山形県米沢市に本社を置く株式会社ニューメディアは、東北・北海道を中心に地域密着で放送事業やインターネット、固定・携帯電話などの総合通信インフラ事業を展開するケーブルテレビ事業者です。近年はサービスの多様化に伴い、カスタマーサポートにおける問い合わせ内容が複雑化。オペレーターの負担増加と対応品質のばらつきが大きな課題となっていました。
同社はGenUを活用した社内向けAIチャットのPoCを実施。続いてクラスメソッドが主催するハッカソンイベント「Classmethod Craft Lab」に参加し、過去の問い合わせ履歴から回答候補を提示するカスタマーサポート支援ツールを開発しました。
同社がClassmethod Craft Labを通じて内製開発を進めた取り組みについて、システム開発部の笹原さん、小林さん、業務部サポート課の鷲尾さん、総務・情報システム課の遠藤さんにお話を伺いました。
生成AIの可能性を探るGenUの活用
ニューメディアとクラスメソッドの最初の接点は、2024年夏頃にさかのぼります。AWS上で運用していた全国のケーブルテレビの番組が視聴できる動画配信アプリのコストに関する相談をきっかけに定期的なコミュニケーションが始まり、AWSの利用に関する相談から、生成AIの活用へとテーマが広がっていきました。
2025年に入り、ニューメディア側でも生成AIに対する関心は高まっていたものの、実際の業務やサービスへの活用方法までは明確になっていませんでした。そんな折、クラスメソッドから生成AIのPoC支援パッケージ「GenU」の活用を提案されます。「AIを使った開発ができる感覚はありましたが、実際の業務やサービスに活かすイメージまでは湧いていませんでした。まずは社内で完結するところからということで、社内規程を確認できるチャットツールを試しました」(笹原さん)
身近な用途から検証したことで、生成AIを使った開発の感覚をつかむとともに、クラスメソッドとのコミュニケーションも増えていきました。その中で、ニューメディアの内製開発力を生かす次の機会として提案されたのが、クラスメソッドが主催する短期集中型の開発ハッカソン「Classmethod Craft Lab」への参加でした。
カスタマーサポートの課題に取り組んだClassmethod Craft Lab
Classmethod Craft Lab(以下、Craft Lab)は参加企業が主体となり、自社の実業務に役立つアプリケーションを短期間で開発するハッカソンです。参加への提案を受けたシステム開発部は、Craft Labへの参加を社内の課題に取り組む好機と捉えました。
「昨年度までは、社外へのシステム販売やサービス提供に関する業務が増え、社内のほかの部門との関わりが減っていたんです。今年度はもっと社内業務の課題解決に関わり、ほかの部門へ貢献したいと思っていました。Craft Labの話をいただいたときには、参加するからには、自分たちの部門だけで完結させるのではなく、社内の課題解決につなげたいと考えたんです」(笹原さん)
ニューメディアはサービスを拡充し顧客の利便性を高める一方で、問い合わせ内容は多様化し、カスタマーサポートの負担は増加。特にテクニカルな問い合わせでは、オペレーターによって原因を切り分ける知識や経験に差が出るため、対応品質にばらつきが出やすくなっていました。「オペレーターにはマニュアルがありますが、必要な情報を探すのは手間がかかります。特にテクニカルな対応では経験年数による差も出やすく、調べている間にお客様をお待たせしてしまうケースもありました。対応スキルの均一化が喫緊の課題であると考えていたときに笹原さんからClassmethod Craft Labへの参加の話を聞き、お問い合わせ対応の課題を解決できるチャンスだと考えました」(鷲尾さん)
Craft Labの開催期間は約3週間。課題や開発方針を整理する「DAY1」と、開発期間を経て各チームが発表を行う「DAY2」で構成されます。DAY1に参加した4名は事前に用意した構想を基に、現場の問い合わせ件数や業務負担、効率化の先に実現したい顧客体験をホワイトボードで整理しました。
「鷲尾さんから1日にどのくらい問い合わせが来ているのかを聞いたときには『思っていたより多いな』と感じましたし、困りごとに対する想像と実際の課題が少し違う部分もありました。私がケーブルテレビ事業の部署にいた6、7年前と似た課題もありましたが、新しく生まれたものもあります。Craft Labをきっかけに、社内の課題が具体化していくのを感じました」(小林さん)
実運用を見据えたAIツール開発
約3週間の開発期間中は笹原さんが実装の中心となり、小林さんがデータ整理や検討を支援。遠藤さんが問い合わせ履歴の抽出と社内要件との適合を確認し、鷲尾さんが現場の視点から完成物を評価する役割を担いました。
クラスメソッドはAWSアーキテクチャやソースコードのレビュー、開発範囲の整理などを支援。システムはAmazon EKS上でチャットアプリケーションやAPIを動かし、生成AIにはAmazon Bedrockを利用する構成。目標は短期間で動く試作品ではなく、ニューメディアの高い実装力を生かした本番利用を見据えたアプリケーションの開発でした。
「そのまま使える実用レベルのものを作りたいと思っていましたが、『これだけ動けば十分かな』と思う場面もありました。しかしクラスメソッドさんから『もう少しこうしましょう!』と何度もアドバイスをいただいたおかげで、完成度を高められたと思います」(笹原さん)
また今回アプリ上のLLMにはClaude Sonnet 4.6を採用。Amazon Bedrockを利用するリージョンによってClaudeの反応速度が変わるという情報をもとにクラスメソッドからリージョン調整などのメンテナンスも行っています。
完成したのは「インターネットにつながらない」「テレビが映らない」といったテクニカルな問い合わせに対し、過去の対応履歴から回答候補を提示するAIツールです。学習データとなった過去の対応履歴の中には、原因や対応内容が詳しく記載されず、「対応完了」とだけ残された履歴も少なくありませんでした。それでも生成AIが文脈を推論し、開発チームの予想を上回る回答を返しました。
「『こんなもので精度が良くなるわけがない』と半信半疑になるようなデータもありましたが、出来上がったツールを使ってみると、想像をはるかに上回る出来栄えでした。『本当にあのデータを使っているんですか!?』と確認したほどです」(遠藤さん)
「過去の対応履歴を入れただけで、ここまで回答できるのかと驚いたのを覚えています。さらに磨けばテクニカル以外の手続きなどにも広げられると夢が広がりました。UIも一般的なチャットツールに近くて使いやすい点も感動しました」(鷲尾さん)
受賞から始まった現場検証
DAY2の成果発表では、機能や技術構成だけでなく、実際のオペレーターがツールを使う様子を動画で紹介。利用場面や現場の反応まで伝えた点、親しみやすいUIなどが評価され、ニューメディアはクラスメソッド賞を受賞しました。
しかし、同社にとって受賞はゴールではありません。現在は、全社で導入すべく回答精度やハルシネーションの検証を進めています。
「テクニカルな問い合わせへの回答は、体感では7、8割程度は正確な回答をしてくれるようになったと感じています。現状では、電話を受ける担当者のテクニカル対応を補助するため、技術力のある訪問サポートスタッフを数名センターに待機させなければなりません。このままツールを本格的に使えるようになれば、待機スタッフもお客様宅へ訪問できるようになり、より迅速にお客様対応を行えるようになると思います」(鷲尾さん)
社内課題の解決に向けたAI活用
ニューメディアが目指しているのは、AIによる人員削減ではありません。マニュアルの検索や対応履歴の入力などに費やす時間を減らし、社員がお客様への対応に集中できる環境の整備です。
「お客様との会話自体は5分、10分で終わっても、現状ではその内容を次の担当者が分かるように手入力で残す作業に時間がかかっています。そうした定型的な業務はAIに任せ、お客様の満足度向上を突き詰められる環境を作るのが目標です」(鷲尾さん)
GenUによる検証とCraft Labへの参加を通じ、生成AIを業務に活用する具体的な手応えを得たニューメディア。カスタマーサポート以外にも、社内システムや業務の進め方には、まだ改善の余地が残されています。今後はクラスメソッドとのつながりを生かしながら、社内課題をAIで解決する取り組みに、より積極的に着手していく考えです。
「社内のシステムやインフラの見直しは避けて通れない部分があります。今回のように相談しながら、いろいろとアドバイスをいただけるとうれしいです」(遠藤さん)Craft Labは、社内の課題を改めて見つめ直す機会になっただけでなく、クラスメソッドとの距離を縮めるきっかけにもなりました。
「リモートでのやり取りの段階から、親身になって寄り添ってもらえていると感じていました。実際にお会いして、さらに話しやすい関係になったと思います。新しい技術についても、引き続き情報をいただければと思っています」(小林さん)
「1年近く継続して関わってもらい、だいぶ関係性ができてきました。今では気軽に相談できる間柄になったと思うので、これからも継続して相談させていただきたいです」(笹原さん)
生成AIで何ができるのかを探るPoCから始まり、Craft Labでの内製開発、現場での検証へと歩みを進めてきたニューメディア。今後も相談しやすい伴走関係を生かしながら、AIを現場の力へと変え、お客様に向き合う時間を増やす取り組みを進めていきます。


