キヤノンプロダクションプリンティングシステムズ株式会社(以下、キヤノンPPS)は、業務用プリンター関連事業を中核とするキヤノングループの一員です。同社では2026年1月、生成AIをはじめとするデジタル技術を活用して新しい価値の創出を目指す「デジタルイノベーション推進課」が発足しました。
同課が最初に取り組んだテーマのひとつが、開発基盤のモダナイズです。クラウド開発の推進とAI駆動開発の本格化を見据えて、新しいソース管理の基盤としてGitHub Enterprise Cloudを導入。クラスメソッドは、ライセンス提供と請求の一元化に加え、セキュリティを重視した初期設定のレビューやCI/CDのハンズオンといった技術支援を行いました。
新しい開発基盤の導入現場では、何が起きていたのか。導入を担当したデジタルイノベーション推進課の早川徹さん、ダニエル ダ・シルヴァさん、西村祐太さん、吉田侑花さんにお話をうかがいました。
新設のイノベーション部門が目指したのはモダンな開発環境
キヤノンPPSは、業務用プリンターおよび印刷関連ソフトウェアの販売、保守サービスの提供、プリントサービスなど幅広い事業を展開しています。社内では現在「事業構造変革プロジェクト」が進行中で、その推進役として2026年1月に発足したのがデジタルイノベーション推進課です。
一方で、クラウド開発やAI駆動開発を本格化するには、新しいソースコード管理の仕組みが欠かせません。加えて、社内に複数あるリポジトリの管理も課題となっていました。
「GitHubには前々から興味がありました。ただ、当社はオンプレミスでの開発案件が多く、なかなか取り組めないでいました。GitHubを当たり前に使ってAI駆動開発に取り組んでいる他社に、遅れを取っている感覚がありました」(シルヴァさん)
西村さんも同じ思いを抱えていました。グループ会社との協業でGitベースのソース管理とCI/CDを備えたプラットフォームを経験し、部内への導入に挑んだことがあったのです。
「モダンなプラットフォームを導入しようと頑張った時期があったんです。でも、当時は技術的に相談できる相手もおらず、『なぜ今のやり方を変えるのか』を周囲に納得してもらうだけの後ろ盾もありませんでした。結局、根付かせるところまで持っていけずに断念しました。その時の思いはずっと残っていました」(西村さん)
ソフトウェア開発におけるAI活用の流れが強まる今、ますますモダンな開発環境の導入が急がれます。そこに新しい課の発足のタイミングが重なり、導入プロジェクトが動き出します。
使うだけならできる。しかしセキュリティは妥協できない
GitHubのドキュメントは整備されており、生成AIの支援も受けられる今、チームには「導入するだけ」なら自分たちでもできるという確信がありました。それでもクラスメソッドの支援を仰いだのには、明確な理由があります。
「使うだけなら自分たちだけでもできたでしょう。ただ、当社はセキュリティを重視しています。実際に、認証情報の流出に起因するインシデントが報道されるなか、そこは妥協できません。Gitとクラウド開発の知見がないため、自分たちだけでは何が必要かを判断できません。だから支援を求めました」(シルヴァさん)「GitHubを使うこと」と「GitHubを安全に使いこなすこと」のあいだには、大きな距離があります。その距離を埋めるパートナーとして選ばれたのが、クラスメソッドでした。
相談の入口となったのは「支払い」でした。GitHub Enterprise CloudはAzureのサブスクリプション経由で契約でき、GPT(Azure OpenAI)などの活用も見据えると、Azureに寄せて費用をまとめるのが合理的。そこでAzureの請求代行に対応できるベンダーを探したことが、今回の協業につながりました。
「支払いはAzure経由が楽だと考えて、対応できるベンダーを探したところ、以前からAWSでお付き合いのあったクラスメソッドさんが、Azureの請求代行にも対応していました。しかも相談を進めるなかで、GitHubの導入支援もされているとわかった。これは幸運でしたね」(シルヴァさん)
クラスメソッドはAWSのイメージが強いものの、Azureのリセールも手がけており、GitHub Enterprise CloudやGitHub Copilotのライセンス提供と、請求書払いによる請求の一元化にも対応しています。AWS・Azure・GitHubの窓口がひとつにまとまり、そのまま技術支援まで受けられることは、キヤノンPPSにとって大きな利点でした。
「正直、他社はほとんど検討していません。AWSでの実績を強く感じていましたし、技術ブログ『DevelopersIO』で幅広く情報を発信されている印象があったので、クラスメソッドさんに頼めば間違いないだろうと決めました」(シルヴァさん)
聞く前に答えが出てくる、2ヶ月の伴走
支援期間は、2026年4月から5月にかけての2ヶ月。限られた時間のなかで、セキュリティとアクセス権限を中心とした設定のベストプラクティスレビュー、GitHubからAWSへの自動デプロイを体験するハンズオンワークショップ、Backlogでの技術Q&Aの随時提供を実施しました。クラスメソッドのエンジニアが重視したのは、情報の「絞り込み」です。公式ドキュメントのベストプラクティスは汎用的に書かれており、目の前の課題に必要な情報を見つけ出すのは容易ではありません。そこでキヤノンPPSの要件とレベル感をヒアリングし、必要な情報だけに絞ったコンテンツを設計。手を動かしながら自動化の仕組みを学べるワークショップとして構成しました。
「期待していた以上のアドバイスをいただきました。心配していたセキュリティ面でも、APIキーを極力発行しないようにといった、最新の状況を踏まえた提案があった。安心して使える環境が整いました」(シルヴァさん)
課を取りまとめる早川さんが驚いたのは、そのスピード感です。
「こちらが質問する前に、Backlogに情報が出てくるんです。ここまでいただけるのかと、我々のほうが追いつけないくらいでした」(早川さん)
手作業のデプロイが消え、「もう戻れない」開発体験へ
導入の効果は、日々の作業にはっきりと現れています。象徴的なのが、デプロイ作業の変化です。
「今までは、デプロイを20分ほどかけて手作業で行っていました。今はpushしてpullしてデプロイするだけなので、非常にはかどっています。GitHubに上がれば必ずAIのコードレビューがかかるので、人間が見落とす部分もカバーされる。精神的な負荷が減っているのを日々感じています」(シルヴァさん)
西村さんが効果を実感しているのは、脆弱性チェックの自動化です。
「使っているOSSライブラリが何十個もあるソフトウェアでは、ひとつひとつの確認に時間がかかります。それに、手動の操作にはヒューマンエラーがつきもので、慎重になるぶん精神的な負担もあった。そうした点で自動化の効果を実感しています」(西村さん)
人の変化も生まれました。GitHub未経験だった吉田さんは、用意されたドキュメントを頼りに、自動デプロイのワークショップを半日で完走しました。「CI/CDは、これまでまったく思いもしなかった考え方で、いろいろなことに活用できるアイデアが広がりました。一番の感動ポイントは、pushするだけでテストからデプロイまでが自動でつながっていくことです。これまで一つひとつ手作業で進めていた工程が、仕組みとして自動で流れていく様子に驚きました」(吉田さん)
導入にあたっては、クラウド利用の必須要件と社内ルールを満たすことを確認したうえで申請し、グループでの利用実績も後押しになりました。そして、チームの空気も変わっています。
「最初の頃は、効果測定をしたほうがいいという意見もありました。でも今は、効果測定なしでも『もうこれを使わないとやっていけない』という雰囲気です。あとは社内に広げるだけですね」(シルヴァさん)
ベンダーの伴走が、社内を動かす説得力になる
かつて導入に挑み、断念した経験を持つ西村さんは、今回のプロジェクトを通じて確信したことがあるといいます。
「ベンダーが間に入るということは、安心できるサポートがついた状態で新しいものを入れられるということです。社内への説得材料として、これはかなり大きい。今後また何かを導入したいとなったら、まずクラスメソッドさんに支援がないかを確認しようと思っています」(西村さん)今後は、部全体への段階的な展開が視野に入っています。クラウド案件ではGitHubを標準とし、新規開発案件から適用を広げていく方針です。
「大規模なクラウド開発では、自社で開発したアプリケーションをAWSに持っていくまでのCI/CDでも、デプロイを速めるテクニックのような支援をいただけると思っています。チームでのAI駆動開発についても相談していきたいですね」(シルヴァさん)
「セキュリティやログの設定など、本当にありがたい情報を教えていただき、安全に運用できる土台が整いました。期待以上のご支援でした」(早川さん)
最後に、シルヴァさんは、クラスメソッドの印象をこう語ってくれました。
「新しいAIが出たら1時間後にはDevelopersIOに検証記事が上がっている。同じ空気感で話せるエンジニアが多い会社なので、相談事があれば、まず声をかけるのが一番早いだろうと思っています。これからも頼りにさせていただきます」(シルヴァさん)
クラスメソッドは、GitHubを起点とした開発プロセスのモダナイズをはじめ、キヤノンプロダクションプリンティングシステムズ様の挑戦をこれからも支援してまいります。


