形式だったので、自分が理解できている部分とできていない部分がはっきり見えたんです」(東さん)
こうした柔軟な対応を東さんは実感していたといいます。入社1年目で参加した澁谷さんも、その柔軟さに助けられた一人です。
「正直、最初はついていくのに必死でした。でもアンケートで率直にそう書いたら、次の回でつまずいたところを集中的にフォローアップしてもらえて。置いていかれない安心感がありました」(澁谷さん)
同じく1年目の清水さんも「強い印象を受けた」と語ります。
「最初の回から驚いたのは、当社の製品や業務を深く理解した上で教えてくださっている自然さでした。学んだことがそのままシステム操作の実務に応用でき、一般的な知識にとどまらなかったのが大きかったですね」(清水さん)
ワークショップを主導したクラスメソッドのエンジニアは、受講者が後から資料を見返した時にも役立つよう、資料の質にはこだわりを持って臨みました。講義はオンラインで1回あたり1〜1.5時間。日によっては1日2コマ実施する日もあり、10営業日で8回という密度の高いプログラムとなりました。
実践を通じて「チーム」になっていく
ワークショップで基礎を固めた後、支援はフェーズ2へ進みました。ここからは、実際のソースコードを題材にしたモブプログラミングやコードレビューを通じて、学んだ知識を実務に結びつけていくフェーズです。
モブプログラミングはチーム全員が初めての経験でした。クラスメソッドのオフィスに全メンバーで足を運び、対面で実施。まずクラスメソッドのエンジニアがデモを行い、その後メンバーが同じ画面を囲みながら実際に手を動かす、という段階的な進め方で行いました。
大窄さんは、チームで1つのコードに向き合うという体験自体が新鮮だったと話します。「みんなで話しながらコードを書くという経験が初めてで、こういう進め方もあるんだ、と驚きました。一人では気づけないことも、チームでやると見えてくるものがあると実感しました」(大窄さん)
ワークショップを通じてAWSそのものにも興味を持ち、現在は自主的に資格取得に向けた勉強も始めているといいます。一方、左近さんはチームに配属された当初、「何を聞けばいいかすらわからない状態」だったと打ち明けます。
「一人でAIに質問しながらなんとかやり過ごしていたんです。でもモブプログラミングを経験して、自分が何をわかっていないのかがやっと見えてきた。それからは周りにも聞けるようになりました」(左近さん)
変化はメンバー個人にとどまりませんでした。フェーズ2の後半では、アンケートや振り返りの結果を踏まえて、モブプログラミング形式からコードレビューやリファクタリング(コードの構造を整理して保守しやすくする手法)のワークショップへと支援内容を柔軟に切り替えています。クラスメソッドのエンジニアはソースコードを読み込んだ上で、テストコードの書きやすさだけでなく、設計そのものに踏み込んだフィードバックも提供しました。
岩崎さんは、チーム全体の変化をこう語ります。
「チームとしてうまく回るって、最初からできるものではないんです。自分たちで動き出せるようになるまでが一番難しくて、その最初のきっかけをクラスメソッドに作っていただいた。今ではチームとして自然に回り始めていると感じています」(岩崎さん)
もう1つ、岩崎さんが大きな収穫として挙げるのが、チーム内の共通認識の形成です。
「たとえば、誰か一人がテストコードの重要性を理解していても、周りがその必要性を感じていなければ、チームとしては前に進めません。今回、全員が同じ経験をして『これは必要だ』という共通認識を持てたことで、チームとしての推進力が格段に上がりました」(岩崎さん)
自分たちの目でコードを見極める力
約3ヶ月の支援を終え、チームには確かな変化が生まれています。
最も大きな成果は、外部の開発パートナーが作成したソースコードに対して、自分たちの目でレビューができるようになったことです。東さんは、年末から年明けにかけてメンバーと毎日のようにソースコードを読み込んだと話します。
「以前はソースコードを読んでも、こういう処理をしているんだなと流れを追うのが精一杯でした。それが今では、ここはバグにつながりかねないとか、この構造だと保守が大変になるといった問題に気づけるようになってきた。コードを見た時に、怪しい箇所に自然と目が止まるようになったんです」(東さん)
SE部の寺田部長は、チームの成長をマネジメントの立場からこう見ています。
「やる気と才能のある若いメンバーが増え、内製化による内部品質の強化、ひいてはお客様への価値提供の向上を目指せるようになってきました。クラスメソッドのエンジニアに伴走していただきながら、若いメンバーが成長し、チームが強くなっていく。そんな未来に大きな期待を持っています」(寺田さん)
今回の支援を通じて、岩崎さんはクラスメソッドとの協業をさらに広げていきたいと考えています。
「テストコードを書ききるところまでの継続的なサポートはもちろん、新たな案件でもぜひ一緒に取り組んでいきたいと考えています」(岩崎さん)
自らの目でコードと向き合い、チームとして動き出した若手メンバーたちの歩みは、まだ始まったばかりです。クラスメソッドはこれからも、イシダのソフトウェア内製化と品質向上を引き続き支援してまいります。


