世界30カ国以上で事業を展開するヤマハ発動機株式会社。同社は2027年11月の横浜データセンター撤退に向けて、約200のシステムと約800のサーバをAWSへ移行する計画を進めています。その移行先の受け皿となる全社共通のAWS基盤(以下、CenterAWS)を整備、その中でもアプリケーションが共通利用する機能を集約したCore基盤をクラスメソッドの伴走支援により約半年で構築しました。EA基盤推進部 部長の横田さんと、クラウド基盤グループの赤松さんにお話をうかがいます。
大規模移行を支える「共通基盤」の必要性
ヤマハ発動機のIT基盤は、長い歴史の中で複雑さを増してきました。本社構内の物理サーバに始まり、横浜や浜松の外部データセンターで仮想基盤を運用。さらにAWSの活用も広がり、オンプレミス、仮想基盤、クラウドが併存する状態になっていました。
こうした中、横浜データセンターからの撤退方針が具体化します。期限は2027年11月。横浜データセンターだけでシステム約200、サーバ約800。国内の浜松データセンターもあわせると約1,600、さらにシンガポールにも約500のサーバが稼働しています。
しかし当時、移行先となるAWSには全社共通のシステム基盤はまだ整備されていません。ネットワーク構成もセキュリティ設計もコスト管理も、システムごとに個別対応。このまま移行を始めれば、データセンター時代の「バラバラ」がAWS上でそのまま再現されかねない状況でした。
「各システムがそれぞれ独自にインフラを構築していて、サードパーティ製品の使い方もバラバラでした。全体を見渡して、何が本当に必要な共通機能なのかを明らかにするところから始める必要がありました」(赤松さん)
2027年11月から逆算すると、2026年にはシステム移行を開始しなければ間に合いません。その受け皿となる共通基盤の構築には少なくとも半年。2025年6月がギリギリのスタートラインでした。
CCoEの実績が開いた次の扉
CenterAWSを整備するパートナーの選定にあたり、同社は複数社を検討しています。全社のクラウド活用グランドデザインを策定したコンサルティングファームに実装も依頼する選択肢もありましたが、別のパートナーを探すことになりました。
この時すでに、クラスメソッドはCCoE支援を3ヶ月にわたって進めていました。クラウドの利用方針を策定し、運営プロセスを設計するCCoEと、その方針に沿って共通インフラを構築するCenterAWSプロジェクト。この2つが連携してこそ意味を持ちます。「CCoEとCenterAWSプロジェクトの連携は不可欠です。方針を決める側と基盤を作る側が同じパートナーであれば、情報共有のスピードが格段に上がる。それは大きな判断材料でした」(赤松さん)
CenterAWSプロジェクト Core基盤整備のパートナー選定は、赤松さんを中心に現場が主導しました。横田さんはCCoE支援と同様に、現場の判断を尊重する姿勢を取っています。
「CCoEとの親和性も含めて、現場が検討した結果を尊重しました。同件はIT本部長にも定期的に進捗を報告している重要なプロジェクトです。それだけに、現場が信頼できるパートナーを選ぶことが大切でした」(横田さん)
ネットワークからセキュリティ、コスト管理まで、多岐にわたる領域を並行して進めるには、各領域に精通した専門家が不可欠です。クラスメソッドは提案段階から、担当者の名前、保有資格、経歴を明示した具体的な体制案を提示。領域ごとに専門のエンジニアを柔軟にアサインできる体制を整えました。
「体制の相談をしたら、早い段階で具体的な提案が返ってきたのは印象的でした。必要な領域に適した人材をすぐに当ててもらえる安心感は大きかったですね」(赤松さん)
10を超える分科会を並行で動かす
同社のAWS環境はグローバルに広がっています。南米や中国、北欧など利用リージョンは多岐にわたり、国ごとの税制や契約形態の違いも考慮が必要です。そうした複雑な要件を短期間で整理するにあたって、赤松さんは進め方の方針を明確にしていました。
「全部をヤマハ発動機オリジナルでゼロから作るのは現実的ではありません。業界のベストプラクティスをベースにまず大きなピースを当てはめてみて、合わない部分をアジャイルにカスタマイズしていく。その進め方ができたのは、豊富な対応実績を持つクラスメソッドと組めたからだと感じています」(赤松さん)
4週間で要件を固めたあと、すぐに構築フェーズに移ります。共通ネットワーク、統合モニタリング、共通インフラサービス、コスト管理、ユーザー管理、セキュリティ。6つのカテゴリにわたる機能を、それぞれ並行して設計・構築する必要がありました。テーマごとに分科会を立ち上げ、その数は10を超えます。定例会議には30〜40名が参加する規模です。
この大規模プロジェクトに向けて、クラスメソッドからはクラスメソッドテクノロジーズのお客様専任メンバーも交えた支援に努め、ピーク時には5名体制でスピード感を持った対応に。プロジェクトマネージャーがすべての分科会に入り、Jiraで課題と進捗を一元管理。ネットワークやセキュリティなど領域ごとに専門のエンジニアを柔軟にアサインし、テーマ間の整合性を保ちながら全体を前に進めていきます。
「10を超える分科会が一気に動く中で、何が課題で何が優先なのかを常に整理してくれました。明確に宿題を出してもらえるので、自分たちは考えるべきことに集中できた。プロジェクトマネジメントの面で非常に助かりましたね」(赤松さん)
実際の設計・構築はヤマハモーターソリューションのメンバーが担い、赤松さんがヤマハ発動機側のプロジェクトマネージャーとして方針決定と全体調整を統括。クラスメソッドが技術支援とプロジェクト推進を担う三位一体の体制で、約半年で6カテゴリのCore基盤の骨格を形にし、現在も機能の拡充と運用の改善を続けています。
対面でのコミュニケーションが果たした役割も大きかったと赤松さんは振り返ります。
「オンラインだと、決められた時間の中でしか会話できません。現地に来てもらうことで、隙間時間にちょっとした相談ができたり、会議室の外で自然にコミュニケーションが生まれたりする。物理的に距離が近くなったことで、精神的にも近くなりました」(赤松さん)
「変化に強い骨太な会社」を支えるIT基盤へ
CenterAWSが形になったことで、これまで個別にインフラを構築していた各システム担当者が「自分たちは何をすればいいか」を理解できるようになり、移行計画の具体化が一気に進みました。2026年からは横浜データセンターのシステムをAWSへ移すモダナイゼーションが本格的に始動しています。
ただし、まだ道半ばです。バックアップやBCP対策など、AWSのポテンシャルを十分に引き出しきれていない部分も残っています。赤松さんは「ただ引っ越しただけでは意味がない」と、その先を見据えています。
「横浜データセンターからAWSに移しただけでは意味がありません。マネージドサービスや新しい技術を活用して変化に素早く対応できる基盤にしていくこと、コストを最適化していくこと。AWSを本当に使いこなすのはこれからです」(赤松さん)
2027年11月の横浜データセンター撤退のあとには、浜松データセンターとシンガポールデータセンターの移行が2029年末まで続きます。横浜での経験とCenterAWSの仕組みがそのまま横展開できるため、先行して取り組んだことの価値は今後さらに大きくなっていくでしょう。
同時に赤松さんが強調するのは、内製化への意志。次のステップとして“自走できる組織づくり”を目指しています。
「最終的には、IT子会社のヤマハモーターソリューションも含めて、自分たちで運用・発展させていける状態を目指しています。そこに到達するまでの道筋を、クラスメソッドには一緒に描いてほしいと考えています」(赤松さん)
横田さんの視線はさらにその先を捉えています。「クラウドによってインフラがソフトウェア化し、アプリケーションやセキュリティとの距離がぐっと近くなっています。これらの領域をIT子会社も含めてグループ一体で動かしながら、我々自身がレベルアップし、もっと高度な仕事ができるようになっていきたいですね」(横田さん)
同社の社長が掲げる「変化に強い骨太な会社」。その言葉を支えるIT基盤を作ること。それが、このプロジェクトの先にある目標です。
クラスメソッドは、CenterAWSの整備からモダナイゼーションの推進、さらにはCCoEを通じたクラウド統制まで、ヤマハ発動機のクラウド活用を包括的に支援しています。グローバル製造業のIT変革を、これからもともに進めてまいります。


