社会医療法人大阪国際メディカル&サイエンスセンターが運営する大阪けいさつ病院。許可病床数650床を有し、大阪府の第三次救急医療機関や災害拠点病院にも指定される、地域医療の中核を担う病院です。
同院は、生成AIをはじめとするデジタル技術の活用に積極的に取り組んでいます。その一環として、院内から外部のSaaSを安全に利用するための基盤を、AWS Direct Connectを用いた閉域接続で構築しました。この設計から接続検証までを伴走したのが、クラスメソッドです。医療情報部次長の山本さん、情報システム管理課の市来さんにお話をうかがいます。
医療の現場に広がる生成AIの活用
大阪けいさつ病院は、「スマートホスピタル構想」のもと、デジタル化を段階的に進めてきました。その象徴が、全職員への1人1台のiPhone配布です。共有端末での運用が多い医療現場にあって、医師にも看護師にも個人専用の端末を行き渡らせる。電子カルテへのアクセス、医療機器の位置情報、緊急時のスタットコールと、様々な機能をこの一台に集約してきました。iPhoneは、多様な仕組みを載せる共通の基盤なのです。
その基盤の上に加わった取り組みの1つが、生成AIでした。同院ではすでに、オンプレミス環境で生成AIを稼働させ、診療情報提供書の作成や長文資料の要約に役立てています。文書作成の負担が軽くなれば、医師や看護師は診療やケアにより多くの時間を割ける。医療の質の向上につながるという考えが取り組みの根底にあります。
方針を描いてきたのは、医療情報部です。院内の情報システムや診療情報の管理、データ活用まで、病院の情報基盤を広く担う部門です。方針を定める次長の山本さんは、生成AIにかける思いをこう語ります。
「医療の世界は、ともすれば新しい技術の導入に慎重になりがちです。しかし、生成AIのように進化の速い技術を医療の現場へ取り込めるかどうかは、これからの病院のあり方を左右すると考えています。安全性を確保したうえで、いかに早く現場に届けられるか。そこに挑むことが、私たちの役割だと思っています」(山本さん)ただ、活用を広げるほどに、オンプレミス環境の限界も見えてきます。院内で動かす生成AIは、モデルの更新に手間がかかるうえ、進化の速さになかなか追いつけません。加えて、レセプト業務の効率化をはじめ、医療現場を支える外部サービスの多くは、クラウド上でSaaSとして提供されています。
院内の生成AIをさらに高度なものへ進化させるにも、外部のSaaSを取り入れるにも、行き着く先は同じ。院内から外部のクラウドへ安全につながることでした。
インターネットを介さずAWSへつなぐ
安全な接続の鍵を握っていたのが、院内と外部のクラウドを「どうつなぐか」でした。医療情報を扱う以上、つなぎ方を誤れば、守るべき情報が危険にさらされかねません。
つなぎ方には、インターネット回線を使う方法もあります。例えばVPNは、インターネット上に暗号化した通信経路を設ける、比較的手軽な手段です。ただ、通信そのものは暗号化されても、経路はあくまでインターネット上にあります。同院はこの方式を選びませんでした。医療情報を扱う以上、外部にさらされる接点は少ないほど良い、というのが市来さんの考えです。「インターネットに直接つなぐことには、どうしても抵抗がありました。一切触れずにクラウドへ届けるには、閉域網を経由するのが最善だと考えていたのです」(市来さん)
そこで選ばれたのが、AWS Direct Connectです。NTTドコモビジネスの閉域網サービスを経由し、インターネットを介さずに院内とAWSを直結。公衆網を通らないため通信が外部にさらされることがなく、回線の混雑にも左右されません。
院内からAWSまでが直結されれば、その先にあるSaaSへもインターネットを経由せずにたどり着けます。接続先にAWSを選んだことについて、市来さんはこう話します。
「当院が利用を想定していたクラウドサービスは、その多くがAWSを基盤としていました。安全な経路を確保できれば、それらへ一貫して接続できる。AWS以外の選択肢は、検討の余地がありませんでした」(市来さん)
この経路が確保されたことで、外部のSaaSを安全に取り入れる準備が整い、クラウド上で進化を続ける生成AIへも、手を伸ばせるようになります。医療の情報を守りながら、クラウドへ踏み出す。その足場が、ここに固まりました。
クラスメソッドとの協働が始まる
道は定まったものの、それを実際に築くとなると、市来さんには不安がありました。長くオンプレミスの領域を担ってきた市来さんにとって、AWSの構築は初めてに近い挑戦です。頼れるパートナーを求めて出会ったのが、AWSを介して紹介されたクラスメソッドでした。
心強かったのは、技術支援だけではありません。クラスメソッドメンバーズには特典として無償のテクニカルサポートもあります。迷った時に費用を気にせず相談できる相手がいることは、市来さんにとって大きな支えになりました。
「構築の作業自体は自分たちで進められますが、要所で専門的な見解を仰ぎたい場面は出てきます。相談のたびにコストがかかる形では、必要な時に頼りづらい。無償で継続的に相談できる体制は、心強い支えとなりました」(市来さん)
最初につなぐSaaSに選ばれたのは、レセプト業務を効率化するサービスでした。レセプト業務は、診療報酬を請求するための欠かせない仕事である一方、提出の時期には残業が続くなど、現場の負担が大きい領域です。ここを効率化できれば、効果は大きい。そう見込んで、まずはこのサービスの接続から着手することになりました。
迅速な構築と、その先を見据えた知見の共有
構築が始まったのは、4月下旬のこと。病院では外部の事業者へ委託する場合、発注側は進行を見守る立場になりがちです。今回、市来さんはプロジェクトの一員として、構築に自ら手を動かしながら関わることになりました。
「進捗も課題も常に共有され、我々も当事者意識を持って進めることができました。仕事の進め方そのものを、学び直す機会にもなりましたね」(市来さん)
打ち合わせもオンラインで重ね、確認事項はその都度解消していく。結果として、5月末を見込んでいた構築は、4月のうちに完了しました。
「大変スピーディーに進めていただきました。当初は5月末ごろまでかかるものと想定していましたので、期待を上回る進行でした」(市来さん)
速さの一方で、既存環境の確認には慎重を期しました。外部サービスへ正しく接続するには、DNSの設計が要となります。院内のDNSには、すでに特定のドメインを別の宛先へ転送する設定が入っていました。ここにAWS向けの名前解決を加えれば、設定が重複しかねません。クラスメソッドのエンジニアは事前にこれを洗い出し、競合を避ける形で設計。実装まで担いました。
さらに、構築を終えたあとを見据えた支援も。今後、外部のSaaSを追加する際に市来さん自身の手で設定できるよう、手順を整理して共有しています。次に同じ場面が訪れたとき、病院側で対応を完結できる。そのための備えを、構築とあわせて残しました。
クラウド活用の確かな起点として
「医療DXを進めるなら、外部への委託に頼りきってはいられません。自分たちで構築し、運用できる体制が要る。今回得た知見は、その確かな足がかりになりました」(市来さん)
山本さんはさらに遠くを見ています。
「生成AIの進化は速い。数年先には、また違う姿になっているはずです。その流れを追い続けるには、クラウドへ移るしかありません。いずれは電子カルテも病院情報システムもクラウドへ移し、"サーバゼロ"を実現したい。それが、私の描く理想です」(山本さん)
インターネットを介さずクラウドへつなぐ、今回の基盤。それは、その構想を支える最初の一歩です。ここを起点に、活用の幅は広がっていきます。
クラスメソッドは、これからも大阪けいさつ病院のクラウド活用を、技術と伴走の両面から支援してまいります。


